第十九話 結界術師、魔王軍幹部と戦う
第一章 エルフの里
第十九話 結界術師、魔王軍幹部と戦う
現在魔王軍との戦闘のために会議が行われている。歓迎会の翌日だ。会議に参加しているのは長老と年長者、それとカリアである。俺は参加していない。
あまり人数がいても仕方がないし、カリアが俺達の代表ということになったのだ。エルフの中でも未だに俺のことを嫌っている者が若干一名いるため、彼女が参加した方がいい。
「せいっ! やあっ!」
家の前でサーシャの声が響く。様子を見に行くと、彼女は鉄の棒を一生懸命に振っていた。汗が陽光に照らされてキラキラと輝いている。
本人は真剣な様子だが、棒の重さに振り回されていた。その様子がまた微笑ましい。
「むぅ…。どうして笑っているのですか?」
「わるい。だが、無茶はするなよ。もう少し軽いものじゃないと体を痛めるだけだぞ」
注意をしつつ鉄の棒を取り上げる。取り上げられた彼女は不満そうな表情を見せたが、実際に扱い入れてなかったので納得してくれた。
サーシャは俺達が精霊のダンジョンから帰って来てから、毎朝剣の練習として素振りをしている。最近置いて行かれることが多かったため、自分も戦えるようになりたいそうだ。
彼女はまだ幼いので天職を授かることができない。そのため、剣に向いているのかわからなかった。天職を授かり、魔術師系の職業になってしまっては意味がなくなってしまう。だが、逆に言えば魔術師系の天職だったとしても授かる前ならばある程度剣の腕を上げることができる。
そこが天職の短所であった。職業に関する能力は恩恵を得られるが、それ以外の能力に関しては伸び難くなったり職業によっては一切なくなるなんてこともある。反対に天職を得なければ自分が使いたい能力を上げることができるが、どれだけ頑張っても天職の者には遠く及ばないものとなる。
俺はレベルが高いために剣で戦えているが、それでもせいぜいDランク冒険者戦士系の職業と剣で戦って何とか互角に持ち込めるレベルだ。
つまり彼女が今からどれだけ頑張ってもその程度までしか上がらず、天職によっては身体能力が低下してしまうために剣が扱えなくなってしまう。
彼女はそれを理解してなお、今戦えることを選んだのだ。俺は彼女の意思を尊重し、時々鍛錬に付き合ったりもしている。
だが、それでも無理はしてほしくない。強くなるために焦っているようで、今みたいな無茶をすることもあるのだ。その都度俺やカリアが止めに入っている。これが戦士系の天職を授かった者なら、剣を握ったことがない者でも振るえるだけの筋力を得られたりするのだ。
「今日の食料です」
狩猟を終えたエルフが野草や肉を持って訪ねて来る。小屋生活を終えて以降、こうして俺達にも採ってきた食料が配られるようになった。
「ご苦労」
「カリア様、お疲れ様です」
「お疲れ~」
「カリア様は止めてくれ」
食料を受け取っていると会議を終えたカリアがやってきた。エルフからの様付けを拒否し、視線で話があると伝えてくる。
俺が家に入ると、彼女も後ろからやってきた。
「会議の結果を報告する。二日後に幹部が潜む洞窟へと攻め入る」
二日後とはまた急だな…。時間を置けば置くほど、サイレントアント等の魔物による被害が出る可能性が増える。そのため早く作戦を決行するのだろう。
「メンバーは私とクロウ、他に上級魔法を使える八人のエルフで少数精鋭で行う」
勿論長老も参加する。人数を集めて安全に攻め入る案も出たようだが、里も守らないといけないため、広い範囲を守らないといけない里に人数を置くことが決まったようだ。
「私達二人は幹部と戦うことになった。ただし、倒さなくてもいいらしい。他の魔物を殲滅するまでの時間を稼いでほしいそうだ」
一番里に影響が出る魔物達の方を優先して倒してしまう作戦らしい。倒さなくても時間を稼げればいいため、二人で戦うこととなったのだろう。
だが、こちらも一言だけ言わせてもらおう。
「スラウは必ず倒すぞ」
「ははっ。クロウならそう言うと思った。私としても親玉を倒した方がいいと思う」
笑みを浮かべ、彼女が俺へと頷いた。
「お主達は幹部を連れ出してくれ」
「わかっている」
俺達十人は現在、ダンジョンの近くまで来ていた。これからスラウと俺達は戦うこととなるが、他の魔物と分断しなければならない。
今は茂みに隠れているが、あまり長くは隠れられないだろう。
「他の魔物は出てくるが、あいつが出てこないな…」
スラウを誘き寄せるために出てくるのを待っているが、なかなか出てきてくれない。ただ洞窟に突っ込んでも、他の魔物に邪魔されるだけだろう。
見つかりそうになった場合だけ、その魔物を倒していく。煩かった二人組の女の方。ササリアという名の彼女が弓の腕も立つようで、彼女が弓で遠距離から仕留めていた。
殆どのエルフは上級職になる時、森の守り人を選ぶ。これはエルフのみがなることができる上級職で魔法に関して恩恵を得られるが、回復魔法が特に恩恵を得られる職業である。また、弓の扱いに関してもある程度恩恵が得られる。
上級攻撃魔法を扱える者は魔法優先で鍛錬をしている者が多いが、ササリアに関しては魔法より弓の方が得意という稀有な存在だった。その上で上級攻撃魔法も扱えて精鋭メンバーに選ばれているため、彼女の実力が相当高いのがわかる。
「何かあったのか…」
スラウがようやく洞窟から現れた。魔物の一部が帰って来ないことに気が付いたのだろう。
「氷の刃。後は頼んだぞ」
「何だ!?」
長老が氷の中級魔法を発動し、他のエルフと共に離脱する。同時に、魔法に気付いた鎧がこちらへと視線を向けた。魔法をものともせずにこちらへと突っ込んでくる。
スラウがこちらに到達した頃には、すでに長老達は遠回りして洞窟へと向かっていた。
「また貴様か」
俺のことを倒せなかったのを覚えていたのだろう。嫌そうな雰囲気を醸し出しながらも大剣を構える。俺の前に剣を構えたカリアが出た。
「行くぞ! 炎付与!」
炎を剣に宿して彼女が突っ込む。スラウの横払いを結界で阻み、その隙をついて銅を薙ぐ。彼女の一撃で鎧が少し削れた。
「硬すぎる」
彼女の額に汗が伝う。だが諦めた様子は微塵もない。
「まだまだ!!」
俺が結界を張り、彼女が剣を振るう。同じ展開ではスラウも対応してくるため、時にはカリア自身が大剣を避けたり結界で鎧の腕や足の妨害も組み合わせていく。
「その程度か?」
「はあ…はあ…」
数十回とスラウを斬っているが、未だに殆ど削れていない。こちらは一度も攻撃を受けていないが、常に動き回っているカリアは疲労が溜まっていた。
このままではこちらがジリ貧になってしまう。
「まだだ!!!」
炎を強めてさらに攻撃の手数を増やしていく。限界が近いはずなのに、全くそのような気配を見せることはない。
だが、どれだけ彼女が頑張ろうとも鎧の表面を削ることしかできなかった。
「カリア!」
彼女の体は疲労がすでにピークに達しているのか、少し動きが遅れる。そこをつかれて大剣が彼女の体を掠める。
「…大丈夫だ」
体を吹き飛ばされて地面を転がり、体がボロボロになりながらも立ち上がる。
「俺様の剣を受けてよくここまで持ったものだ。だが、気丈に振る舞ってはいるがすでに貴様は限界だろう」
「クロウ…次が最後の一撃だ。この一撃に全てを込める。倒せなかったら後は任せたぞ…」
本当に体中から全ての魔力を集めたように、今までで一番大きな炎が剣から溢れる。
「任された。最高の一撃を叩き込んでやれ!」
俺も最高のサポートをできるように構える。
「行くぞ!」
彼女がスラウに向かって姿勢を低くしながら走り出す。それに合わせて奴が大剣を大きく振り上げた。
「半月」
スラウが大剣を横薙ぎに振るうと、半円状に地面が抉れる。しかしそこにカリアはいない。
「何だと!?」
「三連撃!」
「うおおおぉぉぉぉぉ!!!」
俺の結界を足場にして跳んだ彼女は、鎧の胸元に向かって空中で三連撃を放つ。彼女の剣が瞬時に三度閃き、その中心で炎が収縮し爆発したように弾ける。
「おっと!」
爆発で彼女の体が飛び、こちらに飛んできた彼女を咄嗟に受け止める。本当に限界のようで、立とうとするも力が入っていない。彼女の体を地面に横たえる。
スラウはあの一撃を受け、まだ生きていた。咄嗟に大剣を戻して防いだようで、掲げた剣が半ばから断たれている。鎧にも大きな傷が付いているが、倒すまでのダメージは与えられていない。
「ここからは俺の番だ」
俺は彼女を残し、スラウの下に歩いて行く。




