厄日を笑え
大中小、色々あれどと。ミスは付き物である。
『機械ならちゃんとできるだろう』
そー答える者も確かにいるし。事実であるが、機械も機械で度重なる業務の繰り返しにより、劣化と不具合を訴えるものだ。最近の事であるが、仕事の都合で病院に行ったら、停電していて驚いたものである。普段なら、踏み込めば素早く開いてくれる自動ドアが、開かずにドカンとぶつかった。不便も感じた。いちお、設備点検のための停電だと受付さんが言っていたが、やっぱり機械だって検診は必要だった。
ご利用されているお客様達にご理解する人もいれば、怒る人もいたという。しょうがないよね、設備がちゃんとなければ、医療技術だけじゃなく様々な仕事で支障を来たす。自分の仕事も、趣味もそうで。前向きにそこを考えて、停電中のあの暗さの中で、診察なり注射なりしましょうか?って自分が言われたら、自分は即拒否しますわ。
人身事故で止まった電車に対しても、そりゃ内心怒るけれど。線路の下に死体が転がってるし、信号トラブルでデタラメに動いて、脱線と衝突する可能性あるけど、それでも乗車する?とか、言われたくないですね。駅員さんにはやっぱり怒れません。自分、配達関係で車も使うので、信号の不具合や道路工事の人達には気を遣うタイプで。思いやりとは違いますが、同情の気持ちがあります。
機械の不具合は、その機械にとってはどーしようもなく。責めたところで、誰かの手を借りる他ならない。それは人も同じで。
結局のところ、人も人で、どーしようもなく1人という個人的な能力の乏しさには、泣きたくなるほど弱すぎるので。
◇ ◇
ゴキュゴキュ
「ぷはぁー、いいですね。缶コーヒーは」
カフェインというのは、中毒性があるとかないとか。
好きになる味なのは事実です。
「時に冷たく、時に温かく。このちっこい一杯が疲れた体を元気にさせてくれる。社蓄には贅沢で質素な飲料ですよ」
「電車なんか使うからこーなってるんだろ」
「贅沢とは無縁………」
伊賀吉峰と王來星、陳九千の3人は、電車で移動中。人身事故に巻き込まれ、足止めを喰らっていた。幸いにも乗り換えの時で、電車内ではない。
「4,50分の辛抱ですよ。駅周辺や駅地下でお店巡りでもしませんか?」
「なんでだよ」
「車出しますか?」
「よしなさい、陳くん。タクシーやバスもごった返して、道路も込んでいる。渋滞も嫌いじゃないですけど、駅の方が色々あって楽しめるじゃーないですか。なにより、歩けます。人は歩いてナンボです」
嫌なことあって、嫌になる気持ちは事実である。
取り急ぎであれば、かなり焦ってはいるんだろうが、
「私は仕事、早いんで」
「暇持て余しているわけな」
「余裕持ってる~」
そーすればいい。そーできればいい。
そーしてないなら、そーやって人や何かに言う事をしなければいい。
『この度は人身事故、信号トラブルの影響で列車が遅れてしまい、大変申し訳ございません』
五月蝿いけれど、それだけ謝ると伝える気持ち。
「下っ端はよく頭下げれて良いですね。まぁ、小事ですけど」
「その言い方はなんだ?」
気持ちがなんだ?って済んでしまうが、事実なんでしょーがない。
自分が悪い時もあれば、避けられないことや他人の時もある。自分だとすれば、とてつもない罪悪感もある。
ピリリリリリ
「もしもし、伊賀ですよ。どなたですか?」
『あ、伊賀さんですか。私、警察の者でして』
「ほうほう。警察がなんのようで?」
『お伝えし辛いんですけど、……あなたの会社に勤めておられる方が、○×電車で飛び込み自殺でお亡くなりになって、遺書もその場に置いてありまして……』
「……………」
やっばいですね……。
自殺しろって、命令を下しましたが、列車の飛び込みをやりやがったんですか。しかも私達が乗ろうとしている電車でやるとは……。
なるほど、だから私に足跡が着ましたか。ここは仕方ありません。
「えーーっ!?あいつが、そんなことを!?冗談ですよね!冗談ですよね!?そー言ってください!!私とあいつは、上司と部下という完璧な主従関係だったんですよ!!そんな馬鹿な!!」
「すげー切り替え。演技力だな……」
「電話だと分からないけれど、こーして見ると白々(しらじら)しさしか出て来ないけど」
ピッ
「さて、急いで国外逃亡をしましょう。予定変更です!!」
「早っ!!」
「私と王を信頼してください。あなたのボディガードですし。地元警察くらいからなら、護れますよ」
「じゃあ、そうしましょうか。この近くにあるカフェテリアに行きましょう。調べました」
「早っ!!」
人とは弱いものだ。いや、ホント。社蓄の素晴らしさを1週間は語りたい男が、命令1つで社蓄に混乱を来たす真似をしでかしてしまい、駅の構内放送使って謝罪したいくらいだった。
そんな恥をホントにやるわけなく、その感謝を2人にお伝えする。
「ありがとう、陳くん」
「…………どーいたしまして」
意外な一面。
かもしれない。人を頼り、御礼を言われる事に。
「珍しいな、伊賀」
「そーですかね?王くん。あなたには感謝してませんけど?」
「うざっ。嘘くせぇし」
3人は歩いていく。目的地はゆっくりできそうな、カフェ。当然。伊賀の奢りだ。
「1人でなんでもするとか思ったわ」
「いやいや、そんなわけないでしょ。私も困った時、誰かを頼るものですよ?」
「感謝。珍しい」
「またまた。……落ち込んだ時。しょーがないんですよ。塞ぎこむのも仕方ない。私も例外じゃない」
この遅延の真相を分かっている人は極数名しかいないが、どうあれ伊賀もまた人と変わりはしない。
「感謝っていうか……。”ありがとう”と言って、言われて。こーいう事を乗り越える土台を作るんです。すぐに死ぬわけじゃないですし、ね!さぁ、落ち込みはここらにして、飲みましょう。食べましょう!」
「人はそう簡単にはなれないけれど」
「感謝されて、感謝するのは。大事な事だよね」
危ない連中でも、普段の人達とそう変わらない。人間心であった。