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集結

 俺達は円陣を組んでいるかのような体勢で、大橋まで瞬間移動をした。

 

 海聖神殿は観光名称となっているし、観光者を退避させる必要がある。

 瞬間移動を行う前、色々と起こるだろう問題をどう対処しようかと悩んでいたのだが……。


 周囲を確認しておきたかったということもあり、俺達は丁度大橋の真ん中ぐらいの場所に着地する。

 戦場となるにはうってつけな程に広大な橋であり、左右の端から大海原を一望できる。

 橋の欄干はあるにはあるが、軽く飛び越えられる程度だ。

 そして、瞬間移動で現れた俺は、すぐに見えた光景に驚くことになる。


 大橋にはなぜか、AからBランクぐらいの冒険者が集まり、神殿を眺めたりしていたからだ。

 そこに居た冒険者の数は数十人程度で、様々な職業の冒険者達が、全員武装をしていた。

 AランクBランクだと解ったのは、神眼で一瞬見えたからであり、それぐらいのステータスの者ばかりだった。

 ただ観光者の姿は見えず、ルードヴァンとモニカを除く俺達は唖然とするしかない。


 俺達が突如現れたことで周囲が僅かにざわめき、その中に、俺達が知っている顔が二人居た。

「手間が省けたな」

 思わず、俺は呟いてしまう。

「ど、どういうことだ……それに、その二人はなんだ!?」

 ロマネとヒメナラが、急ぎ足で俺達の元へとやって来ていた。

 どういうことだというのは、俺の台詞でもあるのだが。


 驚愕しているロマネとヒメナラに、いつの間にか距離を詰め、満面の笑みを浮かべているモニカに担がれていたルードヴァンが二人の額に触れる。

 一瞬だけ硬直してすぐに手を離していたが、すぐさまロマネとヒメナラは衝撃を受けたかのように固まってしまう。

 一瞬の出来事であり、これはルードヴァンの記憶を送っただけか。

 これから何が起きるのかを把握して、二人とも顔が真っ青になっていたが、すぐに元へと戻っている。


 便利な力だと関心すると ロマネは周囲の冒険者達を神殿の方へ配置し、警戒を強める様にと指示を出してから、ヒメナラと共に不安げに俺達の元へやって来た。

「ソウマ……その子供にしか見えない男がルードヴァンで、これから起こることは真実なのか?」

 ロマネの眼が僅かに泳いでいる。

 今から起こる事態を信じたくないというのがよく伝わってくるが、俺は言うしかない。

「これだけのことが出来るんだし、間違いないだろう。どっちにせよ後数分したら本当か嘘か解るだろうな」

 俺もルードヴァンの言葉が嘘だって思いたいが、それが真実かどうかは数分経てば解る事になる。

 数分待って、何も起きませんでした。ならいいのだが、俺達が来るよりも先に、冒険者達がここで待機している。

 なにか予兆的なのがあったのだと、俺でも推測することはできた。


 俺の発言を聞いて。

「…………馬鹿な」

「正気じゃない」

 明らかに焦るロマネと、冷や汗を流しているヒメナラ。

 ヒメナラはいつもの黒髪短髪のおかっぱ頭が似合う無表情から、不安の塊のような表情へと変わっている。

 ここまで変化しているのは珍しいなと考えていると、ミーアが質問した。

「でも、ロマネ達は此処に来ているじゃない、何かあったんでしょ?」


 それを聞いたロマネは、軽く頷き。

「ああ……時間的に三十分ぐらい前、五大迷宮が活発になるにしてはかなり早いが、その兆候を探索していた冒険者が感じたらしく、その冒険者が報告することで観光者は避難させた」

 二週間ぐらい前に、俺達が防衛した時に言ってたことを思い出す。

 本来三ケ月に一度ぐらいらしいのたが、僅か二週間ほどでその兆しが見えたから、警戒して観光客を非難させ、冒険者を集めていたということか。


「冒険者を集めて、そんでそれを聞いたロマネも駆けつけたってことなのか?」

 三十分程でよくここまで出来たものだと、俺は感心するしかない。

 迅速な行動なのは、ギルドリーダーが優秀だからなのだろうか。

「いや……五大迷宮、そしてダンジョンにこれから異変が起きると王都のギルドから連絡があり、更に緊急クエストとして各ギルドへ通達があった。これから五大迷宮、そして一部のダンジョンから魔族が侵攻してくるとな……魔族がやってくるダンジョンの詳細も判明しているらしく、冒険者が駆けつけている……緊急クエストとして世界中のBランク以上の冒険者が、防衛にあたっているはずだ」

 俺達に向かってロマネが告げた。


 ルードヴァンのいう連絡とやらは、出来ているようだな。

 しかし、ルードヴァンは、僅かに悩んだ顔を浮かべて。

「ダンジョンに兆しがあったのか……時間的に見て、それはファウス達が城に乗り込んできた時よりも速い……恐らく、ファウスが先に誓で生物界に攻め込む魔族を待機させていたのだろう。それによって、本来ダンジョンに住んでいる者たちの動きが変化した」

 本来決まった期間にしか外に出ない五大迷宮のモンスターが、出てきたりしたらしい。

 観光者が身の危険を感じて逃げ去るのは当然だろう。


「ここまでの事態じゃ、この者が大魔王ルードヴァンであると、信じる以外にないじゃろ」

 そうセレスが告げると、ロマネは不安げに俯いた。

「戦力的に一番危険なのは、此処になりますね……」

「わらわ達も戦うのじゃが……相手の数が脅威となるの……」

「……私はできる事をします! 師匠、ローファ、ミーア……そしてソウマは一番大変になると思うが……共に戦って下さい」

 ロマネは不安げになりながらも、俺達に頭を下げて、冒険者達の元へと向かう。

 後ろにヒメナラをついて来させ、冒険者達の周囲で指揮を取り、戦闘の陣形を組み始める。

 あんな衝撃的なことを聞いても、だからこそギルドリーダーとして振舞うその姿に、俺はカッコよさを感じるしかなかった。


 そして数分が経ち――世界に危機が訪れる。


 ルードヴァンの移動手段とやらはまだ時間がかかるらしく、俺も大橋で待機している。

 戦力がどれ程なのか、エルフの里に行く前に確認する様にと、ルードヴァンが言ってきた。


 どれ程のものか……。

「魔族は人型なら心臓部にある核に向かって攻撃せよ! 勝てぬと感じた者は即座に退け! 邪魔になる!!」

 ロマネが叫び声をあげている。

 大橋の中心、そこに冒険者達は待機していた。


 そして――ダンジョンからモンスターの群れが飛び出し、ロマネが宣言した。

「――来るぞ!!」

 最初に見えたモンスターは、前にも見たことがあった。

 こいつ等は恐らく、五大迷宮に住んでいるモンスターなのだろう。

 弱いモンスター達が、魔族に怯えるかのように先陣を切る。

 

 そして、その後方で、ゆっくりと迫る大軍。

 前の防衛クエストとは違う、明らかに強力な魔族の群れ。


 ――人類の未来をかけた、戦闘が始まった。


「もう目立つからとか言ってられないな!」

 先頭に立って俺の切撃ち、ローファの魔閃、限界点薬を飲んだミーアの聖魔弾が、モンスター、そして魔族達に攻撃を仕掛ける。

 ルードヴァンが伝えてきたが、魔族は核が破損するとそれだけで致命的になるらしい。

 回復できず、肉体が塵となって消失していくらしいが、だからこそ人間の脳や心臓よりも遙かに強度があるらしい。

 人型は先程ロマネが告げたように心臓部、他は解らないが、頭部か胸辺りを狙うべきだったな。


 先陣の弱いモンスターは、我先にと行動を始めた魔族によって蹴散らされたりもしている。

 相手は指揮とかなさそうだな、完全に自らの思うままに行動しているぞ。


 問題は、いきなり本能のままに飛びだした魔族と、後方でゆっくりと侵攻してくる魔族だろう。

 セイラーンを思い返す黒い鎧だけの、ステータスが見れる存在。骸骨の剣士。三つ首の龍。

 他にも多種多彩に存在する魔族達、どれもこれもが異形であり、ステータスは1000から高い奴は4000とかなり強いが、俺達の敵ではない。


 俺は切撃ちを力を籠めてから放つことで、閃光を太くして放つ。

 しかし、切撃ちは広範囲殲滅スキルではない。

 魔族達の肉体を貫通し、後方の魔族にも致命傷を与えるも、数体ほど破壊した後に閃光が消滅し、俺は舌打ちをするしかなかった。

 それを確認して俺と関わりたくないからか、他の魔族を犠牲にして先へと向かうとした魔族共を、ギルドの冒険者達が対処している。

 その際、負傷したA、Bランク冒険者をセレスが結界によって守ることで後退させた。


 ロマネは剣を振るい、ヒメナラも魔法を放つ。

 橋の先には進ませまいと、俺達は猛攻を魔族、モンスター達に仕掛けているが……。


 ――あまりにも、数が多すぎる!!


 一体でも逃したら街が崩壊する可能性のあるモンスターだ。

 街にはこういう時の備えとして壁があるも、魔族達はステータスが高い、壊される可能性が高いだろう。


 だからこそ、冒険者たちは必死で戦い、力量差が感じたBランク冒険者は大橋の後方で最終防衛ラインとして待機している。

 今現在、主に戦っているのは俺達四人、ロマネ、ヒメナラ、モニカ、ルードヴァン、後はAランク冒険者が六人程度か、他は補助に回ったりしているが、互角以上に戦えているのははこれぐらいだ。

 モニカが銀閃で魔族を蹴散らし、弱った魔族の魔力をルードヴァンが取り込み、魔力をモニカに与えたりもしているが、そこまで回復していないというのは、モニカがスキルで肉体を修復させないことからよく解った。


 Aランク冒険者も必死に一体の魔族に食らいつくのがやっとだ。

 神眼で僅かに見えるヤバいステータスの敵は向かわせないように俺とセレスで蹴散らしているのだが、それでもキリがない。

 ここで俺が抜けて大丈夫なのか……というか、移動する手段ってのはいつ来るんだよ。

 

 俺達は焦燥感にかられながら戦っていると、遂にそれがやって来る。


 戦ってまだ数分、俺達の上空に、巨大な影が発生した。


 上空を見渡せば、黒と金に煌めいた巨躯が見え、それは鱗で、肉体だと理解する。

 どこか見覚えがあり、すぐにそれが何なのか――俺は察することができた。


 移動手段、ギルドに連絡を入れた存在。


 それは――

「エルドか!!」

 Sランク冒険者にして、大魔王ルードヴァンと契約を交わしていた龍帝エルドの姿が、そこにはあった。


 俺がエルドの名を叫んだと同時、ルードヴァンと共有した記憶から、その情報が一気に出てくる。


 記憶の中にはあるようだが、どうやら、俺が知ろうとしない限り、記憶の奥底に眠るようだな。

 エルドとルードヴァンが会合したのは二回だけらしいが、誓によるものではなく、上位神龍と龍帝のみが一体の存在と交わせる契約によって、お互いの意思を送り、命令や報告を出すことが可能になる。

 エルド達龍の力だから、ルードヴァンが弱体化しても、問題なく使えたということなのか。

 そしてエルドにギルドの連絡を頼み、この大橋に来るようにと命令を出したということか。


 そして、龍の帝王は、眼下の大橋に向かって、高らかに、雄々しい声を響かせる。

「――我は龍帝エルド! 冒険者に告ぐ! 十秒以内に後方へと下がれ!!」

 その発言の後、キュィィィ――ィンと、上空から膨大な音が鳴り響く。

 まるで大気が悲鳴をあげているような、それ程前の轟音に俺達と、そして魔族も全身を震わせた。


 何かを思い出す、その最中。

「全員退けぇぇ――っッ!!」

 ロマネが叫び声を上げ、俺達はBランク冒険者が待機していた後方まで全力で下がる。

 迫ろうとしてきた魔族は、切撃ち、ローファの魔閃、セレスの結界、ミーアの聖魔弾で吹き飛ばしていく。


 ようやくそれが、リヴァイアサンが水の閃光を放つ前の行動だと思い出す。


 息を吸うだけで、周囲を激震させる程の力。

 それが味方になると、ここまで頼もしいとはな。


 本当に十秒丁度になった瞬間、海神龍とは比べ物にならない程の魔力による真っ白な、聖魔力ではない、ただの魔力による閃光を、エルドが口から放つ。

 海聖神殿までの魔族を一瞬で薙ぎ払い、首を左右に向けることで、取りこぼしをなくし、魔族達を跡形もなく消失させていく。


 ――膨大な力の一閃。

 

 エルドが放ったドラゴンブレスの規模に、ルードヴァン以外の俺達全員は、驚愕するしかなかった。


 エルドは巨躯な人間の姿となり、魔族を蹴散らした大橋の中央に降り立つ。

 するともう一人、エルドの背に乗っていたのだろう、黒が主で銀が入った短髪、端麗な顔をした少年にも見える青年が、鮮やかに着地した。

 それを見て、ヒメナラが駆け寄り、叫ぶ。

「トウ!!」

 微笑みながら抱き着くヒメナラの頭を、嬉しそうにトウが撫でている。

 こいつら、いつの間にか結構進展している気がするぞ。


 そんなことを思いながら俺達も中央に移動すれば、少し距離があるもトウが俺に話しかけてきた。

「我と共に来て欲しいってエルドに頼まれてな……確かに、ここが一番危険だから、応援に来るのは当然だとは思うのだが……」

 トウは、色々なことが理解できていないという様子だった。


「エルド、行動に感謝する」

 そう告げながらルードヴァンがエルドに近寄り、気付いたエルドは膝をつく。

 しかしそれでも、体躯からか立っている少年と同じぐらいの目線だ。


 そして、目線を合わせたエルドは、少年の名を叫ぶ。

「姿を変えたなルードヴァンよ!」

「……はぁ?」

 トウはわけの解らない奴を見るような眼で、エルドとルードヴァンを交互に眺めていた。

 すぐさまヒメナラに手を引かれながら、されるがままになっているトウが、ルードヴァンの腕の届く距離までやってくる。

 ルードヴァンの手の平が二人の額に触れて、トウは納得したかのような表情を浮かべた。

 一瞬だから軽く教えた程度なのだろう、エルドにもこれで具体的な説明をしたのだろうか。


 そして、ルードヴァン、エルド、トウがが俺の元にやって来て。

「ソウマ、今からこの三人で大魔王城へと向かい、三対一を三回行なってファウスを倒す……それ以外に、世界を救う方法はないだろう」

 ルードヴァンが言った移動手段、そして戦力ってのは、エルドとトウのことか。

「俺を入れても三人なんだな」

「他のSランク冒険者は正直戦力にならぬ……まず我の最高速に耐えることができないだろう!」

「ソウマ、お前が今想像している速度より、遥かに速いぞ」

 トウが補足してきたって事は、前の移動は本気じゃなくて、今は全速力で此処まで来てくれたってことなのか。

 王都からここまで数十分の速度だったらしいが、ギルドに連絡を行なって、トウを呼び、此処へと来た事から、尋常ではない速度だと推測することはできる。


 トウもついているし、勝てるとしたらこのパーティだろうな。

 そしてエルドが、俺の肩を軽く叩いてきた。

「ソウマか! スコアに名前が載ってたな!!」

「それについては移動中に話そう……瞬間移動が使えるんだろ?」

 ルードヴァンが教えたのだろう、トウがそう言いながらエルドを掴み、俺に手を伸ばす。


 一応、俺は二人に聞く。

「エルドと、トウはいいのか? 相手は……」

「我はルードヴァンと契約を行なった龍帝だ。それに奴と……邪神龍レグロラと話をする必要がある……だからこそ、トウとソウマに同行して欲しいと頼むしかない!!」

「エルドがそう言ってるし、人類最強が逃げる気はない……俺は今最高だからな、支配されるなんて真っ平だ!」

 二人はそう叫ぶように大声を出して、ほぼ同時に、俺に聞いてくる。

「「お前はどうなんだ?」」

「同じだよ……こんなふざけたことをする大魔王とやらを、ぶちのめしに行こうぜ!」

 勝ち目が出てきたことに俺は笑みを浮かべながら叫び、踵を返して後ろに振り向く。


 ローファ、ミーア、セレス。

 俺を心配そうに見つめる三人に、俺は笑顔で告げた。

「この二人と一緒なら、俺は大丈夫だ……皆はここで魔族を止めていて欲しい、さっさと終わらせて、瞬間移動で戻って来るからな」

 俺のその言葉に対し、ローファは何か言いたげだったが、今さっきの戦いで、此処の防衛力を理解したのだろう。


 皆が居なければ、キリテアの街に被害が出るかもしれない。

「本当は止めたいけど……止めたら、もっと大変なことになるもんね……お願い」

「必ず帰ってくるのじゃぞ!」

「ソウマ様、私は此処を! 必ず守り抜きます!!」

 俺は、心配そうに見つめる三人に、笑顔で応えた。

「ありがとう――行ってくる!」

 トウの手を、俺は掴む。


 俺、エルド、トウの三人は、エルフの里へと瞬間移動をした。

 

 後には引けない――これが最終決戦だ。

 

――――――


 消えたソウマの位置を眺めながら、ローファが呟く。

「ソウマ様……」

「あのメンバーなら、勝てるかもしれぬが……勝てなければ、わらわ達は神に支配されるか……わらわは絶対嫌じゃぞ」

「私も嫌ね。大聖者だけど!」

 ソウマは回復薬の瓶を五つ、腰のホルダーに差しているだけだ。

 ファウスの持つ闇の波動から、そこまではトウのマジックバッグの回復薬も使う予定で、それだけで構わないと言っている。

 三人は不安になりながら、ソウマが無事に帰ってくることを願っていた。


 そして、冒険者達は再び中央に移動し、海聖神殿の入口を警戒しているが、動きはまだない。

「……エルドのお陰で、魔族の侵攻が止まりましたね」

 安堵しながらロマネがそうルードヴァンに尋ねるも、ルードヴァンとモニカは警戒しながら、海聖神殿を眺めている。

「……海聖神殿によって生まれたモンスターは全滅したが、魔族はほんの一部……恐らく、エルドの一撃で警戒しておるのだろう」

 ルードヴァンの小さな口から出てくる高く柔らかな、そして威圧感のある声を聴きながら、モニカが続ける。

「はい……恐らく、ここからは魔族でも上位の存在が現れ、それに続く形に……」

 そう推測していると、神殿の開いていた扉から、一人の人影が見え。


 神殿から一人の少年が、冒険者達、ローファ、ミーア、セレス、モニカ、ルードヴァンの元に、走ってやって来る。

 ねじ曲がったかのような小さな黒い角を二本林、赤シャツに黒ズボンという簡素な服を纏った、黒一色の瞳をした小柄にして、凶暴な威圧感を纏った存在。

 海聖神殿から鬼人ラバードが現れ、長い大橋を楽しげに駆け抜け、冒険者達から少し離れた距離で立ち止まった。


 ラバードはモニカを発見し、笑みを浮かべて。

「モニカさん! こんな所にいたんですね! さっきは仕留め損ねてしまいましたが、今回は殺しますよ!」

「ラバードッッ!」

「よせ、お前のMPは2割を切っておる!」

 ルードヴァンが静止させ、ラバードの背後にある神殿の入口から、先程と比べればかなり小規模な魔族が現れる。


 ラバードの後に続くかのように、先ほどよりは遙かに少ないも、強力な魔族が侵攻を開始しようと橋を歩き、冒険者達が警戒心を強めていた。 

 そして、ラバードは変わり果てたルードヴァンの存在にも気付き、驚いた表情を浮かべて。

「あれ? トクシーラ様が黒髪に? まさか……まあいいです。これから僕と天使……じゃないや、神のペットが貴方達を滅ぼしますからね!」

「神のペットだと――」

 モニカが叫び声を上げる前に。


 空からゴゴゴゴゴと、大気が悲鳴をあげたかのような轟音が鳴り響く。

「な、なんだッ!?」

 そこに居た全ての存在が、天を崇めるかのように上空を眺めるしかない。


 天空より現れし一体の神秘的なドラゴンに、目を奪われるしかなかった。


 美しい銀と黄色の鱗、巨大にして長い蛇のような体躯、紅く輝いた宝石のような眼、鋭い牙を見せつけながら、その龍が雄々しい雄叫びをあげて、大気が更に振動を引き起こす。


 その異常現象を一切気にせずに、ラバードが橋にいる全ての人間達に向けて、楽しげに告げる。

「紹介しましょう! アルダ様と契約していた雷神龍……いえ、今は聖刻という天使の力によって聖神龍となったバルフトです!」

 バルフトと呼ばれし神龍のステータスをセレスが確認し、驚愕するしかない。


雷神龍バルフト

HP275000

MP288000

攻撃18690

防御21200

速度14500

魔力22400

把握11000

スキル・帝龍()雷の加護()全耐性()半天使()


「半天使持ちの神龍じゃと!?」

 神眼で確認したセレスは驚愕した叫び声をあげ、ローファとミーアは警戒を強める。

 その神々しい姿に気を取られている場合ではないと、冒険者達は冷静に真正面を警戒した。

 

 空の聖神龍が眼下の人間を双眸で睨み、そして鬼人を先頭とした魔族達が、人間達の元へ迫ろうとしていた。

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