第一話 「地下」の世界
「…来たんだ」
夢の中の少女がポツリと呟く。
夢がまだ続いてるのかわからない。
しかし、この世界は明らかに夢とつながっているのだと確信した。
ただ違うのは、少女はなにも汚れてなく、綺麗な白いワンピースを着ていることだけだ。
サラサラの黒いロングヘアとまだ少し幼いような顔立ち。夢の中の少女とは同一人物であることは間違いない。
「ここ、どこなのかわかる…?」
「…わからない。目が覚めたらここにいたんだ」
少女は不思議そうに首をかしげている。
「ここはアンダーグラウンド。とっても危ないところなんだよ」
アンダーグラウンド… つまり「地下」だ。
ただ、日光が普通に行き届いている。
「政治家さんやお巡りさんは悪いことを食い止めようとしてるんだけど、全部口だけ。見えないところでは全部許してるんだよ」
そんなこと、日本では考えられない。つまり、地上から見えないところで犯罪を黙認しているということだろう。
「つまり、犯罪や殺人事件を起こしても捕まらないということだな」
「うん…」
なぜそんな世界に僕を連れてきたのか。
それはいいとして、まだ名前も聞けていない相手に信用はできない。
とりあえず名前を聞いてみることにしよう。
「で、君は一体誰なんだ?」
「…」
少女は黙り込んでいる。かける言葉もないまま、沈黙が過ぎていく。
すると…
「名前を教えたら、悪いことするんでしょ…?」
「え?」
予想外の答えだった。
「ぼくは今まで何人もの人間に助けを求めてきたの。でも、結局ぼくの体目当てで、それ以外のことを理解してくれてない… だから、ぼくが汚される前に殺したの。 キミもそうなの?」
「断じて違う!僕はそんなことはしない!」
当然だ。こんなに可愛い少女を汚すわけにはいかない。まずは君を助けたいけど、何を助けなければいけないのかわからない。
だからこそ、まずは少女のことを知る必要がある。
「…その表情、本気なんだね」
「ああ、僕は君を助けたい。だから君のことを知っておきたいんだ…」
「いいよ。ぼくはアルファ・スターライツ。キミの名前は聞く必要もないね、ライくん」
「ああ…」
何て呼べばいいのか… 普通にアルファでいいのか、スターライツさんでいいのか…
少し幼いとはいえ、ほぼ初対面の少女にいきなり名前呼びは良くないだろう…
「アルでいいよ。巷ではそう呼ばれていたから」
こいつには僕の心がお見通しなのか…?
「ありがとう…アル」
さて、本題に戻さなきゃ。
「それで、何を助けてほしいんだ?」
アルは静かに答える。
「実は、この世界には怪物がいるんだ」