ギルド長に出会う
キリテアの街に到着した。
メニーの街と大きさはさして変わらないが、広大な海が見えるというのが特徴だ。
「すっごい、奇麗ですね!」
「ああ。何度見てもいいものだ」
「そうね……それじゃ、今後の事を話しましょうか」
広大な海の風景が見えるレストランで食事をしつつ、俺はミーアに目をやった。
「今後って、俺としてはここで家買って適当に暮らそうと思ってるんだけど」
「それでいいと思うわよ。五大迷宮も近いし、施設は揃ってるし、ここは暮らすのなら理想的ね」
普通のダンジョンは塔のような感じのものとか洞窟のようなものが主なのだが、五大迷宮に関しては建造物にしか見えない程の代物だった。
広大な長い橋を渡った先にある馬鹿でかい神殿が、この大陸に存在する五大迷宮の一つだ。
他の迷宮とは色々と規模が違い、手に入るアイテムのレベルも高いので命懸けで攻略する冒険者や、眺めるだけでも壮大なので観光地としても有名になっている。
「だろ?」
「なにか問題があるんですか?」
俺とローファが疑問に思っていると、ミーアは少し呆れ気味に。
「だからこそ、家は高いのよねー」
そういうことか。
確かに、昨日今日まではロックリザードを狩っていたが、それも装備やら何やらですぐ使ってしまった。
ロックリザードはかなり狩ってしまったので、数が減ってしまい、今じゃ擬態しているのを探すのにかなりの時間がかかっているし、今日は一匹倒して諦めたものだ。
なので、今日は道中のモンスターを倒して、ミーアが売れそうな部分を取り、それを売った金でここで食事をしていた。
つまり、日銭しか持っていないということであり、家を買うというのなら貯める必要がある。
俺には瞬間移動があるし、モンスターを狩りまくって、それで金を稼げばいい。
それなら、マジックバッグが欲しい所だ。
「となると、結局ギルドにパーティ登録するしかないということか……」
「多分、素材も取り過ぎたら買取不可になるかもしれないわ、他の冒険者のこともあるし、誰も狩らない大物を狩る方向の方がいいかもね。でも、ギルドであんまり大物を狩りすぎて目立つと、もしかしたらSランクが関わってるとされている魔界天界のいざこざに関わるように言われるかもしれない……ソウマのステータス的に、ありえてもおかしくないのよね……」
俺のステータスの高さについては、今日一日でミーアも理解している。
色々と考えてくれていることに、俺は感動していた。
多分ローファと一緒だったら、何も考えずに周囲で適当に暴れまわって、目立った上に他の冒険者から恨まれていただろう。
「……どうするかな」
「ステータスが高いということは、もしかして、お客様はリヴァイアサンを討伐に来たのですか?」
「……えっ?」
レストランの料理を持ってきたウェイターが、俺達に話しかけてくる。
その発言に、ミーアはテーブルを叩いて興奮気味に立ち上がった。
「ああっ!? そうだよ。えっ、ソウマ、もしかして覚えてたの!?」
なんだ?
首を傾げていると、ローファも同じ気持ちだったのだろう。
「どういう、ことですか?」
ウェイターは去っていき、ミーアが答える。
「十年ぐらい前からあるらしい有名な依頼だよ。誰でも受けられるからパーティ登録なしでもオッケー。クリアすれば報酬として館が貰えるリヴァイアサン狩り!」
「ああ、あったなー」
Aランクパーティでも無理だからと、Cランクの時に挑もうとしたリーダーを止めたことを思い出した。
もしかしたら無意識に覚えていて、だからこそキリテアの街にやってきたのかもしれないな。
海龍リヴァイアサン。
年に一度姿を現し、水害を引き寄せるとされているモンスターだ。
昔は神として崇められていたらしいが、調査の結果モンスターだと判明し、討伐クエストが十年ぐらい前にできたらしい。
報酬は年を重ねるごとに増えていき、二年前には離れにあると言われている豪華な館が贈呈されるらしい。
やってもいいけど、問題は目立つということか。
龍を倒せば龍核という結晶が手に入るらしい。
それを持ってくれば完了なのだが、俺はもしかしたら喰らってしまうかもしれないな。
いや、それはそれでなってしまったらなった時だな。
水害はある程度予測できるので避難することで被害を抑えられるも、毎年数人程度だが死者が出ているらしいし、俺が暮らす街の問題だ、解決するべきだろう。
「問題は目立つだけか……」
でも館は欲しい。
三人、もしかしたらそれ以上で暮らすつもりだからな。
「それなんだけどさ、そのクエストに関してだけなら、ギルド長のロマネに事情を話せば大丈夫だと思うんだ」
……ロマネ?
「誰だっけ?」
「ああ、そういうこと、そういうの、大体あたしがやってたっけ……ここじゃ結構仲良いから、話してみるよ」
昼食を終えた俺達は、キリテアのギルドにやってきていた。
五階建ての広大な広場であり、ここ周辺じゃ規模が大きい方のギルドだ。
受付で何か話をすませていたミーアが、俺達の元に戻ってくる。
「丁度ロマネが居るらしいから、待ってたら来るって」
「そんなに仲良いのか?」
うわーと辺りをキョロキョロしているローファを眺めながら、俺は聞いてみる。
「一度スカウトされたこともあるからね、あたしが無所属になりましたって言ったのもあるかも」
事実は事実だが、可哀想に……。
きっと新しい仲間が増えるとウキウキなんだろうな。
魔道具によるスピーカーが鳴り響き、俺達は応接室へと向かうことになっていた。
「やあミーア! さっき受付の子に聞いたよ。前のパーティを除名したんだって?」
待っていたのは、赤髪長身の妖艶な美女と、小柄で人形のような黒髪短髪の少女だった。
「あれがロマネで、隣の子がヒメナラちゃんね」
「ちゃんは止めて……」
ヒメナラと呼ばれた少女は、俺達がギリギリ聞こえるぐらいの小声で、ジト目でミーアを見つめる。
「ちゃんでもいーではないか! そして本人に会って話したいようがあると言って呼び出された! つまり、私の仲間に」
「ごめん、違うの」
「なら……ない、のか? そうか……」
「……キャラ変わった?」
「これが素なのよ」
ロマネの物凄く高かったテンションが、一気に下落した。
一応、ステータスを見ておくか。
ロマネ・ビルドガルド
魔法剣士
HP33490
MP23000
攻撃2365+340
防御2079+405
速度1980+120
魔力1709+170
把握1900
スキル・魔法剣技・全強化
ヒメナラ
魔導士
HP12222
MP24900
攻撃880
防御1580
速度1290
魔力2030+450
把握1402
スキル・聖眼・魔力強化
かなり強いな。ギルド長ということはAランク以上のパーティということか。
気になったのはロマネの全強化がBランクということだ。
俺のはAだから、同名スキルでも強弱があるということなのだろうか。
それもあるが、魔法戦士というだけのことはあり、能力値が全体的に高い。
前衛向きの職業は主に魔力が低くなり、後衛向きの職業は魔力と把握以外が低くなる。
だからこそ、ロマネのステータスに、俺は驚くしかなかった。
そんなことを考えていると、ミーアが説明を終えてくれていたようだ。
「無所属でリヴァイアサン退治か……事情も解ったが……」
ロマネは苦々しい表情を浮かべている。
そりゃそうだろう。
今までリヴァイアサンが倒せていないということは、Aランクでも無理だったということだ。
大災害を起こしているのに放置されているのがその証拠だろう。
すると、ヒメナラという少女が、くいくいとロマネの服を掴み、小声で何かを囁きかける。
「なっ……ハーフオーバー!? それは本当か!?」
聞いたことがない単語をロマネが叫び、ヒメナラは俺達にも聞こえるように言った。
「本当、そこの彼、どこかの能力値が5000を超えてるか、それぐらいある」
俺を指さしながら、ヒメナラが呟く。
ヒメナラが持っていた聖眼スキルは、ステータス鑑定スキルか。
発言から推測するに、俺と同じ、魔力の倍まで、つまりは最大値が4960以下ならステータスが見れるのだろう。
事情を話したと言ってもミーアは全て話したわけではない。
俺が突如力が覚醒して、それによる下克上を恐れたリーダーが追い出し、ショックでギルドに入りたくなくのんびりしたいと思っていた。
それに賛同したミーアと、俺の強さを見て仲間になったローファと共に、リヴァイアサンを狩ることにしていたという説明を、ロマネにしている。
少し嘘が混じっているが、力の覚醒はまれにあるらしいし、こちらの方がいいだろう。
もしも此処にリーダーがやってきて、それは嘘だと言っても、俺の方が強いのは事実なのだから。
もう誰とも関わりたくないから、ロマネ達が倒したことにして、報酬ももらっていい。だけど、館だけは欲しいとミーアは提案していて、ロマネは深く考えている。
結構いい条件だとは思う。
ギルド長ならリヴァイアサンを撃退して、撃退者を秘匿しても問題ないだろう。
問題はリヴァイアサンの強さだが、最悪瞬間移動して逃げるつもりでいる。
今まで挑んで逃げてきても被害がない、むしろダメージを与えると災害が弱まったりするので、挑戦することは求められているらしいからな。
そして倒せたら館以外の報酬をロマネ達は貰えるのだ。
俺は単純だからそれでいいと考えているのだが、色々とあるのか、ロマネは悩み、そして頷く。
「……解った。リヴァイアサンのステータスだが、ちょっと前に、ヒメナラがようやく調べることに成功したのがこれだ」
そう言って、ロマネは手書きの紙を渡す。
海神龍リヴァイアサン
HP126500
MP34500
攻撃4850
防御4900
速度2290
魔力4790
把握2200
無茶苦茶強いな、想定外だ。
防御と魔力に至っては俺より上だ。
これにステータス外でスキル補正がはいる。常に発動しているスキルなら数値に加わっているが、条件を満たしてステータス強化するスキルなら、このステータス値に記されていない。
流石に勝てるか怪しくなってきたぞ。
「……スキルは?」
「見れるわけないでしょ、そんなの、できるとしたらAランクスキルよ。メニーまで行かないと」
聖眼はスキル鑑定まではできないのか。
「この数値は内密に頼む……それで、勝てそうか?」
俺のステータスが解らないからこそ、俺に聞いてきたのだろう。
「やってみないと解らない……とりあえず、ミーアとローファは同行させられないレベルの敵だな」
「そ、そうだね……ソウマも、これは流石に無理なんじゃないかな……」
「私は一緒に行きたいです!」
不安げなミーア、やる気満々なローファを眺めて、ロマネはローファの頭をぽんぽんと軽く叩く。
「はっはは! 度胸があっていい子じゃないか。どうだ、私のパーティに……いや、入らないんだったな、なら、こうしよう!!」
俺が解らないと告げた瞬間、ロマネは物凄く上機嫌になっていた。
「……どうするんですか?」
勝手に納得し始めたロマネに俺が聞くと、満面の笑みを浮かべて。
「私と君の二人で、こいつを撃破する。報酬と名誉は貰うが、館は君達に渡す。君のことは私の知人ということにしよう」
「知人って」
「今こうなったのだから、知人だろ?」
ニッと、ロマネの笑う仕草に、カッコよさと美しさを感じて、ドキリとしてしまう。
強引な人だと思ったが、館を手に入れるためだ。
もしロマネに迷惑が被るのなら、助けるのは当然だろう。
「解りましたけど、魔界とか天界とか関わるのだけは止めてくださいよ」
「当たり前だろ、物凄い恐ろしいことを軽々と口にするな君は……よし! そうと決まれば、善は急げだ!!」
「はっ?」
「今から行くぞ!」
昨日も昨日で激動だったが、今日も今日で大変だ。
本当にのんびり生活することはできるのかと、俺は不安になってきていた。