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最終決戦

 人類の存亡をかけた、俺と大魔王ファウスによる最終決戦。


 最初の一撃は戦特化、そして直感スキルによって、互角の唾競り合いに――

「しぃィィ――ッッ!!」

 なるはずだというのに、刃が直撃する間際、雄叫びをあげながらファウスの銀の刃が、闇の魔力で強化されたのだろう、漆黒に染まる。

 その箇所は一瞬――それも刃が交わる部分のみに魔纏刃を発動することで、最大限の威力を一点に集中させている。


 刃が交わされた瞬間は対処できたと確信していたが、交わされた瞬間、俺の肉体を激痛が巡る。

 この刀はセレスがいうには世界最高峰の刀だったか、よく折れないでくれたと、俺は安堵するしかない。

 ファウスが右腕を振りぬき、その衝撃によって俺は弾き飛ばされる。

 激痛が俺の全身を襲い、俺の肉体は床を削らんばかりに叩きつけられ、宙に浮いて床に何度も打ちつけられた。


 脚に力を込めることで踏みとどまり、即座に身体を起こす。

漆黒戦器(シャドウアート)!」

 激痛を全身が襲い、聖魔力で治癒、ファウスの叫び声はまだ止まない。

 奴の左右に闇魔力で創ったのだろう、馬鹿でかい丸鋸のような刃が宙に浮き、尋常ではない勢いで回転し、周囲の空気を裂いている。

「一行!」

 獰猛な声を響かせながら、漆黒の二つある円形な刃が俺を挟むかのように迫り、その後に続くかのようにファウスが疾走する。


 戦特化、直感スキルによって切っ先を丸型の刃に当て、衝撃を受け流すようにすることで対処し、その最中、迫るファウスの横薙ぎの斬撃を、俺は伏せることで回避した。

 そこから繰り出される追撃の右足による蹴りは刀の腹で受け、衝撃を利用して弾かれることで距離を取る。

 瞬時、追撃となる滑らかな動作から繰り出された突きの一閃。

 一瞬で先端だけが漆黒に染まる、闇魔力を魔纏刃を使い、一点集中させた一撃。

 あまりにも迅速な動作であり、回避は不可能。

 俺は刃で受け止めるが、攻撃値の差か、衝撃によって全身に激痛が走り、後方へ大きく吹き飛ばされる。

「――つッッ!?」

 刀は手放さない、離せば即座に終わる。


 直感スキルもあって、ファウスの動きに慣れて来た。 

 あまり魔力を籠めなかった戦特化の時間が終わり、俺は聖魔力で瞬時に激痛を受けた全身を回復していく。

 直感スキルからファウスの接近を把握し、俺は二重加速を行った。

 ファウスの攻撃を先読みし、一度目の加速で回避して迫る円形の刃を回避、その勢いのまま横薙ぎの一撃がファウスの肉を抉り、二度目の加速で距離を取る。

「ははっ! そうこなくっちゃなぁ!!」

 防御値が低いから、攻撃で対処してこなければダメージは与えられるが、問題は攻撃の差か。

 

「――二行!!」

 集中力の無駄と判断したのか闇魔力で創られた円形の刃を消去し、ファウスが叫びながら接近、俺は刀を鞘に一瞬だけ戻す事によって閃光型の切撃ちを放つが、軽く剣を振るうことで掻き消されてしまう。

 切撃ちは全く役に立ちそうにない。

 戦特化ならほぼ互角ぐらいの速度になるが、技術の差で対処が追いつかない。

 二重加速も再使用するには数秒かかる。

 勝つには絶刀による攻撃以外にないかもな。


 真正面からくるファウスの斬撃を、俺は刀を前に突き出すことで受け止める。

 戦技スキル「刀楯」は受け止める構えを取り、攻撃を行わない代わりに、防御力を上げるスキルだ。

 防御に特化されているからこそ、ファウスの攻撃を受けても俺は耐え切ることができていたが、すぐさま二度目の斬撃が来てガードが崩れる。


 次に繰り出されるのは切り上げによる攻撃。

 そう察知できた俺は解除スキルで剣盾を解除し、それと同時に発動した戦特化で速度を互角にすることで反応、回避不可のカウンターをファウスの心臓部に叩き込む。

 

 魔族にとって心臓部にある核は弱点であり、これが損傷したら終わる。

 だからこそ、ここは身体を引かせるだろうと想定していた。

「最終決戦だ、死のリスクなんざ背負って当然なんだよ!」

 叫ぶファウスは肉と骨で受け止め、俺は戦慄するしかない。


 ――マズい!?

「三行!!」

 ファウスが訳の解らない叫び声をあげながら、刀を振り下ろし。


 俺の右肩は両断された。  


「がっ……ああああああああっっ!!」

 左手でファウスの心臓部に刺さっていた刀を振りぬき、俺は即座に鞘へと戻す。

「決まりか……頑張った方だな!!」

 ファウスが楽しげな声をあげて、俺を横薙ぎの一閃で斬ろうとしてきた。

 咄嗟に後方へと下がるが、腹部が僅かに切り裂かれ、俺は悲痛な声を漏らす。


「随分反応が速いな、いいスキルだ!」

 お前のオヤジが俺を選ぶ程のスキルだからな。

 戦特化のカウンターで仕留めるつもりだったのだが、心臓部とそれを守る骨は闇魔力でガードしていたのか。

 当然だろう、戦特化の時間は一瞬だけにしたので、この瞬間に消えている。

 

 ファウスは俺の右側に回る。

 右腕がない今、左腕で刀を振るう事を想定しているな。

 それは――俺の狙いだった。

 漆黒の刀の一部だけを魔纏刃で強化した横薙ぎの一閃。

「――四行!」

 ファウスが叫び、それと同時に驚愕する。


 俺は透明化で再生したのを隠していた右腕で鞘から刀を振りぬき、ファウスの刀の腹へ刃に刃による一閃を叩きつける。

 直感スキルによる先読み、それに加えて半天使の聖魔力で再生させ、透明化で不可視の右腕にしていたいう完全に虚を突いたカウンター。

「うぉっ!?」

 一点集中させていたこともあり、繰り出した俺の斬撃による衝撃でファウスは態勢を崩す。

 

 ――好機!


 戦特化を一瞬だけ発動、即座に首を刎ねようとするも、反射的に刃で受け止められた。

 しかし、魔纏刃は使えなかったようだ。

 俺の攻撃値はファウスの防御値を上回り、更に戦特化の補正だ。

 次はファウスが、衝撃によって弾き飛ばされることとなった。


 いや、ファウスは俺の攻撃を堪えずに、離れることを選択したのか。

 ファウスは鋭い歯を剥き出しに、獰猛な笑みを浮かべ。

「――最高のフィナーレだ!!」

 刀を天高く上空に突き出したことで、俺は――それを理解した。


 周囲が暗くなっていったのは、魔王城だからだとばかり感じていた。

 その推測が違うことを、ファウスの動作でようやく理解することが出来た。


 巨大な、まるでギロチンの刃のような漆黒の塊が、多数上空に鎮座していたからだ。


 先ほどの丸鋸を出した力を思い返す、あれを遙かに上回る規模の刃を、戦いながら上空に配置していたということか。

 とてつもない質量、それが四本、いや、五本目が出来つつある。


 ファウスが、雄叫びを上げた。

「――五行斬(ごぎょうざん)!!」

 一行二行と叫んでいたのは、この技を繰り出す為か!?

 魔閃に似ているが、違うのは質量、規模、そして破壊力か。

 馬鹿でかいギロチンの刃であり、重なることで更に巨大な刃の閃光と化す、隙間なんてどこにもない、見事な五閃だ。


 ――広範囲殲滅技。


 多人数で戦いたいと告げていたのは、この技を最大限に扱いたかったからか。


 俺は必死にこの状況を打破する為の思考を巡らせる。

 直感スキルから回避は不可能。

 絶刀で相殺――不可能だ、


 そして、俺は、闇雲に様々なことを思案し――

 ファウスの前方を、漆黒の魔力が叩き潰す。


 俺は――

「――ちゃちな真似を!!」

 生存してたことを不快に感じたのだろう、ファウスが叫ぶ。


 俺はファウスが刀を振り下ろした遙か後方、かなりの距離を取って瞬間移動をすることで回避していた。

 この魔王城は戦闘が始めると終わるまでこの空間外に瞬間移動はできないようだが、空間内での瞬間移動は可能であり、命拾いを―― 

「がぁぁッッ!!」

 かなり距離を開けてファウスの後方に瞬間移動したというのに、閃光型の切撃のような、闇の魔力を籠めた魔閃が、無防備な俺に迫る。


 瞬間移動を発動した時――身体が一瞬無防備になり、その位置を瞬時に察知したファウスの魔閃が直撃。

 漆黒の閃光が俺の胴体に風穴を開けて、意識が飛びそうになったのを何とか堪える。

 今のはセイラーンと同じ、瞬間移動を見せたのが初だったから、心臓部ではなく胴体になったのだろう。


 ――恐らく、次はない。

 かなり距離を空けてもこれだ、どこに瞬間移動をしたとしても、位置を察知して閃光を放ち、俺の脳か心臓は砕け散るだろう。

 セイラーンの時の様に捨身のカウンターを繰り出そうにも、急所をガードしたとしてもファウスの攻撃値によって破壊されるのは明確だ。


 そして、ファウスが呆れたように叫ぶ。

「今のは大技で相殺する流れだろ、何逃げてんだよ!」

 うるせぇ、俺はそういう技を持ち合わせてないんだよ。

 明らかに苛立っているファウスを睨みつつ、俺は聖魔力で肉体を修復していく。

 叫ぶ余裕すらなく、俺はそう強く思うしかない。


 エルドならドラゴンブレス、トウなら極識斬撃だろうよ。


 俺にはそんな大技はない。

 規模による被害を恐れて、会得しなかった小心者だ。

 それなのに――なんでこんな魔王城(ところ)に来てるんだろうな。


 できるとしたら――

「動きは読めた。もう一度五行斬を張ってお前は終わる。それまで足掻いて欲しいがな!」

 そう告げて、ファウスが遙かに離れている距離を詰めようと疾走する。


 動きは読めた――か。

 それは、こっちも同じだ!

「一行!」

 その発言と同時、空に膨大な闇の魔力が発生する。

 五行斬の一つか。


 ファウスの刃を剣盾でガード、防いだ即座に解除スキルで動けるようになった瞬間、俺はファウスに足払いをかけた。

「なにっ!?」

 今の今までカウンターで刀を振るっていたというのに、唐突なスキルも一切関係ないただの足による体制崩しによって、ファウスは僅かによろめく。

 その瞬間――俺は絶刀を放つ。

 

 こういう小技は、追放される前の得意技だった。 

 まさか最終決戦で、こんな手を使うとはファウスも想像だにしなかっただろう。

「ぐおッッ!?」

 ファウスは刃で絶刀を受け止めるが、その衝撃から身体を大きく崩して後方に勢いよく下がる。


 その際に瞬間移動を発動し、丁度ファウスの正面に来るように俺は瞬間移動をした。

 足払いによる驚愕と絶刀の衝撃、そして――瞬間移動で接近という、リスクを知っていれば絶対に行わない悪手。

 

 瞬間移動は発動後数秒は再使用できない、距離をかなり取っていたのは正解であり、タイミングはかなりギリギリだった。

 ファウスの硬直、そして瞬間移動を発動後、一瞬だけ無防備になり、絶刀発動後は動きが僅かに停止する。

 瞬間移動発動後の無防備な状態と、絶刀発動後の硬直が終わったのは――同時。

「――正気か!?」

 死のリスクなんざ背負って当然――同意見だよ。

 再度俺は絶刀を発動し、よろめきながらファウスは刃を振るうことで弾き飛ばそうとする。

 この破壊力はさっき身を持って体験しているからな。

 回避をミスれば死ぬことを恐れて、攻撃で対処してきたのだろう。

 

 もし回避されれば一発で俺が死ぬという賭けたが、もう俺には――こうするしかなかった。

 ここからの戦闘は一瞬だ、もう瞬間移動は使えない。 

  

 眼前のファウスが何百年も気に食わない奴を殺してきたのなら、戦闘面で俺は勝てるはずがないだろう。

 

 もし、勝つ方法があるのだとすれば、目の前の大魔王が絶対に行わなかっただろう、格上にリスクを覚悟で突っ込むやり方しかない。


 俺は今まで、そうやって生きてきた。

「ぐォッ!?」

 刀による攻撃で受け止めたが絶刀の方が威力があり、ファウスが呻き声をだし、赤と緑が合わさったかのような液体が全身から噴出している。

 ファウスの身体がとてつもない衝撃によって硬直している。

 絶刀発動後による硬直が俺にもくるが、俺の方が先に硬直が終わった。

 それと同時、俺は両脚に力を籠め、身体をファウスの元へ跳躍させ、全身を使っての絶刀を繰り出す。


 ――三撃目

 

 ファウスも魔界で百戦錬磨だ。

 同じ動作を連続で行えば――対処はしてくる。

 一撃目は受け止めて衝撃と激痛を受けて弾き飛ばされ、二撃目は攻撃で弾こうとしていたが、それでも力負けをしている。

 なら、三撃目は。

「――慟哭斬!!」

 膨大な衝撃と衝撃が、ぶつかり合う。


 お互いが、その威力によって弾き飛ばされた。


 ルードヴァンの記憶にあった、ファウス最大の戦技――慟哭斬。

「俺の存在を放つ慟哭斬(こいつ)を使うことになるとはな!!」

 殺意と悪意の塊であるファウスにとって、感情を乗せるこの戦技は、タメ為しだというのに俺の絶刀と互角だった。


 ――マズい!?


 奴は今までは宣言していた癖に、宣言せずに設置していたのか、空には三本の刃が浮かんでいると直感で理解する。

 五行斬、いや三行斬でも発動されれば、瞬間移動以外回避は不可能。

 そして、この部屋以外の瞬間移動は不可能。

 部屋内で瞬間移動をすれば、発生位置を察知し、魔閃を飛ばすことで俺が致命傷を受ける。


 なら――ここで決めるしかない!!


 絶刀発動後の停止している状態で俺は二重加速による一度目の加速を発動し、ファウスに迫る。

 距離を取って三行斬を発動するのなら、更に加速することでファウスの背後へと回るつもりだった。

 それ以外に回避方法はなく、ファウスは俺を仕留めに入る。

 お互いがお互いの動きを理解することができていた。


 俺は直感、奴は持ち前のステータスからだろう。


 ファウスが絶刀を回避しようとしても、俺がそれを直感で察知し、二度目の加速からの絶刀を決めてくるという確信を持っている。


 先程の絶刀対慟哭斬の打ち合いでお互いが吹き飛んでいたが、俺は全身を激痛が襲っている。

 聖魔力で回復しつつ必死に痛みを堪えているが、ファウスは間違いなく先ほどの衝突による手応えを感じているのだろう。

 最大技の衝突で、勝利したという確信を持っている。


 だからこそ、回避でも、防御でもなく、ファウスは全身全霊の攻撃を絶刀に対して繰り出してくる。

 ファウスの攻撃値が他の数値よりも遙かに高いことを神眼で理解してる俺は、そう確信することができた。


 力を溜めた俺の身体が、一瞬でファウスに迫る。


 瞬間――上段の切下ろしを放ち、俺は叫ぶ。

「――絶刀(ぜっとォ)ォッ!!」


 それを完全に予測していたのだろう、ファウスも叫ぶ。


 先ほどと違うことは――――


「――邪纏慟哭斬(オーバーシャドウッ)ッ!!」

 ファウスは、刃に闇魔力を籠めていた。

 自らの魔力・感情を攻撃値に加えた――最強の横薙ぎによる攻撃。


 それに対して俺は――全てを籠めた。


 解除スキルを発動し、肉体のリミッターを全て解除する。

 ファウスに勝利するには、これしかない。


 剣技最大奥義である極識斬撃はMPは完全に消費するが、HPは1割残る。

 HPが0になれば死ぬのだから当然だろう。

 俺は解除スキルで全身のリミッターを外すことにより、HPとMP、全ての力を刀の刃に集中させた。 

 肉体のリミッターを外し、全ての枷を解いて一撃を放つ。

 死ぬという代償を背負うが、こうでもしなければ、ファウスの最大級の一撃を撃破することはできない。 


 フェリックスの聖刻を取り込んだ時を思い返す。

 あの時、ステータスが上昇し、減少したとセレスが言った。

 あれは減少したのではなく――体内に宿り、人間の限界に合わせたのではないか。


 その推測通りなら――自らを解除することで、本来の、そしてHPMPを含めて、全てを籠めた絶刀を繰り出すことが出来る。


 勝機があるとすれば、最初からこれしかなかった。

 カッコよくフィニッシュ決める大技なんて、持っていない。

 どれだけ力を、スキルを手に入れても――俺は捨身で挑むことしかできない。


 俺には――絶刀(これ)しかない。


 多彩なスキルを所持していたとしても、結局は、最初の頃から使いこなしていた技を生かすことしか考えていなかった。


 だからこそ――俺はこの最終戦で、世界最強となった大魔王と互角にやり合えている。


 振り下ろしと横薙ぎの最大技が衝突し――

 

 ――巨城に激震が走り、揺れが収まった時。

 

 真っ白な視界が、僅かに晴れた。

 一瞬、俺は意識を飛ばしていたようだが……まだ、生きている。

 微かに意識を取り戻し、見上げた先には――神々しい大魔王の椅子に座るファウスの姿があった。


 倒れ伏せているの俺自身の状況を理解し、敗北を悟る。


 そして、俺を見下ろしながら、ファウスが口を開く。

「――お前の勝ちだ」

 見上げていると――ファウスの両腕と両脚がなく、胴体と首だけが椅子に乗っていた。

 バキバキと木が悲鳴を鳴らしているかのように、残り少ない肉体が木となり、割れて、椅子の周辺に散っていき。

「さっきので……お前は俺の核をほとんど破壊した……俺は椅子を出すことしかできなくてな……お前が勝者で、それからすぐにお前は死ぬだろう」

 ――勝ったのか――


 ファウスは肉体をボロボロと朽ち果てながら、言葉を続ける。

「誓をお前に譲渡したが使えねぇだろうな。魔族に人間の侵攻は止めさせたままだ。これは誓の主が変わっても命令を出さない限り守られる……」

 その誓とやらが理解できる程に、俺の頭は回っちゃいない。

「スコア一位の座もやるよ……お前はそれが目的だったんだろ、なんせ――」

 ファウスが、俺に対して説明をして――目を見開かせるしかない。


 ルードヴァンの切札を、ファウスは知っていたのか。


 今の今まで切札についての情報をルードヴァンが隠してきたのは、ファウスが使ってくると警戒させないためだということも同時に理解できた。

 結局使って来なかったが、もしそうなら間違いなく警戒していて戦闘中に雑念が生まれていただろうからな。  

 ファウスは使わないということをルードヴァンは察していて、だからこそ俺に伝えようとしなかった。


 だけど、俺はそれを使うことが、できないだろう。

「話を聞くことはできるが、口は動かせず、目を僅かに動かす程度しかもうできないか……お前ももう後数十秒もすりゃ死ぬだろう、階段は出したし、死ぬまでに仲間が来るのを待つんだな……いや、回復アイテムは消したんだっけ……」

 ファウスは語り尽くしたかの様に目を伏せ、微笑みながら告げる。

「最高の一生だった――」

 自己中心、思うままに生きてきて、大魔王になるという夢を叶え、挑戦者と戦う望みを達成したファウスが、柔らかな笑みを浮かべて――木々の破片だけとなっていく。


 それが空気と同化するかのように消えていき、俺の目の前に残ったのは、神々しい大魔王の椅子だけだった。


 口は動かせない、意識も耄碌としている、これは死ぬな。


 助けを待つか……エルドも、トウも……無事なのだろうか。


 ローファ、ミーア、セレスも心配だ。

 俺が戻らなければ、アルダによって支配されてしまう。

 だけど、意識が、視界が霞む。

 それを必死で堪えているが、限界が来ていた。


 遂に――死ぬ。


 石喰らいを手に入れてから、俺はどこかで、死ぬことはないだろうと過信していたのだろう。

 だけど全てを解除して、本来使ってはいけない領域の力を解除スキルによって使い、俺は理解した。


 これはもう――無理だ。


 意識が途絶えようとした瞬間。


 誰かが、優しく俺の身体を持ち上げている。


 それは、トウでもエルドでもない、小柄な、一人の少女。

「無理なんかじゃありません!」

 言葉を聞くことで、死にかけていた意識を僅かに取り戻す。

 

 俺を僅かに持ち上げ、霞む意識の中でその子と目線が合い、姿を確認することができた。


 涙を浮かべるローファの姿が、そこにはあった。

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