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HP17

作者: A_if

初投稿です。僕が音楽関係でタッグを組んでいるwind君が作った曲の小説版です。

5分~10分程度で読み切れるものになっています

HP17の紗代の叫びを、どうか読んでください。

HP17


1.平等

「平等な世界を目指して 」

そんなことを謳っている人が世界中のどこにでもいる。本当に意味があるのかもわからない戦いをしてるところでも平和を願う人がいるし、自分の環境だけ考えればいいものを、どこから湧いてきたかもわからない正義感でそう願っている人もいる。平等って、一体何を基準にそう言われてるんだろう。17歳の私は自分に問いかけた。数秒考えてみたけどなにも浮かばなかった。争いが無くなれば平等なの?身分の差が無くなれば平等なの?よくわからないよ。みんなと、同じように生活したい、生まれた環境が憎い、人を殺めてしまった、誰かが天国に旅立ってしまった。そんな人達が限りなく存在する中で、簡単に 平等 だなんて言わないで欲しい。発言の自由という平等を侵してるって気づくのは後1分後のこと。


2.紗代

珍しくベッドの横の小さいテレビを付けないで寝ることもせず、ちょこんと座っていた。

萩原紗代. 私の名前。たまたまテーブルに付けられたネームプレートが目に入った。ふと、自分の身体について考える。私は結核という病にかかっている。でもこの病気は今となっては簡単に治せるものじゃないのかな、私の家はそこまで裕福ではないけど病を鎮める薬くらい買うお金はあるはずなのに、どうして。他の患者さんはすぐ帰って行く、皆元気そうな顔になっている。私はもう2ヶ月間、この病室にいる。同い年くらいの子たちは2週間くらいで帰って行くのに。その度に私は、虚無感に襲われる。詩人のように、誰もいなくなった白いベッドを見つめている。死にたくないって感情が出てきたのは、つい最近から。このまま私だけ取り残されるの?なんで?どうして?治してよ、世界を平等にしたい人たち。本当に平等にしたいって思ってるなら、病院が無くなるまで皆健康にしてよ、不死の薬を作ってよ、争いごとを無くしてよ! そんなことを頭の中で回転させた。だんだんと我に返っていく時は最悪の感覚だった。意味無い叫びだ。私は結局皆と変わらない、人間だった。そう、人間なんだ。皆平等じゃないか、同じ人間じゃないか。そこで命が尽きても、人間だったことは変わらない。どれだけ酷いことをしても、人間という事実は曲がらない。私なりの平等の結論は、みんなおなじ人間 これしか出てこなかった。


3.変異

今日も天気がいい。カーテンを開けたら日差しが入ってくる気がする。だけど、それは思い違いだった。それは晴れている。快晴だ。でも、何故か雨が降っている。こんな日は初めてだ。ぼーっと、空を眺めていた。

「萩原さん、入りますよ」

先生の声が聞こえた。朝ごはんなら自分で取りにいくのに、全く、初めての事が多い朝だ。

「あなたの身体について、本当のことを知りたいですか」

「はい…?」

いきなりの事だった。少し怖い気もしたけど、ここは聞くべきとこだなと思った。

「教えてください。私の身体はどうして治らないのですか?結核ですよね?普通の」

「あなたは、まだ生きたい?」

「え・・・生きたいに、決まってます」

「それなら、かなりのダメージをあなたに与えることになるかもしれません」

「それでもいいです、はやく」

「あなたは今この瞬間、残りの命が削られています。止める方法はありません」

いや、誰が信じるか。一瞬笑い事にまでしようと思った。私がよく読む小説でも、初心者が書いた小説でもこんな急展開は見たことない。それにしても直球すぎる。

「なんでこんな事、今更言うんです?」

「止める事が出来ないなら、言わない方が楽かなって前から思ってました。その事については謝罪します。辛いことを知らずに朽ちていく方が、他の人間と平等で萩原さんにもいいかなって」

「・・・!なんでですか、皆すぐ平等、平等って。そんなことで平等は成り立ちません!辛いことを教えたくないから?責められたくないから逃げてるとしか思えません・・・もう今日は話しかけないでください。死ぬなら死ぬでいい。心の準備をさせてください」

すると、私の怒りを察したのか、先生は静かにドアを閉め、小さい足音を立てて去っていった。これでいい。私はもう誰とも話すことなく旅立っていくんだ。この先の世界はどうなってるのかな。このよく分からない病気。結核だって騙されていた病気にかかるまえにもよく考えてたことを思い出す。天国はあるのかとか転生はするのかとか。もう、遠足前の小学生みたいに、死後のことを考えていた。


4.期待

1週間、2週間、3週間、1ヶ月。時は止まることなく淡々と流れていった。ほとんど身体は動かない。ぶつけたら飛んできそうなくらい脆い。怖い。今になって臆病になっている。4月、か。いいな。皆、どんなクラスになったんだろう。転校生は来たのかな?そうだ、文芸部はどうなったんだろう。部誌、ちゃんと出せてるかな。新入部員は来たのかな。・・・あれ?なんでこんなこと考えてるんだろう。私はもう死ぬだけだから。それを待つだけなのに。楽しみなことが、増えちゃったよ。ごめんね、皆。結核ってうつるから、お見舞いはダメって言われてたけど、本当は違うんだ。最後に会いたかったな。昔からの親友だった子。私の、憧れの先輩。

「なんでなの・・・!」

私は泣き崩れた。今になって生きたくなった。

「誰か時間を止められるなら、私を助けて・・・私は生きたいの。ごめんなさい、生きることを諦めたりなんかして。許してくだ・・・さい。もう・・・辛いのは嫌だ」

誰もいない病室で、私の弱々しい声がこだました。


5.残量

首を起こすと、痛みが走る。大変だ。命はあったとしても、もうみんなと楽しく遊んだりは出来ないのかな。今日は火曜日。3年生は体育館が使える日か。私はカレンダーを見た。そうだ、本当に手が使えなくなる前に、バラエティでも見ておこう。いつもニュースしか見ないからね。私はリモコンのボタンを押した。そこにはありえない文字列が浮かんでいた。

「え?4月13日月曜日?」

嘘だ。昨日もこれだ。明日の天気予報、晴れだっていうのもしっかり昨日の記憶と同じだ。不気味だ。私は怖くなった。既に死というものに恐怖を感じているんだけど。今日はもう、目を覚ますのをやめた。

次の日の朝。やっぱり今日は13日らしい。毎日寝続けていれば、いつか14日になるだろう、私は単純に考えた。2日目までは思いつかなかった。時間がループする物語ならお決まりなのに。このループの 期限 に。

次の日の朝。何故か私の脳内に「17-3= 」が浮かんでいる。答えはなんとなく出さない方がいい気がした。今日も寝よう。寝たら来る明日は、どうせ今日なのだから。

やっぱり今日の日付けは13日。

「・・・ん」

頭の中の計算を無意識に解いてしまった。17-3=14 そして新たに「17-4= 」が現れた。

部活で小説を書いていた私は、その意味にすぐ気づいた。17日。それが限られた期限なんだ。17という数字が0になれば、きっと私の命は終わってしまう。何かその間に行動を起こさなければ・・・


6.打開

「17-12=5」 ここまで来た。結局ダメだ。先生と話すための足もない。痛すぎる。こんな苦痛から抜け出せるなら抜け出したい。この試練を乗り越えなければ、報われない。勝手にそう思っていた。努力すれば報われるのは、誰も同じだと思っていた。

「そうだ・・・!」

思いついた。寝たらダメなら寝なくていい。寝なかったらきっと、それで月曜日は終わる!それだ!簡単なことじゃないか。何故今まで気付けなかったんだと、少し口角を上げて囁く。私はこの運命を壊さなきゃいけない。できる気がしたんだ、また皆と笑いあうんだ。学校行って、部活して、遊んで、時に怒られて。早く火曜日になって、このループから抜け出してみせる。私は冷蔵庫にあるコーヒーを飲んだ。微量なカフェインだけど、少しは変わるだろう。その代償として、お腹を壊してしまったけど。夕方。昼間に聞こえていたエゾバルゼミの声がだんだんと静まっていく。そして、夜。これからが勝負だ。寝る前のトイレに、車イスに乗って走った。正確には、夜更かしの前の。トイレの中で、これで抜け出せるんだって、深く安堵していた。手を洗い。外にでた、その時だった。

「萩原さん、実はこの病によく効く薬をが出たんです!今回だけは信じて、ね?」

初めてのことだ。この時は疑う、なんて感情はなかった。

「え・・・本当ですか?今すぐ、飲みます・・・また、遊びたいんです。早く元気になりたいんです・・・」

「じゃあこの水と一緒に飲んでね・・・」

「本当に、本当にありが・・・」

この後の記憶は、もうなかった。

また、月曜日に戻っている。信じなきゃ良かった。私を騙して見殺しにしようとしてた人なんて信じるものじゃなかった。なんで?なんで止めるの?私はこんなに頑張ってるのに。夜更かしは、先生による薬物投与で失敗に終わった。もう打つ手がない。

「あぁ、これで、終わりか」

私はそっと、目を閉じた。

本当に、本当に深い眠りについた。時は過ぎ去っていく。実際には過ぎ去ってはないが、しっかりと私のヒットポイントを削っていく。そろそろ、1 かな。


7.終了

目が覚めると、そこは空白だった。

「・・・!身体が動く?どういうこと、ねぇ、ここはどこなの!?誰かいないの?出してよ!病院?また先生のせいなの?」

力いっぱい。出せる限り叫び尽くした。もう0になったっていうの?嘘でしょ…

「皆…歩夢…」

とっさに、愛していた人の名前がでる。久々に頭に浮かんでしまった。タイミングが悪い。

「まだ伝わるなら。ここからでも伝わりますか?私はみんなのことがだいすきです。歩夢のことも友達も、先輩も。だから私がそっちの世界で朽ちていても、どうか。気を沈めないでください。元気なままのみんなでいてください。私が最後に冷静になって願えるのはこれくらいです。部活、頑張ってね。誰か私の取れなかった新人賞を取って欲しいな、いつめんのみんな、私がいなくなっても元気にやってね、歩夢、私のことはもう、忘れてください。負担を・・・っ・・・負わせたくっ・・・ない・・から」

もう溢れた涙で声が掠れている。

でもここで、私が閉じ込められる代わりに。私の気持ちが、私が思う平等が伝わるなら、それでいい。決意はできた。自分が消える決意、皆から忘れられる決意。さぁ後は、1を、0にするだけ。じゃあね。皆。上を見上げる。皆がいるところは下なのかなって思ったりもしたけど。もう私は・・・

__________紗代が出そうとした声よりも少し大きいノイズと共に、17-17の答えは出された。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。紗代の叫びは、皆さんに届きましたか?

自分で書いてて思ったことは、三分くらいの曲にこんな急展開ストーリーを付けてしまっていいのか・・・とか思ってました。でもwind君が

「普段物語で泣かない俺が泣きそうになった」(泣いてはいないっぽいが)

って言ってくれたので良かったです笑 作品のタイトルでもある「HP17」 実はこれをどうやって使おうかーって悩みました。結果がこれです。まだまだですが、いい感じにちょいファンタジーみたいなストーリーは書くことが出来ました。曲風は本当に悲しい感じの終わり方(ちょっと残酷で苦しくなるような終わり方)を連想させるので、こっちでは感動も交えようって思いで最後の方は淡々と書いていました。後、主人公を男の子じゃなくて女の子にして良かったと思ってます。

最後に、wind君が作った「HP17」 僕が書いた「HP17」 これは僕達の最初の作品になっています

(実は作りかけのボカロ曲がある)

普段はwind君の曲の小説を書くんじゃなく、歌詞担当だったので小説は初の試みでした。

まだwind君の「HP17」を聴いてない方は是非。

とてもかっこよく、どこか切ない楽曲になっています。


次回があれば、その時もよろしくお願いします。


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