再会
大魔王の玉座に座るファウス、その正面に立つアルダの元に、ラバードがやって来た。
アルダは満足げにラバードを眺めていると、ファウスに向かって漆黒の塊の瞳を輝かせながら。
「さっき通り過ぎた人、テニフィス様ですよね。会議の時とは比べものにならない程の強さを感じましたよ! もしかしてファウス様より強いんじゃ」
「んなわけねぇだろ。会議の時には聖魔力を抑えていたが、今は抑えてないからな、それで強く感じるだけだ……俺の方が、ちょっと強い」
「ファウス様がそんだけ評価するって相当ですよ! 世界は広いなー」
楽しげに会話を始めた二人に、アルダが割って入る。
「会議以来ですね、ラバード」
ラバードの隣から挨拶をするアルダに、ラバードは驚愕していた。
完全に階段ですれ違ったテニフィスのことをファウスに語ることに夢中だったことから、ラバードはアルダの変化に気付かず、とりあえず挨拶をする。
「お久しぶりですアルダ様……ですよね? なんですかそれは?」
それというのは、結晶化した左腕のことなのだろう。
所々ゴツゴツとしているも、白銀に光り輝くそれは、芸術品と呼んでも差し違えがない程だ。
「これは神の証の様な物です――私は神となりました。魔族の方々と戦う気はありません……モニカは仕留めたのですか?」
笑みを浮かべながら、アルダがラバードに問いかけた。
すると、ラバードがバツが悪そうにしながら。
「いやー逃げられちゃいました。トランスポイントの移動はスキルじゃ対処できませんからね」
そう陽気に告げたラバードに、ファウスとアルダはピクリと反応する。
「テニフィスのスキルである決闘以外は、だな。あれは一対一という絶対条件があるからかもしれないが」
少し思い悩んだアルダは、すぐさま冷静になって。
「……まあいいでしょう。ラバード、私に向かって、貴方のスキルを試してもらってもよろしいですか?」
「いいですよ」
ラバードは頷き、戦闘領域を発動する。
発動者を中心に四角の結界が、一気に伸びる。
それは、一瞬の出来事だった。
ラバード以外は感知できない見えない四角の領域が、その範囲に居るファウスとアルダに向かって、一瞬で伸びる。
それがアルダとファウスの元に干渉しようとした瞬間、その領域がガラスの様に砕け散った。
ラバードだけにしか察知できないはずなのだが、砕いたことを理解したのか、その瞬間にアルダが唇を緩ませていた。
「な、なんですかそれ……」
自らのスキルが無力化され、焦りながらもラバードが聞くと、アルダは軽く頷きながら応える。
「対スキル領域とでも名付けましょうか……神となった際に手に入りましたが、今まで試すことができませんでしたので」
「へぇ……」
ポカンとするラバードを、ファウスはじっと眺めていた。
そしてアルダは、優雅に一礼して。
「大魔王ファウス誕生祭によるパレードの号令、そこからの行動の最中に、生物界全土を疑似天界とします。魔法陣の応用ですね。エルフの里が、陣を張る最終地点だったのですよ……リアッケと、協力者の犠牲のおかげで、何とか完成致しました」
「レグロラの報告だと、エルフの里の結界は砕け散ったと聞いていたが?」
ファウスの疑問に、アルダも軽く首を傾げながら応える。
「そこが解せないのですが……その疑似結界の中へ入らなければ、何があったのか察知することができませんからね。エルフの里の聖刻による封印は、エルフが総力をあげれば恐らく砕くことはできたでしょうし、もし何者かが抵抗しているのだとしても、私達ならば対処できます」
だが、念のためにテニフィスを此処に置いておきたいということか。
ファウスは、更にアルダに質問する。
「砕かれたというのに、生物界全土を疑似天界にすることができるのか?」
「はい。疑似天界を張ったという結果があるだけで、陣は完成できます。一度張るという現象が重要だったのですよ」
「便利なもんだな」
ラバードは、ポカンとした様子で、ファウスとアルダの会話を聞いていた。
アルダは、二人に笑みを浮かべて。
「それでは、後ほど……私も天界でルードヴァンとの戦いにおいて消費した魔力を回復させなければならないので……号令の頃には、全快しているでしょう」
そう告げて、アルダが一瞬で肉体を消失させた。
アルダが消失した箇所を眺めて、ラバードが呟く。
「天界を好きに瞬間移動できるの、便利ですねー」
「便利だけど、それを戦闘で使ったら致命的になるんだよな。あの野郎、さっき俺が教えるまで知らなかったからな」
「天使は戦いとか基本的にしなそうですからねーアルダ様は回復すると言ってましたけれど、私達が魔界に居たらHPMPが徐々に回復するような感じなんですか?」
HPMPを消費していない時に限り、魔族は魔界でHPMPが勝手に回復するようになっている。
それは人間でもそうだが、回復速度は魔族の方が遙かに早く、それと同じなのかと、ラバードは天使の生態を知らないのでファウスに聞けば、軽く頷いていた。
「ああ、俺等と同じだが、アルダはルードヴァンを取り込んでいたからか、魔界でも回復していたな、本来回復すべき天界でもないのにかなりの回復速度だった。本当に、人間共と魔族の決戦中に全快してててもおかしくはない」
そう二人が会話をしていると、一つしかない大階段を登って邪神龍レグロラが、二人の元へやって来る。
長身で筋肉質の大男、腰まで伸びた長い黒髪がなびいているレグロラは、楽しげに玉座に座るファウスへ叫ぶ。
「大階段でとてつもなく強い聖者が座り、俺様に施しを渡してきたぞ! なんだあれは!?」
「天界最強剣士、テニフィス様ですよ」
ラバードが告げれば、レグロラは驚き、そして楽しげに聞いている。
「ファウスより強いのではないのか!?」
ファウスは嘆息しつつ、レグロラの発言を一蹴した。
「その流れはさっきやった……さてと、それじゃようやく……これを堪能することができるな!」
そう言って、邪魔者がいなくなったとばかりに気分を高揚させたファウスは、腰にかけていた袋の形をしているマジックバッグから、世界の強さランキングの証である、スコアの紙を取り出す。
すぐさまファウスは王座から身を乗り出し、しゃがむことでラバードとファウスを後ろにやって、その紙を三人で見られるようにした。
一番下だけ変動していることに、僅かに驚いた表情を浮かべながら、ファウスは楽しげに語り始める。
「誰だこのソウマってのは……トップが俺で、その下が自称神のアルダ、その下にテニフィスなのが俺と天使の総意であり――」
それを見てテンションが上がりまくっているレグロラが、ファウスの肩に手を乗せて。
「俺様はエルドのすぐ下にしてくれ! これで挑戦者となれるぞエルドォォッ!!」
それを見たラバードが呆れたような笑みを浮かべ、ファウスも嗤う。
「はいよ……そんでラバード、お前はモニカを逃がしたから一番下な」
「チャンスを逃したなラバード!!」
テンションが高いレグロラが笑みを浮かべながらラバードを眺め、ラバードはすぐに頷き、その首を傾げる。
「解りました……というか、私如きが載っていいんですかね?」
「お前は魔族の中だとレグロラの次に強いからな……これでいいだろ」
新たな順位を示したスコアを、ファウスが二人に見せる様に掲げる。
ファウス
アルダ
テニフィス
モニカ・ロンマイ
トウ・ランドレイ
エルド・ドラゴン
レグロラ・アークドラゴン
ソウマ
ラバード・ギラリク
レグロラとラバードが、満足げに頷き、ファウスが語る。
「モニカが四位なのとトウって人間が五位なのがちょっと気になるが……それも今から起こる戦闘で変動するだろうし、暫定順位ってことで」
「エルドを倒した後に、俺様がそのトウとやらを殺してやろう! このスコアもすぐに変動するだろう!!」
レグロラは再び、力強く満足げに頷き、ラバードが喜びの声を出す。
「一番下からトップ目指すってのもいいですよね!」
「エルドを超えた後、俺様がお前の相手をしてやろう!!」
「ラバード、やっぱりお前は……俺のもう一つの夢を叶えてくれるかもしれない存在だ」
やる気に満ちたラバードを見て、二人が笑みを浮かべた。
ファウスが踵を返して振り向き、ラバードに右手を伸ばす。
頭に手を置かれたラバードが、僅かに驚いていると。
「お前は一度も怒らなかったな、俺がお前を殺そうとした時もだ」
急にそう語り始めたことに、ラバードは首を傾げながら返答する。
「強い人に殺されるのは、弱者の運命だと私は、というか魔族は思っていますが?」
レグロラが軽く頷いているのを見て、ラバードは自らが間違っていないのだと理解している。
ファウスが、話を続けた。
「お前は俺と同じで好き勝手生きてきたが、俺と違って怒りの感情が出せていないんだ……大魔王になって気分がいいからな、アドバイスをしてやる。もしお前がキレることがあったら、その時に沸いた感情を大事にしろ。それで、俺のもう一つの夢を叶えてくれ」
「その夢って何なのか教えてくれませんよね……ファウス様! アドバイスをくれたのですから、これから師匠と呼んでもいいですか?」
それは、ラバードが何度目かも覚えていない、ファウスへの頼みであった。
今までと違うのは、今まで一度も何も教えていないファウスが教えたからと、理由をつけていることか。
発言を聞いて、スコアに名前が載ったからか、テンションがやたら高いレグロラが笑いだす。
「はははっ! 師匠か!」
ファウスは正気か疑うような眼で、ラバードを眺めて。
「俺の夢は師弟だと納得ができないから、ダメだ。さっきのは大サービスだったのさ、もう何も、お前に教えない」
ラバードは不満そうな表情を、ファウスに向けていた。
――――――
「な、なんだ……これは……」
俺はセレスと共に昼食の用意をしようとして、その前にと、変化が起きてソウマという名前が消えていないかスコアを眺めてしまうと、全く意味が解らないことになっていた。
驚いた俺を見て、美少女姿のセレスが俺の元にやって来て、同じように驚愕する。
「な、なんじゃ、これは……大変動が起きておるが……気になるのは、トップが変わった事じゃの」
ルードヴァンと、トクシーラが居ない。
俺が序列八位に、一番下のラバードを俺が知っている奴だというのも、気になってしまう。
なんで俺の名前が消えて欲しいと願っていたら、勝手に一つ上がってるんだよ。
というか、エルド・ドラゴンの下に居るレグロラ・アークドラゴンってのは、エルドの関係者、いや関係龍だろ。
一体、魔界天界で、何が起きた――
「――貴方はッッ!!」
そして、上の階、俺達の寝室辺りで、ローファの叫び声が聞こえた。
「なんでアンタが此処にいるのよ!?」
ローファの声を聞いて向かったのだろう、ミーアの叫び声も聞こえて、俺は触れてきたセレスと共に、慌てて瞬間移動をする。
俺とローファの寝室で、ローファが叫び声を上げていた。
瞬間移動で現れると、そこに、一人のボロボロな大人びた女性が見える。
金髪の腰まで伸びたポニーテイル、胸元と腰のみ銀の防具を纏い、スタイルがかなりよく、肉体が傷だらけなのがかなり艶めかしいことになっていた。
モニカ・ロンマイ
ウィッチ
HP243000
MP460000
攻撃19300
防御20500+320
速度20900+200
魔力26420+680
把握21400
スキル・亜空門・自動回復・超感覚
リアッケのような存在とかではない、今の俺ならステータスを確認することができる。
この人、この見た目でウィッチだったのか。
ウィッチなんて職は知らないが、魔族だとそうなるのだろうか。
自動回復のスキルがあるがボロボロなのは、見るからに満身創痍で、回復にMPを消費するから、オフにしているとかのかもしれないな。
この人は、本物のモニカだった。
「はぁ、はぁ……ソウマ、か……」
小さな丸太のような物を、モニカが愛しそうに抱えている。
モニカの足元には、前に俺が返し損ねていた、高級そうな手鏡があった。
あれはモニカのトランスポイントだったということなのか。
しかし、どうして俺に……。
いや、今はボロボロのモニカを治すことが最優先だ。
「モ、モニカか……とにかく、回復薬で」
俺が慌てながらも、ミーアに調合を頼もうとすれば、モニカが手を突き出して俺達を制止する。
「ま、魔族は魔界で回復するしか……回復方法はない……不要だ。と、とにかく、私の話を聞いてくれないか……」
「……わかった」
俺も、気になっていることが色々とあるからな。
頷きつつ、何故かモニカに敵意を向けていたローファとミーアに説明すると、セレスだけは、丸太に意識を向けていた。
そして、セレスは動揺しながら、モニカに聞く。
「その前に一つ聞きたい……その抱えている丸太……それは一体……」
セレスの言葉を受けて、モニカがビクリと、大きく反応を見せる。
そしてモニカが、涙を堪えた眼で、悲し気に告げた。
「これは……大魔王、ルードヴァン様だ」
二日前にも似たようなことがあったなと思い返すも、これは規模が違い過ぎるだろ。
俺は驚愕しながらも、モニカの話を聞くことにする。
大広間にモニカを案内した。
ローファ達がモニカに驚いていたのは、エルフの里での戦い、俺がリアッケの元に現れる前に、リアッケがモニカの姿になったからの様だ。
俺は神眼でモニカ本人だと確認したことを告げ、最初に警告を出してきた人だとも教えることで、三人は納得していた。
「それにしても……どうしてトランスポイントなんて重要な道具を、俺に渡したんだ?」
俺達四人は同じソファーに座り、テーブルを挟んで、俺の正面でソファーに座ったモニカが、丸太を抱えている。
最初に俺のステータスを確認する為に渡され、今まで保管していた手鏡。普通にモニカが忘れていたのかと思っていたのだが、あの手鏡は宝石の装飾が素晴らしかった。
あの宝石が魔石で、手鏡がトランスポイントだとしても、普通に納得はできるが……。
モニカは、ソファーに座りながら、丸太を愛おしそうに抱きしめて。
「正確には、貴方じゃなくて、魔界から緊急脱出用として、生物界の何処かに置いておきたかったのよ。強度はあるし、見るからに高価だから壊されることもない。売られているんじゃないかって思っていたけれど、持っていてくれたのは嬉しいわ」
モニカが微笑み、美人だからドキドキしてしまうと、隣に座っていたセレスの肘鉄が俺に炸裂した。
明らかにそんな場合じゃないよなと、俺はセレスに謝る。
「わ、悪い……次に気になる事だけど……その丸太みたいなのが、ルードヴァンだって?」
「ああ、これが――ッッ!?」
モニカが説明しようとして驚愕したのは、その丸太が急に発光し始めたからだ。
その白い光が、まるで人間を成型するかのように形作り、そして人の姿へと変貌する。
徐々に人間の形に、皮膚に赤みをつけながら、小柄な美少年の姿が、そこに現れた。
いきなりただの木から子供の人間に変貌するという異常事態に、モニカを含めて俺達五人は驚くしかない。
そして、その子供の小さな口から、声が室内に響く。
「ふむ……人間に説明するのなら、大魔王よりも大天使のほうがいいか」
「ト、トクシーラ様ッッ!?」
俺達は丸太が子供の様な人間の姿となったことに驚くが、モニカだけは驚き方が別物だった。
大魔王と呼んでいた木が子供の姿になり、それはどうやらスコア序列二位だったトクシーラだという。
もうモニカの頭がおかしくなったんじゃないかと思うべき異常事態だが、ルードヴァンらしき子供にしか見えない美少年は、冷静に告げた。
「いや、我はルードヴァンだ……モニカ、君には説明しただろ?」
高く、柔らかな、それなのに威圧感を感じる声で、ルードヴァンと名乗る子供がモニカに告げる。
モニカは、動悸を早めながら、顔をみるみる赤らめていき。
「そ、そうですがル、ルードヴァン様、いくら私がその外見に性的欲求を覚えているといっても、そこまでのサービスはッッ!?」
一体何を言ってるんだこの人は。
澄み切った赤い瞳、煌めいている黒髪短髪の12、3歳に見える美少年に対し、モニカはかなりの興奮を見せている。
神眼でステータスを見ることができないも、そこまでこのルードヴァンから強さは感じられないな。
とにかく、息を荒々しくしているモニカ、それを正面から眺めている俺達四人はドン引きだった。
俺は、とりあえず聞いてみる。
「……スコア見る限り、今って結構、異常事態……だよな?」
俺の言葉を聞いてモニカがハッとして我に返り、赤面しながら首を左右に振るうも、興奮した眼差しをルードヴァンだという子供に向けていた。
そして、ルードヴァンは、高く、そして威圧感を僅かに感じる声で告げる。
「ファウスの奴が悠長だからな……恐らく魔界の夜明けを待っておるのだろう、猶予はまだ僅かにあるはずだ……ソウマ、お主に我が触れる。それによって、全てを数十秒の間に理解するだろう」
「そんなことができるのか?」
ルードヴァンと名乗る子供は、軽く頷き。
「ああ、そして――」
半信半疑だったのだが、テーブルの上に身を乗り出し、ルードヴァンは小さな手を伸ばし、手の平が俺の額に触れて、意識が別の領域へと飛ばさそうになり。
「――石喰らいの真実も――教えるとしよう」
衝撃的な一言を、ルードヴァンが告げて――
――俺の意識は、何処かへと飛ばされる。




