第三十一話 結界術師、山賊討伐へ
第二章 商人の町ユーリア
第三十一話 結界術師、山賊討伐へ
朝から冒険者ギルドへと向かう。ユーリアのギルドは町のはずれにある。町の中央から円状に商店が広がっているからだ。町の中央に行く程、大きな商会が並んでいる。
町のはずれにポツンと大きな建物が目立つように建っていた。ここがこの町の冒険者ギルドである。町のはずれといっても、護衛や採集等の依頼で冒険者と商会は繋がっている。そのため、儲かっているようで、豪勢な見た目をしていた。
ギルド内へと入る。冒険者がギルド内の酒場に屯していた。皆泥酔状態で、朝から飲んでいるのではなく、夜通し飲んでいたことが一目でわかる。金にはあまり困っていないのか、カウンターの上に置かれた酒瓶はどれも高そうな見た目をしていた。冒険者の装備しているものも同様だ。
「彼等は昨日帰ってきた、護衛組ですね」
俺が彼等の様子を見ていると、ギルド職員の男性が話しかけてきた。護衛組とは、護衛の依頼ばかりを受ける者達のことをいうらしい。商人の町ならではの依頼の受け方だ。護衛は旅の間の宿代等も出るし、依頼料も他の依頼と比べると少し高い。
彼等は依頼をこなして町に戻ってくると、金がなくなるまで飲み明けるらしい。金がなくなると、再び護衛の依頼を受ける。この町ではこういった冒険者が多いという。ルールさえ守れば自由な生き方ができるというのは、冒険者ならではの特権だ。
教えてくれた職員に礼を言い、依頼の掲示板へと向かう。依頼を確認すると、やはり商会が依頼主のものが多い。大商会にはそれぞれお抱えの冒険者がいるため、中小規模の商会のものが多かった。
「見ない顔だな。新人か?」
「昨日この町に来た」
「へぇ、そうかい」
男が嫌な笑みを浮かべながら近付いてくる。明らかにこちらを下に見ているような目をしていた。
「俺はウザンだ。この町のCランク冒険者をしている」
隙だらけで近付いてくる男がCランクだというのは驚いたが、周囲の様子を見る限りは本当のことなのだろう。ギルド内の誰もが、男を見ようともしない。
今から俺達に訪れる未来を予想して、同情的な視線をこちらへと向けてくる。
「最近俺達は仕事が忙しくてな。雑用してくれる人材が必要なんだよ。ここでやっていきたいのなら、どうすればいいかわかるな?」
俺達の代わりに雑用をしろ。逆らえばわかるな? といった脅しをしてきた。周囲の人達が逆らうなよ…と視線で訴えかけてくる。
俺達と言っていたのが気になったが、少し離れた位置に怪しい三人組がいた。気にしていない風を装いながら、こちらの様子を窺っている。空間認識で、彼等がテーブルの下に武器を隠し持っているのがわかる。
数歩でこちらへと来ることができる距離だ。何かあれば、男の助太刀にやってくるだろう。明らかに敵意を隠しきれていない。俺でもわかるくらいだ。カリアも気付いているだろう。
サーシャが怯えた表情をして、俺の服の袖を握っている。魔物には勇敢に立ち向かっていくが、人相手だと怖いのだろう。彼女のフワフワな尻尾も丸まっていた。
「おう。雑用したいよな」
怯えるサーシャの様子を見て、気分をよくした彼がさらに笑みを深める。そして、彼女へと手を伸ばした。
「触るな」
「なっ!?」
俺が動く前に、すでにカリアが動いていた。伸ばされた手が彼女に払われる。まさか逆らうとは思っていなかったようで、彼は驚愕の表情を浮かべた。
「てめえ!」
「「「やっちまえ」」」
男が怒鳴り、その声に合わせて三人の男が動く。
「「「筋力強化」」」
「はっ!」
筋力強化を発動させる隙に合わせて、カリアが拳を振るう。
「がっ」
拳が顔面を捉え、ウザンが酒場の方へと飛んでいった。
「何しやがる!」
酒場の方で呻きながら、彼はよろよろと立ち上がる。綺麗に一発もらったようで、少しフラフラした様子でカウンターに手をつく。
「…甘い」
「ぐっ」
「うっ」
ウザンに視線が集まる中、隙を突くように跳び掛かってきた。そちらに視線を向けることもなく、峰打ちで昏倒させる。ウザンが立ち上がった時には、すでに残り二人となっていた。
「ちくしょうが」
酒場から大型のナイフを持ったウザンが駆けてくる。
「風の刃」
もう一人の男が背後から、彼の突進に合わせるように魔法を放つ。
「任せた」
「ああ」
彼女が大型ナイフを迎え撃つ。俺は腰に携えた剣に手を掛けた。
結界を剣に纏わせ、カリアへと向かって飛んできた風の刃を斬る。俺は極力、この場を動かない。サーシャを守らなければならないからだ。
もし任せられた俺がいるのに怪我でもさせてしまったら、カリアの剣で俺の首が飛ぶかもしれない。サーシャの親のようになっている彼女なら、それくらいやってもおかしくないだろう。
「「ひっ」」
ウザンと鍔迫り合いをしていたカリアから一瞬強い殺気が漏れ、俺の側にいたサーシャが小さな悲鳴を上げた。同時に彼女の近くにいた彼からも声が漏れる。
「せいっ!!」
恐怖で体が硬直した一瞬の隙を突き、カリアが男の顎を蹴り上げた。大型ナイフを取りこぼし、大の字で後ろ向きに倒れる。
「や、やめてくれ!」
俺が残った男へと刃を向けると、情けない声を上げてギルドから逃げ出していった。
「…やったぞ」
「あいつら、やりやがった」
小さな声でひそひそと呟かれる。そして、その声は次第に大きくなっていく。
ドン! と音がして、ギルド内に先ほど逃げ出した男が転がり込んできた。男はすでに意識がなく、何者かに殴られたように顔に傷を付けている。
今までの声が嘘だったかのように、一瞬で周囲が静寂に包まれる。
「またウザンの野郎が何かしたか?」
後から入ってきたのは一人の男だった。オールバックにした橙髪に顎にも同色のちょび髭を生やしている。すらっとした体躯ではあるが、そこにはしっかりとした筋肉が付いている。腕を組んだ姿で入って来て、辺りを見渡す。そして、俺達に視線が止まる。
「新人か? 絡まれているのはお前らか…ん?」
離している途中で、男がカリアの後ろで倒れているウザンに気付く。再び内部を見渡して、ギルド内の雰囲気を確かめる。
「ウザンを倒したのか? やるな」
感心した声を上げる。今までの言葉から推察するに、ウザンは町の中でも悪名が高く、誰かが絡まれていると思って助けに来てくれたのであろう。
「こいつと同じなのは癪だが、俺はCランク冒険者をやっているカーベインだ」
「俺はクロウだ」
カーベインが俺達一人一人に名乗る。握手をした手は力強く、見た目以上にかなり鍛えられているのがわかった。
「ちょっと、いきなり何してるのよ」
「そうですよ。気が早過ぎます」
ギルドに男女が入ってくる。痩せ細った女にぽっちゃりとした男で、両極端な二人が並んで立つと余計に際立って見えた。二人とも杖や弓を持っているので、後衛の職業なのだろう。
「煩いな。こいつが暴れていたら、俺くらいしか止めれる奴はいないだろ」
Cランクのウザンに対抗できる冒険者は、同じCランク冒険者の彼しかいないということだ。
明らかに彼の方が実力が上なのがわかる。身のこなし隙がなく、ベテラン冒険者と呼んでもいいと思える。ウザンは明らかに、以前サラに絡んで簡単にあしらわれていたジアという冒険者に似ていた。
彼も、サラにベテランを名乗る資格はないと言われていた。昔はわからなかったが、今なら彼等が二流という意味がわかる。
共通点は身体能力が高いだけで隙が多く、相手の実力すら全く把握できないところだろう。俺は戦闘経験が少ないため、完全に力を測ることはできない。それでも、ある程度の強さであれば何となくだがわかる。
「よろしくね」
女と握手を交わす。俺が考え事をしている間にも、彼等と俺達の挨拶は進んでいた。女はヌイア、男はバンという名前らしい。ヌイアは治癒師、バンは狩人でカーベインは拳闘士のようだ。
拳闘士は武道家の上級職である。肉弾戦なのは変わらないが、拳で戦うことに特化した職業だ。
職業的にカーベインが前衛で戦って、二人がサポートに回るのだろう。特に狩人は敵や罠の発見にも優れている。戦い以外でもサポートできるだろう。
カーベイン一人が上級職であり、実際に実力も突出しているように感じた。
挨拶もほどほどに、俺達は依頼の確認を再開する。ウザンに邪魔をされたが、本来の目的はどのような依頼があるのかを確認しに来たのだ。
「緊急依頼だ!」
一人の男が慌ててギルド内に入ってきた。依頼内容は山賊の討伐。俺達がユーリアに来る際に通った道で、出てくると言われていた者達だ。
突然依頼が出た理由は、今朝大商会の持つ馬車が襲われたかららしい。護衛にCランクのお抱え冒険者が付いていたようだが、運悪く魔物に襲われている時に襲われたようだ。優秀な冒険者だったようだが、魔物と戦っている間に数に圧されたということだろう。
Cランクの冒険者が殺されたということで、現在その道は通行禁止となっているようだ。今朝出発した他の馬車は引き返してきている。
大商会の馬車ということはシャーレア達は無事なのだろうが、通行禁止のためソルトに帰ることができずにいるのだろう。無事に帰してやりたいと思った。
元々山賊を討伐したら報奨金がもらえる。さらに、今回は依頼となっているのでその報酬も出るのだ。金銭的にはかなり美味しい依頼だった。
「「俺達がやろう」」
声が重なる。声の方を向くと、カーベインが手を高く上げていた。




