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大魔王

 モニカはスキル「亜空門」を使い、多方向から魔力の銀閃を放つも、ファウスは退屈そうに鞘から抜いた銀の刀を振り回すことで対処してくる。

「おいおい、これで序列六位、いや五位かよ」

「くぅっッ!?」

 スコアのランクを告げながら、ファウスの横薙ぎの斬撃を、モニカは回避するも間に合わずに肉を抉り、血を流す。

 ファウスの刀による一撃、それがモニカに肉に触れる瞬間に、銀の刃が黒く染まる、斬る瞬間だけ魔纏刃を行い、最小限の魔力で最大限の威力を出してくる。

 銀閃を弾くのも一瞬だけの魔纏刃であり、その技巧に驚愕するしかない。

 正に百戦錬磨。

 気にくわない魔族を殺し回ってきたファウスの力は圧倒的であり、モニカでは敵わないと理解できている。


 それでも、モニカはルードヴァンの元へ、命を捨てることになってでも向かわねばならない。

 ファウスを睨むも、笠を被ったまま、鋭い切れ長の眼でモニカを眺めながら、退屈そうに告げる。

「これはレグロラの方が強いな。お前は多人数戦が得意分野だから、総合的にはその位置に収まるのかもしれないけどよ」

 スキルの自動回復によってモニカは肉体を回復するも、MPをかなり消費する。

 戦って数分経つが、ファウスはまるで遊んでいるかのようで、モニカのMPは半分を切っていた。

 怒りに身を任せ、モニカは全力で殺すために攻撃を仕掛けていたのだが、ファウスとの実力差があり過ぎる。

 

 舐められていると苛立ちを籠めた表情でモニカが眺め、それを見たファウスが告げた。

「言っておこう、俺は手を抜いている訳じゃない。戦技はこれからの戦い用で、お前には亜空門(ゲート)の防御があるからな。そこまでしなくてもお前を殺せるってだけだ」

 モニカは、早急にルードヴァンの元へと赴きたかった。

 上の階で、壮大な戦闘が行われているのを、モニカが察知出来ていたからだ。


 すると、ファウスがそのモニカの反応を見て、僅かに上空を眺め、嘆息する。

「まったく……トドメは俺が刺すって言った時、あの野郎は「加減できないだろうから早い者勝ち」だとかほざいてこれかよ……しゃーねぇな」

 文句を垂れたファウスだが、モニカはその発言を聞いて叫び声を上げた。

「なっ……貴様は上の存在を、ルードヴァン様に挑んでいる天使を知っているのか!?」

 モニカの問いに対し、ファウスは平然と答えてくる。

「ああ、俺の夢を叶えてくれるくれる協力者(てんし)だよ。だからアイツの野望も、俺が協力してやったってことだ」

 つまり――ファウスと天使が、手を組んでいた。


 ただ戦いたい、気に食わない存在を殺したいだけの存在だったはずのファウスが、天使と手を組んでいることが、モニカには理解できず、叫ぶしかない。

「なっ……何故だッ!?」

「何故って、それが一番手っ取り早かったからだよ。よくここまで我慢できた方だったな、本当にそう、今になって思う……自由に生きてきたから、退屈ってことはなかったけどよ」

 発言の最中、ファウスの攻撃をモニカが対処するも回避できず、自己修復のスキルを使っても、魔力を消費するから残りMPが4割を切っている。

 

 息を切らしながら戦うモニカを眺めて、ファウスは涼しそうな表情を浮かべながら。

「まったく、あんだけ余裕出しててこれかよ……助けに行ってやるとするか」

 そう告げて、ファウスがダークアイの部屋から出ようとしていた。


 向かう場所は、ルードヴァンの元だろう。

 膨大な魔力による戦闘が上の階で行われていることは、モニカにも理解が出来ていたからだ。

「ま、待てッ!!」

 ファウスの姿は、もう部屋に存在していない。

 モニカが叫び、追いかけるため、部屋を出ようとした瞬間。

 

 廊下で、ファウスの声が響く。

「――ある程度は削った。後は任す」

「了解致しました。ファウス様」

 そして、すぐさま、開いていた窓から、軽やかな声による返答があり。


 モニカは、扉の前で立ち止まる。


「これは――」

 見えない壁のような物があり、モニカは部屋から出ることが出来なかった。

 大抵の物は別空間に送ることで対処できる亜空門のスキルを使っても、これを破壊することが出来ず、モニカは声の方へ、焦燥に駆られながら顔を向ける。

「結界魔法とは違います。貴方の亜空門(ゲート)では破壊できませんよ……僕を殺せば、この空間は壊れますけどね」

 窓から説明を始めて部屋にやってくるのは、一人の小柄な鬼の少年だった。

 漆黒の塊の眼はモニカを見定めながらも、どこか退屈そうだ。

 腰の鞘から刀を引き抜き、刃をモニカへ見せつける。 


 ファウスの部下であり、入ることは可能でも、出るためには解除させるか殺すしかないというスキル「戦闘領域」を持つ、鬼人ラバード。

 出る方法は他にもあるが、今はルードヴァンの元に向かうことが先決であり、その手は使えない。

 少し距離を取ってから、丁度ダークアイの部屋のドアが端になるよう、戦闘領域スキルを張ったという事か。

 現状、そして出る方法も理解したモニカは、鬼気迫る表情でラバードを睨む。

「ラバードォ!!」

「モニカさんが殺す気で僕を睨んでくる、とてもいいですね。残念なのはMPでしょうか、これなら僕でも殺せますよ」

 モニカは怒気と殺気を込めて名を叫ぶ。

 対するラバードは平然と笑みを浮かべつつも、どこか不満げだった。


 モニカが魔力を消費し、銀閃を飛ばすが、ラバードは持ち前の身体能力で禍々しい漆黒の刃を振り回すことによって全てを弾き飛ばす。

「貴方の亜空門は遠距離攻撃に対して無敵の力ですが、接近戦に弱い! 僕には勝てません!!」

 それでも、ファウスよりは遅い。

 ラバードの刀による攻撃をなんとか捌き切るが、モニカは攻めあぐね、焦りからラバードの攻撃を受ける。

「くっ!」

「全力じゃない貴方を仕留めるのは不本意なんですけどねー。でも、念願だった師匠の夢が叶うのなら、弟子として手助けするのは当然でしょう、レグロラさんも協力してますからね」

「レグロラだと!?」

 ラバードが、攻撃の手を止めずに、語る。

「はい。城に住んでいた皆さんを、僕とレグロラさんで皆殺しにしたんですよ。単体相手は退屈でしたけど、二人組になると結構楽しめました」

 そう軽々とラバードの口から出た一言に、モニカは衝撃を受けていた。


 全身の血の気が引いたモニカを眺め、ラバードが笑みを浮かべ。

「ルードヴァン様の時代は――終焉を迎えます」

 陽気に告げながら、漆黒の刃を振り下ろす。


――――――

 

 魔王城の最上階。 

 そこで闇の魔力と、聖の魔力が激突していた。


 魔王城の四階、最上階は中央に大魔王の椅子があり、それ以外は何もない空間だ。

 挑んできた者との戦いのフィールドだが、この平和な世界で挑む者はいなく、ただの大広間と化している。


 その場所でルードヴァンは、トクシーラを取り込んだアルダと、互角の戦いを繰り広げていた。

 木の簡素な顔だけが描かれた仮面からは表情が一切解らず、両の腕からの壮絶な魔法攻撃を、アルダは受けながら反撃するも、防御が巧く、そこまでダメージを与える事が出来ていない。

 それでも、アルダの聖魔力は壮大であり、ルードヴァンは対処する為に膨大な魔力を、MPを使っている。


 天界の頂点に君臨する為には、テニフィスを上回る力が必要となった。

 だからこそ、ルードヴァンは半身を、第三天使だったトクシーラに与えることで大天使長となっている。

 それが丸ごと、アルダに取り込まれたのだ。

 全てにおいてアルダが僅かに勝るが、それでも持ち前の技術で、ルードヴァンが押している。 


 戦いの最中、ルードヴァンはアルダの思考を取り込んでいた。

 アルダは大魔王と天使長の力は表裏一体と告げたが、他生物の思考は不要だという第二天使の思考からか、その力を使おうとはしてこない。


 ここでアルダを止めなければ、神と自らを名乗り生物界を支配する。

 それを、ルードヴァンは阻止したかった。

 数分もの全力による大魔力合戦は、魔界と天界の頂上決戦に相応しい、魔力と魔法の応酬と化していた。


 そして、押され気味だったアルダが唐突に動きを止めて、安堵したかのような溜息を放つ。

 この階層に唯一存在する大階段、そこを登って、一人の長身の剣士が、二人の元へ現れたからだ。

「ふぅ……まったく……遅かったですね」

「昨日までの余裕はどうしたよ、神になったんじゃないのか?」

「相手が相手なんですよ……ですが、これで私達の勝利です!」

「まったくってのはこっちの台詞だな」

 大階段から二体の元へと軽口をたたきながら歩く存在を見て、ルードヴァンは理解した。

「……なるほど、魔界での暗躍は……貴様が、行っていたのか……」

 その声は、どこか納得したようで、死を悟ったかのようだった。


 木の簡素な顔の仮面がファウスの姿を眺めると、ファウスは片手を上げて、陽気に告げる。

「よう大魔王(オヤジ)。遂に魔界頂点の座を、俺に譲る時が来たようだな」

 ファウスがボロボロと成り果てたルードヴァンの肉体に、銀の刃を突きつける。

 

 獰猛な笑みをファウスは浮かべ、ルードヴァンに迫った。

 刃にを漆黒に染める。闇の魔力を纏った、魔纏刃。

 その魔力の規模が膨大であり、漆黒の刃が、周囲の空間を振動させる。

漆黒刃(シャドウブレイド)!」

 発言と共に、刃に纏った魔力が、更に強化されていく。

 叫びと共に振り下ろされた黒刃を、ルードヴァンが回避しようとすれば、アルダの聖魔力による閃光が、それを封じた。

「これで――夢が叶う!!」

 勝利の雄叫びをファウスが宣言した時には、もう大魔王は終わっていた。


 スコア序列一位、世界最強の大魔王の肉体が、ファウスの刃で両断される。

 瞬時、ファウスは腕を振り回し、ルードヴァンの肉片を散らしていく、そこから本体である木々が、周囲に飛び散っていく。

 空いた左の掌から放たれる漆黒の魔力による閃光が、その木々の残骸に向かって落ちた。

 

 ファウスの勝利宣言が、空間に響いた頃には――

 大魔王ルードヴァンの存在が、完全に消滅していた。


 閃光の跡、何もない虚空を見つめながら、悦に浸っていたファウスは、アルダに告げる。

「倒した――アルダ。約束は守れよ」

「はい。これで貴方が、スコア序列一位、大魔王ファウスとなりました」

 アルダに協力する条件として、スコア序列一位をファウスは要求していた。


 世界最強の大魔王として君臨するファウスの念願は、こうして叶う。


 先程までルードヴァンが座っていた王座に腰かけながら、真正面で立ちながらそれを眺めるアルダに告げる。

「これでようやく、俺が大魔王となり、お前が神か。お前の方が強いが、魔界とやり合う気はないんだな」

 ファウスの問いに、アルダは首を左右に振って。

「まさか。私は人間を支配し、完全な神となりたいのです。魔族と協力できるのなら協力関係になるべき……それが奴が名称をつけた、第二天使という存在なのですから」

「俺の魔界に手を出さないってんなら、生物界はくれてやるさ……ある程度、魔族が辛くならない程度には、だがな」

「はい。お互い、協力関係でいきましょう」

 生物界は魔族によって蹂躙され、その後神に支配されるが、それが下の世界の運命だったというだけだ。

 アルダはファウスに向かって頷きながら、邪悪な笑みを浮かべていた。


 達成感に満たされた表情を、ファウスはアルダに向けながら。

「さてと……ルードヴァンが誓を受けた奴等の誓の権利は、そっくりそのまま俺に譲渡されているな」

 誓の力は意志、もしくは死ぬことで他者に譲渡することができる。

 崇拝相手が変わり、拒むことはできるも、本来誓った相手ではないモノの命令を受けることになってしまう。

 それを聞いて、アルダも笑み浮かべて。

「同じく、トクシーラが誓を与えていた天使の誓も、私に譲渡されています。ですが……奴等はトクシーラの言うところの第三天使、私の命令は受け付けないでしょう……ですので大魔王ファウス、人間の間引きをお願い致します」

「ああ……新たな大魔王の誕生祭は、盛大なパレードをするべきだからな――もう少しすれば夜明けだ。そこで俺は誓による号令を、魔族共に流す」

 そうファウスが告げていると、大階段を昇って、テニフィスが二人の元にやってきていた。


 真っ先に声を出したのは、アルダだった。

「クレンはどうした?」

「彼は貴方の思想を拒みました。仕方がないでしょう」

「……そう、か」

 テニフィスの言葉を疑心の眼差しで見つめながら、アルダは嘆息した。


「よう」

 ファウスが楽しげに手を挙げると、眼鏡のブリッジを指で上げながら、

「――終わったようだな、大魔王ファウスよ」

 そうテニフィスが睨み、ファウスは獰猛な笑みを浮かべる。

 会議の頃は抑えていた聖魔力を、今は一切抑えていない。

 強烈な強さを体感しながら、ファウスはニッと、歯を見せた。

「いいね。テニフィス、これからの事が全部終わったら、俺とやり合わないか?」

「今の私はアルダ様の駒でしかない……アルダ様の指示がない限り、戦うことは一生ないだろう」


「……そうかよ」

 テニフィスの発言に、ファウスはつまらなさそうな返事をする。

 アルダは、ファウスに笑みを向けて。

「テニフィスは万一を考慮して貴方の守護に回します。それに従う天使が、テニフィスしか存在しませんでした」

「当たり前だろ、いきなり敵だった魔族の味方をしろだなんて命令、普通聞かねぇよ……なあ、戦闘型天使(テニフィス)

「私は――アルダ様の命に従います」

 ファウスの言葉に対しては何も応えず、テニフィスは大階段へと向かった。

 この大魔王の部屋に来るには、大階段を昇る以外に方法はない。絶対に壊れず、外部からの侵入は付加となっている膨大な魔力巨城だ。


 そして、少し困った様な表情を浮かべながら、ラバードが大階段を登って最上階に到着する。

 階段に向かおうとしたテニフィスを横切り、僅かに驚いた表情で眺めながら、ファウスとアルダの元へと向かっていた。

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