第八十六話 結界術師、ボス部屋へ
第五章 過去の遺物
第八十六話 結界術師、ボス部屋へ
休憩を取り終えた俺達が初めに見たのは、大量に集まっている魔物達だった。睡眠を取っていたということもあり、結構な時間休憩している。そのため、かなりの魔物が集まっていたのだ。
「取り敢えず減らすか…」
「雷付与」
「沢山いるわね」
剣に結界を纏い、疑似大剣を作成する。その横では、カリアとカトレアがそれぞれ戦闘準備をしていた。
「こちらは任せてください」
「私も頑張ります!」
さらに後ろで、フランとサーシャが研究者三人を守るように立っている。今回は数が多く動き回るスペースがないため、フランには後ろで三人を守ってもらうことにしたのだ。
「今…」
俺が階段側の結界を解くと同時に、ミリアが認識阻害の魔法を発動する。これで相打ちしてくれれば楽なのだが、人工的に作られた魔物達は味方の区別が付いているようだ。
ただし自分の中の認識では味方と分かっているのだろうが、視界に映っているのは敵である。混乱した魔物達は、その殆どが動き止めた。
一部だけ認識阻害の魔法を受けていない魔物もいるようだ。しかし、集まっていたことが仇となった。動きを止めた魔物達によって、こちらへ攻撃できないでいるようだ。
そこへ俺達が攻撃を加えていく。相手はこちらを認識できず、全く動こうとしない。
俺の大剣が横一線に魔物を切り裂き、カリアの雷が大量の魔物を同時に焼き、カトレアのメイスが周囲の魔物ごと吹き飛ばす。
階段前という狭い通路で攻撃範囲の大きな攻撃を何度も行うことで、簡単に魔物は数を減らしていく。認識阻害を受けていない魔物が、自由に動けていないというのも簡単に倒す要因となった。
「僕達は必要なかったようですね」
フランが山積みになった魔物の死体を見ながら呟く。数が多いとはいえ、作戦も何もなく集まっただけの烏合の衆だ。
階段側の魔物を片付けると、今度は反対側の結界に集まった魔物を倒す。階段とは反対の通路も含め、意外とあっさり片付いた。
「やはり…共通の魔物が含まれているようです」
魔物の死体を調べていた研究者が、いくつかの死体を見て言う。何体か認識阻害を受けていない魔物がいたが、どの魔物にも三種類どれかの魔物が共通して含まれていた。
その三種類の内の一種でも含まれていれば、認識阻害に対して抵抗を得られるのだろう。魔物を組み合わせると抵抗を得ることができるというのは、かなり面倒だ。
今回の魔物が全て認識阻害の抵抗を持っており、さらに雷耐性まで持っていたなら、全滅させるのが大変だったに違いない。
「全く…面倒な魔物達だな」
「とても面白いですね!」
俺の言葉と、魔物研究者の言葉が重なる。自分の口から、自然と溜息が漏れる。三層へ向かうと、目の前に少し大きな部屋が一つあった。どうやらダンジョンで言う中ボスの部屋のようだが、そこには遺跡から出て来た魔物が溢れている。
遺跡の魔物達は他の魔物を敵と認識するので、ボスを倒して占拠してしまったのだろう。部屋と言ってもそれほどの大部屋と言う訳でもない。そのためフランとカトレア、カリアの三人で簡単に魔物を排除することができた。
さらにその先には、先ほどよりも少し大きな部屋があった。構造を見るに、三層は中ボスを倒して進んでいく階層のようだ。
その中ボスは全て魔物達に倒され、姿を見ることはない。この部屋も問題なく魔物を排除して進む。三層は通路に魔物が殆どおらず、一本道となっている。なので、かなりの速度で進んでいく。
だが、三つ目の部屋から様子が変わった。
「効いていない」
ミリアが魔物の様子を見て言う。今まで効いていた彼女の認識阻害の魔法が、誰にも効かなくなったのだ。何体か受けない魔物はいたが、全ての魔物に効かないのは初めてだった。
どうやら遺跡の罠は、進化し続けているようだ。彼女の認識阻害を危機と感じ、対応し始めたのだろう。常に魔物を生み出し続けている遺跡だからこそできることだ。こうなってしまうと、ミリアにできることは殆どない。
自分が力になれないと悟り、無言でサーシャの鞄のポケットへと潜り込んでしまった。カリアの雷付与も効かない魔物が増え始めている。このままでは、雷耐性も全ての魔物に付与されてしまうだろう。流石に、これ以上対応されるのは困る。
ただでさえこちらは人数が少ないのだ。広範囲攻撃を封じられてしまうのは、かなり辛い戦いになってしまう。
取り敢えず、三層は問題なく進めている。一つ一つが部屋となっているため、フランが動き回るスペースがあるからだ。
彼が群れに突っ込んで掻き乱している間に、カリアとカトレアが周りの魔物を倒していく。これ以上対応されないために、カリアにはできるだけ魔法を使わないようにしてもらっている。その分魔物の討伐速度が落ちてしまうが、これは仕方がないだろう。
本当に危険なタイミングで、彼女にはその力を使ってもらいたい。
「どうやら、ここが最後だったようですね」
先頭で戦っていたフランが戻って来て言う。部屋の先で四層に続く階段を見つけたようだ。全部で五つの部屋があったらしい。そこに中ボスが一体ずついたのならば、遺跡まで辿り着いた冒険者は相当頑張ったのだろう。
ダンジョン内で寝泊まりしていたに違いない。ダンジョンの中ボス等は近くに誰かがいない場合、自動で作り出されるようになっている。つまり一度ダンジョンを出てしまえば、再び同じ中ボスを倒さなくてはならないのだ。
今回はその部屋に、魔物が集まっていたので復活しなかった。部屋の魔物は全滅させたので、俺達がダンジョンを出た後は復活するだろう。
「準備はいいか」
「はい!」
「問題ないですよ」
俺の言葉に、サーシャと魔物研究者が答える。他の者達も準備はできているらしい。特に研究者達は、突然魔物の種類を変えてきた遺跡の仕組みに興味が尽きないようだ。
「四層も一本道なら楽なのですが…」
マップを纏めていた研究者が呟く。彼は二層からずっと、マップの作成をしながら歩いていた。特に蟻の巣状だった二層は苦労しているようだった。
「ここが四層か」
四層は一つの大きな部屋となっていた。本来ならば、ここにダンジョンのボスがいるのだろう。そして、やはり多量の魔物が蠢いている。その魔物達が一斉にこちらに気付き、襲い掛かって来た。
「後ろに下がれ!!」
大部屋のため、流石に数が多すぎる。特に遠距離攻撃が酷い。遠くから魔法や毒液等が飛んできており、まともに戦うことすら難しい。
「ここから出ると、すぐに死にそうですね…」
いつもは余裕の表情を見せるフランも、目の前の状況に辟易している。ただ近くにいた魔物は、遠距離攻撃に巻き込まれてかなり数を減らした。
しかし、それだけだ。神殿跡地の状況とは違い、魔物達は見方を攻撃していることに気付いている。なので、無暗に突っ込んでくることがなくなった。
遠距離攻撃が止まない限り、俺達は前に出ることができない。そのため、一度階段まで戻ることにした。
階段の上ならば、遠距離攻撃が飛んでくることはない。
「遠距離攻撃がなければ、それほど強くないわね」
近付いてくる魔物を倒しながら、カトレアが言う。階段の上で接近して来る魔物を倒してはいるが、遺跡内で魔物が作られてる以上、新たな魔物が遺跡から四層まで来るだけだ。あまり数が減ることは期待できそうにない。
こんな時、ミリアの認識阻害の魔法があればどれだけ楽か。どうやら、彼女の力を使うタイミングを間違えてしまったようだ。誰も対応されるとは思っていなかったので、仕方がないことなのだが…。
「魔物を分断するしかない」
大部屋に結界を張り、遠距離攻撃の魔物と近距離の魔物を分断する。そして、安全に数を減らしていく。これしかなさそうだ。
俺達が姿を見せると遠距離攻撃を放って来るので、結界を張るチャンスはほんの僅かな時間だけである。失敗すれば、結界内に遠距離攻撃が飛び込んでくるだろう。
「僕も行きますよ」
危険なので俺が一人で行こうとしていると、フランが俺の隣に付いてきた。
「危険だぞ」
「分断するということは、結界内の魔物が襲ってくるでしょう?」
だから、俺を守るということらしい。まあ彼ならば、俺が失敗したとしても自力で階段上まで帰るだろう。
魔物に気付かれないように、慎重に二人で階段を下りた。




