第零話 僕が異世界に転生するまで
「今日も何もない一日だった。平和が一番!」
この間から日記を始めたのはいいものの、案の定人生なんて変わるわけがない。
「日記を始めて新しい自分に出会えた!」とかいう馬鹿がいるが、勝手な思い込みでしかないだろう。
女との出会いはない、友達も少ない、勉強も運動も苦手。家に帰ればニート状態。
普段と変わらない日常が延々と続いていくんだろうな。
僕の名前は西里 礼。ご覧の通り平凡すぎる高校生。
って、誰に自己紹介してるんだか。僕は薄っぺらい恋愛漫画の主人公か。
午前3時、そろそろ寝る時間だ。
目を閉じてしばらく意識を飛ばしておき、すぐ起床。
ぐっすり寝ている暇はない。最悪学校で寝ればいいだろう。
しかし、この日は違った。
意識がまどろみ、かすかな眠りにつこうとした時だった。
「助けて…助けて…ライくん…」
どこからか僕を呼ぶ声が聞こえる。きっと気のせいだろう、夢など見る暇なんてないのだから。
「いるんでしょ…助けてよ…ライくん…」
いる。赤い血のようなもので汚れた女の子が。
「お願い…」
そこで目が覚めた。時計は始業時刻を過ぎている。
慌てて準備し、高校へ出かけようとした。
「礼、今日は日曜日だぞ…」
呆れたような父、亮の声。
結局、今日もゲームに没頭。
日記には「特になし」とだけ。
しかし、今日の夢にもあの女の子は現れた。
しかも気のせいか、表情が少し明るくなっている気もする。
それから、毎日のように女の子は現れる。
だんだんと笑顔になっていった彼女に、僕は愛情を覚える。
可愛いうえに、僕を必要としてくれている。
それだけで十分だった。
それでもどうして、あの子は血まみれだったのか。
なぜ、僕に助けを求めるのか。
日々考えているうちに段々と僕はやつれていき、仕舞には学校にも行かなくなっていた。
2週間くらいたったある日、少女の様子がおかしいことに気が付く。
「アハハハハハ!助けて!助けて!アハハハハハ!!!!」
狂っている。明らかに狂っている。
少女の視線は麻薬を吸ったようにぐるぐる回っている。
甲高い声で笑いながら助けを求めている。
「ライくん!!!!!!!キミが欲しい!!!!!!!ハヤク!!!!!!!!」
怖い。早く目が覚めて欲しい。
その願いが通じたかのように、一気に視界が明るくなった。
---ここはどこだ…?
目が覚めると、そこには見たこともない部屋があった。
周りを見渡すと、ドアが一つあるだけで他は何もない。
取り合えず出よう…
ドアノブを握り、外へ出た瞬間…
見覚えのある少女が、僕をまじまじと見つめていた。