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第三話 結界術師、能力の確認をする

                                 序章

                        第三話 結界術師、能力の確認をする



「こんなに大きいのか…」


 

 王都に到着した。遠くから見た時も大きかったが、外壁と城しか見えていなかったのだ。だが、目の前に来てその大きさに驚く。門の向こう側、ずっと街並みが続き未だに城が遠くに見える。広大な城下町の周囲全てに外壁が建てられているのだ。


「身分証を見せてもらおう」


 門の前に立っていた兵士が二人こちらにやって来る。


「こちらです」


 ダウさんが持っていた証明書を見せる。彼は王都から派遣された駐在の兵なので、証明書は初めから持っていた。


「君も見せてもらおうか」

「これです」


 俺はシスターからもらった書状を見せる。兵士は物珍しそうに眺め、問題がないことをしっかりと確認した後、書状を俺に返した。


「通っていいぞ」

「ありがとうございます」


 ダウさんはお礼を言い、馬車を進ませる。俺もお礼を言いながら後に続いた。

 城下町はヨースの比ではなかった。道はヨースよりも広いのに、人は城下町の方が密集している。城下町の中心に行ったらどれだけ人がいるのだろうか?

 行き交う人の中には、時々ドワーフや獣人といった亜人が見受けられる。亜人の殆どは人里に近づかない。亜人を保護する法がないため、何をされても文句を言えないからである。王都に亜人がいるのは、冒険者の上位に亜人が数人いるからだ。王都で亜人を攻撃するということは、上位の冒険者に喧嘩を売ると同義なのである。そのため王都全体で暗黙のルールが出来上がっていた。


「何か御用ですか?」

「すみません」


 珍しくて眺めていたら、猫獣人のお姉さん声をかけられた。咄嗟に謝って歩みを進める。


「珍しいかもしれないですが、一先ずは教会まで行きましょう。時間があれば自由に散策してもらっていいですから」


 俺を見てダウさんが苦笑した。


「すみません」


 俺も苦笑で返す。田舎者っぽくてかなり恥ずかしい。まあ、田舎者なのだが…。

 教会に辿り着くと、俺はすぐに一つの部屋へと案内された。どうやら書状の内容を予め伝達されていたようだ。恐らく、門にいた兵士が伝令として走ったのだろう。


「ようこそいらっしゃいました。早速で悪いのですが、ステータスを見せてもらってもよろしいでしょうか?」


 部屋で待っていると、シスターがやって来た。書状には書いてあったが、一応確認しておくということだろう。


「大丈夫です」


 俺がそう言うと、シスターが目の前へとやって来る。


「ありがとうございます。それでは、能力確認アナライズ


 スキルの発動と共に、彼女の瞳が金色に輝く。瞳の色が戻った後、彼女が口を開く。


「確かに結界術師なのを確認しました。レベルは5に上がっていましたよ。おめでとうございます」


 言いながら拍手を送ってくれた。いつの間にかレベルが上がっていたらしい。オーガを倒したことにより、急激に経験値が入ったのだろう。俺もオーガ戦に参加し、おかげで自信もついた。さらにレベルも上がったのならいいこと尽くめである。


「もう少しで、司教様がいらっしゃると思います。それまでこちらでお待ちください」


 そう言って彼女は部屋から出て行ってしまった。司教とは、世界に一人しかいないと言われる職業である。世界でも数少ない、神の力を使ったスキルを使うことができる職業だ。ダウさんも王都に着いてすぐに城の兵舎へと向かったため、独りぼっちである。何もやることがなくなった途端、急激に睡魔に襲われた。初めての旅でずっと気を張っていたため、疲労が蓄積されていたのだろう。欠伸を必死に噛み殺しながら、司教様が来るのを待つ。


 コンコン。


「ん?」


 今何か聞こえたような…?


「失礼します」


 シスターが部屋に入ってくる。頭が少し重たい。いつの間にか眠っていたようだ。聞こえたのはノックの音だったのだろう。


「それではこちらです」

「はい」


 返事をして立ち上がる。やっと眠気が覚めたが、今まで彼女が何を言っていたのか全く聞いていなかった。俺が立ったまま動かないのを見て、彼女が訝しげな視線を向けてくる。


「どうかいたしましたか? こちらで司教様がお待ちです。どうぞお越しください」


 どうやら司教様の下へと案内してくれるようだ。やっと理解できたので、歩みを速めて彼女の後を追う。大聖堂まで出てきたところで彼女が足を止める。


「司教様、お連れいたしました」


 彼女が言葉を発すると、横からカタッと音が聞こえた。そちらを向くと、一人の男が椅子から立ち上がっているところだった。彼が司教様なのだろう。


「やあ、いらっしゃい」

「初めまして、司教様。俺はクロウといいます」


 頭を下げながら、無難に挨拶をする。相手はフスト王国でもかなり位の高い人物である。少し緊張してしまった。


「頭を上げてください。そう硬くならなくても大丈夫ですよ」


 その言葉を聞いて顔を上げる。言っている言葉は優しく言葉遣いも丁寧なのだが、一切表情を変えない。常に無表情なのだ。言葉には出さないが、かなり不気味な人物である。


「それでは、君のスキルを確認してあげよう」


 彼の瞳が紫色に染まった。


「っっ!?」


 彼に見つめられた瞬間、体が瞳に吸い寄せられる錯覚に捕らわれる。まるで、無理矢理内面を吸い出されているようだ。


「ふむ、終わりましたよ」

「はあ…はあ…」


 彼の言葉と共に息を吐き出す。首元に汗の流れる感触がした。いつの間にか冷や汗を流していたらしい。

 彼がスキルを発動した時、スキル名を一切口にしなかった。これは彼のスキルではなく、技術の一つだ。省略と名付けられたそれは、神の力と呼ばれる所以である。戦闘職だと特に、相手にスキルのタイミングを掴ませず、数秒の短縮になるので皆がこぞって練習した。しかし、未だに習得できたものは一人もいない。

 

「君の獲得しているスキルは、現在三つあります」


 そう言って、彼は右手の指を三本上げる。


「一つ目は結界、二つ目は魔力上昇」


 どうやら、魔力上昇のスキルも持っていたらしい。これは術師系の職業の者が獲得できるスキルである。希少なスキルでもないため、術師系の職業であれば十人に一人は持っている。そのため、俺が持っていたとしてもおかしくはなかった。


「三つ目は空間認識、後ろの二つはパッシブスキルですね」


 パッシブスキルとは、常時発動状態のスキルのことを言う。


「…空間認識?」

「君はすでにスキルの恩恵を受けているはずですが…?」


 司教様の言葉を聞き、空間をというものに意識を向ける。だが何も感じなかった。ただ空間と言われても、漠然としていていまいち掴み切れなのだ。


「どういうことだ??」

「ふむ、おかしいですね…」


 司教様がそこで言葉を切る。恐らく考え込んでいるのだろうが、表情が変わらないので何を考えているのかわからない。


「空間の認識なのですよね? できないのですか?」


 ずっと後ろで見守っていたシスターが声を上げる。そのままこちらへと近づいてくる。


「はい…いまいち要領を得なくて…」


 俺が必死に意識を向けていると、彼女が唐突にこちらへ手を伸ばしてきた。

 その時、彼女の手が俺を触れていないのに鮮明に感じ取ることができた。


「今! 今感じ取ることができました!」


 嬉しさのあまりつい大声を上げてしまう。一度要領を掴みさえすれば問題ない。今度は先ほどの成功をイメージしつつ、空間の認識を試みる。すると、手に取るように俺の周囲の状況がわかった。それは背中側の死角も同様だ。

 空間認識のスキルはわかったのだが、これは…、


「司教様、空間認識のスキルなのですが…」


 言い難いことなので、一度言葉が途切れてしまう。


「どうしましたか?」


 司教様は、すでに自分の仕事は終わったとばかりに大聖堂の奥へと視線を向けていた。聞き返してきたので応じるつもりではあるのだろうが、こちらを向くことはない。


「実は…体付近の空間しか認識することができないのです」


 俺は意を決して感じたことを言った。空間を認識することはできたのだが、かなり近くのものしか把握ができない。殆ど役に立たない代物であった。


「恐らく、空間認識は結界スキルの派生で生まれたスキルだと思われます」


 それは俺だってわかる。空間認識なんて他の職業のスキルでは聞いたことがない。結界スキルを持った結界術師ならではのスキルなのだろう。


「つまり、結界は空間を支点にして張っているということです」


 どういう意味だ? 難しすぎて全くわからない。自分のスキルなのに、司教様の方が理解しているという点も悲しくなってくる。


「なるほど! つまり、結界はその空間の座標を目印に張っているということですね」


 笑顔を浮かべながらシスターがそう言った。なるほど、今ので少しわかった。座標を目印にするために、空間を認識する能力があるということか。結界を張る時俺は無自覚で空間を認識し、そこに結界を張っているのだろう。その能力が派生して、スキルとなって現れたということだ。


「つまりスキルのおまけなので、認識できる範囲が狭いのですか? あまり使い物にならないですね」


 シスターがバッサリと言い切った。確かに俺も役に立たないスキルだとは思ったが、他人にそこまではっきりと言われると涙が出そうになる。


「君はレベル5なのであろう? それならば、成長するスキルなのであろう」

「成長ですか?」


 スキルが成長するというのは聞いたことがなかった。だが父親のダルを思い出す。彼の天職は木こりであった。そのため毎日木を切っており、上達して速度が上がっていると言っていた。これはスキルにも当てはまるのではないかと思う。いや、そう思わないとやっていけない…。俺がまだ未熟ゆえにスキルを扱いきれていないという可能性だってある。

 そう自分に言い聞かせておいた。


「もう用は済んだでしょう? 勇者パーティーが王都に着くまでは時間があります。ゆっくりと観光等をしてきてはいかがでしょうか?」


 司教様の言葉は、俺のことを思っているような言葉ではあった。観光も実際してみたかったので、喜ばしいことではある。しかし、彼の本音は早く出て行けと言っているように聞こえた。無表情の顔から放たれている言葉ということもあり、それは酷く冷たく感じた。


「それでは、勇者様が到着いたしましたらご連絡させていただきます」


 協会の入り口、頭を下げるシスターに見送られて雑踏の中へと歩き出す。城下町を回るとしても広すぎる。どこに行ってよいのか、自分がどこにいるのかもわからない。それに、ダウさんがいなくなった以上、お金も殆どないのだ。


「とりあえず、そのあたりを歩いてみるか」


 考えなしに足を進める。


「そこの兄さん。今暇かい?」


 道なりに歩いていると、背後から声がかけられた。

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