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第四十四話 結界術師、再び

                            第三章 歪んだ国

                         第四十四話 結界術師、再び



 陽が沈んだ頃にユーリアへと辿り着いた。俺達は冒険者だ。冒険者証しか身分証がないため、夜は町に入ることができない。


「そこで止まれ!!」


 俺達のことを怪しい馬車だとでも思ったのか、兵士が数人慌てて走ってきた。この時間に護衛も付けず、一直線に町へと向かってくるのだ。以前にあったウザンや山賊の件も、兵士の顔を険しくしている要因であろう。

 実際にこちらは、元山賊の双子まで乗せている。そのため、通れなかったとしても当然である。因みに、双子の冒険者証はまだない。流石に山賊行為を働いていた町で、冒険者登録をする訳にはいかなかったからだ。


「何だ?」


 御者を務めている兵士が、そっと書状のようなものを見せる。それだけで、書状を見せられた兵士は顔を青褪めさせた。王が直々に用意した書状だ。当然、持ち主は王の命令を受けた使者である。何か非を働けば、後に首が飛ぶ可能性があった。


「どうした?」

「何があった?」


 次々に兵士が集まっては、顔を青褪めさせて距離を取っていく。


「早くしてくれないか」


 御者の兵士が言うと、離れて立っていた兵士達が慌てて跪く。これではまるで王様扱いだ。確かに王の命令を受けてはいるが、知らない兵士にここまでされると気持ちが悪い。


「少々お待ちください」


 跪いている兵士の内、三人が町へと駆けていく。残ったのは一人だ。残りの一人もここにいるのは気まずいのか、ずっと下を向いてそわそわしている。

 ユーリアは商人の町と言われるほど、商業が発展していて大きな町だ。周囲の町から沢山の商人がやって来て、物品を売買している。ウェンデルト王国の商売の中心地なのだ。

 そのユーリアですら、王の使者の扱いには困っている。それほど珍しいのだろう。何もしていないということはないのだろうが、基本的に影を使って裏から物事を進めているのだ。

 影は目立たない方が都合がいいため、仕方ない場合を除いては使者として表に出ない。


「お待たせしました」


 息せき切らしてやって来たのは、少し老齢の兵士だ。しかし彼の佇まいは堂々としていて、御者の前でも物怖じしていない。


「私がこの町の兵士長、ブラントといいます」


 彼は間違いがないように、自ら書状の内容を確かめていく。一言一句しっかりと確かめた彼は、御者へと書状を返した。


「確かに拝見しました。どうぞこちらへ」


 彼が手で合図を出すと、町の門が開いていく。俺達は彼の案内の下、兵士の宿舎へと案内された。

 宿舎には俺達が依然捕まえた山賊がいたはずだが、現在はいなくなっていた。牢屋に入らなかった者は、別の町に移送でもされたのだろうか?


「本日はこちらでお休みください」


 ユーリアは沢山の人が来る町だ。この時間から宿を取ることは、流石にできないだろう。宿舎を貸してもらえるのならば、とてもありがたい。

 宿舎では他の兵士も過ごしている。中には、俺達がユーリアにいた際に出会った兵士もいた。

 夕食の時間は、その兵士達と話して過ごす。それほど話すことはなかったが、ウザン達を捕まえたことを細かく聞かれた。

 さらに夕食の最中に、カーベイン達も乱入してきた。俺達が来たことを何処から聞いてきたのかはわからないが、カーベインのパーティー三人が集まる。どうやら、御者を務めていた兵士に聞いてきたようだ。

 カーベイン達はCランクの冒険者なので、戦争の際には呼ばれるらしい。王都に召集されたため、明日にはユーリアを出るようだ。

 王はCランク以上の冒険者に召集をかけているらしい。この召集は強制権があり、戦争が始まった際にも絶対に参加しなければならない。これは、ウェンデルト王国で冒険者をやっている者の義務だ。戦争が始まった際には、さらに有志を募って戦力を増やすらしい。

 いつの間にか酒を持ち込んだ者がいるようで、酔い潰れている者もいた。兵士という職業も、相当ストレスがたまるようだ。酔っ払いの兵士に絡まれると面倒なので、早々に与えられた部屋へと戻ることにした。


「冒険者登録は、これで完了しました」


 翌朝、出発前に双子の冒険者登録を済ませる。妖精であるミリアは冒険者登録は必要ないと言って、サーシャの鞄に入ったままだ。町の者が双子を恐れて、他の町へと助けを求めなかったのが救いであった。

 助けを求められていたら、賞金を掛けられていたことだろう。賞金首となれば、流石に仲間に加えることはできなかった。いくら誰でもなれる冒険者といっても、賞金首となってしまっては登録させてもらえない。


「そろそろ出発しましょうか」

「仕方がないな」


 御者の兵士が、冒険者ギルドへと俺達を呼びに来た。ずっとレベルの確認をしていなかったのでしてもらおうと思ったのだが、出発の時間になってしまったようだ。

 レベルの確認をしなくても、俺達の強さは変わらない。今すぐに確認する必要もないだろう。

 ここからソルトへと向かう。ソルトで一泊した後、神秘の森の前まで馬車で送ってもらう予定だ。ユーリアでカーベイン達に会えたように、ソルトではシャーレア達に出会えるかもしれない。

 特に二人にはサーシャが懐いていたので、話せることを願う。


「ソルトはもう懐かしい気分だな」

「懐かしいです!!」


 二人もソルトのことを思い出しているようだ。あまりソルトを出てからそれほど経っていないはずなのだが、カリアの言う通りすでに懐かしく感じてしまう。

 道中魔物と遭遇しなかったため、簡単にソルトに到着した。


「サーシャちゃん!」

「二人も久しぶりね!!」


 俺達が冒険者ギルドへ行くと、丁度依頼の報告をしていたシャーレア達に出会った。魔物の群れが出た際にいた、傷の男のパーティーもいる。群れ討伐の際に彼等の仲間が一人死んでしまったが、二人で冒険者を続けているようだ。


「そっちの二人は?」


 フランとカトレアの方を見て、シャーレアが尋ねる。


「僕はフランといいます」

「カトレアよ」


 二人はシャーレア達と会うのが初めてなので、自己紹介をしていた。シャーレア達と会うのが初めてなのはミリアも同じだが、彼女は鞄の中から出ようとしない。

 俺達は魔物の群れからこの町を救った、いわば英雄だ。低ランクの冒険者も、サーシャが共に戦っていたので知っている。そのためこの町の冒険者に、俺達のことを知らない者はいない。


「久しぶりだな!」

「そうね!」


 少し遅い時間だが、依頼を受けようとしている者もいた。だが俺達を見つけると、手を止めてこちらへとやって来る。

 そこからは全てのギルドにいた全ての冒険者が、俺達を囲み始めた。

 この町のギルドは小さいため、数人しか入ることができない大きさだ。しかし、今は十人以上が中にいた。そのため、ギュウギュウ詰めになっている。凄く暑苦しい。

 今日も俺は酒を飲むことになるのだろう。すでに冒険者達はギルドの前で酒を片手に談笑している。カリア達も狭かったからか、早々に出て行った。


「サーシャは駄目だぞ」


 サーシャが冒険者から酒をもらおうとしていたので、慌てて止める。流石に未成年の彼女に、酒を飲ませる訳にはいかない。


「次は首が飛ぶと思え」


 サーシャへと酒を渡そうとしていた冒険者の首筋に、カリアが剣を当てていた。


「も…申し訳ない」


 冒険者が額に冷汗を垂らし、両手を挙げて言う。まさか母親代わりのカリアの前で、サーシャに酒を与えようとするとは…。

 彼女の殺気に、冒険者達は皆凍り付いている。


「凄い殺気ですね」

「凄くいい」


 違った…。今この場には、戦闘狂の双子がいたのだった。

 フランとカトレアがいい笑顔を浮かべている。


「何だ!?」

「妖精?」

「…騒がしい」


 いつの間にかミリアが外に出て、食事を取っていた。周囲の者達が驚く。煩いと呟きながらも、彼女は食べ物に伸ばす手を止めない。


「特訓してやる」

「いいよ~」

「ふん。女共が…」


 カリアとカトレア、傷の男が皆から離れて拳を構える。


「ふぅ~。酒の席で僕は暴れませんよ。酔っ払い相手に本気で遊べませんから」


 俺が見ていたのに気付いたフランが言う。殴り合いを遊びというところが、とても彼らしいところだ。


「ぐわっ!」

「弱いわね」


 カトレアに殴られ、傷の男がひっくり返る。一撃でダウンとは…何とも呆気ないものだ。返り血を浴びて微笑むカトレアは、狂気を纏っているようでとてもホラーチックであった。

 周囲の冒険者達は、その殴り合いを見て大いに盛り上がってる。

 飲み会はそのまま、朝方まで続いた。

 翌朝、目を覚ますと地面が硬く、体が痛い。ギルドの外で寝ていたようだ。ギルドの前は酔っ払い冒険者が沢山倒れ、死屍累々と化していた。

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