第六話 賠償金の請求(追放者サイド)
「パエラ・ボルバック様。本日の召喚も手ぬかりなく成功しました」
召喚士ドリアンが私にひざまずく。相変わらず汗がすごい。それだけ召喚に体力を使ったのだろう。
切れ長の目に、茶色の短髪。私の片思いの相手。
宮廷鑑定士クラン・アメルメ・ルシリヴァンがいなくなった今、二人きりの時間が多く取れるようになった。
会議で、宮廷鑑定士のクランを追放するように説得したのは、私。
ステータス画面なんて、勇者候補の異世界人にはどうせ、なにもわかっちゃいないんだから、てきとうに教えればいいのよ。
そのうち自分でスキルの把握ぐらいできるんだから。っていうか、それぐらい自分でしてこそ、冒険者よ。
だいたい、クランはステータスを開くだけの無能な男だった。能力のない者が宮廷を去ることになるのは、当然のこと。
「あのね、前から言いたかったことがあるの」
「はい、なんでしょうか?」
「ほら、立って」と言って私はドリアンの手を取り立たせる。
「騎士みたいにひざまずかなくてもいいの。私たちは同じ召喚士なんだから」
「ですが、まだ職務中ですし」
「いいのよ、これから紅茶でもいっしょに飲まない? 疲れたでしょ」
これからどうやって思いを告げようか。考える時間はたくさんできた。私は、この召喚の間での祭事を全て一人で任されている。
スケジュールも自由に組むことができる。あの、クランがいなくなって、せいせいしたー。あいつ、むだ口の授業がいつも長いのよ。
「大変ですパエラ様!」
ほかの召喚士がまだ残っていた。ドリアンのにぎった手を放す。
「なにをしている。もう仕事上がりの時間よ」
召喚士は息切れしている。走ってきたのか。
「ギルドがこちらに損害賠償の請求を訴えてきました」
はぁ? 意味が分からない。私は声を荒げる。
「どこのギルドだ」
「最後に勇者候補の約三十名を送り込んだ、南の白竜神ギルドです! 召喚した勇者候補たちですが、冒険者ギルドでも力不足で使えないと。全員解雇したとのこと」
は? 勇者候補たちってギルドでクエスト受注して、自分で勝手に旅立つものじゃないの?
「約三十名もいて、全員使えない人間だというの?」
「なんでも、冒険の基本が理解していないとかで。そのー、冒険者たちはチュートリアルが意味不明だとか」
ちゅ、ちゅーとりある?
まさか、クランのステータス鑑定が、それにあたるとでも言うのか?
ま、まあ、落ちつかないと。
私に落ち度はなかった。勇者候補たちに魔王を倒すように命じた。魔王が獄炎ダンジョンにいることも告げた。
あとは、知らないわ。
でも、損害が出ているというのなら、話だけでも聞かないとね。
「器物破損でもしたのならば、支払うわ。一体なにをふざけたことを言っているのだか」
「それがですね、パエラ様。勇者候補生たちは、最初のクエストにはギルド側が用意した支給品の初期装備で、モンスターの討伐におもむくのです」
「それを壊したのか。支給品にするぐらいだ。どうせ安物の武器や防具であろう」
召喚士は、頭を深く下げた。
「それが、情けないことに。送り込んだ二十九名のほとんどが、ろくに武器もあつかえない状態だったと。壊した初期装備は安物とはいえ、破損した数が多すぎてギルドが立ちゆかなくなるとの訴えであります」
「ちゃんと、勇者候補生たちは自分でステータスの鑑定はやったのか」
ステータスは自分で開いて見る。これは常識のはず。
「やりましたとも。攻撃力と防御力、固有スキルも。勇者候補たちも、納得していました」
私の脳裏に嫌な予感がよぎる。
「裏ステータスとやらは?」
「そ、そんなものを見られるわけがないことは、パエラ様もご存じのはず」
手渡された請求書には、初心者用の初期装備一覧の武器や防具が、文字通りすべて記されていた。
これを賠償するぐらいなら、武器屋を開業できる……。
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