第二十八話 結界術師、ソルトを守る
第二章 商人の町ユーリア
第二十八話 結界術師、ソルトを守る
魔物を順調に減らしていると、遠くからさらにやって来ていた魔物達が、一部別の場所に集まっていく。男三人も作戦を開始したようだ。群れが二つに分かれたが、それでも三分の二はこちらに集まっている。先に注目を集めていたため、向こうにヘイトを向ける魔物が少なかったのだ。
「結構減ったな」
いつの間にか、結界内の魔物が残り数体になっていた。カリア一人で戦っているのに凄い速度だ。そろそろ結界を解除してもいいかもしれない。
そんなことを考えていると、上から近付く気配を感じ取る。
「ギャギャギャ」
大きな鳥の魔物だ。結界を纏った剣を眼前に構えると、鋭い鉤爪が衝突した。ヘルコンドルというDランクの魔物である。
剣で斬りかかるが、空中で器用に回避されてしまう。
「面倒だな…」
結界の周囲に集まった、雑魚魔物の掃討に戻る。ヘルコンドルはすでに上空まで上昇していた。こちらの隙を窺うように頭上を旋回している。
「終わった!!」
カリアの声が響く。結界を解くと、彼女は真っ直ぐこちらへと向かってきた。
結界を階段状に展開していく。彼女と視線が一瞬だけ交差する。
彼女は俺の考えを読み取り、結界を足場に駆け上がっていく。足場の先にいるのはヘルコンドルだ。こちらが変な動きを見せないからか、俺を注視するあまりカリアの存在にまだ気付いていない。
「ギャ!?」
奴が彼女の存在に気付いた時には、すでに彼女は目前にいた。
剣を袈裟懸けに振るう。回避を試みるが、躱しきれずに翼が切り裂かれる。空中に滞空することができなくなったヘルコンドルが、地面へと落ちてきた。
「ギャギャ」
かなり高い位置から落ちてきたのだが、タフなのかまだ元気そうだ。
「はあっ!」
結界から途中で飛び降り、上空からヘルコンドルに向かって剣を振るう。
首が落ちた。それは一瞬のことで、奴は何があったのかわからない、といったような表情をしている。早いと思ったが、俺の結界を蹴って加速していたようだ。
「Dランクの魔物が簡単に…」
「凄い…」
二人が呆然と言葉を漏らす間にも、群れは次々と数を減らしていく。俺は一撃で殺せない魔物もいるため、カリアは俺の二倍以上の速度で倒している。
彼女の雷を纏った剣は、かなり優秀なようだ。ホブゴブリンは流石に一撃で殺せないようだが、感電して膝を地面についていく。かなりダメージを負っているようで、体が焼けて所々から煙が出ていた。次の一撃で簡単に首が飛ぶ。
結界を周囲に展開する。先ほどまで遠くにいた魔物が近付いて来ていたため、完全に周囲にいた魔物が包まれた。これで、この辺りにいた魔物が逃げることはできない。注目を集めるために魔物を殴り続けたのがよかったようだ。魔物が集まっている辺りには死体や血溜まりがあり、そこから血の匂いが漂っている。
「さっさと終わらせるか」
「そうだな」
今回は俺自身も結界の中にいた。外に魔物がいないため、俺が外にいる必要はない。
パッと見ただけでDランクの魔物が三体いる。デザートスコーピオンとハイオーク、残りは神殿跡地にいた魔物だ。
炎を吐く翼の生えたライオン。キマイラだ。Dランクの中でもかなり上位にいる魔物で、翼を持っていても飛びはしないが滑空はしてくる。
速度も異常だが、一番厄介なのが移動しながら攻撃ができる点だ。滑空できるため、突進しながら炎を吐いたり爪を振るってくる。また、尻尾は蛇になっており、すれ違いざまに毒を持った牙で噛みつく。
「キマイラは俺がやる」
「それならば残りは私が」
それだけ言葉を交わし、二人同時に動き始める。
俺は結界で、周囲の魔物ごとキマイラを閉じ込めた。
「ガアアアア」
わざと狭く結界を作ったため、窮屈に感じた奴が暴れ始める。炎を吐き、結界内が阿鼻叫喚となった。他の魔物が焼かれ、狭い空間でのた打ち回る。
あっという間に結界の中は、俺とキマイラだけになった。結界で自身を守っていた俺とは違い、奴は自分の吐いた炎で少しダメージを負っている。
神殿跡地でも、奴は後ろから炎を吐いて前方の魔物を焼き殺していた。そのため、この作戦が浮かんだのだ。これで楽に魔物を減らすことができた。
「グガアアア!!!」
キマイラが突進してくる。半身になって爪を回避し、噛み付こうとしてきた蛇を掴む。手首に巻き付き噛み付いてくるが、結界を纏った俺の腕には突き刺さらない。
「くらえ!」
横腹に俺の拳を突き出す。衝撃で皮膚が破れて血が吹き出すが、途中で止まってしまった。骨も砕けたのか、力を込めると少しずつ体内に潜り込んでいく。
「ガアアア!!」
痛みに奴が体を跳ねさせた。それだけだったが、力が強く咄嗟に腕でガードした俺の体は結界まで飛ばされる。
「しぶといな…」
動きが鈍っているが、それでも倒れる気配は一切ない。
奴に向けて剣を構える。これだけ動きが鈍っていれば、俺の技量でも剣で戦えるだろう。結界を纏った一撃で倒せないのであれば、剣でチマチマと削っていくか同じ場所を狙うしかない。そして傷を庇うように動いている以上、同じ場所への攻撃は警戒しているだろう。
爪を回避し、腕を斬りつける。牙を結界で受け止め、顔面に鋭い一撃を与えた。
奴が少し怯んだようにたたらを踏む。その隙に横へ回り込み、拳を振るう。
「ガウッ」
獣の勘か、咄嗟に回避しようとキマイラが横に跳んだ。
「浅いか…」
俺の拳は奴を捉えたが、衝撃は殆ど殺されてしまった。まだ諦める訳にはいかない。これは絶好のチャンスなのだ。
逆の手で剣を突き出す。細長く結界を剣に纏わせて疑似的なカリアが持つスキル、聖槍剣を作り出した。
「ガアアアアア!!!」
切っ先の尖った結界が、奴の横腹に突き刺さる。肉を突き破り、内臓を抉りながら反対側へと突き抜ける。
元々ダメージを負っていた奴は、貫通した際に動きを止めた。
「そっちは終わった?」
結界を解くと、カリアが声をかけてくる。こちらも終わっていたようで、内側から焼かれたデザートスコーピオンや、真っ二つにされたハイオークの死体が転がっている。
雑魚の魔物が全て血溜まりに倒れていた。こちらも彼女がやったのだろう。
魔物が全て討伐されているのを確認し、外側の結界も解く。
「本当に終わったの?」
シャーレアが困惑した表情で尋ねてきた。フライは疲れ切った様子でこちらを見るだけで、口を開くことはない。
「まだだ」
そう言って地平線を見る。その先には、未だに煙が上がっていた。もう一つの場所では戦闘が続いているのだ。
俺の側が早く終わり過ぎたのか、向こうが苦戦しているのかわからない。
「シャーレア達は町へ報告へ」
「…ええ」
俺達の実力を見たからか、二人は素直に頷いて町へと戻り始める。
「行くぞ」
「ああ」
俺達二人は、空へと昇る煙を目印に駆ける。
「くそがっ!」
辿り着いた先では、死闘を演じていた。傷の男が負傷しているのか片腕を垂らし、オーガへと剣を向けている。その周囲には、コボルトが隙を窺うように集まっていた。
他の二人はどこにいるのか、と辺りを見渡す。
一人は片腕を押さえて、傷の男の背後に座り込んでいた。腕は肘から先がなく、止血のためか傷口近くを縛っている。獲物も持っておらず、すでに戦意も喪失していた。
もう一人はいない。すでに逃げたのかと思ったが、武器や鎧が一組落ちている。血や肉片もあるため、殺されて食べられた可能性もあった。
懐に手を入れる。そこには二つの冒険者証があった。カイとイラ、二人のことを思い出す。
「雷付与」
カリアが雷を纏った剣で、雑魚を相手に無双し始める。俺達のことに気付いた魔物が、取り囲むように集まってきた。
彼女の雷と俺の結界の刃は、魔物が密集しているほど実力を発揮する。そのため、この状況はよかった。
「何をしに来た! 助けはいらん!」
傷の男がこちらに気付いて叫ぶが、俺達は一切気にしない。魔物の討伐を続ける。
彼等を助けるのではなく、魔物を殲滅しに来たのだ。彼が何を言おうと気にする必要はない。
「これが最後だ」
カリアの剣が大蛇の首を刎ねる。全ての魔物を倒し終えた。意外と呆気なく終わってしまった。こちらにDランクの魔物がいなかったのと、魔物の数が少なかったからだ。
元々少ないだけでなく、来た時に見た死体の数を思い出せば彼等が頑張ったのもわかる。
「正直に言うと、かなり助かった」
俺達の戦いを見て顔を青褪めさせていた傷の男が言う。
「俺達は先に戻らせてもらう」
片腕の男を担いで駆けていく。血を失い過ぎて顔色が白くなっていたので、本当に危ない所だったのだろう。
別に気にする必要はないと思うが、彼には助かってほしいと思った。状況がカイとイラを失った時に似ていたからだろう。最初に見た時、思い出して一瞬体が動かなかった。
「俺達も戻るか…」
周囲に血の匂いが漂うと、他の魔物が寄ってきてしまう。群れになることはないので放置しても大丈夫だが、面倒なのでさっさと帰るのがいい。
俺達は町へと戻るために歩みを進めた。




