第二十話 VS魔物
第一章 エルフの里
第二十話 VS魔物
アルマ視点
そろそろ出てくるか?
儂等が魔王軍幹部の潜む洞窟に着いてから既に一時間近く経つ。見つかりそうな場合はササリアが遠距離から魔物を倒してくれているが、いつかは見つかってしまうだろう。
魔物が集まってしまっては作戦を遂行させることができなくなってしまう。
「まだかよ…」
同じ事を思っているのか、パウが焦った声を上げる。
「焦って飛び出すなよ」
「わかっていますよ、長老様」
彼は優秀な魔術師ではあるが、少し落ち着きがないところがある。今回の作戦の要となるクロウが里に滞在するとなった時、最後まで反対していた。
まさか精霊様の持たせた証拠にまでいちゃもんを付けるとは思わなかったが…。あれには儂もつい声を荒げてしまった。おかげで犬獣人の少女を怖がらせてしまい、それから一度も口を聞いてくれない。嫌われてしまったのだろうか…。
「何かあったのか」
そんなことを考えていると、幹部の死者の鎧が洞窟内から出て来た。こ奴の相手はクロウとカリアに任せてあるため、ここから離脱しなければならない。
「氷の刃。後は頼んだぞ」
氷の中級魔法でこちらの方へ注意を引き付け、その間に茂みの影を進んでいく。魔法でクロウに気付いたようで、幹部がそちらへと歩いて行った。儂等は奴に気付かれないように迂回しながら洞窟へと向かう。
洞窟の前では六体の魔物が警戒をしていた。その中でも強力な魔物が三体いる。
ウェアウルフとデザートスコーピオン、そしてゴブリンキング。どれもCランク以上の魔物で、特にゴブリンキングはBランクに近い強さを持っている。
ゴブリンキングがいるということは、部下であるホブゴブリンやゴブリンマージ等がどこかにいるはずだ。
「パウはウェアウルフ、ササリアはデザートスコーピオンを頼む。他の者は洞窟内の掃討をしろ。儂は残りを倒す」
「「「かしこまりました!」」」
パウとササリアは今いる者の中でも頭一つ抜けて強い。任せるならば彼等だろう。
皆が頷くのを確認し、魔力を練り上げた。威力よりも範囲を優先させる。
「炎爆!!」
儂の放った炎が魔物の中心で爆発し、砂煙を巻き上げる。今ので三体の雑魚が吹き飛んだ。無傷だった魔物は三体。ウェアウルフが回避し、デザートスコーピオンは硬い甲殻で身を守り、ゴブリンキングは腕をクロスさせて守備力が低い顔を守っていた。
「風の刃」
「ニードルショット!」
パウとササリアが魔物を一体ずつ森の方へと連れていく。
「ガアアッ!」
「氷の刃」
洞窟内へ侵入しようとしていたエルフ達を襲おうとしていたゴブリンキングへ、牽制の魔法を放つ。これで周囲には二人だけとなった。
「グウウ」
邪魔をされた奴はこちらへと腹を立て、威嚇してくる。
ゴブリンキングは攻撃力、防御力が共に高い。また、素早さも早く気を抜けば簡単に距離を詰められてしまう。
「炎の刃、氷の刃、風の刃」
「グアアアア!」
連続で魔法を放ち、近付かせないようにする。その間に強力な魔法を打ち込むための隙を探す。一撃必殺の魔法を放つための魔力を残さないといけないため、短期決戦で終わらせないといけない。
内心で残りの魔力が減っていくのに焦りながら、表情には出さず魔法による牽制を続ける。
「グアアアッ!!!」
焦れたゴブリンキングが、顔を腕で庇いながら走ってきた。炎が奴の視線を遮る。チャンスはここだ!
「水の竜巻!!」
水でできた竜巻が奴を捉え、水圧で体表を削り始める。水と風の複合属性魔法だ。
「ガアアアアッ!!」
竜巻から逃れようと暴れるが、水流で思うように体を動かせずに風圧で押し留められる。奴が動かなくなったのを見て魔法を解除した。
流石ゴブリンキングである。体を切り刻まれても耐えきり、最後は水による酸素不足で死んだ。
「さて、洞窟内がどうなってるか見に行くか…」
パウとササリアは大丈夫だと思うので、洞窟内を見に行こうと決めて足を進めた。
パウ視点
「火の玉」
火の玉を連続で放ち、距離を保ちながら森の中へと入って行く。初級魔法である火の玉ではウェアウルフにダメージを与えられないだろうが、当たれば嫌悪感はあるようで回避しながら追ってきた。距離は少しずつ縮まるが、その度に魔法を発動する回数を増やして距離を開ける。
「この辺りでいいか」
「ガルルルルル」
俺が立ち止まると、やがて追い付いてきた奴が唸り声を上げた。
「炎の刃!」
俺が放った炎は避けられてしまう。奴の動きは思ったよりも早く、攻撃を当てられる気がしない。また近付かれないためにも、牽制のために火の玉も放たなければならない。
魔力が凄い勢いで減っていく。長老様程魔力を持ってるならば余裕を持って戦えるだろうが、俺にはあまり魔力の余裕がない。
少しでも魔力を温存するために牽制のための魔法を減らす。奴が近付いてきた。
こちらへと右腕を振り上げる。後ろへ跳んで回避した。さらに炎の刃を放って距離を離す。だが、すぐにまた距離を詰められて蹴りを放ってきた。咄嗟に横へと跳んで回避する。
「ガアアア!!!」
俺の身体能力でいつまでも回避できる訳ではない。
「ぐっ!?」
回避し損ねたウェアウルフの爪が俺の横腹を抉り、空中に吹き飛ばされながら血を撒き散らす。
「くそっ! 治癒」
回復魔法を使って傷を癒し、すぐに起き上がる。視線の先には奴がこちらに向かってきているのが映った。
「炎の刃!!」
三度連続で中級魔法を放ち、無理矢理距離を取る。何とか離せたが、おかげで魔力が殆どなくなってしまった。
これから先、無駄にする魔力は残されていない。
やるしかないか…。
「来い!」
「ウガアアアア!!」
挑発を受け、奴が勢いよく突っ込んでくる。
「炎爆」
俺と奴の間に魔法を放つ。炎が爆発し、爆風と炎が周囲を襲う。
「ちっ!」
「ガアッ!?」
二人の体が吹き飛び、大きく距離が開いた。奴もまさか、自分を巻き込んで魔法を放つとは思わなかったのだろう。爆風に身を任せるように後ろへ跳んだ俺よりも、突っ込んできた奴の方がダメージが大きい。
ボロボロの体に鞭を打って立ち上がる。
「…風の刃」
首を切断するように風の刃を放つ。首が胴体から離れ、俺達の戦いに決着がついた。
「魔力を回復させないと…」
地面へと仰向けに倒れ、魔力を回復させることに努めた。
ササリア視点
「ニードルショット!」
私が放った矢がデザートスコーピオンを捉える。だが奴の甲殻は硬く、少し凹む程度しかダメージを与えられない。
「今のスキル、一番貫通力のあるものなんだけど…」
与えられたダメージの少なさに辟易しながらも、長老様から離すために森の中へと走る。足は遅いので、時々振り返って注意を引き付けるために矢を撃つだけでいい。
大きな体に硬い甲殻を生かし、木々を薙ぎ倒しながら一直線に進んできた。あまり離れようとするとかなり森を痛めることになるため、近くの広場で止まる。
子供が遊ぶために作られた広場だ。現在は里から出ないようにと言われているため、今はここに誰もいない。走り回って戦うには丁度いい場所だった。
「キリリリ」
魔物が声を上げる。
「炎の刃。やっぱり駄目か…」
私が放った刃が頭に当たるが、傷を付けることもなく火傷一つ負わない。硬いだけでなく魔法耐性も高いのだ。長老様が私にデザートスコーピオンを任せたのは、魔法では倒すのが難しいからである。唯一倒せる可能性があるのは私の弓だ。
と言っても、まだ少し甲殻を凹ませた程度なのだが…。
「連射!!」
魔法の矢を放つと、一度に五本の矢が放たれる。
キンと小気味良い音が連続で五回響く。全ての矢が弾かれ、魔力でできた矢が霧散した。
「キリリィ」
魔物が尖った尾を振り回し、攻撃を繰り返す。全て回避するが、風圧が私の体を何度も浮かした。次は私のとっておきだ。
「ニードルショット! 連射!」
二つのスキルの組み合わせである。ニードルショットを、連射で同じ場所に五発放つ。尾を振り終え、態勢を立て直そうとした魔物の横腹に突き刺さった。
「キリィ!?」
少しよろめくが、すぐにこちらへと向き直る。矢は刺さっているが、体内にまで深く刺さってる様子はない。甲殻を貫通しただけで全ての勢いを失ったのであろう。
刺さった矢が少し気になるようで、こちらへ向いていた注意が散漫となっている。チャンスとも取れるが、それだけ今の一撃が脅威と感じなかったということだ。
「それなら。ニードルショット! 連射! 曲射!」
今度は三つのスキルの組み合わせである。初めての試みだったが、どうやら上手くいったようだ。計十発の魔法の矢がデザートスコーピオンの顔目掛けて飛んで行く。
「キリリリ!」
魔物が右側の鋏で矢を防ぐと、鋏が上へと弾かれる。それと共に、一瞬ではあるが魔物の体が浮いた。矢が刺さった箇所からは、緑色の血が少し流れている。
ようやくまともなダメージを与えられた。しかし、この程度ではあと何回撃たないといけないのかわからない。
いくら魔法より魔力を消耗しないといっても、流石にそこまで魔力はもたない。
「キリリィィィ!!」
デザートスコーピオンが何度も鋏や尾を繰り出してくる。周囲が無茶苦茶になってしまうが、私には一度も当たらない。私の速さにあの魔物はついてこれない。矢を得意とする私は、身体能力も他の者より比較的高い。
「ニードルショット! 連射! 曲射!」
計三十発の矢が、デザートスコーピオンを襲う。左右の鋏へと同時に十発ずつ矢が命中し、その衝撃で完全に体の前側が跳ね上がる。
甲殻の薄い腹部が晒し出された。デザートスコーピオンの弱点である。
「終わった…」
私が呟くと同時に、残りの十発が弱点である腹部へと突き刺さった。
「キィィィイ!」
数本の矢が深く突き刺さり、魔物の肉を抉る。暴れた衝撃でひっくり返った。暴れた衝撃で腹部から血を吹き出す。
デザートスコーピオンの体が血で緑色に染まった頃、ようやく動きを止めた。
「魔力が心許ないな…」
その頃には、すでに長老様の下へと歩みを進めていた。




