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第二十一話 結界術師、エルフの里を救う

                             第一章 エルフの里

                       第二十一話 結界術師、エルフの里を救う



「威勢がいいのは言葉だけか…」


 結界でスラウの攻撃を防いでいると、奴が挑発するように言う。俺がカリアに任せておけと言ってから、数十回と攻撃を防いでいた。

 こちらからの攻撃は隙ができるまでは当たらないので、一切行っていない。俺に彼女ほどの技術がないからだ。

 狙っているのは彼女が残してくれた傷。鎧の胸元に大きく付いている。俺が鎧の防御を貫けるとするならばここしかない。


「お前だって俺にダメージを与えられていないだろうが」

「貴様と違って俺様には体力等といったものがないからな。長期戦になればなるほど有利になっていく」


 奴の言う通りだ。このままでは俺が不利になっていくだけ。結界はそれほど魔力を必要としないが、それでも無限に使える訳ではない。

 奴の大剣をわざわざ回避せずに防いでいるのも、スタミナが削れるのを防ぐためだ。


「ふむ…諦めるがいい。貴様が俺様の胸元を狙っているのはお見通しだ。この状況で俺様が貴様の攻撃を受けると思うか?」

「思うさ」


 奴に精一杯の笑みを浮かべてやる。これで奴が俺を侮って油断してくれればいいのだが…。

 流石にそこまで簡単ではない。魔王軍の幹部になっただけはある。


「今度は簡単に防げると思うな。衝撃剣ショックソード! 連撃ダブル!」


 衝撃剣を無理矢理スキルで二度放ってきた。以前結界を衝撃剣の一撃でヒビを入れられたことがある。連撃は流石に防げない。慌てて伏せると頭上を剣が通り過ぎる。


「くっ!」


 まだ油断する訳にはいかない。スラウがさらに追い打ちをかけてくる。一度目の剣を転がることで回避し、二度目三度目を結界で防いだ。


「衝撃剣」


 連撃を使わない一撃。これは結界で防ぐ。一度だけなら防ぐことができる。奴もそれはわかっているはずなので、フェイントとして使ったのだろう。

 アンデッドである奴は体力等の心配はしなくていいだろうが、魔力は聖者と同じだ。そのため、スキルは節約しなければならない。

 特に奴は戦士系の魔物だ。俺達の職業と同じなら魔力は少ないだろう。衝撃剣と連撃を同時に使うのはそれだけ魔力を消費するはずだ。

 先ほどの一撃で俺を殺せなかったのは痛手であろう。

 奴と俺は互いに隙を窺うことになり、さらに膠着状態が続く。攻撃を誘うように、隙をわざと見せたりもした。だが奴は誘いに乗って来ない。


「はあぁぁぁ!!」


 ならば、と今度はこちらが奴の胸部に一撃を放つ。先ほどまでフェイントや隙を見せるための攻撃しかしてこなかったため、突然の鋭い一撃に反応が遅れる。


「今のは少し驚いたな…」

「惜しかったか…」


 俺の剣は寸前で、奴の腕に防がれていた。今の一撃で倒せるとは思っていなかったが、惜しかっただけに防がれたのが悔やまれる。


「ならば今度はこちらから行こう」


 俺の一撃によって奴の何かに火が付いたのだろう。突然奴の攻撃が過激になっていった。


「衝撃剣! 連撃!」


 再びあの連続攻撃が来る。

 よし! これを待っていた。


「うおぉぉぉぉ!」


 気合を入れ、無理矢理体を捻じって攻撃を躱す。無茶な姿勢のため、体が軋み悲鳴があがる。そこから攻撃に移ろうとしていたために、腕を大剣が撫でた。


「ぐぁぁぁぁぁ!!!」


 強い衝撃が走り、肘が逆方向に捻じ曲がる。痛みに剣を取り落としそうになるが、咄嗟に剣を持った手の力を強めた。


「いけえぇぇぇぇ!」


 片手で剣を突き出し、鎧の胸に突き立てる。


「何だと…」


 だが、俺の剣はキンという音と共に弾かれた。両手で握れなかったため、力が足りなかったのだ。傷口に突き入れることはできたが、それ以上進むことはなかった。


「ふむ。その程度か…」


 奴は胸に刺さった剣を外し、地面へ放り投げる。

 俺に止めを刺すことなく、すでに俺から離れ始めている。ダメージを何一つ与えられなくなったため、興味をなくしたようだ。


「ちょっと待て!」


 奴が向かっている先にはカリアがいた。


「俺様にとって唯一脅威となり得る存在だ。貴様は殺させてもらうぞ」

「やめろ!!」


 地面に横たわっているカリアへ、大剣を向けてゆっくりと歩み寄っていく。体力や魔力を回復したら彼女はまだ動ける。そしてさらに強くなった場合、奴を越えることもできるはずだ。

 アンデッドのスラウは疲労等がない代わりに、成長することもない。ここから先、強くなることはないのだ。


「邪魔をするな!」

「ぐっ!」


 スラウが彼女の下へ辿り着けないように邪魔をするが、結界を張る前に逃げられてしまった。結界を張るタイミングが察知されているかのように全て避けられる。


「避けるだけならば容易い」


 俺は戦闘訓練などを受けた訳ではないため、戦闘に慣れている訳ではない。奴は経験から俺の行動を読んでいるのだろう。わかっていても、視線や呼吸などは無意識に行うものなのでどうしようもない。

 こういうものは、訓練をしてようやく身に着けられるものなのだ。例外としては天職が戦士系の職業に選ばれた者だろう。


「行かせるか」


 結界でできるだけ妨害しながら奴に近付いていく。俺は後を彼女に任されたのだ。倒れるまで全ての力を出した、彼女の期待には応えなければならない。


「これでどうだぁぁ!!!」


 拳を思い切り突き出す。それを奴は避けようともしない。鎧へぶつかると同時に皮膚が裂けて血が滲む。蹴りを放ち、さらに拳を突き出す。

 無我夢中で攻撃していると、俺の拳は奴の胸を貫いていた。


「何だと…。どうなっている」


 スラウが驚愕の声を上げる。俺の拳に結界が纏っていた。無意識に結界を拳に纏わせて殴ったようだ。それは剣に魔法を纏わせて戦う、彼女の攻撃に似ている。


「俺様の鎧よりも、貴様の結界の方が硬かったということか…」


 貫かれた理由を知った奴の鎧がバラバラと崩れていった。


「…ん?」


 金属の音でカリアが目を覚ます。崩れた鎧を目にした後、俺と目が合う。


「大丈夫か?」

「クロウの方が傷を負っているようだが…」


 彼女の言葉を受けて自分の体を見る。片腕は折れ、鎧を殴った拳からは血が流れ、体中がボロボロだった。戦いで出たアドレナリンが切れ、突然体を痛みが襲う。


「他のエルフは回復魔法が使えるからな。戻ったらすぐに治療してもらおう」


 彼女の言葉に深く頷いた。


「なっ!? まさか倒したのか…」


 茂みから煩かった男、名前はパウだったかが現れた。


「ほう。本当に倒してしまうとは…」

「こちらも終わりましたよ」


 長老とササリア、他のエルフ達も後ろから続く。スラウが連れてきた魔物の討伐も無事に終わったようだ。


「治癒」


 長老が俺に回復魔法をかけてくれた。

 エルフ達が興味深々に鎧の残骸を見ている。上級魔法すらダメージを受けなかった魔法耐性の高さが気になるようだ。素材を確かめようとあれこれと話し合っている。パウだけは俺が奴を倒したことが気に入らないのか、鎧に群がる皆を嫌そうな顔で離れて見つめていた。


「何かわかったか?」


 俺の傷を治すや否や長老も向かった。どうやら彼も気になっていたようだ。


「では、そろそろ里に戻るか」


 最終的に素材はミスリルで、それ以上に奴の存在によって耐性が上がっていたとの判断になった。つまりミスリルという強力な素材と、鎧に憑く前から強い力を持っていた奴が相乗効果を生み出したのだ。

 武器である大剣は鉄製のもので、こちらは純粋に奴の剣の腕が優れていたことを示す。俺が以前戦ったウェアウルフもかなり強い個体だったので、それだけ有数な者を派遣してでもエルフの里を潰したかったのだろう。



「ありがとう!」

「カリア、やったぜ!」

「流石は長老様!」

「ササリアさん。お疲れ様です」


 里に帰るとすぐに歓迎された。まだ魔物の討伐に成功したと誰も言ってないのだが…。

 それだけこの精鋭メンバーが信頼されているのだろう。スラウの討伐にも成功したと言ったら、盛り上がっていた皆がさらに輪をかけて盛り上がった。このままでは際限なく盛り上がってしまい収拾がつかなくなってしまうので、長老が一喝して場を収める。

 現在は元気だが重傷者もいたということで、翌日に宴会が開かれることとなった。

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