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勇者パーティーに拒否された結界術師、気ままに冒険者を始める  作者: 蜂蜘蛛
第二章 商人の町ユーリア
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第三十二話 結界術師、山賊を討伐する

                           第二章 商人の町ユーリア

                        第三十二話 結界術師、山賊を討伐する



 山賊の討伐は翌日に行われることとなった。俺達とカーベインのパーティーが合同で行う。今回はサーシャも連れていく。少し危険だが、前衛にカリアとカーベインの二人がいる。後衛にもヌイアとバンがいるため、サポートを任せることもできる。

 今回俺は、後衛の二人を守る役目となったのだ。サーシャが一人増えたところで、やることは変わらない。彼女も戦うことができるため、さらに成長ができるだろう。ついさっき人との戦闘が苦手だと判明したばかりだ。上手くいけば、これも解消できるかもしれない。

 山賊討伐の準備をするため、町の中央の方へとやってきた。今回の依頼は一日で片付けようと思っているため、食料の準備をする必要は殆どない。当日にその日の食料を買い、念のために保存食を一食分用意すればいいだろう。

 買いに来たのは武器や防具といったものだ。

 俺の剣はエルフの里でもらったものだし、カリアの剣もエルフの里からずっと使い続けている。二人の剣は手入れをしているから壊れていないものの、すでにボロボロだ。

 サーシャの短槍は問題ないが、防具の方は揃えなければならない。チナで防具を揃えたが、動き易いように軽装だった。エルフの里ではカリア以外に後衛職しかいないため、軽装の防具しかなかった。

 槍を使うならば、もっとしっかりとした防具の方がいい。重装は流石に、彼女の体格では着ることはできないだろう。しかしあまり動き回らない槍を使うのに、軽装の防具だと防御力に問題が出てしまう。


「いらっしゃい」


 初めに訪れたのは、ドワーフが打っている鍛冶屋だ。ここがこの商人の町で一番評判がよかった。質のいい装備が揃ってあり、オーダーメイドでないために値段が安価だという。

 値段の話を抜けば、腕がよくてオーダーメイドをしてくれる店もあるらしい。だが、俺の剣は基本的に結果を纏って振るわれる。そのため、あまり切れ味等にこだわる必要はないのだ。


「これが丁度いいか」


 俺が剣を見ている間に、カリアが店主に選んだ剣を持っていく。彼女の剣はオーダーメイドのものを買おうと思ったのだが、すでに選んでしまったようだ。


「まいどあり」


 俺が買ったのは銀の剣だ。銀は鉄よりも強度がよく、魔法にも強い。劣化に対しても強いため、長期間保つことができる。カリアが買ったのはミスリルの剣だ。銀よりもさらに高価で強度や魔法耐性、劣化に強く魔力の乗りもよい。

 魔法が強力になるため、ミスリルは剣だけでなく杖等にも使われる。鉄よりも軽いという点も、魔術師のように筋力がない職業の者に喜ばれる点だ。


「次はサーシャの防具だな」

「私は大丈夫です」

「駄目だ」


 サーシャは未だに少し自分の立場を気にする傾向がある。だが、カリアが強い口調で拒否した。防具の質はサーシャの命に関わることだ。彼女が拒否しなくても俺がしていただろう。

 特にサーシャは子供なので体が小さい。オーダーメイドでないと、サイズが合う質のいい防具はないだろう。

 商人に聞いた店へと向かう。


「…」


 店内に入ると、先ほどの店と同じくドワーフの鍛冶師がいた。違うところは愛想が悪く、店内に客が来てもハンマーを打ち続けているところだ。一瞬だがこちらに視線を向けたので、気付いていない訳ではない。


「少しいいか」

「…」


 声をかけるが、反応はない。店内に飾っている品物を見る限り、確かに腕はいいようだ。だが、この対応が原因で人気が出ないのだろう。

 客が少ないからオーダーメイドにできるという利点もあるのだが。


「すまない」

「…」

「どうしたのさ」


 カリアの声にも反応がない。どうしたものかと思っていると、後ろから声がかけられる。振り返ると、ドワーフの女性が立っていた。


「ここの防具を買いたいのだが…」

「すまないね。夫は腕はいいんだけど巌窟ものでね」

「煩いぞ!」


 ドワーフの男が手を止め、大きな声を上げる。ようやくこちらを見た。妻の言葉には流石に反応するらしい。


「お前らはいったい何の用だ」

「ちょっと! お客さんになんて口の利き方してんのさ!」

「…別にいいだろ」

「だからお客さんが全然来ないんじゃないの!」


 妻の言葉に、膨れ面をしながら目を逸らす。巌窟親父といった様子だったが、妻を前にすると大きな子供にしか見えない。


「防具が欲しいのだが…」


 カリアが気にせず続ける。こういったことをあまり気にしない彼女に、魔物と戦っている時以上の頼もしさを感じた。


「お前さんの防具か?」

「いや、この子だ」


 カリアがサーシャの手を引いて前に出す。彼女は緊張しているようで、顔が強張っている。やはり強面の人物が怖いのだろう。


「ふむ。筋肉の付き方がいいな」

「訓練しているからな」

「そうか…。確かに、体格的にオーダーメイドでなければならないだろうな」


 少し見ただけで、鍛えていることに気付いたようだ。流石は、腕だけである程度有名になっているだけのことはある。


「重装は流石に無理だろうな」


 すでに構想を決めていっているらしい。ずっと無視していた割には仕事が速い。俺達が何も言わなくても、サーシャにあった防具を頭の中で作っていく。

 一応これでいいか、と彼の構想を述べられたが、完璧だった。値段は張るが、彼ならば素晴らしい防具を作ってくれるだろう。


「完成には一週間ほどかかると思うが、それでも構わないか?」


 今から作成するため、流石にオーダーメイドでは時間がかかる。しかし、一週間でもかなり早い。ある程度完成したものがあるため、早く完成させることができるようだ。サイズや形を彼女の体に合わせるらしい。

 これで一週間ほどかかるのは、型を作らなければいけないからだ。子供で防具を作る者は初めてらしい。冒険者見習いでも防具や武器は作ってもらえないことの方が多い。

 特にフスト王国だと雑用係で、命も安く見られているので金がかけられることがないのだ。ウェンデルト王国ではそのようなことはないが、戦力として見られる訳ではないので安いものを与えられる。パーティーの仲間というよりも、本当に見習いや弟子のような存在になるからだ。


「一週間後にまた来る」

「ああ、それまでには作っておくさ」

「またいらっしゃいね」


 作業に戻った彼の代わりに、彼の奥さんが店の前まで見送ってくれた。


「ありがとうございました」


 時間がかかるということで、取り敢えず先ほどの店に戻って防具を購入した。山賊を討伐する間に使うものなので安物だが、軽装の装備よりは防御力は高い。

 彼女の服装が、革の服からチェーンメイルへと変わる。肘当て等も籠手等と交換した。

 買い物を終えた後、夕食を取って宿屋に戻る。明日は山賊討伐ということで、早めに休むことにした。


「それでは出発します」


 幌付きの馬車が町から出発する。目的地は当然、山賊が出る峠だ。御者を務めているのはカーベインのパーティーの一人、狩人のバンである。彼は町の有名人なので、顔を隠すようにフードを目深に被っていた。Cランクの冒険者を襲っているので大丈夫だとは思うが、警戒して出て来なかったら困る。

 カーベインとヌイア、サーシャの三人は馬車の中にいる。彼等は商人役だ。そして馬車の左右に、護衛役として俺達がいる。

 これで山賊達からすると、商人の馬車に見えるだろう。


「戦闘態勢!」


 案の定、峠を通り過ぎる直前に山賊が襲ってきた。取り囲むように動いていたが、バンの声に反応した俺達がそれを許さない。彼を御者役にしたのは、索敵が得意な狩人だからだ。


「チッ」


 囲むのを諦め、その場で武器を構え始める。


「行くぞ!」

「ああ」


 カーベインとカリアが山賊へと駆け出した。拳と剣が振るわれ、凄い勢いで数を減らしていく。


「凄いな」

「「凄い」」

「凄いです」


 四人の声が重なる。カーベインは素手なのに、カリアと同じ速度で敵を片付けていった。二人もカリアがここまでやるとは思っていなかったのだろう。


「何をやってる! さっさとやっちまえ!」


 山賊達は数の差を活かして、二人を取り囲もうとする。だが、バンの矢がそれを許さない。しかし、流石に多勢に無勢だ。魔物との戦闘とは訳が違う。山賊達は人間なので、頭を使ってくる。二人は強いが、それでも少しずつ傷付いていく。


「治癒」


 ヌイアがその傷を回復魔法で治していった。暴れている二人に向かっていた矢や魔法が、こちらへと飛んでくる。先に支援役を潰すのは当然のことだろう。

 空間認識で捉えた矢や魔法を、片っ端から結界を纏った剣で斬っていく。数が多いので全てを斬ることはできないが、直撃しそうなものだけ防げばいい。


「さっさとそいつらを潰せ!」


 その声で、カリア達に群がっていた者の一部がこちらへと向かってきた。先ほどから命令を下している男は群れから外れて、外から状況を見ている。武器を構えてはいるが、二人の強さに一切近付こうとしない。


「やあっ!!」


 サーシャが掛け声と共に、短槍を懸命に突き出す。馬車からの最初の不意打ちは決まったが、それ以降は攻撃が決まらない。やはり、彼女は人との戦闘で力を発揮できないようだ。


「サーシャは下がってていいぞ」

「や…です」


 俺の言葉に、首を横に振る。動きは硬いが、頑張って戦っているのがわかった。

 山賊や強盗等、魔物以外にも人間が敵になる場合がある。そのため慣れてほしかったが、無理に戦えるようになる必要もない。彼女の天職はまだわからないので、冒険者以外の道もあるからだ。

 彼女のためとはいえ、子供の内から人を殺すことに慣れるのは、教育としては間違っているのだろう。


「おい、やめろ!」


 カーベインに殴られ、命令をしていた男が吹き飛ぶ。すでに二人の周りに群がっていた山賊は倒されていた。カリアが遠距離攻撃をしていた者達を倒しながら、俺達の下へとやって来る。俺もこちらへと来ていた山賊を剣で殴っていく。

 命令を下していた男が頭だったようで、奴が倒されてからは目に見えて動きがお粗末になった。

 山賊全員が地面に倒れる。俺が見た限りでは、半数の者が生きていた。これからユーリアに連行して、兵士に引き渡す。兵士が尋問して、色々と情報を聞き出すだろう。

 流石に、この数相手に全員を生かしておく余裕はなかった。サーシャも頑張ってはいたが、結局最初の一人しか倒せなかったようだ。少し落ち込んでいる。


「お前らやるな」

「お前もな」


 強いとは思っていたが、ここまでやるとは思っていなかった。お互いを称え合う。


「早く帰るわよ」

「準備をしてください」


 ゆっくりしていると日が沈んでしまうため、さっさと生きている者を縛って町に帰ることにした。

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