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夢と未来の歩き方  作者: みやもり
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夢と未来に新しい希望を

 春が来た。春が来た、から始まる物語はたいていが青春ラブストーリー的な展開を見せるものだが、果たしてどうだろうか。この物語の主人公は、春だからと言って浮かれることもなければ落ち込むこともない、ごく普通の高校2年生だ。ことある事象に対して感情を揺さぶられにくいのも、だいたい高校2年生くらいだったりする。つまり難しいお年頃である。

 …そういった年頃の若者は、時に現実か夢想か区別のつかない体験をすることもある。

 大人になると、そんなことは忘れているか、夢だったのだろうと妙に納得してその型にはまった生活にいそしむことになるのだろう。

 せめて現代の大人の方よ、夢を忘れずに。時折、思い返してみてくださいと進言しておこう。



 朝起きると、すごく嫌な汗をかいていた。おそらく寝苦しかったのだろう。おそらくというのは寝ているときに何かしら夢を見ても朝起きると覚えていないためだ。ひとまずリビングに降りて朝食を食べる。

「今日から2年生ね。頑張りなさい。あ、夕ご飯は冷蔵庫の残り物を…」

 母親とテンプレートトークをしながら朝食を摂りおえ、家を出る。

「ほら悠、早くいくわよ」

 姉だ。姉は1学年違いで進学先も一緒だったので、登校も一緒だ。

「「いってきまーす」」

 東家のテンプレートな二人はテンプレートな玄関を出て、学校へ向かう。

 なんとも淡白な朝だが、現実的にはこんなもんだろう。

「そろそろ進路を決めないとなー」

「姉ちゃんなら勉強はそこそこできるんだし受かるところ多いだろ」

 姉はふふんと鼻を鳴らしながらも

「進学かー、かったるいなー。ずっと高校生がよいよなー」

 などとぐだぐだ言っているので、無視をすることにした。携帯を見ると、メールが入っていた。友人の怜からのようだ。

『今日からうちのクラスに転校生がくるらしいぞ!』

 興味ないなー、と思いつつも『楽しみだな。』とだけ返信しておいた。


 昇降口で姉と別れ、教室へ向かう。クラス替えなどないこの学び舎では、季節が変わろうと学年が変わろうと新鮮味の欠片もない。階が上がったのでより疲れるようになっただけだ。

「今年もよろしくなー悠ちゃーん。あ、メール見た?」

 先ほどのメールの送り主だ。

「お、怜。メール見たぞ。転校生だろ?大体返信しただろう」

「そうそう~って、ん?転校生?何の話だ?」

 おっと、メール主違ったか?とメールボックスを開いたが、該当のメール自体見当たらなかった。

「あれ、おかしいな。怜から朝メールが来てて、転校生が来るみたいなこと書いて…」

 と言いかけていると、携帯が鳴った。怜からだ。

「ん?『今日の午後はカラオケでも行こうぜ?』なんだ、今送ったの?」

「今送ってねーよー。朝登校中に送ったんだよ。メールセンターで止まってたんだろ!それより転校生ってマジなのですか?男?女の子?何ナノ教えてよ!」

 うるさい友達ですね…などと思いつつも、俺もお前から来たメールで知ったとも言い切っても話がややこしくなるだけなので、

「あ、たぶん転校生の件は寝てるときに?みた?夢だったわたぶん」

 と言い逃れ切ることにした。続けて

「午後はカラオケに行くかー」


 この街には何もない。学区内の校数は少ないし、小学校、中学校など1校ずつあるのみだ。高校も受験とは名ばかりで、ほとんどの学生が地元からの付き合いになる。新鮮さもなければ、いやいや見なければならない顔だってある。海と山は確かに多いが、ビーチが有名でもなければハイキングや登山に向いた山があるわけでもなく、観光地としても乏しい。


 つまり、ド田舎である。


 街にある数少ない娯楽のカラオケ屋に、二人は向かっていた。

「しかし、この町は何もないよな」

 怜が言い飽きたと言わんばかりに吐くので

「この町には自然があるじゃないか。山も川も海もあるぞ」

 などと言い返しながら、カラオケ屋に到着した。

「お前たち、またさぼりか?」

 カラオケ屋のアルバイトの兄ちゃんが、およそ正しい接客態度とは言えない発言で出迎えた。

「遅刻数とか年度が替わってリセットされたしな?というかそもそも今日は初日だから半ドンだよ!」

「そういえばそうだな。ていうか半ドンとか古いな。とりあえずフリータイムで」

 はいよ、とアルバイトの兄ちゃんに通された部屋で、ひとまずカラオケに興じよう。


 夕方、声をからした二人は、カラオケ屋の外の自販機で飲み物を買い、歩いて帰宅路につく。

「そういえば今日なんか変なこと言ってたよな?転校生が来るんだって?」

 怜がそう聞く。

 多分夢だろうなー。そう思いつつ

「多分夢とごっちゃになってたと思うわ。朝のことだったし」

 なんだよーほんとに夢かよーてんこうせえーと怜が空に向かって嘆きながら

「でも転校生が来たらきっと楽しいよなー。絶対仲良くなりたい」

 とこぶしをぐっと握って、何やら意気揚々と帰っていった。


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