第十六話 結界術師、地下二階の攻略を行う
第一章 エルフの里
第十六話 結界術師、地下二階の攻略を行う
魔法人形の群れが押し寄せる。殆どが土人形だが、鉄人形も混じっていた。狼型や人型、形容し難いものまでいる。
俺は自分とカリアに結界を張っていた。そのため、結界に阻まれて人形は俺達を攻撃できない。神殿跡地の時と同じ状況だ。
土人形同士がぶつかり合い、次々と壊れていく。ただ人形は核か頭が潰れない限り動くため、機能を停止させるものは少ない。
時間が経つ程に壊れた人形が増えていく。やはり鉄人形は他より硬いために壊れない。鉄人形にぶつかった土人形ばかりが壊れていった。
「こんなものか…」
数が減り、そろそろぶつかり合うことがなくなってきた。命令通りに動いていた魔物と違い、人形は命令をこなすために動く。
今までは数が多すぎて壊し合っていたが、十体近くになった今では互いの攻撃が当たらないように動いていた。流石に連携までは取れていないが、攻撃し合わないなら結界に篭っていても意味がない。
結界を解く。小屋を出る前にカリアからもらっていた剣を抜く。
「鉄は任せる!」
「任された。炎付与」
向かってきた狼型の土人形へ、下から跳ね上げるように首へと剣を振るう。まずは一体倒した。
カリアは炎を纏わせた剣で鉄人形を切り裂いていた。かなりの威力があるようで、鉄が簡単に斬られていく。
後ろから突き出された槍を躱し、振り下ろされた斧を剣で受け止める。横から牙を向けて迫る狼型を蹴り飛ばす。
蹴った反動を用いて背後にいた剣を持った土人形を斬る。
「空間認識だったか? 全てを読んで動けるとは凄まじいな。私も欲しいものだ」
カリアが俺に羨望の視線を向けてきた。彼女のような戦士が空間認識を持っていたなら、それこそ強すぎるだろう。
彼女の周囲には鉄塊が転がっている。すでに五体の鉄人形を倒し終えていた。鉄人形は土人形よりも強いはずなのだが…。
「これで…」
横向きに振るわれた槍を弾き、狼型へとぶつける。狼型は槍と共に壊れ、槍を持っていた土人形が一瞬動きを止めた。
「「終わりだ!」」
土人形の首を剣を一閃して刎ねる。それと共に背後から斧を振るおうとしていた土人形がカリアに倒された。
「あれだけいたのに殆ど同士討ちとは呆気ないな」
彼女がポツリと呟く。百近い人形全てを相手にしていては疲れるだけだ。無傷ともいかないし、体力だって消耗する。
これが一番効率がいい。ある程度知能のある者が相手だと通用しないだろうが…。
彼女は今まで剣術で全てを倒していたので、初めて魔法戦士の戦い方を見た。魔法を付与して戦うことは知っていたが、実際に炎を纏わせて戦っている姿は、まるで剣ではなく炎そのものを振るっているようだった。
「今の様子を見る限り、二階には鉄人形以上がいるだろう」
彼女の言葉に頷く。ダンジョンは基本的に下の階層に行く程強い魔物が現れるため、この階層に鉄人形がいたということはそういうことだ。
「攻撃は任せた」
つまり俺はこの先、攻撃面では役に立てないということだ。俺の剣では鉄人形は斬れない。彼女が斬れない程硬い敵が出てきた時点で俺達は詰みだ。
階段を下り二階へと向かうと、やはり鉄人形がいた。
「一体ならば…」
剣を持った鉄人形がこちらに気付いた時には、すでに彼女は剣の間合いへと入っている。
「はあっ!」
気合を入れた一閃。剣を振り上げた鉄人形の頭が落ちた。
「流石だな…」
「この程度は特別凄くはない」
俺の呟きが聞こえたのか、彼女は謙遜の言葉を述べる。エルフ特有の尖った耳がピクピクと動いていた。褒められたことが嬉しいのだろうか?
俺が見ていることに気付いた彼女は、少し頬を赤く染めて顔を隠すように背を向ける。
彼女は謙遜していたが、魔法を使っていなかった。つまり、ただの鉄の剣で魔法で強化された鉄を斬ったのだ。剣の技術が本当に優れていないと成せる業ではない。
上級職であるということがどういう意味なのか、改めて認識させられた。
流石に鉄人形数体の場合は魔法を使わないといけないようで、数がいた場合はできるだけ戦闘を回避することとなった。雑魚戦の度に魔法を使っていては魔力が勿体ないからだ。
戦闘になったとしても俺が結界でサポートすることにより、彼女が魔法を使わなくてはいけない状況を減らす。
彼女が前を歩いていると、一瞬だが足元から魔力の流れを感じた。
「えっ!?」
彼女の手を握って咄嗟に後ろへと跳ぶ。突然手を引かれた彼女はこちらへと倒れ、跳んだ姿勢の俺へと向かってきた。
「ごほっ」
「すまない!」
二人とも後ろに倒れ、彼女の額が俺の胸を打つ。彼女は慌てて謝り顔を上げる。
彼女と視線が合う。
「あう…えっと…その」
俺の顔が近かったためか彼女は耳の先まで顔を赤く染め、俺の上で狼狽し始めた。仕方がないことだったとはいえ、そこまで恥ずかしがられるとは…。彼女の慌てた様子を見ていたら顔が熱くなってきた。
「取り敢えず下りてくれないか?」
「すみませんでした!!」
平静を装って俺が言うと、彼女は飛び上がるような勢いで立ち上がった。まだ少し慌てている彼女を大丈夫だと宥める。
「何だこれは?」
二人で先ほどまでいた場所を見ると、穴が開いていた。
「助けていただいてありがとうございます」
穴の中はかなり深く、底には針のようなものが無数にある。落ちていたら串刺しとなっていただろう。結界を張れば助かっただろうが、落下の衝撃で重傷を負っていたに違いない。
そこからは人形以外に罠にも注意が必要となった。そのため、進行速度が遅くなってしまう。その分人形に出会う確率が高くなってしまうが、罠に嵌るよりかはいいだろう。
奥へ進んでいくと鉄の扉があった。明らかにこの先に何かがあるのがわかる。罠なのか階段なのか…。はたまたボスがいるという可能性もあった。
「俺が行く」
いつでも結界を張って対処できるように、慎重に扉を開けていく。
開けた扉から中へと目を向ける。中には床に魔法陣が描かれているだけだった。中へと入らないと発動しないため、何があるのか分からない。
魔法陣の近くに結界を張ってみる。だが結界には反応せず、魔法陣は発動しなかった。
「駄目か…」
諦め、意を決して中へと入る。俺が入るとカリアも一緒に来た。
「気をつけろ」
魔法陣に魔力の反応が現れ始める。そして、発動しようと魔法陣が光り輝いた。魔法陣から銀色の人形が現れる。
「あれは…ミスリル?」
カリアが呆然と呟く。ミスリル鉱石はかなりの価値がある代物だ。鉄よりも強度があり、魔法耐性も高い。そのため、高価な武器や防具に用いられる。
エルフがこのダンジョンを突破できないのはこいつが原因だろう。魔術師にとってミスリルは相性が悪い。
下半身は触手、上半身は人のような姿のそれはアルラウネと呼ばれる魔物に酷似している。
アルラウネは植物の魔物で、上半身は人で下半身は根となっている。根を触手のように器用に動かし、時には鞭のように振るう。
この人形も姿形はアルラウネそっくりなので、同じような動きをするのだろう。
「炎付与」
カリアが剣に炎を纏わせて走り出す。人形が触手を鞭のように振るうが、彼女は一切見もせずに走った。俺が結界で防ぐと信じているのだ。
触手が結界を打ち、弾かれた。その勢いを利用して、カリアから距離を取ろうと跳び上がる。だが、その程度で距離を離せる存在ではない。
空中で剣を振るい、アルラウネの首を刎ねようとする。だが、剣が首に当たると弾かれた。
「流石に硬い…」
空中で回転して地面に着地する。そのまま一旦距離を取った。
「空中だと力を入れ難い。クロウ頼む」
俺に視線を向けてきたので任せろと頷く。
「次は斬る」
宣言と共に剣に纏わせた炎を強める。
人形が触手を曲げ、カリアへと向けて跳ぼうとしていた。結界でそれを阻止する。
ガンという音を立てて頭から結界に激突する。普通の魔物なら一瞬怯むので隙となるが、人形は怯まずに動く。
俺が全ての触手を防ぐ中、カリアは人形へと進んでいった。
先ほどの一回で移動を阻害されるのは理解しているのだろう。彼女の歩みを止めようと攻撃を重ねていく。
やがて、人形の前に彼女が辿り着いた。
「はあっ!」
気合と共に放たれた一閃は、人形の首を断とうと炎を噴き上げる。人形が咄嗟に触手を戻し、盾として眼前に構えた。
剣は触手を断ち、人形の首へと迫った。だがそこで勢いが衰え、首を切断するまでには至らない。
「まだだ…聖槍剣」
彼女が腕を引き絞り、剣を槍のように突き出す。その炎を纏った一撃は人形の頭を貫き、後ろの壁に突き刺さった。
頭を破壊された人形が動きを止める。
「ふう。終わった」
彼女が息を吐き、剣を鞘へと戻す。それと同時に壁が動き始め、地下三階への階段へと続く道が現れたのだった。




