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魔王の力

 聖刻により半天使化したトウは、刃を交わしながらテニフィスを分析する。


 先ほどはステータスと技術に圧倒されて、一瞬で蹴散らされていた。

 今は斬り合いができているだけ、先程よりも遥かにマシだ。


 それでもテニフィスの方が――強い。

 何度か刃が交わり、トウの肉が斜めからの切払いによって抉れる。

「遅い!」

「くッ!!」

 肉を裂かて血が噴き出るも、トウは瞬時に聖魔力で回復していく。

 それを見て関心したような表情をテニフィスが浮かべるが、すぐさま真剣になり、再度刀を振るう。


 弾き、唾競り合い、距離を取っての切撃ち、テニフィスの聖魔力による魔閃。

 全てがテニフィスはトウを上回り、魔閃がトウの切打ちによる刃の閃光を貫いて迫るが、速度は落ちているので回避が容易い。

 迫ったと同時に連続斬撃による六連の刃がテニフィスを襲うも、刀を振り回すことで弾き飛ばす。

 先ほどと違い、受けた衝撃に怯むことなく、トウはテニフィスと距離を取る。


 連続斬撃の斬撃の六閃の内、一つの刃が、テニフィスの肉体をかすめ、その部分は瞬時に修復されている。

「……何故だ?」

 受けた箇所を眺めて、テニフィスが驚愕の声を漏らしていた。


 聖刻を使って上昇したとはいえ、トウは元々人間の限界値に到達している。

 故に、トウのステータス上昇はそれ程でもないはずであり、テニフィスとのステータス差はかなりあるると推測していた。

 しかし、トウは喰らいつき、テニフィスは僅かに押され始めている。


 テニフィスは理解できていないも、トウはそれを理解することが出来ていた。

 説明する気はなく、それこそがトウの唯一の勝機。

 

 ――魂喰らい。

 

 ステータス差は埋められないも、技術差によってそれを補うことができているのは、トウが誰とも関わらず寡黙剣士と呼ばれる所以になったSランクスキルの真髄によるものであり、テニフィスの魂を喰らっているからに他ならない。

 ステータス差があっても勝てるようになるのは、エルドとの戦いからよく理解することが出来ている。


 昔――同じSランク冒険者の一人が、トウに教えてくれた。

「寡黙剣士チャンよ、お前のスキルは俺の上位版みてぇなもんだ……つまりな、お前が魂を喰らえば、その戦い方や技術も取り込む……相手からしたら戦いの最中動きが理解されるんだぜ、やりあいたくないねぇ」

 勝ち目はないと想定していたが、テニフィスの動きが予測でき、先読みして回避、斬撃を与えることができている。


 もしかしたら、勝てるかもしれない。

 トウがそう思案しながら、刃の攻撃を繰り出せば――


 テニフィスは、瞬時に反応し、刃を振るうことでトウの肉を抉り、戦慄するしかない。

(――こいつ……動きが更に鋭くなっている!?)

 魂喰らいからテニフィスの思考を把握し、行動を予測したというのに、それよりも鋭い動きを見せてくる。


 今まで手を抜いていたのではない、互角以上の戦いをするトウに対し、テニフィスが進化していた。


 ここまでの強さに到達したというのに、ここから更に動きのキレを増していくテニフィスに、トウは憧れに近い感情を抱いていた。

 そして、やはりテニフィスに勝つためには――短期決戦以外にないとトウは確信を持ち、全力の連続斬撃を真正面のテニフィスに叩き込む。


 さっきまでは今までと同じ六発の斬撃だったのが、今では九発になっている。

 先程の六連の連続斬撃は、自分がどれ程まで限界に挑戦できるか、確認する為の攻撃でもあった。

 発動時の余裕、そこからの追加できそうな斬撃の数を把握し、聖刻によるステータスの上昇によって、更なる飛躍を見せた連続斬撃が、九連の斬撃を発生させる。

「――ほう!!」

 テニフィスは感嘆した声を上げながら、刀を振るうことで対処していく。

 六連から九連に変わったという変化もあり、斬撃の一閃が複数発テニフィスの肉体に直撃し、動きを僅かに止めた。


 後方に下がったトウは、自らの全てを籠めた――極識斬撃(ラストブレイド)を放つ!!


「――墜ちろぉォォッッ!!」

 トウの渾身の咆哮と同時、連続斬撃を受けて動きが止まったテニフィスに向かって刀を振るい、その刃から全力を籠めた斬撃による大衝撃が襲いかかる。

 

 テニフィスは、それを察知することが出来ていた。

 否、トウが聖刻で強化された時から、先ほど受けたその技だけは警戒していた。


 連続斬撃を受け、硬直したかのように見せて、テニフィスは力を溜めている。

 自らの進化と、それを受けたトウが短期決戦に持ち込むのは道理だと察知したからだ。


 それを含めて更なる高みへと昇華していたテニフィスは、完全なタイミングで切札を放つ!! 


「――天命終閃(エンド・レイッ)ッッ!!」 

 

 衝撃による白き閃光に対し――光の閃光。


 膨大な二つの衝撃が激突し、巨城に激震を引き起こす。


 そして――静寂が訪れた。

 

 完全に全力を放ったトウは、刀を床に突き刺し、ギリギリ立ち上がっていた。

「俺に衝撃が来ていない……」

 前方には衝撃によって吹き荒れた白い光が、未だに消えていない。


 後方のエルドは全身を痙攣させていて、まだ生きていることに安堵していた。

「勝った……?」

 呆然と眼前の光景を眺めて立ち尽くす。

 トウは、自らの勝利が信じられなかった。


 そして、膨大な光が消えた先に――

「――見事だった」

 肉体を崩しているも、それが再生していくテニフィスの姿が、見えた。


「く、くそっ……」

 トウは、それでも、眼前の天使を睨みつけている。

 攻撃には出られない、その気力が、もう残っていなかった。

「恐らく……オレをスキルで取り込んだ力も含めて、全てを先程の斬撃に籠めたのだろう……オレの全力を上回った――素晴らしい一撃だった」

「御託はいい……殺せ」

 刀に体重を乗せてなんとか立っているトウが、死を覚悟した瞬間。


「上居るのがアルダ様なら、オレが勝っていたんだろうな――」

 テニフィスは、刃を鞘に収めて、空を眺めている。

 修復していた肉体が、再びボロボロと崩れ落ちていた。

「もし、アルダ様の危機として戦っていたのなら……オレは君を何の躊躇いもなく殺していたのだろう……しかし、上のに居るのは、オレが守ろうとしたのは大魔王ファウスだ……そこまでしたいと、思わなくなっていた……だから、こうなってしまったのだろう……」

「……テニフィス?」

 トウは眼前の存在に、声をかける。


 テニフィスは、話を続けた。

「オレはただ大天使長に仕えたかっただけなのに、なんでこうなってしまったのだろうか……でも、最後は楽しかった。心から君に感謝しよう」

 トウに対して優美に一礼をしながら、テニフィスは眼鏡をはずし、それを眺めた。

「トクシーラ様が大天使長になってから、魔界の存在と会議をすることになり、馬鹿なオレは眼鏡をかけた……アルダ様はそんなオレを見て「似合っているな」と言ってくれた……だから、どんなことを企てていたとしても、トクシーラ様よりもアルダ様に従いたいと思ってしまった。簡単な男だ……オレを取り込んでいる聖魔力の力があれば、その死にかけのドラゴンも治すことが出来るだろう……」

 会話の最中、トウは動けるようになっていた。

 それは、ボロボロになっているテニフィスの魂を喰らっているということもあるのだろう。


「……どうして俺が勝っているのか、教えてくれないか?」

 トウがテニフィスに訊ねると、軽く頷いて。

「オレのスキルだ。敗北を認めた時――敗者は勝者に干渉できず死ぬことになっている……まさか自分のスキルに首を絞められるとは……君は生きたいと願い、オレは生きる必要があるのか悩んでいた……それが勝敗を決したのさ」

 テニフィスはトウを完全に上回っていた。


 全力の撃ち合いにおいてだけ――トウが勝利した。


 そして、テニフィスが負けを認めた。

 決闘スキルの効果が発動され、自壊しようとしている。

 トウは命がけで時間稼ぎをする為、死ぬことが負けだと決意しながら戦っていたが、テニフィスは違ったのだろう。

 その違いが、勝敗を決めたのか。


 身体が崩壊する寸前のテニフィスに、トウが一礼をして。

「天界最強剣士テニフィス、お前の存在を……俺は決して忘れない」

「感謝しよう。心残りがあるとすればクレンだが……彼は強いからな、心配は野暮か――」

 そう告げながら、テニフィスは粉々になり、空気と同化するかのように消失した。


 満身創痍となっているトウは、エルドの元へと向かう。

 テニフィスを取り込んだからか、聖魔力の使い方が、僅かに理解できている。

 エルドを回復しているが、これでは応援に行っても役立たずだなと、トウは理解することができていた。


 エルドとレグロラは旧知の仲だからこそ、エルドが最後だけ勝利できた。

 トウはテニフィスのスキルによるもので、本来は敗北を喫している。


 エルドもトウも実質敗北しているようなものであり、一切関わったことがなく、序列一位であるファウスは同じようになるとは思えず、完全に上回るしか倒せないだろうとトウは考えながら、ソウマの勝利を願っていた。


――――――


 ――トウとテニフィスの戦闘が始まる前


 俺は大階段を駆け上がり、最上階に到着した。


 そこはルードヴァンの記憶通り、椅子以外は何もない場所だった。

 階段を登り切ったと同時に床となる。戦いにおいて邪魔になるからか、下りる階段が完全に消えていた。

 これは知らないぞ、誰も援護に来られないじゃないか。

 ルードヴァンは三対一を三回やると推測していたから、説明は不要だったということか。

 そして、引き返すことは無理になったということでもある。

「――よう」

 階段を登った真正面に、ルードヴァンが座っていた椅子と同じ椅子に座る一人の男が、右手を軽く挙げながら挨拶をしてきた。


 城の中だというのに木の笠を頭に被り、鋭い切れ長の眼で楽しげな表情を浮かべている。

 腰に刀を差し、スラッとした長身の剣士と間違われてもおかしくない青年。


ファウス

魔王

HP354000

MP233000

攻撃40400+780

防御24900+560

速度32900+500

魔力25500

把握20500

スキル・()魔王()攻撃強化()


 40000超え――とてつもない領域まで来てしまったな。


 防御が柔いのが唯一の勝機だろう、それでも俺より高いが、把握値だけは俺が勝っているな。 

「お前が大魔王ファウスだな。時間がない、さっさと――」

「時間がないってのは生物界に侵攻してる魔族のことだろ? なら……大魔王ファウスが命じる。全魔族は人間を襲うのを止め、魔界へ戻れ」

 俺が言葉を最後まで言うより先に、不快な表情を一瞬だけ見せたファウスが、そう宣言した。

「……はっ?」

 その行為に俺は驚くしかなく、ファウスは続ける。

「お前が死ぬまで、魔族は人間を襲わないし侵攻もしない。これで焦って短期決戦を狙う必要性はないな」  

 果たして、この魔王の言葉を信じていいのだろうか?

 いや、ここで嘘を吐く必要性はないか。

 

 唖然としていると、椅子に座ったままファウスが言葉を続ける。

「回復は出来ているようだな、魔王城(ここ)には何人で来た?」

「……三人だが、エルドはレグロラと、トウはテニフィスと戦っている」

 俺は、そう正直に答えていた。

「なら待ってても来ないだろうな……戦闘を始めるまでは階段を出せるんだが、待ってたらテニフィスが片付けて、邪魔しに来る可能性もあるか……俺的には一対三か一対四ぐらいでやりたかったんだが……理想通りにはいかないってことだな」

 そう告げながら、ファウスは椅子からゆっくりと起き上がる。

 椅子に手を当てると、その椅子が一瞬で消失した。


 これで完全に、俺とファウス以外は何もなくなった。


 広大な大広間で、俺とファウスが対峙する。 


 俺はファウスは睨み、ファウスはどこか機嫌が良さそうに聞いてくる。

「お前、名前は?」

「ソウマだ」

 その返答の直後、ニッと鋭い牙を見せて、ファウスは笠を放り投げた。


 ファウスの頭部には、木でできた角が捻じ曲がって二本生えていた。

 どこかラバードを思い出させるそれを眺めている俺に、ファウスが告げる。

「今まで魔族には隠してきたが、俺は木人でな……ソウマには俺の正体を見せておきたかったのさ」

 木人という種族は今初めて見たが、世界樹だったルードヴァンの息子なのだから、木の人だということは理解が出来る。

 ファウスは話を続けた。

「今から戦いが始まる。誰かから聞いたのかもしれないが、闇の波動で回復するタイプの道具は全てが消し炭になるからな、そんで階段が消えている通り、戦闘中は逃げることはできない。戦いが始まれば終わるまでは誰も此処に入れない……この決戦場の決まりみたいなもんだ」

 そう丁寧に説明しつつ、ファウスは身体に宿る威圧感を強めていく。


 試しに瞬間移動で階段の下に行こうとしたが、行くことはできない。

「……一つだけ、聞きたい」

 どうしても、俺は気になることがあった。

 ファウスは軽く頷いて。

「一つじゃなくてもいいけど、なんだ?」

「なんでお前はそこまで俺に対して説明をしてくる?」

 戦いが始まれば、ファウスは会話を仕掛けてくるかもしれないが、俺は余裕がなくなるだろうからな。

 その前に、これだけは聞いておきたかった。


 ファウスは、満足しきった笑顔を浮かべて、語り始める。

「――夢だったんだよ。俺の二つある夢、一つ目は大魔王の座に座り、スコア序列一位、世界最強になること。そんで二つ目は大魔王の座についた俺に対し、全てをかけて挑んできた奴を、返り討ちにして勝利することだ」

 幸せの絶頂に到達したという反応を見せてくるが、ルードヴァンを倒したのはアルダのはずだ。

「でもアルダ頼りだろ? それにアルダの方が強いんじゃないのか?」

 煽りとかではなく、純粋に気になったから聞いてみると、ファウスは笑みを更に強めて。

大魔王(オヤジ)はどう足掻いても勝てないって、そう俺を生み出す前に決めていたのか知らないが、本能が理解しちまってたからな。誰かが消してくれるのを待ち、そこから大魔王となった俺が、挑んできた誰かと戦いたかったのさ……アルダはそれに協力してくれた。魔族ぐらいやるし、生物界を支配するのならすればいい」

 殺意と悪意の塊だったか。

 自己中心的な奴だが、協力者であるアルダの手助けをする辺り、恩義は感じているみたいだな。


 獰猛な牙を見せながら、楽しげにファウスが叫び声を上げる。 

「名乗りをあげろ――俺はスコア序列一位、大魔王ファウス!!」

 これが――最後の最後だ。


 俺も宣言するべきだな。

「スコア序列八位、無所属ソウマ!」

 その叫びと同時に、ファウスの全身から膨大な闇の光が発生した。


 それは部屋全体――いや、透過して城全体にまで広がっていく。


 目暗ましではないと感じていると、腰のホルダーに差していた回復薬の瓶がビキビキと悲鳴のような音を鳴らす。

 思わず眼をやれば、緑色をした回復薬が真っ黒になり、消し炭と化して空気と共に消えた。


「闇の波動ってやつか」

 ファウスは返答せずに、両腕を広げて、楽しげな笑みを浮かべた。

「そんじゃ――始めるとするか!!」

「全身全霊を持って――叩き潰す!!」

 腕を元に戻したファウスが叫び、俺も叫ぶ。 


 俺とファウスは、ほぼ同時に後方へと跳ぶことで距離を取った。

 相手の出方を見ようとした俺に、ファウスが合わせたのか。


 違う――ファウスは助走距離を確保しただけだ。


 物凄い勢いで駆け出し、一気に距離を詰めてくる。

 咄嗟に戦特化を発動し、俺はファウスに回り込もうとしていた。


 速度はこれでもファウスの方がやや速いが――食らいつける!


 刀の刃が肉体に干渉する間合いに入る。 

 瞬間――互いの鞘から、銀の刃が煌めき、瞬く間に交錯する。


 刃と刃が交わり――最終決戦が始まった。

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