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第五十五話 東の戦い-2

                            第三章 歪んだ国

                          第五十五話 東の戦い-2



カリア視点


 ラウダがモーニングスターを構え、中腰になって戦闘態勢をとる。他の認識阻害の魔法を受けていない冒険者や兵士達も、ここぞとばかりに私の周囲を囲む。


「こっちにはAランク冒険者がいるんだ。お前に勝ち目はないぞ!」


 明らかに弱そうな兵士が私に向かって叫ぶ。完全に虎の威を借る狐である。私がある程度の距離まで近付いた時、彼の鉄球が宙を切り裂く。

 棘の付いた鉄球は鎖で繋がれているため、彼の手元を見れば躱すことは容易だった。上下左右から迫ってくる鉄球を、体を軽く動かすだけで躱していく。あまり大きく動く訳にはいかない。それが小さな隙となり、彼の鉄球が牙を剥くこととなる。

 鉄球は大きく動かされているが、迫ってくる速度は尋常ではない。これがAランク冒険者の実力なのだろう。いろいろな方向から次々と攻撃されるため、なかなか彼との距離を詰めることが難しい。


「ぐあっ!?」

「やめろ!!」

「何故俺達まで!」


 周囲の冒険者や兵士も、一切関係なく薙ぎ倒されていく。本気で私だけを狙おうと思えば、彼の腕ならば可能だろう。それなのに仲間も巻き込んで攻撃してくるところを見ると、私と戦うのに彼等が周囲にいては邪魔ということだ。

 それだけ私の力を認めてくれているのだろう。Aランク冒険者にここまで警戒してもらえるなど、私にとっては光栄以外の何物でもない。


「そろそろいいだろう。準備運動は済んだ」

「準備運動だと?」


 どうやら、彼にとって今のやり取りは準備運動だったらしい。つまりこれから、さらに彼の攻撃は過激になるということだ。彼の本気が先ほどのものではないということは分かっている。彼の表情には余裕があったし、何より私に躱されてもずっと同じ攻撃を続けていた。

 上位の冒険者は強力な魔物と戦うため、咄嗟の判断力や行動力が必要となる。そのため回避され続けるのならば、新たな攻撃方法等を考えるはずだ。それなのに同じ攻撃を続けるということは、私の能力を確認していたのだろう。


「大丈夫だとは思うが、すぐにくたばってくれるなよ」


 周囲の冒険者や兵士がいつの間にかいなくなっている。周囲の邪魔者を全員倒すということが、先ほどの攻撃を行っていた本当の理由なのだろう。他のフスト王国の者が見ている手前、私に攻撃していると見せ付ける必要があったということだ。

 彼が頭上で、鉄球を振り回す。少しずつ回転速度が上がっていき、鉄球の回転だけで私の顔にまで風がぶつかる。かなりの速度だが、それ以上に威力は上がっているだろう。

 冒険者や兵士に鉄球がぶつかった時、彼は鉄球を振り抜いていた。鉄球が跳ね返らず全身鎧の兵士を吹き飛ばした様子から、鉄球の重さはかなりのものとなっているはずだ。


「では行くぞ。蛇鎖《スネークチェーン》」


 左から払うように迫って来た鉄球を飛んで回避しようとしたところ、突然鉄球の動きが変わる。彼の振るう鎖が、蛇のように自在に動き始めたのだ。蛇鎖というスキルは、魔力で自在に操作するというものなのだろう。

 空中の私を追いかけてきた鉄球に、私の剣を合わせる。そのまま勢いに身を任せ、鉄球の威力を空中で受け流す。

 宙を飛ぶ私の体に、さらに追い打ちをかけるように迫って来る。今度は鉄球が私を追い越し、背後へと回る。明らかに鎖の長さが今までとは違う。蛇鎖というスキルは、鎖の長さまで変えることができるようだ。

 やはり彼は即座に対応して攻撃を仕掛けることができるらしい。背後へと回り込んだのは、吹き飛んでいる私が再度威力を受け流せないようにするためだろう。吹き飛んでいる方向と逆の方向から攻撃をされては、流石に身を任せて受け流すことは不可能だ。


「これで!」


 空中で体に回転を加え、鉄球の下から剣で思い切り一撃を加える。やはり、この鉄球の威力はかなり重いようだ。弾こうとした私の手が、今の一撃で少し痺れた。流石に剣を取り落としたりはしないが、咄嗟に剣を振るうことはできないだろう。鉄球をまともに剣で受け止めることは、やはり危険なようだ。

 剣で鉄球を攻撃したことにより、反動で私の体が下へと落ちる。私の顔の前を鉄球が過ぎていき、Uターンするように私を追いかけてくる。

 だが地面に着いたことにより、自由に動けるようになった。鉄球を自由に動かせるということが分かっていれば、回避できない訳ではない。先ほどから私を追いかけているのを見ていて、一つだけ分かったことがある。

 彼の鎖は自由自在に動いて長さも変わるが、魔力でできたそれは全て本当に存在しているのだ。時々おかしな動きをしていたが、すでに伸ばしていた鎖が絡まらないようにしていたのだろう。結構な長さになっていた中、あれだけ私を追いかけてくるのは凄い技術だ。


「あれで倒せると思ったのだが…」


 一度鎖の長さを戻して、彼は再び鉄球を構え始める。徐々に速度を上げていき、私へと振り下ろしてきた。

 後ろへ跳んでそれを回避する。さらに操作して襲い掛かって来ると思っていたのだが、そのまま鉄球が地面に叩き付けられる。


「なっ!?」


 鉄球の威力で地面が捲れ上がり、石礫が私の下へと吹き飛んできた。大きな礫だけ剣で防ぎ、小さなものは体で受け止める。顔だけは腕でガードし、致命傷は避けた。

 石礫と共に土煙が舞い、私の視界を遮る。クロウならばこの中でも行動できるのだろうが、私にはそのような能力はない。意識を集中させ、周囲の様子を窺う。あれだけの速度で鉄球が迫って来たら、クロウのような能力がなくても音や空気の動きで分かるというものだ。


「くっ!」


 右から迫って来た鉄球を、咄嗟にしゃがんで回避する。通り過ぎた鉄球は周囲を動き回り、私に位置を探らせないようにしている。次々と迫って来る鉄球を避けていると、すぐに土煙が晴れていく。周囲を動き回っていることで、土煙を晴らす手伝いとなった。


「まだまだだな…」

「しまった!!」


 土煙が晴れると、私の目の前に鎖の山が現れた。周囲にも無数の鎖が絡まっており、その中から逃げられないようになっている。土煙で見えない内に仕込まれたのだろう。周囲を動き回っていたのは位置を探らせないためと思っていたが、同時にこの罠を準備していたことを気付かせないようにしていたのだ。


「嵌められたか…」


 ただ視界を遮って攻撃してくるだけかと思っていたが、思っていた以上に彼は頭が切れるらしい。私が鉄球の一撃を受け止められないと気付いて、すぐにこの罠を考えたのだろう。


「終わりだ」


 彼が鉄球を上空へ向けて飛ばす。


「ぐっ!」


 それと共に鎖が迫って来て、私の体に巻き付いた。上空まで昇った鉄球が、私を目掛けて落ちて来る。鎖に巻かれて動けなくなった私は、一直線に落ちて来る鉄球を回避することができない。

 完全に勝ちを確信しているのか、彼は後ろにいるエルフや妖精を確認している。そして、彼の視線が防御部隊で止まった。やはり彼は頭が切れるようだ。この中で一番大事なのは防御部隊である。彼等が潰されてしまえば、攻撃や認識阻害の魔法に集中できなくなってしまう。


「…雷付与《サンダーエンチャント》」


 剣に雷を纏わせる。


「くっ…」

「ぐあっ!!」


 鎖に絡められた剣が雷を纏ったことで、鎖を伝って彼に電流が流れる。私まで感電してしまったが、自分の魔力で生み出した雷だ。少しならば軽減することができる。そのため、彼と比べて受けるダメージは少なくて済んだ。

 完全に油断していた彼はモーニングスターを手放すのが遅れ、感電して地面へと倒れ込む。上空から落ちて来ていた鉄球が、鎖が元の長さへと戻ることによって引っ張られる。


「っ!」


 鉄球が彼の下へと戻り、操作できなくなった彼は鉄球を頭に受けた。どうやら、完全に彼は気を失ったようだ。戻る速度がかなり速かったので、相当な威力だっただろう。それを無防備な頭へまともに受けたのだ。


「すまないな」


 目を覚ました時に対処ができないので、彼には止めを刺させてもらう。いくら彼が強くても、意識を失っていては抵抗もできない。私の剣が彼の首を一撃で刈り取る。

 彼がフスト王国の軍の中で一番強い者だったようで、それ以降こちらが苦戦することはなかった。数が多いので時間は掛かったが、撤退にまで追い込むことができた。

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