第二十三話 サブクエスト?
「肉を全部? ほんとに全部? 広場に捨てやがったのか?」
捨てたわけじゃ。まき餌したの。エサやりをせっせとしながら弓で射るのは、指がいくつあっても足りないぞ。
「だから、悪かったって。ほら、その代わりに銀羽コウモリの串焼きをだな」
「はーい! 今焼いてまーす」
ステフが広場でたき火をして焼いてくれている。裏面も羽もこんがりとな。
「今焼いてる」
「保存食にできないだろ! 焼いたら、今食うしかない」
え、今焼くから美味しいんだろ。
「じゃあ、今売ってきてやろうか?」
広場にはぽつりぽつりと、先ほど逃げ惑った人々が戻ってきている。そして、地面に散らかされた血肉を見て、おえーっと吐いている。吐いたら、食って腹を満たしてもらわないと。
「きっと腹もすいてるだろうし。俺ちょっと宣伝してくるわ。よってらっしゃい、見てらっしゃい。さっき襲ってきた銀羽コウモリが、こちら。今は焼きコウモリでーす」
「あの、鑑定士バカなのか。おい! そんな汚ねぇもん売らないで戻ってこい」
「汚いってなんだよ。食えるじゃん」
うん、味はトカゲに毛が生えたみたい。足は鶏肉みたいな軟骨があるけど。
「町の中でダンジョンの食事作法で売れるか」
「まぁ、言われてみれば確かに」
町人はダンジョン内での食事方法に、やっぱり少し抵抗があるだろうしな。
「ところで、あんたらがほんとに獄炎ダンジョンに行くって? うわさは本当なんだろうな?」
「うん。緊急クエストだもん」
そこまでうわさになっちゃってる? 俺たち有名人? 我ながらさっすがー。でも、本命は女湯なんだがな。
「じゃ、じゃあ先に頼みたいことがあるんだ」
「えー、ここに来てサブクエ?」
「肉がないんじゃ、俺とかみさんは、明日から店を閉めないといけなくなる」
肉のない肉屋になるんなら、確かにそうかも。俺も一度クビになったから、手に職がないときの不安は分かってるつもりだけども。
「家畜は? 飼ってないのか?」
「牛は足りてる。でもそれだけじゃ生計を立てられない。うちは、レア度Sランクの肉を多く扱ってる。特にドラゴンだ」
ああ、なるほど。あのドラゴンの肉ね。肉片のステータスを見なくても分かってたさ。断面から見える骨の形。太ももの骨だった。あの大きさは小型のドラゴン。
食料に適しているのは鳥類種のドラゴンだ。で、血の色は綺麗な桃色が入っていた。
「鋭爪竜だろ。あれは確かに食ったら美味い」
宮廷の晩餐会で、メインディッシュによく出てきた。じゃ、もしかしてこの肉屋って、宮廷の御用達の肉屋だったりする?
そりゃ、悪いことしたな。パエラ様も、王様もドラゴンの肉は、しばらく食べられません。やったね!
俺がにこにこして答えると、肉屋は激怒した。
「高級食材をお前は捨てたんだよ!」
「仕方がなかっただろ。銀羽コウモリに、人が食われた方が良かったか? あんただって、自分の店捨てて逃げてたじゃん」
肉屋の店主は咳払いしてごまかした。
「とにかく、鋭爪竜の肉が必要だ。あれのもも肉はうちの看板商品だからな。一頭討伐で、難易度はAランク。難しくないだろ?」
Aランク以上のクエストは上級クエストになって、今のレベルじゃ本当は受注しちゃいけないんだけど。
ギルド経由じゃないから、ま、いっか。緊急クエストの間に割って入ってきた、サブクエストなんだし。難易度なんてどうでもいいや。
「分かったよ。でも、夜遅いから明日すぐに行ってやるよ。じゃ、宿行くかステフ。俺と眠れない夜を過ごそう」
「はーい。銀羽コウモリあと三十羽、売りさばいたらね」
「お、二十羽は売れたのかよ! 俺も稼ぐ♪」




