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第五十一話 結界術師、戦争前夜

                             第三章 歪んだ国

                         第五十一話 結界術師、戦争前夜



「ふう。こんなものか…」


 王が一つ溜息を吐く。ようやく本日の会議が終わった。防衛線を張ると決めた日付は四日後だ。兵士長等は馬で向かうため、ギリギリまで王都に残るらしい。といっても、ギリギリに着くという訳ではない。向こうでの編成も込みで、ギリギリの時間だ。

 俺達は明日、王都を出発する。これでもそれなりの時間がかかるため、俺達が到着するのは最終日の昼頃になるだろう。


「頑張っているな」


 王が窓から外の様子を窺う。視線の先にあるのは庭だ。そこでは、残った兵士達が訓練をしていた。流石は王に仕える兵士だ。


「あいつらは何をしてるんだ…」


 兵士の中にフランとカトレア、さらにサーシャまで混じっている。フランが楽しそうに兵士を相手にしている。彼は流石の剣の腕前で、囲んでいる兵士全てを二本の木剣で相手していた。何ならフランの方が圧倒的な数の差を覆し、兵士達を翻弄している。

 カトレアはサーシャの相手をしていた。実力差は圧倒的で、傍から見ればサーシャが遊ばれているように見える。だが、サーシャは何度もカトレアに立ち向かっていった。彼女は彼女なりに、精一杯頑張って特訓をしているのだろう。

 これでは、戦争についてくるなとは言い難いな…。カトレアもそれは分かっているようで、防御や回避を重点的に鍛えている。ずっとカトレアが攻撃に回り、それをサーシャが耐えている。言ってみれば、サーシャは必死に生き残ろうとしているということだ。


「あの二人のおかげで、ここにいる兵士達もかなり成長できた。それだけでも感謝している」


 王がそう言って笑顔を浮かべる。彼にとっても、これは嬉しい結果だったようだ。戦争に参加する兵士が強くなってくれるのは、俺としてもありがたい。


「それではな。勝利の報告を持ち帰って来ることを、心から願っているぞ」

「任せてください」


 王と別れる。庭で訓練している三人を拾い、宿へと戻る。今日は最後の会議だったので、思っていた以上に長くなってしまった。俺はそれほど口出ししていないが、それでも聞いているだけで疲労してしまう。

 特に大臣が俺を目の敵にしているので、会議の席にいるだけで疲れる。王がいるので口には一切出さないが、嫌というほど敵意のある視線を感じるのだ。

 宿へと戻り、夕食を食べる。フラン達は明日も兵士の訓練に参加するようで、今日はこの後、三人で集まって話をするようだ。明日は会議もないので、一日時間が空いている。


「俺も参加してみるか」


 そこでサーシャが戦争に参加できるか決めよう。自室のベッドへと潜り、目を閉じながらそう考えていた。


「その程度なの?」

「まだです!!」


 カトレアとサーシャが互いの武器を打ち合う。サーシャと話し合った末、彼女が戦争に参加する条件として、カトレアに一撃を加えるということになった。

 カトレアがやはり圧倒的である。サーシャは一撃加えないといけないのだが、防御だけで手いっぱいになっていた。フランではなくカトレアに相手を頼んだのは、彼女は手加減というものができないからだ。フランだと、情に流されて手加減する可能性もある。

 棘の付いていない、訓練のために用意された棒をカトレアは振るう。サーシャは自前の短槍だ。訓練用ではないが、刺突さえしなければ訓練用の木剣とさほど変わらない。だが、彼女は一切遠慮せずに刺突を繰り出す。それだけカトレアとの実力が離れているからだ。

 たとえ刺さったとしても、当たり所で即死しなければ回復魔法で完治させることができるだろう。短槍は軽いため、カトレアが回復させられないレベルのダメージを一度で負わせることはできない。

 俺とフランは他の兵士を相手にしている。初めて城から見た時は弱いと思っていたが、この数日という短い時間でかなり強くなっていた。かなりの強敵を相手にしていたからか、個人の力というよりも、連携力がより強くなっている。


「まだまだ行きます!」


 倒された兵士が、他の兵士が稼いだ時間で起き上がってきた。そして、戦っているメンバーに交じる。常に五人が俺の前に立ちはだかっていた。予備の兵士が三人いて、合計八人が俺と戦っている。一人倒される度に予備から補充され、回復するまでの時間を稼ぐ。

 フランの方も同様に戦っているが、彼は攻撃を止めない限り攻撃速度が速くなっていく。そのため五人パーティー二つの、計十人で相手をしていた。それでも今では、回復速度が追い付かなくなってきている。


「なんて強さだ…」

「速すぎる」


 周囲で見守っている兵士も、フランの戦い方に唖然としていた。彼の戦い方は我流だが、とても素晴らしいと思う。全ての動きが次の動きに繋がり、無理矢理動きを止めることができなければ対応できなくなってしまう。

 彼が山賊を続けていたのは強力な兵士を派遣してもらい、その者と戦うためだ。町にいる兵士や冒険者が数の暴力で双子を倒せなかったのは、雑魚の集まりでは彼を止めることができないからだろう。

 カトレアでは、集団相手に無傷で勝つことは難しい。その代わり、彼女には回復魔法がある。そう考えると本当に、彼等の戦い方は集団を相手にする戦争に向いているのかもしれない。


「そろそろ終わりですね」


 カトレアに吹き飛ばされて傷だらけになったサーシャの体が治癒される。カトレアの治癒魔法によるものだ。彼女の治癒魔法がなければ、すでにサーシャは動けなくなっていただろう。終わりということは、回復魔法を使うための魔力が残り少ないということだ。


「行きます!!」


 サーシャが再び突撃する。攻撃を受けないように、必死に小さい体を生かして動き回った。カトレアは自分の周りを動き回るサーシャの動きを見て、足を止めて構えている。何処から攻撃してきても返り討ちにできるようにしているのだろう。


「はああっ!」


 サーシャが気合を込めた一撃を放つ。それを綺麗に回避し、カトレアが棒を横薙ぎに振るう。それを咄嗟にしゃがんで回避し、さらに前転して背後へ回る。

 カトレアからは、視界から一瞬でサーシャが消えたように見えたのだろう。少し戸惑ったような表情を浮かべ、彼女の動きが一瞬鈍る。

 その隙を突き、サーシャがしゃがんだ姿勢のまま、下からの刺突を放つ。


「甘いわね」


 カトレアが姿勢を変えないまま、棒を背中へと回す。刺突を背中へ回した棒で弾き、さらに自分も回転しながら背中の棒を正面へ持ってくる。

 これで棒を構えたカトレアが、正面にサーシャを捉えた。彼女の馬鹿力で短槍を弾かれたサーシャは、腕ごと弾かれて姿勢も崩れている。このままでは、彼女の攻撃を回避できないだろう。


「ぐっ!」


 案の定、彼女の横に振り払われた棒を回避しきれなかった。何とか短槍で防御できたようだが、それでも体ごと弾き飛ばされる。


「はぁ…はぁ…」


 何とか起き上がろうとするが、カトレアの方が一歩早かった。彼女の持った棒が、サーシャの側頭部へと持っていかれる。


「勝負あったな」


 彼女がその気になっていれば、サーシャの側頭部を強打できただろう。その場合、下手をするとサーシャは死んでいた。

 サーシャは悔しそうにしているが、これは仕方がないだろう。技量は申し分ないが、子供の体格では力負けしてしまうようだ。カトレアのような馬鹿力でなければ、大人と真正面から打ち合うのは流石に無理だ。


「約束だからな。仕方ない」

「うぅ…分かりました」


 彼女は約束をしっかりと守る子だ。戦争には連れて行かず、王都においていく。少しかわいそうだが、俺としても危険な戦争地帯に連れて行きたくはないので、これでよかったのだろう。俺達がいない間の彼女の世話は、王に任せておく。彼ならば、サーシャを任せておくことができる。


 神秘の森へと到着する。メンバーは俺達三人の他に、王都に残っていた兵士もいる。後は馬で向かっている兵士長達が到着するのを待つばかりだ。


「待たせたな」

「今から行けば、十分間に合うだろう」

「そうか。それならば案内を頼む」


 先に来ていた冒険者や兵士も合流し、全員で神秘の森へと入る。ここにいるのは優秀な冒険者達と多数の兵士だ。俺が案内役として前を進むと、勝手に周囲の魔物を見つけて倒してくれる。俺の前に出た魔物には、フランとカトレアが嬉々として襲い掛かっていた。

 神秘の森を抜ける手前で待機する。ここから出ると、フスト王国の者に見つかる可能性があるからだ。


「ようやく来たか」

「…遅い」


 すでにカリアとミリアが待機していた。


「おい、エルフがいるぞ!!」

「あっちは妖精か?」


 二人の後ろには沢山のエルフと妖精がいる。どうやら、俺の頼みを受け入れてくれたようだ。彼等は今回の戦争で、手伝ってくれる者達である。

 俺はそれを見て、王から預かっている書状を兵士長に見せる。


「これは…」


 彼は書状を読んで怪訝な顔を浮かべた。内容は兵士達の編成だ。これは俺と王しか知らないものなので、怪訝な顔を浮かべたのだろう。エルフと妖精は手伝ってくれるのかが、確定ではなかった。そのため、この時のための編成も別で考えていたのだ。


「分かった」

「そっちは頼む」


 兵士長が冒険者や兵士に編成を伝え、それぞれの待機場所へと移動していく。妖精達がすでに相手の状況を探ってくれていたようで、それも事前に伝えてある。彼等は編成を終えて軍を待機させているらしい。

 俺達は三つの軍に分ける。俺達が姿を現すと、左右から挟まれるのを嫌って彼等も三つに分かれるだろう。三つに分かれたところを襲う予定なので、それまでは姿を見せて待機することとなる。


「ここで待機だな」


 フスト王国の斥候や奇襲を警戒しながら、俺達は夜を明かした。

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