自らのスキルの有能性を体感する
ロマネの赤いポニーテイルの先に見える。太い胴体をした青い蛇を眺めながら、俺は双眸を向ける海龍に意識を集中させ、神眼でステータスを確認した。
海神龍リヴァイアサン
HP126500
MP34500
攻撃5030
防御4950
速度2340
魔力4790
把握2400
スキル・帝龍・水の加護・全耐性
ヒメナラが調べた時より上がっているステータスがあるな。
問題はスキルだ。
Aクラススキル二つの効果が、俺には解らない。
青い鱗が水と日光によって光り輝く、尾すら見えないほどに長く分厚い胴体をした、広大な蛇だ。
最初の行動は、咆哮。
「くッッ!!」
事前情報がなければ間違いなくその大音量で怯んでいただろう。物凄い音圧の叫びと共に水面が激震する。
俺は暫く後方で待機し、攻撃に巻き込まれないようにすれば後は自由という、アバウト極まりない作戦の通り、ロマネは高く飛び上がることで海龍の頭上を取った。
キュィィィンと空気を裂くかのような音が鳴り響き、それは海龍が息を吸った音なのだと理解する。
体内に入っていたのだろう、壮大な口内から放たれた膨大な水が、まるで閃光のようにロマネに迫った。
これは恐らく魔力の数値と攻撃の数値が幾らか加わった攻撃だろう。
ステータスは倍ぐらいある。ロマネが直撃すれば、これだけで終わってもおかしくはない。
しかし、そこは流石ドラゴンスレイヤーといったところか。
最初から、頭上をとるという行動が、陽動だった。
風魔法を扱い、空中だというのに横にズレることで、水のレーザーを回避し、着地間際に飛び出している海龍の肉を横薙ぎで切る。
しかし、それは見るからに硬度な鱗によって阻まれ、賞賛の声を漏らした。
「龍王は戦えば戦うほどに成長するんだ! お前、また強くなったなぁ!」
ステータスが上がってたのは、お前のせいか。
それにしてもと、俺はロマネの戦い方に驚くしかない。
待機していたこともあり、神眼でロマネを見ていたのだが、攻撃値は装備補正を合わせても2705だったのが、攻撃時には4405になっていた。
その際に魔力は179まで下落しているが、風での移動の際は1879が2879になり、攻撃が1000下がっている。
最初、この化物を相手にどう戦っているのかと疑問だったのだが、ステータスを変動させていたのか。
これは上級職の魔法剣士と、スキルの魔法剣技によるものなのだろう。
さっきのは通常攻撃だからダメージを与えられなかったが、ここから更に剣技スキルを使えばダメージを与えられるだろう。
「もう参加してもいいですか!!」
「まだだ! そっちにも攻撃がくるぞ!」
水の閃光によって飛び散っていた水が浮かび上がり、複数の水球が宙に留まっている。
瞬間、俺は海龍の攻撃を察知した。
海龍の体内で生成された水は毒を持っているらしい。
触れるだけでも危険な水球が、質量を増して十本の細長い閃光に変化し俺に迫る。
「うぉッ!?」
直線的なこともあって難なく回避していくが、その回避によって出来る隙を狙ったのだろう、口からの極太レーザーが放たれ、俺は剣技である、体勢に関係なく一直線に突っ走れる「加速線」を使うことで回避した。
加速線は一度使用すれば三十秒程再使用に時間がかかる。
こんなことだったら風魔法の一つでも魂に刻むべきだったか?
いや、俺はもう剣技スキルを4つも刻んでいる。1つはフリーにしておきたいし、あまり多く刻むと所持している技術スキル全体に悪影響がくるかもしれない。
とりあえず、やられたらやりかえそうか。
「切撃ち!!」
ただ剣を振るい、その剣先から真空のような斬撃を一直線に飛ばす剣技スキル。
初歩の初歩だが、よけいなギミックがないので、攻撃値そのままで遠距離攻撃ができるスキルだ。
これに自己流で色々な名前をつけるのが戦士の流儀みたいだが、俺にはネーミングセンスがないので素の技名で使っている。
剣による斬撃が直撃した。海龍の肉体から血を噴出させ、その地点から巨大な波紋が広がる。
「やるな!」
水の閃光を回避しているロマネから称賛の言葉を貰った。
肉はかなり深くまで抉っているが、傷の場所がみるみると塞がっている。
そして、閃光を回避しつつ、海竜との距離を狭めていたロマネが獰猛な笑みを浮かべ。
「対龍斬ァッッ!!」
前方に、海龍の肉体に加速して迫り、高速の振り下ろしが肉を抉り、水面で爆発を起こす。
これは魔法剣士のスキルではない、恐らく血族による我流のスキルだろう。
才能といえば凄まじいが、上級職の魔法剣士スキルを一つ取るのとどっちが良いのだろうか。
名前の通り、龍に対して威力を莫大させるのだろう。海龍が崩れ落ちるかのように水に沈んだ。
「よしっ!!」
作戦通り、ダメージを与えた個所に対龍斬を叩き込んだ。
これで終わりか。
やけに呆気なかったな。
そう考えていた瞬間、俺はとっさに瞬間移動していた。
赤色の閃光が、対龍斬による攻撃の衝撃で少しだけ宙に浮いていたロマネに迫ったからだ。
閃光ではない、突進。
青だった体の色を、血のような紅蓮に染め上げた海龍が、水中で勢いをつけて迫ったのだ。
直感で反応し、瞬間移動でロマネを運んで回避するまでの時間はないと考え、突進を剣で受け止める。
「ぐっッッッ!?」
俺の防御値は装備込みで4500ぐらいだったはずだが、堪えることができない。
一瞬意識を飛ばし、激痛を感じながら、ロマネと共に吹き飛ばされ、彼女は水中に沈んだ俺を持ち上げてくれる。
「はぁ……はぁ、今のは、なんだ?」
「痛ってぇ、ちょっとした高速移動ですよ……あんなん聞いてないんですけど」
再び高速で迫る紅い海龍に、俺達はバラバラに飛びのくことで回避する。
HPも高さもあってか、激痛は大分治まってきていた。
「キレたんだな! 一人なら死ぬところだった! 助かったよ!!」
よくもまあ楽しそうにしていられるもんだぜ。
かなり速度があり、水中に潜むので対処できない。
そう考えていると、海面から閃光が発射された。
「水中でも撃てるのか!?」
発射地点が解らない以上、反射で避けるしかない。俺とロマネはお互いが邪魔にならないよう、左右にバラけて散った。
直感がある俺はともかく、ロマネは先程の衝撃でダメージでも受けたのか、動きが鈍くなっている。
水には毒があるとか言ってたな、俺は全耐性があるとはいえ、彼女がこの水を受ければどうなるのかが解らない。
すぐさま、俺とロマネに向かって細い閃光が複数迫った。ロマネはギリギリ回避しているが、ここから突進か口からの閃光が来たら直撃してもおかしくはない。
「なッ!? ソウマァッ!?」
だからこそ、息を止めた俺は細い閃光を一発喰らい、わざと水中に打ち落とされたかのように沈んだ。
海竜がそこそこの知性を持っているのなら、今一番危険なのは遠距離からダメージになる攻撃を叩き込める俺だと理解しているだろう。
その俺が毒の攻撃を受けて、相手の得意分野に入ってきたんだ。
(釣りっていうのは、こういうことをいうんだろうな)
そして、ロマネを放置し、俺に向かって突撃をかまそうとしてきた海龍の視界から、俺は姿を消して突進を回避する。
スキル透明化だが、息を吐けば気泡で解るだろう。だからこそ息を止めた。
海神龍を確認すると、魔力が1500減って攻撃が1500増えている。
さっきの突進、攻撃6500で放たれたのか、ガードが間に合わなかったら死んでたかもしれないな。
エサを見失った海龍は、無防備な体を俺の前に晒してくれた。
水中での攻撃は威力を落とすということは理解していたが、俺は先程、水に落ちて理解する。
全耐性というのは、全ての環境に耐性を持つということを。
水による抵抗を一切受けずに、俺は動く。
(剣技・絶刀)
攻撃一点特化剣技スキル「絶刀」
攻撃を放つのに時間がかかり、発動時は大振りで隙だらけだが、数値の数倍の威力を放つこの技と、俺の直感スキルは合っている。
攻撃に合わせて、回避したタイミングで放つことができるからだ。
HPがどれだけあろうとも、その生物の「核」を破壊すれば、生体活動は終わる。
成功率6割ぐらいの俺の必殺技が、海龍を真っ二つに両断した。