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第六話 結界術師、勇者パーティーに拒否される

                                 序章

                    第六話 結界術師、勇者パーティーに拒否される



 俺は現在、馬車で城へと向かっている。ようやく勇者パーティーが王都に着いたので、迎えが来たのだ。俺が王都に来てからすでに二日が経っている。勇者パーティーが遅かったのは仕方がないことだった。フェスティナ大陸の西にある魔王領。彼らはそこへ遠征に出ているからだ。

 魔王領には沢山の魔物が蔓延っており、過去に人々が生活していた町や村がある。今は魔王軍の幹部が占領しており、解放して回っているのだ。

 一部の冒険者も魔王領に挑んでいるが、殆どの者は勇者パーティーに任せている。大陸各地に魔物が生息するため、町や村を守らなければならないからだ。また、魔王軍が突如現れたりもするので、余計に離れられない状況となっていた。彼らだけで対処不可能な場合、勇者パーティーや高ランクの冒険者に依頼されたりする。勇者は多忙なのだ。

 そのようなことを考えていると馬車が止まった。


「着きました」


 外から声がかかる。馬車から出ると数人の兵士がいた。


「こちらです」


 一人が前に出てこちらを見た。彼が案内してくれるのだろう。城の中は煌びやかな装飾品や絵画が飾られており、かなり派手な印象を受ける。兵士やメイドのような人達もそこら中で忙しなく動いていた。勇者パーティーが帰って来るということで宴会を開くと聞いた。準備や警護のために忙しいのだろう。

 沢山の部屋を素通りし、建物内で一番大きな扉の前に来た。


「陛下、連れてまいりました」

「入れ」


 低い声が部屋の中から響き、それと共に案内役の兵士が扉を開ける。

 中には沢山の人がいた。左右に分かれて立っているのは鎧を纏い、剣を携えた兵士たちだ。その奥、豪勢に飾られた椅子に座り、自身も着飾っている人物。このフスト王国の国王、ランデル・フスト王である。


「ランデル王。ナディス村出身のクロウです」


 王の前へ行き、跪いて述べる。


「面を上げよ。我がフスト王国十三代国王、ランデル・フストだ」


 許しを得たので顔を上げる。ランデル王は俺が顔を上げたのを見て一瞬立ち上がろうとしたが、途中で動きを止め、玉座に座り直した。動きを止めた際に辛そうな表情をしていたので、贅沢を尽くしているのが一目で分かるその贅肉が重いのであろう。


「おっほん!」


 彼が一つ咳払いをし、座ったまま話を始める。


「特殊職、結界術師クロウよ、よく来てくれた。勇者との邂逅は庭園で行うこととなっている。宴会の準備ができ次第呼ばせてもらう」

「かしこまりました」


 それだけ言うと、彼は俺に退室を求めた。先ほど案内してくれ兵士が一つの部屋へと案内してくれる。


「こちらでお待ちください」

「ありがとうございます」


 お礼を言って部屋へと入る。部屋の中には椅子と机、ティーセットやちょっとした菓子が置いてある。さらに、部屋の隅にはメイド服を着た女性が立っていた。


「お世話をさせていただくシスと申します」


 とても綺麗なお辞儀をし、ティーセットへと手を伸ばす。その動作は完成され、流れるように次の動作へとつながる。


「ダージリンティーでよろしいでしょうか?」


 いくつかの茶葉が入った容器の内、一つを手に取って尋ねてくる。俺の村はど田舎だ。そのような嗜好品は一つもなかったため、ダージリンと言われてもわからない。もちろん飲み物ということぐらいは知っているが…。


「…大丈夫です」


 俺が頷くと、彼女は少し微笑んで紅茶を入れ始める。カップから湯気が出始め、同時にいい香りが部屋中に広がった。少し飲んでみるが、不思議な味だった。どちらかというと匂いを楽しむためのものなのだろうか? 紅茶自体を飲んだことないので、その辺りのことがわからなかった。


「御用があればそこのベルでお呼びくださいませ。隣の部屋にいますのですぐ駆けつけます」

「ええ、わかりました」


 彼女はそのまま一礼し、部屋を出て行く。出て行くのを確認した後ふぅと息を吐く。このような待遇を受けたのは初めてなのでかなり緊張した。俺の心が休まらないので、特別なことがない限りは呼ばないでおこうと決意する。


「宴会の準備ができましたよ」


 その後、彼女が呼びに来るまでベルを鳴らすことはなかった。と言っても、あれからそれほど時間も経っていないのだが。


 彼女に案内されるがままに城を出る。庭園は城の目の前に広がる庭だったようで、目の前では沢山の人々がすでに食事を楽しんでいた。殆どの人達がスーツやドレスで着飾っている。どれも豪勢で華やかな見た目をしており、それが高価だというのは一目でわかった。王都に住む貴族達だろう。

 その中でも一際目立っている者が数人おり、周辺に他の貴族が群がっていた。彼等が公爵家や伯爵家の者だろう。

 さらに宴会の中心、そこには四人の男女がいた。


 襟足辺りまで伸ばした銀髪、軽鎧に金の装飾を施された一本の剣。笑顔を浮かべ、四人の中でも中心人物だと分かる。勇者のミカエル・アダマウスさんだ。彼は家柄もよく元々子爵家だったのだが、勇者だとわかると彼の家は伯爵となった。伯爵家で勇者、さらに容姿も端麗とありかなりの人気を誇っている。

 その隣、煌びやかな金の髪を背中に流し笑顔を見せる女性。自身の大きな胸を強調するような赤のドレスを身に纏い、周囲の男性の目を集めていた。彼女は賢者のフレア・ステレアさん。彼女の家は元々伯爵家ということもあり、宴会にも慣れた様子だ。彼女も特殊職である。攻撃魔法や回復魔法といったあらゆる魔法を使い、特に、魔物の大群に広範囲魔法を使って全滅させる様はミカエルさんでも真似できない。

 隣のフードを被った小柄な男性はヨセフさん。彼は強化術師エンチャンターという上級職である。強化術師は他の者を強化できる魔法を使える。目立った活躍はないが、パーティーの能力を底上げする縁の下の力持ちだ。彼は滅多に喋らない。フードを常に被っていることも相まって少し不気味だ。

 ヨセフさんの後ろに立っている大柄な男はフォルスさん。体格もよく筋肉もかなりある。背負われているのは大盾は、彼が二メートル近い身長をしているのに対して同じくらいの大きさであった。彼は盾騎士シールドナイトと呼ばれる特殊職である。大盾の守備力もそうだが、その盾で攻撃を行う。スキルを使い分けることによって、大盾で防御も攻撃もできる攻防共に優れた職業である。


「お前が特殊職の者か!」


 勇者の話に豪快に笑っていたフォルスさんが俺に気付き、遠くから声をかけてきた。その声に周囲の意識がこちらへ向く。俺が彼らの下へと歩いて行くと同時に、彼等もこちらへとやってくる。


「よお。俺は勇者のミカエルだ」

「私はフレアと申します」

「…ヨセフ」

「俺はフォルスだ!」


 勇者パーティーの皆が挨拶をしてくれる。


「俺は結界術師のクロウです。よろしくお願いします」

「…結界術師」


 俺が名乗るとミカエルさんの表情が固まった。俺を含め全員が彼の方を向く。


「ははは…そうか」


 彼の口から笑いが漏れる。


「君とはよろしくできない」


 俺の方を見て彼はそう言った。


「…」


 俺が口も開けず呆然としている中、彼の言葉が続く。


「結界術師なんて結界を張って守ることしかできない無能だろう。俺のパーティーにはフォルスがいる。彼は優秀な盾だが、攻撃もできるぞ。俺のパーティーに役立たずはいらない!」


 その表情に笑顔を浮かべ、彼はそう言い切った。そして周囲を見渡す。


「皆もそう思うだろう?」


 彼がそう言うと、貴族達からもちらほらと同意の声が聞こえてきた。フレアさんは無言で頷き、ヨセフさんは無反応、フォルスさんは微妙な表情をしている。

 結界術師は過去にもいたが、どの話でも結界を張って仲間を守ったとしか書かれていない。そのため、俺は何も言い返せなかった。


「そういうわけだ。君はいらない」


 彼はさらに嫌な笑みを浮かべる。


「君はど田舎から出て来たのだったな。このような宴会には、ただの田舎者は相応しくないだろう」


 言いながら目の前までやってきた。彼の方が背が高いため、俺を見下ろす形となる。


「帰り道はあっちだ。さっさと行くといい」

「おいおい、いいすぎだろ」


 フォルスさんが窘めるが、彼は気にせず俺を見て笑った。周囲にも沢山人がいるが、誰も何も言わない。勇者がいらないと言ったことで、俺は勇者パーティー候補からただの田舎者へとなり下がったのだ。

 俺は何も言わず、いや言えずに城の出口へと向かう。背後からは勇者の笑い声がずっと聞こえていた。


「どうしたんだい?」


 王都に来てからずっと泊まっている宿、メルクムルクに帰って来た。本日の宿泊料金もすでに払ってあるため、そのまま部屋へと向かう。俺の表情を見て心配したおばさんが声をかけてくれたが、俺にはそれに答えるだけの元気がなかった。

 部屋に入りベッドの上に倒れこむ。安宿の割にはいいベッドであり、俺を優しく包み込んでくれた。


「これからどうしよう…」


 不意に口から洩れる。勇者パーティーに拒否され、さらには笑いものにされてしまった。宴会にはかなりの人がいたため、王都ではもう生活し難いだろう。

 ナディス村に帰ろうかと考えた。だが、家族のことが思い出される。俺は勇者パーティーで活躍すると言って出て来たのだ。父のダルは希少な酒を出し、応援してくれた。妹のウリィはキラキラした目をして、凄いと期待してくれた。

 今帰れば二人の気持ちに応えられなかったことになってしまう。それだけはできない。どうしようかと考えているうちに、そのまま眠ってしまった。


 日が昇ると共に部屋を出る。


「大丈夫なのかい?」


 調理場から出て来たおばさんが尋ねてきた。昨晩からずっと気にしてくれていたようだ。昨日の態度を謝罪し、大丈夫と返しておく。その言葉を聞いて表情が少し柔らかくなった。


「今日、王都を出ようと思います。今までありがとうございました」

「突然だね」


 これが俺の考えついたことだ。王都から南に行った場所、そこにチナという町がある。そこで冒険者にでもなろうと思った。彼女に説明すると、頑張りなよと応援してくれた。


「そうだ。ちょっと待ってておくれ!」


 そう言って彼女は調理場へと向かった。帰って来た時には、一つの小さな包みを持っていた。


「これを持っておいき」

「…? ありがとうございます!」


 包みを受け取る。中には硬めのパンと、野菜炒めが入っていた。朝食用のものを詰めてくれたのだろう。再度お礼を言い、今度こそ宿を出る。


「…」


 王都を出たところで振り返る。ここにはもう来ることがないだろう。立ち止まった俺を見て、門から出て来た冒険者達が邪魔そうな目を向けてくる。俺は慌てて門から少し離れた。


「チナか」


 お金があまりないため、馬車は使わずに歩いて行くことにした。ここからだと、歩いて一日かかる。休憩等の時間も含めると着くのは明日だ。

 宿を出て細道を抜けたところでテスラさん達に出会った。彼女達は俺が勇者パーティーに入れなかったことを知っていた。やはり、すでに王都に広まっているようだ。拒否された俺を彼女達はパーティーに誘ってくれた。ありがたかったが、王都にいること自体が嫌だったために断った。それでも、いつでも歓迎すると別れ際に言ってくれた。

 門の手前ではダウさんに声をかけられた。彼も噂を聞いていて俺を案じて探してくれていたらしい。結界術師は王都の防衛の役に立つと仕事を持って来てくれたのだ。俺は断った上で自分の考えを述べた。彼はそれを聞き、あなたにならできますと言ってくれた。

 王都での思い出は嫌なことで塗り潰されたが、確かにいいこともあった。俺がこうして前向きな気持ちでチナへと向かえるのは、偏に彼等のおかげだろう。

 そういった出会いには感謝しきれない。この出会いがなければ、俺はあの宴会で完全に心を折られていたであろう。


「よし…行くか!」


 気持ちを入れ直し王都を後にした。

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[気になる点] 滅多に喋らない人が豪快に笑いますかね? キャラの名前間違えてるんじゃ?(違ったらすいません)
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