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 ――ロ、ローファ……?

 そう口に出したかったのに、今の俺は口を動かすことすらできていない。

 全く意味が解らないでいると、口の中に、何かが入ってくる。


 瓶――回復薬か。

「はい、それはミーアさんが調合してくれたエルフの秘薬、全快薬です!」

 全快薬という名前は伊達じゃなく、絶対に死ぬと確信していた俺の肉体に活力が戻ってくる。

 ローファが飲ませてくれたことによって意識が鮮明になり、肉体が安定し始める。


 死ぬ寸前だったが、ここまで来てくれたローファと、全快薬を調合してくれたミーアのお陰で、俺は復活することができた。

 起き上がり、ローファの青くサラサラとした頭を撫でて。

「……どうして、ローファがここに来られたんだ?」

 元気を取り戻した俺を眺めて、ローファは涙を流しながら微笑みを浮かべた。

 俺に抱きつきながら、話しかけてくる。 

「私のスキルの真実を、セレスさんが教えてくれました!」

 これは、セレスのお陰でもあるのか。


 ――スキルの真実?


 ローファのスキルはと思案を始める前に、小さな口からそれが告げられる。

「精霊の加護です。このスキルは、他の加護スキルとは、根本的に違うみたいです」


 ――精霊の加護。


 そういえば、ネルティも所持していたな。

 ローファは俺の腰に回した両腕に力を籠めて、説明を続ける。

「セレスさんがさっき教えてくれました。他の加護のスキルは属性の加護、その属性の力を受ける加護になります。それと違って精霊の加護の精霊はエルフそのもの……つまりエルフの加護を、愛しい人に与えるスキルです!」

 満面の笑みを浮かべて、ローファが俺を見上げている。


 受けるのではなく、与えるスキル。


 ローファが説明を続ける。

「それを自覚すれば、助けるために、もしくは助けてもらう為に、与えたエルフが、その人の元に瞬間移動できるみたいです!」

 ネルティがローファの元にやって来られたのも、それによるものだったのか。


 よくよく考えてみると、ローファは俺の思考を読んだかのような反応を見せたことが、多々あった。

 セレスと共にローファの過去を聞くか悩んだ時、気にしないで欲しいと言っていた。

 トウとエルドと共にダンジョンに向かって疲れた時は、皆で猫の姿になって癒そうとしてくれた。


 あの時からセレスは理解していた様なことを言っていたはずだし、ネルティが瞬間移動でローファの元に現れた時も、その理由をセレスは必死に俺に知らせまいとしていた。

「どうして――」

 その答えは、すぐに察する。


 ――解除スキルか!


 もし知っていれば、ファウス戦で来られる前に、間違いなく俺自身がローファを案じて加護を解除していただろう。

 解除スキルは、何を解除するかは使用者が決められる。

 ローファの奴隷スキル、強化状態を解除した時にネルティの加護が解除されなかった辺り、加護を意識しなければ解除されないはずだ。

 クラジ戦で絶刀の状態を解除しても、肉体のリミッター解除まではいかなかったし、解除の調整はできたからな。 

 だからこそ、セレスは今の今まで、この事を俺に教えなかったということか。


 そして、俺は皆の事が、気がかりになっていた。

 ローファがここに居るのだから、大丈夫だとは思うのだが……。

「皆は、大丈夫なのか?」

「今はなんとか持ち堪えています……天使と天使が戦いを始めていますけれど、私達側の天使の人達が負けそうです……」

 天使と天使が戦っている?

 なら、そこにアルダが居ると考えるべきだろうか。

 とにかく、急ぐべきだろう。

「すぐに戻らないとな!」

 これから、俺はアルダと戦わなければならない。


 エルドとトウが気がかりだが、アルダと戦いを優先すべきか――


「……終わった様だな、勝ったのか?」

 そう考えていると、エルドを担いでいるトウが、階段を登ってやって来ていた。

 半天使スキルを手に入れていて、ステータスも俺並みに上昇しているのを神眼で確認できたのが少し気になったが、今はそんなことはどうでもいい、俺はローファと共に二人の元へと行く。

「ああ。魔族はもう生物界には居ないはずだが……俺には、やることがある」

 腰にローファ抱きついたままなのを確認し、俺はトウとエルドに触れて、瞬間移動を行う。


 向かう場所は皆が待っている――大橋の中心地だ。


 瞬間移動を行ない――そこには、天使の集団が見えた。


 光の閃光が俺に迫るも、何故か天使が壁となり、直撃して身体を半壊させている。

 大男のような白い肉体、真っ白な顔をしているのが下級天使で、人に見える様になるのが中級天使からだったか。

 受け止めてくれたのは下級天使のようであり、閃光を放った先に、白銀の長髪をなびかせる少年にも見える上級天使、左腕が神々しい結晶のようになっているアルダの姿を確認した。


 どうやら、アルダ以外の天使は、攻撃を仕掛けていないようだな。

 人間側となって戦っている小柄な金髪の少年、神眼でクレンと判明、彼が第三天使のクレンか。

「た、倒せたのか……」

 瞬間移動で現れたと同時、背後から唖然としたルードヴァンの声が聞こえる。

 まさかこいつ、俺達がファウス達を倒せるとは思っていなかったのだろうか。

「ソウマ!!」

「よく無事に帰って来たのじゃ!!」

 ミーアとセレスの声が聞こえたので振り向き、笑みを浮かべて頷く。

「ああ。エルドとトウの治療を頼む……行くか!!」

 そして、俺は前に――アルダの元に、向かう。

 

 アルダの周囲に天使の集団が見えるが、様子を見ている程度で攻撃を行っていない。

「人間が、一体何を……」

 唐突に現れた俺の姿を見て、アルダが不快そうな声を漏らす。

 俺達の側に居た天使、神眼でクレンだと判明するが、どうやら俺達の味方になってくれているみたいだな。


 宙に浮かんだ天使達が輪になり、俺の背後には皆が、そして破損した第三天使達が居る。

 アルダの周囲に破損した天使はなく、後方に魔族は居ない。

 天使同士の戦いとローファが言っていたが、実際に動いたのはアルダとクレンだけのようだ。

 クレンの周囲にいる天使が少なく、橋に残骸が見える辺り、天使を盾にすることで生き延びているのだろう、対して一切ダメージを受けてなさそうなアルダは余裕を見せている。

 

 瞬間移動スキルを使えば、一瞬無防備になり、何かと干渉することは出来ない。

 故に、瞬間移動で接近したとしても、触れる前にアルダは瞬間移動で距離を取って来るだろう。

 アルダは俺でもステータスが見えない。

 圧倒的なステータス差を前に、干渉してくるというのは、何かあって当然なのだから。


 俺がすこし距離を空けてアルダを見上げていると、不快そうな顔を見せてくる。

「随分と慕われているようで……どうやら貴様が、私の計画を前倒しにした張本人の様だな」

 ルードヴァンの反応から、そう察することができたのか。

 見下ろされているが、俺とアルダは睨み合いの状態になり、告げる。

「ああ。俺は別に魔界とか天界とかどうでもよかったんだが……俺の平穏潰そうとしたんだ。戦うのは当然だろ?」

 俺がそう言えば、アルダはやれやれと言わんばかりに首を左右に振って。

「平穏を潰すか……神の言葉を聞き、それに従うことで平和な世界が創られる……それが人類の為だというのがなぜ解らない?」

「間引きと言って魔族使って生物界を侵攻した時点でアウトだ。それに、俺はお前の言う平和なんてどうでもいい、お前に従うのが不愉快だから叩き潰す。それだけだ」

 自分より崇高な神に従って生きることを望む人だって居るだろう。


 それは悪い事ではない――俺が嫌で、それを覆せる力を持っていた。


 それだけだ。


 不快そうな顔を浮かべていたアルダだが、急激に勝ち誇った笑みへ切り替わる。

「叩き潰すか……この戦力差でなにができるか――」

 そう宣言するアルダに対し、俺はルードヴァンの切札を使う。

「――示してッッ!?」

 言葉を終える事には、俺はアルダと勝負に入る。


 ――序列一位特権(トランス・スコア)

 

 瞬間移動スキルは瞬間移動をする地点に生物がいるのなら、発動ができない。

 故に他者との干渉が出来ず、瞬間移動後に硬直するから、即座に触れることはできない。


 しかし――道具を利用したトランスポイントによる瞬間移動は、その者に触れた、干渉した状態で行われる。


 それを利用した、スコアに載った者限定で、スコア序列一位が使用できる瞬間移動。

 

 スコアはルードヴァンが創ったモノであり、序列一位は様々な恩恵があり、その一つだった。


 ただ連絡手段として用意していたそれだが、トクシーラとなって序列一位を一瞬だけ入れ替えることで干渉されずにルードヴァンが居る魔界へ移動。

 ファウスに切り刻まれた際も、肉体の一部をこれによってモニカの元へ移動させてから、序列一位をファウスに譲りつつモニカの記憶に干渉し、俺の元へトランスポイントの移動を使った。


 そのことを俺に隠していたのは、ファウスとの戦いで、ファウスが俺に対して使ってくることを警戒させない為だろう。

 現にファウスは使って来なかった。

 瞬間移動のリスクを知っていたからだろう、しかし、一度も戦闘中の瞬間移動を敵に使われたことがない俺が聞けば、間違いなく警戒していたからだな。 


 そして――俺は石喰らいのスキルを、触れていたアルダの左腕に向かって発動する。


 ここからが正念場だ。


 俺とアルダは触れた状態で硬直、お互いの全身がとてつもない程の白い光で発光する。

 フェリックスの時、俺は人間の限界を超えたステータスを受けて意識が飛んだことを思い出す。

 あの時は堪える気がなかったからだが、今回は違う。

 アルダは取り込む力を持っている。


 俺の全身に力が漲り、そして消えて、再び漲る。そんな状態が一瞬の内に何度も繰り返されていく。


 意志(おれ)意志(アルダ)による――力の争奪戦が始まった。


 俺は刃を、アルダは拳をぶつけ合わせているイメージが、俺の脳にやってくる。 

「こ、この力を――離してなるかァァーッッ!!」

 さっきまでの余裕が一切ない、必死なアルダの叫び声が脳に響く。

 どうやらアルダはシンプルに、両腕を押し合っている光景でもイメージしているのかもしれない。


「――貴様と私では生きてきた年月が違うんだよ!!」

 アルダの今までが――俺の脳に侵入してくる。


 神になりたいと強く願い、部下の天使を使うことで魔界を凌駕し、人間を支配する為の道具である聖刻を創ろうと目論み、天使長の座をルードヴァンに奪われる。

 天使長なのにただの上級天使に堕とされた屈辱の日々、そしてファウスと出会い、神になる計画を立てる。

 冒険者を利用しての疑似天界構築、そして生物界を疑似天界とする陣、トクシーラの吸収。


 長い――五百年もの野望が、一瞬で俺の記憶に干渉してくる。

「それに比べて貴様はなんだ!?」 

 無言で意識を途切れさせないように集中している中で、アルダは更に叫ぶ。

「四ケ月前はパーティの二番手!? ルードヴァンの施しを受けてからは嫁を三人も手に入れて日々を悠々!!」

 それは、アルダの言葉による精神攻撃なのだろう。

「自由な日々を送る自堕落なカスに! 長き時を神となるこの時の為に費やしたこの私が!!」 

「――負けるんだよ」

 アルダに告げる。


 俺は一切、折れる気はない。

「――なっ!?」

 死ぬまで意識を途切れされるつもりはなく、アルダの狼狽えた声が響く。


 背後で、俺の名前を皆が呼んでいる。

 ロマネ、ヒメナラ、トウ、エルド、ネルティ、モニカ、ルードヴァン。 


 そして――

 ミーアとセレスが、全身全霊で俺の名を叫び。

「ソウマ様!!」

 俺を慕ってくれているローファの声で、俺は諦める気が一切ない。

 

 アルダの名を呼ぶ天使は――誰も居ない。


 不必要だとアルダが認識しているからか、応援するという行為を誰もしていないのだろう。

「なぜだ――対聖刻のスキルか!? 序列一位の効果か!?」

 アルダの狼狽えている声が、俺の脳に響く。


 そんなこと俺は知らないし、何かしらあるのかもしれない。


 だけど、この戦いの勝因を俺が決めていいのなら――この声援によるものだと、断言することが出来る。

 

 俺の意識が途切れそうになるが、必死で堪える。

 絶対に折れる気はない、その時は死を選ぼう。

「馬鹿な!? この私がァッッ!?」

 アルダのステータスが、見えた。


 俺がアルダと同格の存在になったからだろう、決着がついたようだ。


 テニフィスより弱いステータスのアルダが、何処かへと消えていく。

 俺はスコアポイントによって、アルダの元へと姿を現した。


 そこは、真っ白な空間で、所々に白銀の建物が視界に広がっている。

 恐らく、アルダは天界に逃げ去ろうとしていたのだろう。


 俺は上空に浮いているアルダに触れた状態で、魔力を籠めた閃光を繰り出した。


 アルダは俺の攻撃に反応が出来ず、悲痛そうな声を漏らす。

「神に――なり――」

 悲痛の叫びを漏らしながら空を浮いていたアルダが――残滓を一切残さずに消失し。


 天界の真っ白い大地に、俺は全身を打ちつける。


 フェリックスの時は、まだ耐えきれるステータスだったから、肉体が安定できる数値まで戻ったのだろう。


 だけど――今回は規模が違う。


 大魔王の一部、それは半天使があろうが、スコア序列一位だろうが、人間の身には扱えない力のようだ。


 身体がひび割れてボロボロになっていく。

 これは聖魔力で治らない。

 HPMPは全快しているからな――これは、これ程までになれば、人間として遙かに許容範囲外なのだろう。


 ファウスの時とは違い、スキルは使えそうだ。   

 せめて最期に――ローファ、ミーア、セレスの顔が見たい。


 俺は瞬間移動をして橋へと向かい、心配そうに俺を眺める三人の姿を見た。


 世界を救った――達成感が俺の中で満ちていく。


 俺の意識は、ここで途切れた。

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