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第十四話 結界術師、エルフの里を知る

                              第一章 エルフの里

                       第十四話 結界術師、エルフの里で生活する



 エルフの里の端、入り口近くにある物置としていた小屋を整理して住まわせてもらうこととなった。自然を愛するエルフだけあって、建物は全て土の強度を魔法で強化したもので作成されている。そこに木材は一切使われていなかった。


「寝る時は外で見張りをしているから、ゆっくりと休んでくれ」


 彼女は俺達を助けてけてくれたエルフの女性で、名はカリア・イスランというらしい。カリアは俺達のと監視であり、同じ小屋に住むこととなった。


「結界を張るから大丈夫だ」


 俺の職業を説明し、見張りの必要がないことを伝える。彼女は俺の家族とは違い、軽く説明しただけで信じてくれた。


「カリさんはどうして私達を助けてくれたの?」


 サーシャが尋ねる。他のエルフとは反応が違うため、単純に疑問に思ったのだろう。


「私は元々この里の生まれではない。エルフということを隠して生きていたのだ。大きくなってからは他の亜人の者と一緒に冒険者をやっていたことがあるんだ。と言っても相方が冒険者であって、私は冒険者見習いとしていただけなのだが…」


 カリアが遠い目になる。昔のことを思い出しているのだろう。


「外で色々な人間を見ているから、人間という種族に全体を嫌っている訳ではないんだよ。それに亜人であるサーシャが幸せそうにしているから、クロウが悪人じゃないのもわかる」


 エルフは元々弓や魔法を扱うことに適しているため、狩人や魔術師系の職業の者が殆どである。相方の冒険者に剣術を教えてもらっていたため、彼女は里で唯一の前衛職だ。

 彼女の職業は魔法戦士という戦士系の上級職である。この職業は、戦士系の中でも魔法の才能を持っている者だけがなることができる職業だ。

 戦士系になる者は身体能力に秀でているが、基本的に魔法の才能がない人の方が多い。そのため特殊職ほどではないが、希少な存在である。


「里のことを考えても、クロウのような戦力となる者に助けを求めない理由は私にはなかった。助けてもらう側なのに申し訳ないが、全てにおいて信頼している訳ではない。なので監視も本当に行っているから、妙な行動は控えてもらえると助かる」


 逆に出会ったばかりの俺を信頼して、一切疑っていないと言われる方が困るというものだ。里の者が嫌悪感を抱いていることを考えると、彼女に真剣に監視をしてもらった方がお互いのためにもなる。

 小屋はエルフの里の入り口近くにあるため、森に出て行くエルフを見かけることがあった。彼等は野草等を採り、野生の獣を狩って戻ってくる。

 人間たちの間では肉を食べないと言われているエルフだったが、実際は生きるために食べているようだ。しかし肉が好きという訳ではないらしく、一頭だけ狩って里の皆で分け合っている。

 皆一様に武装をして出て行く。戻って来た時には怪我を負っている者もいるので、魔物と遭遇して戦っていたことがわかる。エルフであっても長老達のように上級魔法を使える者は少ないらしく、魔王軍の幹部である死者の鎧(リビングアーマー)のスラウがいる洞窟へ行く時以外は、里に篭っているようだ。


「そろそろ行くか」

「はぁ~い」


 カリアの声にサーシャが元気に応える。料理はカリアがしてくれるが、食事を採って来なくては料理を作るための食料がない。

 そのため、狩りに出かける必要があるのだ。役割はすでに決めてある。この里に長く住み狩猟に慣れているカリアが獣を狩り、サーシャが野草の採取を行い、俺が見張りを行う。

 魔法戦士であるカリアはそうそう魔物に後れを取らないため、強力な魔物が出てこない限り俺は役立たずだろう。サーシャの護衛は必要だが、それも彼女がいれば問題ない。


「俺は結局何もすることがなかったな…」


 途中でコボルトが数匹襲ってきたが、全てカリアの剣で斬り伏せられた。俺は一度も結界を使うことがなかったため、サーシャと共に荷物持ちをしていた。

 俺達が小屋に帰ると、里の中では騒ぎが起こっている。何事かと思うが、俺達が里の中に入ると別の問題が生まれるため話を聞きに行くこともできない。面倒ごとにわざわざ首を突っ込む気もないが、情報があれば回避できるかもしれない。


「誰かが報告に来るのを待つしかあるまい」


 カリアに視線を向けるが、彼女はそう言って困ったような表情を浮かべただけだった。


 夕食を食べ、寝る準備も終えていざベッドに入るとカリアが寝ている方からごそごそと動く音が聞こえてきた。落ち着かないようで、ベッドの上でずっとそわそわとしている。

 騒ぎの内容が気になって眠れないようだ。誰も連絡をしに来なかったので、何があったのかは結局分からず仕舞いである。せめて彼女には伝えてあげたらよいと思うが、誰も俺達が…いや人間である俺がいる小屋には近付きたくないのだろう。

 カリアは俺達を助けてくれた。そしてサーシャによくしてもらっており、彼女も懐いている。はっきり言ってエルフがどうなろうと知らないが、カリアは守りたいと思っていた。


「連絡がないということは、大したことではなかったんだろ」

「…そうだな。格好の悪いところを見せた。ありがとう」


 気休めにすらなったかはわからないが、俺の言葉に彼女は返事をする。そして礼を述べるとようやく大人しくなった。眠れた訳ではないようだが、少しは気分が回復したようだ。


「…肉?」


 俺とカリアの間、サーシャが寝ているベッドから小さな声と共にお腹の音が聞こえる。犬獣人である彼女にとって、小さい獣を一頭狩っただけでは肉が足りなかったようだ。成長期ということも関係しているのか…?

 カリアが食事の用意をしようと立ち上がるが、サーシャはベッドから動かない。

 すやすやと寝息が聞こえてくる。どうやらただの寝言だったようだ。


「ふふふっ」

「ははっ」


 俺と彼女の視線が合い、互いに笑いが零れる。その後完全に緊張がほぐれたのか、再びベッドに潜った彼女はすぐに眠りについた。

 サーシャのお手柄だった。彼女は寝ていただけなので覚えていないだろうが…。


 翌日、再び狩りに来ていた俺とカリアは互いに示し合わせたように大きな獣を探していた。サーシャにお腹一杯肉を食べてもらいたいと思ってのことだ。獣を見つけては視線を交わし、あれは小さいだろうと無視をして進む。

 昨夜のことを知らないサーシャは獣を見つけては騒ぎ、俺達が狩らずに歩いて行くのを見ると不思議な顔をしていたが…。

 大きな獣に的を絞った結果、かなり遠くまで探すこととなる。おかげで、小屋に帰った時には夕暮れになっていた。


「ん? 何だ?」


 後ろを見るがそこには何もない。


「どうしたの?」


 サーシャが不思議そうに尋ねてくる。小屋の中に入ろうとしていたカリアも、突然立ち止まった俺に視線を向けていた。


「いや…」


 もう一度その場を注意して見る。やはり何もないが、空間認識ではそこに生物を認識していた。その生物を閉じ込めるように結界を展開する。


「なっ!?」

「えっ!?」


 カリアとサーシャの驚きの声が重なった。結界で囲まれた生物が突然姿を現したからだ。俺は空間認識で把握していたが、彼女達からしてみれば、突然そこに魔物が現れたように感じただろう。

 現れたのはゴブリン程の大きさがある蟻の魔物だった。


「…サイレントアント! そんな…まさか!」


 カリアはそう呟くと、すぐさま結界を解いた場所から蟻を斬る。そして血相変え、サイレントアントの死体を抱えて里の中へと駆けて行く。残された俺達は里の中へ入る訳にはいかないので、その場で立ち尽くすこととなった。

 サイレントアントという魔物は聞いたことがなかったが、同時に王都で聞いた事件を思い出す。

 王都内で起きた大量殺人事件だ。城下町内で起きた事件だったので人間か亜人が犯人だと思われていた。警備を増やしても怪しい者をなかなか見つけることができず、偶然見つけた冒険者と近くにいた兵士によって討伐されたという。

 犯人は魔物で見たこともないも種類だったため、確か無色の殺人鬼(クリアアサシン)と名付けられたと聞いた。宿屋のおばさんから聞いた情報なので詳細は知らないが、サイレントアントが無色の殺人鬼なのだろう。

 強さはEランク程度の魔物だが、隠密性能の高さでBランクの魔物となっていたはずだ。姿が見えず足音もしない他、性能の低い探知魔法程度ならすり抜ける。そのため、当時探知魔法を使っていた冒険者でも見つけることができなかったのだ。

 王都内には優秀な冒険者が沢山いる。それでも探知できなかったということは、殆どの冒険者の探知魔法に引っかからないということだ。隠密能力だけでBランクに認定されるだけはある。

 俺がそのようなことを考えていると、カリアが長老を連れて戻って来た。

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