第五十九話 結界術師、礼を言って回る
第三章 歪んだ国
第五十九話 結界術師、礼を言って回る
俺達は兵士に連れられ、城下町を歩いて回る。どうやら、城に直接行く訳ではないらしい。凱旋ということで、他の住人にも見せるために歩き回らされているのだ。俺もあまり好きではないのだが、特にミリアは見世物になるのが嫌なようで、すぐにサーシャの背負っている鞄に入っていった。
残りの四人は、かなり堂々としている。馬車がゆっくり進むのに合わせて、通り過ぎた人々が付いてくるように歩き出す。いつの間にか、馬車の後ろには大行列ができていた。
王都に住む冒険者達は、まだ帰って来てはいない。俺達はオリーの好意で馬車に乗ることができたため、普通に歩いて帰るよりも早く着いたのだ。
「ここまででいいぞ」
「いえ、最後まで送らせてください」
「いいのか?」
「はい。クロウさん達を送ることは、バームント商会にとっても宣伝になりますから」
「分かった」
どう考えても、王都で宣伝になることはない。バームント商会は、そこらの貴族よりも大きな屋敷に住んでいるのだ。この王都内で、彼等を知らない者はいないだろう。彼等は屋敷だけでなく、力も相応に持っている。
商人の町であるユーリアでも、彼等は上位を争うレベルで大きな商会なのだ。他の町にも広がっており、大概の者は知っているだろう。
「関係者以外はここまでとなります。ご了承ください」
城の目前で、馬車が兵士に止められた。ここからは俺達以外は入れないらしい。後ろにいた住人達が中に入って来ないように、兵士達が必死の形相で呼びかけている。
殆どの兵士は戦場に出ているため、王都に残っている兵士の数は少ない。暴動になるようなことはないので問題ないが、この人数では暴動が起きた際に対応しきれないだろう。
城の内部にも、やはり兵士は最低限しかいない。兵士が住人の対応に追われているため、城内にも兵士が殆どいないのだ。
「こちらへどうぞ」
室内へ入ると王や大臣、貴族達の姿があった。中に兵士の姿は一人もいない。今室内で反乱等が起きた場合、王を守れる者が一人もいないということだ。
普通はこんなことあってはならない。王はそれほど貴重な存在なのだ。特に今のウェンデルト王国の国王であるエドラスは、沢山の人達から賢王と言われているほどの逸材である。死なせてはいけない存在なのだ。
「よくやってくれたな」
「ええ。勇者はすでに、こちらへ送られています。その際に、ある程度の状況も聞きました」
大臣の横にいる偉そうな貴族が、王の後に言葉を発した。大臣は一歩後ろに引いており、口を開こうとはしない。
いつもならすぐに口を挿んでくるのだが、今日は王から強く止められているのだろう。代わりに話している貴族は、他の貴族よりも豪華な装飾をした服を着ている。恐らく彼が、この国の公爵なのだろう。今まで一度も見なかったので、俺達が出発した後で王都に到着したということだ。
「帰って来たということは、決着が付いたということだな」
「勝ちましたよ」
「そうか…」
感慨深いといった表情で、彼はしみじみとそう呟く。
「詳細な情報を聞きたいところですが、今は勝利宣言を上げるべきでしょうね」
「そうだな。不安がっている者達を安心させてやらないとな」
公爵と王が話し合い、一度俺達は宿へと帰ることとなった。その後王都で、王によって勝利宣言がなされた。兵士の数がいないため、王が自ら他の町へと向かってこの情報を広めるらしい。
王が向かう先は、ユーリアである。ユーリアには沢山の商人がいる。色々な町から集まっており、さらに色々な町へと向かう。
情報を収集する場合も拡散する場合も、商人を使った方が手っ取り早いのだ。
「それではな」
翌日。少ない兵士を連れて、王が城を出る。昨晩の内に王や公爵から、戦争の状況を根掘り葉掘り聞かれた。深夜まで話していたのだが、その翌日にユーリアへと出発するとは…。
王も疲れているはずなのだが、流石だと感心してしまう。線上にいた冒険者達も、時間が経つごとに少しずつ戻ってくる。強制ではあったが彼等も王の依頼で戦場に立っていたので、後日依頼金と共に活躍に応じた賞金がもらえることとなっていた。
これも全て王が管理しなければならない。実際は城で務める担当の者が纏めたりするのだろうが、最終確認をするのは王の仕事だ。
王と共に大臣も付いて行った。王と大臣が不在の今、王都を回しているのは前日に話していた公爵だ。彼は公爵だけあって王にかなり信頼されている。
「それでは行きますか」
「どこに?」
フランの言葉に、サーシャが尋ねた。彼が言っているのは、手伝ってくれたエルフと妖精に礼を言って回ることだろう。
彼女は城に残っていたため、俺達の戦い等をほとんど知らない。それこそエルフと妖精が手伝ってくれていたことも一切知らないのだ。昨夜戦争の話を聞きたそうにしていたが、疲れていたので皆早く寝ていて聞けなかったらしい。
バームント商会の馬車で王都に帰って来た時も、オリーやカリアに尋ねられて沢山戦いの詳細を話した。俺達は中央にいたので東側の戦闘は知らない。同様にカリア達は東側にいたので、中央と西側の戦闘を知らないのだ。
互いの知らない話で盛り上がり、情報交換を終えていた。それもあり、その後は戦争の話題を話していなかったのだ。城で深夜まで報告をしていた俺は、帰った時にはサーシャがすでに眠っていた。そのため、俺はその状況を知らなかったのである。
「まずはエルフの里ですか?」
どちらへ先に向かっても変わらないため、彼がエルフの里に行きたいというのならば行けばいいだろう。
「エルフの里へ行くのですか?」
「そうだな。その後、妖精の村にも行くぞ」
「分かりました」
ユーリアまでは馬車で向かう。ユーリアから馬車で王都へ帰って来る冒険者がいるため、王都にはユーリアへ帰る馬車が沢山いるのだ。
馬車の中で彼女にも戦争の詳細を伝えていく。俺達が王都にいる内に勇者が連行されて来なかった。そのため、彼女は俺が勇者を倒したことを知らなかったのだ。俺と勇者の確執を彼女は知っているため、その話を聞いた彼女はとても喜んでくれた。
「久しぶりだな」
「そうだな。手伝ってくれてありがとな」
俺の目の前には、長老と他のエルフが揃っていた。数人は軽傷を受けたようだが、誰も死者等は出なかったようだ。皆が作戦のおかげだと、俺を褒めてくれる。
「儂等もここに籠り過ぎていたようだ。まさかあそこまで腐った人間がいるとは、儂も思っていなかった。この里の未来のためにも、彼等にこの地を踏ませる訳にはいかない」
「全ての人間が同じではないぞ」
「分かっておる。だが、次からは簡単に通れないぞ」
「それでいい。ウェンデルト王国の者でもエルフを下に見ている者はいるからな」
意見が一致したところで、俺達は里を後にする。この後は妖精の村まで行かなければならない。到着が次の日になるため、早くここを去ることにした。
「妖精よ。あの者達にも宜しく言っておいてくれ」
「ん」
いつの間にか、彼等は仲良くなっていたようだ。亜人同士が仲良くなるのはとてもいいことである。妖精とエルフは、共に人間から距離を置いて生活している。危険な存在が現れた場合、手を取り合える存在を作れたのはいいことだ。
次に訪れたのは妖精の村だ。この村はユーリアから西に行った林の中にある。ユーリアまでの馬車は人気なため、一つも残っていなかった。ソルトからユーリアまで歩いて来たため、俺はすでに足が疲れてしまった。
「今回はありがとな」
「いや、こちらこそありがとう。おかげで、他の者に自信が付いた」
村長が動けないため、俺に対応しているのは村長代理のジュラだ。妖精は認識阻害の魔法以外は不得意なため、他のことに対して自信のない者が多かった。林に閉じ籠って他の種族との接触の機会がないのも、原因の一つではあるだろう。
「そろそろ帰らなくていいのか?」
前回来た時は他の者とあまり話す機会がなかったため、話がずいぶん盛り上がってしまった。妖精の村は小さすぎて、俺達は入ることができない。そのため、村に一泊するということはできないのだ。ジュラが言ってくれなければ、ユーリアに着く前に陽が落ちていただろう。
「何かあれば言えよ」
「ああ。その時は世話になる」
互いに別れの挨拶を交わし、林を抜ける。王都へ帰った時には、勇者や王が城へ到着しているはずだ。王は俺と勇者の確執の詳細は知らないはずだが、勇者の処遇は俺が帰った時にすると言っていた。話した際に何かしら感じ取ってくれたのだろう。
王都への馬車に乗るため、俺達はユーリアへと戻った。




