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第十七話 結界術師、精霊のダンジョンを攻略する

                            第一章 エルフの里

                    第十七話 結界術師、精霊のダンジョンを攻略する



 地下三階へと歩みを進める。二階にいた停止したアルラウネ型のミスリルの人形から、ミスリルを回収しておいた。ミスリルは希少な鉱石なので何かに使えるだろう。

 二階にミスリルの人形がいたため、三階にはミスリルの人形が出てくる可能性があるかも最悪の想像をしてしまったが、それはどうやら杞憂だったようだ。


「鉄人形と土人形がいるな」


 この階層には二種類の人形が混じっていた。一階は土人形と鉄人形、二階は鉄人形と守護者としてミスリルの人形がいたため、どちらかと言えば簡単になった印象である。だが二階層に罠があったように、人形以外の障害がある可能性もあった。


「あまり手応えがない」


 カリアが周囲を警戒しながらも呟く。この階層にも罠があるが、二階層にあったものとそう変わらない。人形が弱くなったことを考えると明らかに難易度は下がっている。

 突然難易度が下がったのが気になった。ここの階層の守護者がどれほどの強さなのか考えるだけでも気が滅入る。

 順調に進み、そろそろ階層の守護者がいる部屋だろうといったところで異変が起きた。


「来たか…」


 彼女が剣を抜き、辺りを見回す。俺も警戒するが、特に何かが起こる訳ではない。ただ、周囲で強い魔力が渦巻いている。

 やがて魔力が一か所に集まり、それが形を作っていく。カリアが剣を構え、俺も念のために剣を抜いた。


「ようこそお出で下さいました」


 現れたのは拳大の精霊だった。大きさはかなり小さいのに、魔力だけはとんでもない量を持っているのがわかる。魔力量だけでいえば勇者パーティーの賢者であるフレア以上だろう。

 俺もカリアも警戒は一切解かない。


「そう警戒しないで下さい。私はあなた方に危害を加えるつもりはありません」


 俺達の警戒を解こうとするようにそう言って笑みを浮かべた。普通に罠もあるこのダンジョンで、それだけで警戒を解く訳がない。

 だが、カリアはそれを聞いて剣を下ろした。彼女は精霊の言葉を信じたのだろう。

 エルフは元々神等より精霊を信奉している。そのため、彼等が言った言葉は信用に足るのだ。

 俺も仕方がないので剣を収める。


「それではついて来て下さい」

「何があるのだろうか?」

「ついて行くしかないだろう」

「そうだな。何かあった時はフォローを頼むぞ、クロウ」


 精霊がフワフワと飛んでく。彼女に頷き、俺達はそれを追いかけた。


「守護者の部屋か?」

「そう見えるな」


 精霊の後を追っていくと、大きな部屋に出た。一階層や二階層にあった守護者の部屋に似ている。そして部屋の中央には人間の子供程の大きさがある精霊がいた。見た目は長い髪を一本に結った女の子である。

 大きさだけでなく、魔力の量も拳大の精霊の三倍近くある。魔族がいた時代から存在すると言われているのは伊達ではない。魔族の殆どが討伐された世界の命運を賭けた戦争、世界大戦は力の強い種族が集まって行われた。

 魔族だけでなく、他の種族も存続の危機に陥るまで死んだ。そのため、現代でその姿を見ることは殆どない。

 世界大戦は精霊以外にも天使や竜、獣の祖先である神獣がいた。他にも沢山の種族がいたが、主な戦力は伝説級と言われるこの四種族だ。

 俺達をここまで連れてきた精霊が彼女の下へ行き、そして吸収された。

 呆気にとられる中、精霊が苦笑を浮かべる。


「先ほどの者は私が生み出した分霊と呼ばれる存在です。本当の精霊は、あのように魔力だけで体ができているわけではありませんよ」


 確かに拳大の精霊は魔力が集まって生まれたように見えた。つまり自分の魔力だけでフレアほどの魔力を持った分霊を作れるのだ。これが伝説級と呼ばれる種族の力の一端である。


「精霊様、私達は何故この場に呼ばれたのでしょうか?」


 カリアが跪き、彼女に尋ねる。


「たった二人で守護者を倒したあなた達の力を見せてもらおうと思いまして」

「流石に精霊相手では戦いにならないだろ…」

「精霊様…それは流石に…」

「私が相手ではありませんよ。力が見たいのです。私が戦ってしまっては、力を見る前に終わってしまうでしょう?」


 俺達の呆れを含んだ言葉に、笑みを浮かべて答えた。明らかにこちらを見下した物言いだが、その声には侮蔑等は一切含まれていない。彼女にとって人間やエルフ相手では当然のことなのだろう。実際に力の差は歴然である。

 彼女は指先に魔力を集め、それを地面に落とす。すると魔力が人の形を作り、それが動き出した。


「こんな魔法見たことない…」

「魔力でできた人形か…」


 魔法人形ゴーレムを作成する魔法は人形師が使えるが、魔力で人形を作るのは聞いたことがない。過去に失われた魔法なのだろう。記録が残っていたとしても、魔力が足りずに誰も使えないだろうが…。


「あなた達にはこれと戦ってもらいます」


 彼女がそう言うと人形が構え、手の形状を刃状へと変化させる。


「何をしてくるかわからない。気を付けろ」

「わかっている。サポートは任せたぞ!」


 カリアが距離を取りながら剣を構える。まずは様子見だ。俺の方もいつでも結界が張れるよう人形に意識を集中させた。

 人形がカリアに向かって走り出す。


風付与ウィンドエンチャント


 彼女は迎え撃つようにその場に足を止め、剣に風を纏わせる。人形が刃を振るい、それをいつものように俺が結界で受け止めるが、半分ほど刃が減り込んだ。

 減り込んだと見るや彼女は跳び上がり、空中で首を狙って剣を振るう。


「受け止めますか」

「くっ!」

「自在に変えられるのかよ…」


 彼女の剣はもう片手を刃にした人形に弾かれた。精霊が表情を一瞬変え、カリアが苦しげな表情を浮かべる。俺の結界が簡単に振るわれた一撃で破壊された。普通に結界を張っていては全て破壊されるだろう。


「わるい。簡単に破壊されるとは…」

「いや、助かった。破壊されるとしても、一瞬攻撃の速度が落ちる。その一瞬でも回避できるかが変わってくるからな」


 そう言いながら笑う。だが、一切人形から目を離さない。すると、人形が突然刃の先をカリアに向ける。嫌な予感がして慌てて結界を張った。


「間に合えっ!!」


 刃の先からビームのように直接魔力を放つ。俺の張った結界が即座に貫かれ、急いで何度も張り直す。少しは時間を稼げるが、彼女に到達するまでに数秒持たすのが限界だった。

 だが、その僅かな時間を彼女は有効に使う。射線から外れるように横へ跳ぶ。


聖槍剣ジャベリンソード!」


 空中で人形へ向けて剣を突き出す。人形も彼女のように横へ跳んだ。彼女の剣は人形の左腕を貫き、さらに風の力で切り落とす。

 切り落とされた左腕は魔力の残滓を残して霧散する。だが、人形は魔力の塊だ。すぐにその左腕を修復させる。

 こちらは無傷とはいかず、避けきれなかったビームによって彼女の腕から血が滴っていた。掠っただけのようで大した傷ではないが、少しでも遅れていたら右腕が吹き飛んでいただろう。

 そこからは一進一退の攻防が続いた。ビームは直接魔力を放つため、魔力の消費が大きいのだろう。あれから一回も使われることがなかった。しかし、いつビームが飛んでくるかわからない以上気を抜く訳にはいかない。

 人形自体もかなり強いため、少しのミスが命取りになってしまう。向こうは魔力を気にして戦っているが、こちらも魔力を無駄にできるほど多い訳ではない。

 俺もカリアも口を開く余裕すらなかった。無言で彼女と連携を取り、攻防を繰り広げていく。ここに来るまでに信頼を築けていなければ、人形の攻撃に対処しきれなかっただろう。


「しまった!」


 疲労が溜まってきたのか、カリアの足がもつれ体勢が崩れる。彼女は流石であり、すぐに体勢を立て直す。だが、その一瞬すら人形は見逃してはくれない。すでにビームを放つ準備がなされている。

 このままではジリ貧だ。俺がビームを食い止めるしかないだろう。


「攻撃に集中してくれ!」


 俺の言葉に彼女は一瞬驚きの表情を見せるが、すぐに覚悟を決めた表情に変わった。


「頼む! もってくれ!」


 俺の結界と人形のビームが衝突する。…が、俺の結界が壊れることはなかった。

 ビームが彼女の背後へと流れていく。結界は三角錐のような形状となっており、ビームを受け流していた。

 形状を変化させることにより、正面から受け止めるのではなく受け流す形にしたのだ。


「予想外です!」

「今だ!」


 俺の結界が完全に受け止めきり、ビームが止む。その様子を見た精霊の、感嘆の声が響く。

 ビームが止む頃には既にカリアは攻撃へと移っていた。彼女の剣が人形の首を刎ねる。頭が空中を飛び、体が地面に倒れこんだ。


「よし!」

「勝った!」

「見事です」


 二人同時に声を上げ、無意識にハイタッチする。倒れた人形を見て精霊が嬉しそうな声を上げた。彼女が指を動かすと精霊の体が霧散し、頭から体が再生されたように現れる。サイズはかなり小さくなったが、人形が復活した。

 俺達は一瞬呆然としてしまい、動き始めるのが遅れてしまう。慌てて構え直す姿を見て、精霊は微笑みを浮かべた。


「大丈夫ですよ。力は十分に見させていただきましたから」


 その声と共に人形が霧散する。先ほどの人形が魔力の塊だったからこそ、頭だけでも再生ができたのであろう。核も魔力で作られていたため、精霊が操作して頭に残った魔力で核を作らせたのだ。

 油断をするなという彼女なりの助言だろう。


「精霊様、私達は精霊剣がほしいのですが…」

「ふむ…。何故精霊剣が必要なのですか?」


 二人でこのダンジョンに来た経緯を説明する。


「なるほど…。すみませんが、精霊剣を渡す訳にはいきません。この剣はダンジョンのにとって魔力の源なのです。あなた達に渡してしまっては、このダンジョンのギミックが作動しなくなってしまいます」

「俺達だって精霊剣を持って帰らないといけないんだ」

「突破した証ならこれを持って帰るといいでしょう」


 彼女は小石大の魔力を放り、それを魔法人形として生み出す。人形は俺の手のひらへと乗り、軽くお辞儀をした。


「僕がお母さんの代わりに、他のエルフに説明するよ」

「少ない魔力だからあまり長い時間動かないでしょうが、説明する時間はもつでしょう」


 こうして俺達は精霊剣を諦め、代わりとして魔力人形を持ち帰ることとなった。

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