表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/109

第九十五話 フスト王国の滅亡

                           第六章 新たな災厄

                        第九十五話 フスト王国の滅亡



 サラが猟へと向かった後、俺とサーシャは魚釣りを行うために山までやって来ていた。サラが優秀過ぎて、村には常に獣肉が存在している状態である。そのため、誰も魚釣りを行うことがなくなっていた。

 妹のウリィが久しぶりに魚肉を食べたいと言ったため、サーシャが釣りに行くと言い出したのだ。彼女は俺の家族に馴染んでおり、ダルやウリィから見てもすでに家族のような存在となっている。

 釣りを始めて二時間が過ぎた。いつもなら少なくても一、二匹釣れるのだが、今回はまだ一匹も釣れていなかった。

 川に見える魚も普段より少ないようで、何か不自然なように見える。

 その時、奥の茂みから微かだが音が聞こえた。


「何かいます」


 そう言って、サーシャが静かに短槍を構える。俺は剣を持って来ていなかったが、彼女の武器は持ち歩くのが便利な短槍だったので、ここまで持って来ていたようだ。

 俺も周辺に落ちていた木の枝を拾い、それに結界を纏わせて強化する。これならばただの木の枝でも、剣や斧の一撃すら受け止めることができるだろう。


「ゲロッ!」

「シュグルゥゥゥ」


 奥からは二体の魔物が姿を見せた。大きな耳を持つ蛇のような魔物であるラットスネークと、体が針に覆われた蛙である千本蛙(サウザンドフロッグ)だ。

 この魔物達は共に、この辺りで見かける魔物ではない。それに共存する魔物ではないはずなので、一緒に行動しているのはおかしなことだった。この二体を操る指揮官のような魔物が、何処かにいるはずである。

 以前魔王軍幹部のスラウが、魔物を操ってエルフの里を攻めたことがあった。それと同じようなことだろう。つまり操っている魔物は上級の魔物ということだ。


「シュ!」

「はあっ!!」


 噛み付こうと跳んできたラットスネークの頭を、容易くサーシャの短槍が貫く。頭を貫かれた蛇は、すぐに動かなくなる。

 俺の方へは千本蛙が向かってきた。蛙の伸ばした舌が俺の体に巻き付き、縮める力で突進を仕掛けて来る。その体は針に覆われており、ただの突進でも危険だ。


「ゲロロッッ!?」


 結界を張って突進を食い止める。俺の張った結界に激突した蛙は、体の針を何本も折られながら倒れ込む。


「ゲギャッ」


 結界を纏った木の枝を振り下ろし、蛙の頭蓋骨を割る。俺の手に骨を砕いた感触が伝わり、少し痙攣した後蛙は動かなくなった。

 ラットスネークと千本蛙はどちらもそれほど強い魔物ではなく、Eランクの魔物である。桜花の侍が警戒している今のナディス村ならばそれほど危険ではないだろうが、この山に仕事に来ている者達は戦える者ではない。


「山を見回るぞ」

「はい!」


 二人で山を歩いて回る。特に村の者が仕事をしている場所を重点的に巡り、危険がないか確認していく。Eランクの魔物を操る上級の魔物。種類の違う魔物を指揮するということは、最低でもCランクはあるだろう。

 今のサーシャならば一人でも倒せるだろうが、それでもCランク以上の魔物は特殊な能力を持っていたりする。そのため油断していい魔物ではない。

 結界的に、どれだけ山を捜索しても他に魔物は見つけられなかった。空間認識を持っている俺が回ったのだから、見逃している訳ではない。遠くで指示を出していたのか、魔物と戦っている俺達を見つけてすぐに逃げたのか…。

 そしてその晩、サラが村へ戻って来なかった。


 翌日になっても、サラはまだ戻って来ていない。彼女は猟に出た日は必ず、その日の内に村へと帰っていた。だが、今回は未だに戻って来ていない。山に魔物が侵入していたことといい、イレギュラーなことが起こり続けている。

 彼女の実力ならば、そこら魔物に殺されることはないだろう。苦戦する可能性があるならば、それは魔王軍幹部クラスの相手ということになる。

 桜花の兵に頼んで村の警備を強化してもらった。どのような魔物が現れるか分からない以上、警戒を厳重にし過ぎるくらいがちょうどいい。

 サラはAランク冒険者ということで、村の者や桜花の侍の全員が実力を知っている。その彼女が戻って来ていないということで、かなり不安がってしまっている状況だった。


「俺達も探しに行けないしな」

「そうですね」

「もう少し状況が分かれば、話が変わってくるのだが…」


 村の中は兵士に任せているが、俺達が外の魔物を掃討する必要がある。数は少ないが、数時間おきに魔物が様子を見に来るのだ。

 この村はフェスティナ大陸のかなり端の方にある。その村まで魔物が辿り着いているということは、他の町はすでに襲われている可能性もあった。桜花の兵や冒険者が退治しているはずだが、サラが帰って来れない程の魔物がいるのならば話は別だ。

 この近くで彼女以上に強い者など俺は知らない。

 そして、その日も彼女は村へ帰って来なかった。


「サラさんが帰って来たんだって!!」

「…うるせぇ」


 翌朝、ウリィの大声で俺は目を覚ます。サラは早朝に村へと戻ってきて、今は自分の家で休んでいるそうだ。

 村長と共に俺達が向かうと、彼女は武具の手入れをしているところだった。着替えたのであろう服が床に置かれている。その服は砂や血で汚れ、泥まみれになっていた。


「何があったんだ?」


 傷等も負っていないようだし、彼女自身は問題なさそうに見える。だが、何かあったのは血まみれの服を見れば明らかだ。


「これは私の血ではないわ」


 視線が血まみれの服へと向いていたことに気付いたのだろう。彼女の一言目は、無事を伝える言葉だった。


「私が猟をした後、遠くに魔物が見えたから狩りに向かった。そこで、さらに遠くに魔物の大群を見かけたの。Cランクの魔物が三体、それ以下の魔物が沢山」


 恐らく、Cランクの魔物が沢山の魔物を従えていたのだろう。彼女はそれを見て、大群の討伐に向かったという。


「Cランクの魔物一体と他数体を逃したけど、殆どの魔物は倒したわ」


 一人で魔物の群れへと突っ込んでいき、大量の魔物を倒したと彼女は平然と言った。遮蔽物がある場所ならば兎も角、彼女が戦った場所は平原である。

 囲まれないように動き回れる、足の速い彼女だからこそできることだった。だが、話はそれだけでは終わらないようだ。


「行先はフスト王国みたいだったから、様子を見に行ってきたの」


 説明は続く。魔物の群れが向かう先にフスト王国があったので様子を見に行った彼女が見たのは、先ほどとは比べものにならない数の魔物に襲われているフスト王国だったらしい。

 彼女が倒した魔物の群れは、横から攻撃するための分隊だったようだ。魔物が何度も村へとやって来ていたのも、フスト王国への進行を邪魔されないために行っていたのだろう。


「私が着いた頃にはすでに手遅れだった…」


 城下町にまで魔物が雪崩込んでおり、どうすることもできない状況だったらしい。彼女は魔物を倒すことより、一人でも多くの人を救うことにしたという。


「乱戦の中、私が見たのはCランクの魔物六体だったわ」


 彼女は突破口を開き、逃げる人々を守りながら戦った。そして、魔物の手によって城は落とされた。

 戦争や内乱等で弱っていたとはいえ、Cランクの魔物に易々と侵入を許すとは俺には思えない。


「Cランクの魔物を操っていたのは、四天王邪教ヌルだったわ」


 ヌル…。封印された邪神が残した欠片と言われている者だ。全身が常に黒い炎で燃えており、炎の中を見た者は誰もいないという。黒い炎の形状から人型であると言われているが、それ以上は謎の存在である。

 ヌルはデルダと違い、あまり自身で戦うことはない。今回のように、魔物を指揮して戦うのだ。

 サラはヌル本体を見た訳ではないという。城が黒い炎に包まれ、一瞬で消滅するのを目撃したらしい。城を消滅させた後も、魔物はその場に滞在しているようだ。

 彼女はヌルを警戒しながら、城下町の生き残りを避難させていたということだった。


「遂に魔王軍が動き出したか…」


 ずっと静かにしていた魔王軍が、とうとう沈黙を破って動き始める。国同士の仲違いをしていた人類は、フスト王国の滅亡という大きなダメージを受けることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ