石喰らい
――そこは、真っ白い空間だった。
俺はいつの間にか、簡素な木の椅子に座っている。
そして正面、大魔王と言わんばかりの豪華な椅子に座るルードヴァンが居た。
周囲には何も存在していない、俺とルードヴァンが対面している。
それだけの空間だった。
「今、我とソウマは互いの記憶に干渉している……さて、何があったのかを説明するとしようか」
そう子供にしか見えないルードヴァンが告げたと同時、俺の記憶に様々な映像が入ってくる。
第一から第三までの天使の存在。
第二天使にして大天使長のアルダ。
そして――聖刻。
ルードヴァンが下級天使トクシーラを取り込んで大天使長になり、アルダが聖刻を使ってそのトクシーラを取り込むことで頂上を奪還し、世界最強の存在へと昇華した。
アルダはスコア序列一位となっているファウスと手を組んでいた。
そのファウスがアルダと協力することで、ルードヴァンから魔王の座を奪い、スコア序列一位となる。
序列一位となったファウスによって、スコアが変化を起こしたというのは推測らしいが、スコアにある名前を見ると、ルードヴァンは断定できるらしい。
記憶に入ってくるような感覚で、様々な映像やら情報やらが一瞬で何となく理解でき、俺は質問する。
「……ファウスが大魔王になって誓を手に入れたって……ルードヴァンは今ここにいるのでは、ないんですか?」
大魔王だし、敬語の方がいいのか?
でも助けを求めているのなら……。
「敬語はいらぬ。対等に話そう……ファウスに我が所持していた誓を全て譲渡し、我を両断しようとした瞬間、我は自らをスコアから除名することによって、殺したと思い込ませた……スコア一位が使える特権の一つだ」
つまり、スコア序列一位になったら、スコアから名前を消すことができるってことなのか。
まず一位になれる気がしないし、その間に名は知られることになるだろうから、スコアから逃れる方法としては使えないな。
「モニカが現れた時、ルードヴァンが丸太だったのは?」
「我は世界の誕生と共に存在した世界樹……それに生命が宿った魔族だ」
だからこそ最初から存在する大魔王ルードヴァン。
誓のことについても、ルードヴァンから記憶を送られたことで何となく理解している。
世界最初の生命だからこそ、誓の力を所持していたということなのか。
そして、第一天使が魔族との戦争によって一体残らず滅ぼされ、再び誕生した天界最初の生命、アルダも同じく、誓の力を所持している。
「モニカが持っていたのは本体のほんの一部分だ。ソウマがステータスが見られぬのは我の大魔王スキルによるものであり、実際の所、今の我はステータスが5000から3000程度となる」
モニカの元へ逃げてきたというよりも、モニカに自らの一部を持たせていたということになるのだろうか。
ルードヴァン全ての記憶が把握できている訳ではないから、色々な所が不明になるな。
とにかく、俺はルードヴァンに聞く。
「……どうして、自分の力を半分も天使に与えた?」
自分の力を半分削り、天使を取り込み、強化することで天界の頂点に君臨した。
そしてそれがアルダに取り込まれてこの状況になっているのが、俺には理解できない。
ルードヴァンは、小さな口で呟く。
「天界の戦力が知りたかったのもあるが……嬉しかったからだ」
「……は?」
その発言が全く理解できず、ルードヴァンが説明を続ける。
「トクシーラは下級天使であり、単騎で魔界にやって来た。我が対処すると言って、ソウマにやっているように記憶の干渉を行った……すると、そのトクシーラがやって来た理由は魔界を見たいというだけであり、全ての世界が平和であって欲しいと願う、我と同じ思想を持った、今まで見たことのない天使だった……」
その告げるルードヴァンは、明らかに嬉しそうだった。
トクシーラ以降の天使に対し、第三天使とトクシーラが、いや、取り込み、思想を共有したルードヴァンが名称をつけた。
新世代の天使として。
「我と同じ思想を持って生まれた存在に手を貸したくなった……第二天使は生物界を支配する気だったから、それを我の力で抑えようとした。我が半分の力だとしても、魔界と天界、両方の頂点に立てる力を持っていたからな」
それは……とてつもない力だな。
「その結果アルダに取り込まれたってことか……正直、どうしようもなくないか?」
さっき丸太だった今のルードヴァンのステータスは、5000から3000だという。
大魔王スキルがあるから神眼で把握できないらしいが、戦力になることはあまりできないらしい。
モニカも重傷で、魔力はまだ残っているらしいが、修復で魔力を使いたくないらしいし、戦力にはあまり期待してはいけないだろう。
トクシーラに力の半分を渡し、意思を同調させたのはミスだったのではないかと考えていると、ルードヴァンは首を左右に振って。
「いや、その後に生まれたクレンが神技能の支援を持っていたことによって、天界の戦力はとてつもない力となった……正直、先に我が大天使長になっていなければ、それだけで魔界と生物界は危うかったかもしれぬ程の力だ……」
クレンってのは、そこまでの存在なのか。
そう思想したと同時、クレンの情報が頭に入ってくる。
二日前に闘ったリアッケ、いやテニフィスの背後をついて回る小さな太鼓に見える楽器を腰に備えた小柄な少年。
上級天使としての個体の戦力は最弱だが、支援による強化によって、総戦力を強化する。
平和を望み、個の力に拘らない第三天使だからこその力らしいが、それが天界と魔界のパワーバランスを崩壊させる程の力だったらしい。
第三天使だからこそ争う気は一切なく、トップのトクシーラが平穏を望んでいたこともあり、誕生してすぐに生物界を制圧ということにはならなかったらしい。
クレンが生物界を襲う可能性は低いとルードヴァンが推測しているも、実際どうなるかは解らないな。
アルダの事に、ルードヴァンが話を戻す。
「アルダがどうしようもないという質問だったな……奴に対しては、ソウマのスキルで何とかなるはずだ」
「……石喰らいのことだな。ちょっとさ、この場所に飛ばされる前にお前は気になることを言ってたよな」
今までのことを、俺は軽く思い返す。
俺がこの石喰らいを発覚してすぐに、モニカが警告をする為にやって来た。
この石喰らいは、あの魔族と天使が争ったらしい荒野で魔石を取り込むことで多彩なスキルを入手し、それから聖刻の力も取り込んだ。
あの場所を知っていたからこそ、このスキルは効果を発揮していたのだが、それは本当に偶然だったのか。
そう、僅かに疑ったこともあったが、さっきのルードヴァンの発言で、俺は――。
「――ソウマの想像通り、その石喰らいは、我の干渉によるものだ」
思考を理解したのか、ルードヴァンはそう告げて、睨む俺に向かって話を続ける。
「直感スキルのみを所持し、尚且つあの荒野の周辺に存在していた三名。その中からソウマを選び、スキル「石喰らい」を授けた」
ああ――もし授けたとしても、なんで俺なのかが気になっていたんだよ。
それがようやく理解できて、俺は叫ぶ。
「直感スキルだけしか、俺は持っていなかったんだな!」
所持しているスキルは大抵一つか二つが基本だ。
人類最強のトウですら、二つだった。
だからこそ、ステータスを鑑定されても怪しまれないように、一つしかスキルを所持していない人間に限定したのだろう。
直感スキル持ちなのは、荒野の存在を直感から理解して、そこで天界魔界が遺した力を取り込むためだったってわけか。
ルードヴァンは、石喰らいについて、話を続ける。
「スキル「石喰らい」は元々、ありとあらゆる石を取り込む事ができたある魔族の力を、我がスキルにし、研ぎ澄ましたものだ……魂喰らいをベースにしてな」
だから名称が似てて、エルドのいうスキルによる共鳴を起こしたってことかよ。
「生物界ではEランクになるように仕掛け、我が部下ダークアイの協力もあり、直感スキルのみを所持していた三人の中からお主を選び、石喰らいを授けた」
つまりは――
「なんだよ……つまり、俺はお前の駒だったって事かよ!!」
カッとなって叫ぶも、すぐに俺は冷静になる。
――それは違う。
モニカは警告に来ただけで、むしろ魔界天界に関わるなと言ってくれたはずだ。
「モニカは何も知らぬ。我以外ではダークアイという部下が知っておった。我が指示を出せばモニカが察する可能性があったからな、ダークアイに指示を出してからモニカに頼ませることで、いつも通りの強い人間に対しての警告として、モニカを魔石を取り込んだソウマの下に向かわせた」
だが、俺にこの「石喰らい」を渡したのだから、それに対して何か理由はあるはずだ。
大魔王がただ人間にスキルを渡しただけということを、俺は信じる事ができないでいる。
いるのだが――
「第三天使になる前から聖刻の存在は気付いていた……しかし、アルダの隠蔽が巧く、魔石とダンジョンコアの力を利用している事しか解らなかったが……何とか石喰らいは対聖刻の役割が果たせたようだ……」
Eランクスキル「石喰らい」が発覚してパーティを追放され、魔石を喰らうことで多彩なスキルを手に入れてから、俺は誰かの命令に従ったことはない。
力を手に入れてからの行動は、全部俺の意思で突っぱねることができたはずだが、俺がやりたいから動いただけだ。
普通に生活する。その為に住む場所が欲しかった。
だから海神龍を倒すことで館を手に入れ、セレスを助けたかったから助けた。
後は何も関わりたくなかったのに、関わるしかなかった。
ロマネが助けを求めてきたし、街に被害を出させたくないから、俺はトウとエルドの戦いを止めた。
トウとエルドの二人でダンジョンに潜ったのは、軽率だった気もする。
それぐらいであり、俺が助けようと思わなければ、放置してもおかしくはなかったはずだ。
セレスを助けたのは俺が助けたいと決めたから。
エルフの里を助けると決めたのは、主にローファの意思だ。
俺がこんな人間だから、何か目的があって石喰らいを渡したとは、思えなかった。
そして、ルードヴァンが、俺に石食らいを渡した理由を話す。
「ソウマに対聖刻となる「石喰らい」を渡したのは、このままアルダの計画通り行けば、人間は何も出来ず天界の存在に支配される……だから、何か一つぐらい、抵抗できる力を持つ者が居てもいいだろうと、我が勝手に判断したからだ」
それは、大魔王が人間にできる、たった一つの事だったのかもしれない。
「ソウマに石喰らいを渡したのは、あの周囲で直感スキルのみを所持していた三人の中で、ソウマが一番誰かの為に動いていたと感じたからだ……正直、我は正しいことをしたのかが解らぬ。アルダの言葉通り、神に支配されることが正しいかもしれぬからな……」
そのルードヴァンの声には、迷いがあった。
俺は思っていることを、そのままルードヴァンに伝える。
「なにが正しいとか俺が知るかよ。でも……俺はこの石喰らいで、そこから手に入った多彩なスキルで、ここまで幸せになれた。それは、心から感謝している」
「それは紛れもなく、石喰らいを扱うソウマのものだ」
「ああ、言われるまでもねぇよ……神に支配されるなんて俺は真っ平だ。俺はこれから、ああそうだ! 俺はこれから華の新婚ライフが待ってるんだよ!!」
この四ヶ月間、俺は最高に幸せだった。
この最高に幸せな日々は、絶対に壊させない。
神が支配とか、絶対に嫌だね。
邪魔されてたまるかってんだ。
自称神だろうが、俺の力で何とかできるのなら、何とかしてやる。
――そして俺は、幸せな日々を送るのさ!!
その決意も干渉とやらができたのか、ルードヴァンは満足げな笑みを浮かべて。
「ハッキリ言おう、今のソウマでは、アルダには絶対に敵わない」
――上げて落としてきやがった。
俺はルードヴァンの発言を聞いて、正気か疑っていた。
「か、勝てないって……」
あんだけ盛り上げておいて、これか。
いや、俺が勝手に盛り上がっていただけだったのか。
今までのルードヴァンの発言と送られてきた記憶から、石喰らいは対聖刻スキルで、アルダに勝てるスキルなんじゃないのかよ。
今さっきまで、アルダに俺が触れて石喰らいを発動すれば、それで終わりだと思っていたんだけど、違うのか?
あんだけ石喰らいで何とかできるかのような空気を出したというのに、一気にどうしようもない状況まで落としてきたルードヴァンに俺が落胆していると、ルードヴァンが補足する。
「アルダとソウマでは力の差があり過ぎる。半分とはいえ我の力、そして大天使長、更には誓で第二天使を操作する……瞬間移動で迫ろうにも奴には対能領域があるから干渉ができない、接近する前に消し飛ばされるだろう」
「対能領域?」
「ありとあらゆるスキルを無効化する力だ……だが、それを破る方法として、我の切札を使う」
「……切札?」
何とかなりそうなことに、俺は安堵しつつあった。
ルードヴァン頼りになりそうなのが、不安でもあるのだが。
こいつ、一回アルダにやられてるからなあ。
その思考も読めたのか、ルードヴァンが一瞬だけムッとした反応を見せてきたが、すぐに柔らかな表情に戻る。
「しかし……その前に起こる危機に対処すべく、まずは大魔王となった我が息子ファウスを倒さねばならぬ」
……話がよく解らなくなってきたな。
俺はルードヴァンに聞いた。
「なんでファウスを倒す必要があるんだよ。というか、息子だって?」
「ああ、奴は我の殺意、悪意を切り離した存在だ……本名はファースト・ルムグ・ルードヴァン。奴はファーストという名前を嫌っておったな」
最初に切り離したルードヴァンだからファーストで、そこからファウスにしたのか。
「奴は、ファウスは最初は大したステータスではなかったのだが、我が持つ大魔王スキルよりも劣るも魔王のスキルを所持し、本能の赴くままに気にくわない魔族を殺戮し、我の一部だから所持していた「誓」の力で瀕死となった魔族には死か屈服を選ばせることで部下を作りながら自らを鍛え抜き、魔族を殺戮したことによってスコア序列三位の強さに到達した」
一部とはいえ大魔王、それも殺意と悪意の部分なら、そうなってもおかしくないだろう。
「ファウスのことは何となく解った。次に知りたいのは倒す理由だ」
「それは、奴等のこれからの行動にある。アルダとの戦闘中、我は奴の記憶に僅かに干渉することで、計画の全貌を大体把握することができた」
聖刻についても、それで大まかに理解していたという事か。
そして、ルードヴァンが今後起こるアルダの計画を、生物界に迫る危機を語る。
「ファウスが死か屈服を選ばせ、屈服を選び誓を受けた魔族が魔界の1割。そして我が譲渡した誓を受けた魔族は魔界の3割。その中で大魔王だからという理由でどんな命令にも従う魔族が魔界の2割ほどか……つまり魔界の総力3割が、これから五大迷宮とダンジョンを経由して生物界に侵攻し、人間に襲いかかる」
「はあッッ!?」
軽々しく、とんでもないことを小柄な少年が口にした。
叫んだ後も、俺は驚愕したままだった。
魔界の3割の戦力が、人間界に侵攻してくるというのは、とてつもないほどの脅威だ。
「前にラバードをダンジョンを経由して生物界に送ったたのは、あそこのダンジョンが、侵攻時に邪魔だから人間に壊させたかったのだろう……十体程度なら具体的な指示が出せるも、今回の行動は数があまりにも多いから具体的な命令は出せぬはずだ。均等に分かれて生物界に攻め込み、人間を襲え程度だろう」
俺の記憶に干渉したから、ラバードのことも理解したのか。
オーロラが見えるレヴィキ地帯は、人里からかなり離れていた。
人間が周辺に住み着くようになっている五大迷宮の周辺は、かなり危険だろう。
「五大迷宮は神龍が守護しておる。環境の補正でステータス以上の力を発揮できるから、暫くは足止めになるだろう……守護する神龍が存在しない地龍が近かった五大迷宮は王都が近いためSランク冒険者が多い。問題があるとすれば、海聖神殿があるここキリテアの街だろう」
魔界と生物界が繋がっているダンジョンは、高難易度ダンジョンばかりであり、周囲に人があまり住んでいない。
そのダンジョンの周辺とキリテアの街が、一番危険そうだな。
ルードヴァンが、説明を続けた。
「魔族によって人間を間引き、残った恐怖する人間の元に、第二天使を引き連れた神アルダが降臨し、そのタイミングを見計らってファウスが誓によって人間を殺した魔族達を、魔界へ引き返す命令を出す」
それが、アルダとファウスの計画ってやつなのか。
ファウスはスコア序列第一位、最強の称号を貰う条件として、アルダと手を組んだと、ルードヴァンは確信している。
「そんな下手な芝居でも、冒険者達の亡骸を見れば、現れたと同時に魔族を追い払う事で救いをもたらした神に従うしかないってことか……」
「被害を防ぐためにはファウスを撃破することで誓の力を入手し、魔族引き下がらせる必要がある……大魔王を倒した者に従うのであれば、それを手に入れた者が人間だとしても、間違いなく従うだろう」
さっきまで魔族の頂点だったから、断言できるのだろうか。
そして人間の被害を抑えた所で現れたアルダをルードヴァンが切札で何とかして、俺が石喰らいで聖刻によって得た神の力とやらを取り込む。
「アルダは魔族と人間がやり合っている間は来ないんだな?」
その質問に、ルードヴァンが頷いた。
「相手がアルダだから確信は持てぬが、奴は我との戦いでかなり損傷している。その修復もあるし、魔族に攻め込ませている間に出てくる理由はない。人間を全滅させないか、様子は見るだろうが……」
そうなると、これから一番脅威となるのは、ファウスが指示を出して人間を間引く魔族達か。
俺達でキリテアの街を防衛したとしても、他の場所が危ない。
一番手っ取り早いのはファウスを仕留めて、誓の力で魔族を下げることなのは間違いないだろう。
まさか大魔王とやり合わなければいけないとはな……。
俺はルードヴァンに聞く。
「ファウスって奴なら、俺に勝機はあるんだな?」
それでもスコア序列元三位、自称神アルダの方が強いらしいも、現在序列一位なんだけど。
「………………アルダ、よりはな」
その長い沈黙は止めて欲しいな、不安にしかならないから。
「……問題は魔王城に向かう方法か」
「エルフの里まで瞬間移動を行い、そこから城に向かうべきだろう……移動する手段については、我がなんとかする。ギルドへの連絡も、問題ないはずだ」
なんとかって、どういうことだよ。
「ファウスはレグロラとラバードと共に行動しているが、それ以外の部下は近くに置いていない……魔王城は、その三体しか居ないはずだ」
他に居たとしても、霊山の敵クラスが魔界でも上位らしいし、俺なら大抵の魔族は瞬殺できるようだ。
敵が三体だとしても。
「俺の戦力は……」
「それも、何とかなるはずだが……」
言い淀むルードヴァンに、俺は釘を刺す。
「ローファ、ミーア、セレスはファウスとの戦いには参加させない。最悪俺一人で三連戦するからな」
マジックバッグ、回復薬を大量に持てば、何とかなるだろう。
そんな思考を、ルードヴァンは打ち砕いてくる。
「いや、ファウスは魔王の力を持っておる。戦闘を開始する前に闇の波動を放ち、マジッぐバックの内部、そして所持していている全ての回復アイテムを消し炭にしてくるだろう……マジックバッグは、セレスに預けておくべきだ」
戦闘前に回復アイテムを全部破壊してくるのかよ。
やりたくねぇが、やるしかない。
ルードヴァンの戦力とやらに、期待することにしよう。
「三人は生物界を守ってもらうべきだろう。説得はソウマがするべきだが、此処が一番防御力が弱い。それが人類の為だ」
キリテアのギルドで一番強いのがロマネだから、ここが魔族に攻め込まれたら、一番危ういのは事実だろう。
魔族といっても誓で従っている魔族達は霊山の連中よりは弱いらしいし、三人はここで防衛するべきだ。
今はファウスが悠長に、恐らく夜明けでも待っているらしいのだが、ここの時間にして後数分らしい。
「わかった――」
そう俺が頷いた瞬間――先程のように、意識が真っ白になって――
目の前でテーブルに乗っていたルードヴァンが、俺から手を放す光景が見えた。
皆僅かに驚いていて、心配そうに眺めている。
「数秒と言っておったのじゃが、数分二人共硬直しておったからの……モニカが大丈夫と告げておったが……」
どうやら数分ぐらい経っていた様だ。
それからルードヴァンはローファ、ミーア、セレスの額にも同じように小さな手で触れるが、それは一瞬だけだった。
「時間がないからな、我の記憶を軽く送り、今後の状況を理解させただけだ」
俺に対しては色々と説明したかったから、数分かかったってことか。
これから起こることを理解したのだろう、三人が動揺し、唖然としている中、俺は話す。
「……とりあえず、瞬間移動で海聖神殿の大橋まで皆を送って、そこから瞬間移動でルードヴァンを連れてギルドに行き、ロマネ達に説明して応援を呼び、他の所にも連絡してもらう」
ルードヴァンが連絡もできていると言ったが、念の為だ。
ギルドなら連絡する魔道具が、あったはずだからな。
説明をするのに時間をかけない方法は、ルードヴァンに触れさせるのが一番早いだろう。
「うむ、急ぐべきじゃの!!」
セレスが納得してくれて、皆も決意した表情で頷いている。
俺達にルードヴァンとモニカを含めた六人はすぐさま、瞬間移動で海聖神殿の大橋へと向かう。




