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激震する世界

 挨拶は巧くいき、俺はローファと結婚する許可を貰った。


 普通に考えてローファの状況的に断られることはないはずなのだが、最高にドキドキしたぞ。

 挨拶といっても。

「俺はローファと結婚します!」

「……わかった」

「ローファちゃんを大切にね」

 こんな感じで、後はローファの今と昔についての会話で盛り上がっただけなのだが。

 会話でどんどん顔を赤くしながら慌てふためくローファが最高に可愛いから、三人でどんどん盛り上がってしまった。

 そしてローファに軽く村を案内された後、小屋に戻り、俺達は館へ瞬間移動で帰ることにしていた。


 エルフの里とキリテアの街までの時差は結構あるようで、まだ森林は昼になったぐらいだ。

 それでも薄暗く感じるのは魔界が近いからでもあるようで、セレスが言うにはキリテアの街は今頃夕方らしい。 

 そんなことはどうでもいいとして、これで遂に、俺は皆と結婚することができる。

 この全身が幸福に包まれている感覚は、ステータスが上昇したからではないと断言することができるぜ。


 その前に、少し気になったことがあるので、俺は隣に居るセレスに聞いてみる。

「……そういえば、三魔士の後一人って、どうなったんだ?」

「そのことじゃが、ソウマが倒れてから暫くして現れての、事情を知って魔界に帰って行ったぞ、報告して、新たな三魔士を二人補充し、その二人をエルフの里に住まわせるらしいが、三魔士のリーダーと名乗る者……わらわでもステータスが見れなかった。凄まじい威圧感を持った男じゃったよ」

 そいつが間に合っていたら、戦力になっていただろうな。


 瞬間移動を使い、俺達四人は館に到着した。


 俺は真っ先に解除スキルでミーアの強化状態を解除し、休ませる。

 ローファがミーアを寝室に運んでくれて看病をしている間に、セレスと俺は大部屋で、ソファーに座って今回の件について話をしていた。

「今回の件じゃが……目的がサッパリ解らぬから、どう報告してよいのか悩むの……」

 ギルド的にも、Sランク冒険者二人を欠けることとなるからな。

 しかも、一人はスコアに名前が載っているほどの者だ。

 エルフの里に乗り込んで好き勝手やった奴等が悪いに決まっているのだが、どう説明するのだろうか。


 そこはセレスに任せていいらしく、次に俺達は、襲撃者達の目的について推測する。

「セイラーンはエルフを食いたがっていたな」

「クラジはフェリックスの負傷した身体を見るに、演奏とやらがしたかったのじゃろう……その為に、天使の力を借りた」

 セイラーンとクラジはエルフで自分の欲求を満たそうとしていた。

 

 そして、それを利用した天使の目的は。

「――聖刻。人間に半天使の力を与えて、強いステータスの存在を封印し、疑似天界を張れる道具……」

 俺の推測に、セレスは頷き。

「うむ、リアッケの天使スキルが封印されておったのもその力かもしれぬの……わらわがステータスを見ることができたが、それをする理由が全く解らぬ」

 瞬間移動で俺が助けに入った時、天使スキルの封印は解除していたが、あれには何の意味がある?


 俺はセレスの時、ロニキュスのことを思い返す。

「中級天使のロニキュスが、疑似天界だったダンジョンの中からリヴァイアサン跡地に瞬間移動した時、奴は物凄く焦っていたな……生物界で天使が現れると、魔界側が気付くとか、そんな辺りか?」

 モニカが石喰らいでステータスを急激に変化させた俺の元へやって来たように、天使を察知できたとしても、おかしくはないだろう。

「それは単にステータスが半減したからかもしれぬが……その可能性は高そうじゃの」

 そういえば、ロニキュスも半減されると叫んでいた気がする。

 でも奴は、すぐに疑似天界のダンジョン内部に瞬間移動しても、焦っていたはずだ。 


 エルフの里を疑似天界にして、何の意味がある?


 エルフの長で最も強いエルフィンを狙ったのは、恐らくステータスが一番高かったからなのだろう。

 もう結晶は俺が取り込んでいるし、俺達がいくら考えても、理由を突き止めることは無理だろう。

 セレスもそう理解したのか、ソファーからゆっくりと起き上がり。 

「とにかく……明日までにどう説明するか決めてから、ロマネに伝えておこうかの……気になる事があるので、わらわはちょっと、地下に行ってくるのじゃ」

「わかった」

 そう言ってセレスは地下倉庫のある書庫に、俺は大部屋に備えてある姿見の前へと向かった。

 見た目は全く変わっていないのだが……。


ソウマ

上剣士

HP265000

MP226000

攻撃26590+620

防御20700+440

速度23750+200

魔力22780+100

把握27900

スキル・直感()石喰らい()全強化()全耐性()神眼()透明化()半天使()


 俺のステータス、本当にかなり強化されているな。


 セレスが推測できるはずのステータス値より把握値は高くなっているが、魔力覚醒のスキルは他の数値を減少させて魔力値を一時的に上げるスキルだったはずだし、その効果で測定できたのだろう。

 スキルに変化がないも、十分すぎる程のスキルだし、何か増えるのならセレスの時に増えているか。


 そして、俺の背中に、何かがぐりぐりと当たった。


 最初、ローファがミーアの看病を終えて、それを伝えに来たのかと思ったが、振り向けば、それは空中に浮遊する眼球だった。

 セレスのスキル「天眼」によるものだ。

 三つの眼球を自由自在に操作でき、その眼球と視界を同調することができるスキル。

 自由に動かせるから、こういう使い方もできるが、少し解せない。

 

 ――俺を呼んでいる?


 俺は急ぎ足で、セレスの元へと向かった。

 書庫に、そこに起動していた隠し階段を降りて、地下室に到着する。


 そこには、焦った表情をしたセレスの姿が見え――

 俺に、一枚の上質な紙を渡した。

「ソウマがセイラーンを破壊したと聞いたからの……本来、セイラーンが誰かに位置を譲渡していなければ、繰り上がりでフェリックス辺りになると思ったのじゃが……」

 その紙の文字を眺めて、呆気に取られた俺は両手から力が抜け、その紙を落としてしまう。 


 あの鎧、最後の嫌がらせってところか?

 いや、単純に強さを認めてくれただけなのかもしれないが、俺は勘弁してほしかった。


 ようやく結婚ができると、楽しみにしてたという希望が、これで一気に得体の知れない不安へと変わる。


 一番下にソウマと記されてた、世界の強さランキングであるスコアの紙を見下ろし、俺は全身を震わせるしかなかった。

 


side・テニフィス


 腰に刀を差し、白銀の装飾に身を纏い、眼鏡をかけた銀髪の青年テニフィスが、とある広い聖堂の一室へと向かっていた。

 上級天使にしてスコア序列五位は、苛立った表情で聖堂の一階を突き進む。

「テニフィス様……」

 その後ろから速足で付き添い、心配そうな声をかける小柄で優美な少年、金髪の短い髪をなびかせながら、両腰に二つのタンバリンを装着した、上級天使クレン。


 その声を聞き、テニフィスは振り向かずに告げた。

「クレン、君は来なくてもよかったのだが」

「いえ、お供させてください……先日の件、僕も憤りを覚えております」

 その言葉を聞き、テニフィスが止まる。

 二歩ほど下がった距離で、クレンも止まった。

「そうか、ならば、オレの元から離れるな」

「有難きお言葉……準ずる事を、約束致します」

 テニフィスが、移動を再開する。


 聖堂の階段を登ると、二階に到着し、そこは広い空間が見える。


 様々なパネルが配置され、そこから様々な生物界の映像を眺めることが出来る空間だ。

 選ばれし天使のみが住まう事を許された大聖堂、その端にある神々しい椅子に座る一人の天使が、テニフィスとクレンの存在に気付き、優雅に立ち上がる。


 背丈はテニフィスと同じぐらいのスラッとした長身で、銀髪を腰まで伸ばしている。神聖な白銀に輝くローブを見に纏い、端麗とした顔と風貌は、美少年に見える。

 上級天使にしてスコア序列四位――アルダの姿が、そこにはあった。

「そんなに怖い顔をして……何の用だ、テニフィス、ク――」

 アルダがクレンの名前を最後まで告げることは、テニフィスが鞘から抜いた白銀の刃を突きつけられることで阻止される。


 テニフィスは、アルダを睨み。

「随分と余裕を見せますね……オレ達の同士リアッケが、貴方の指示で犠牲となったというのに――」

 怒気と殺気をはらんだその発言に、アルダが軽々しく両手を上げて。

「おいおい、そんな物を見せないでくれよ……君は私より強い、それでも私のスコアが君より上なのは、私が君より優れていると、君が認めてくれたからだろ?」

 僅かに焦りの表情を浮かべたアルダが、テニフィスの背後でじっと眺めていたクレンの方を向き。

「クレンも何か言ってくれよ」

「テニフィス様が正しく、私自身、それを確信しております」

 キッパリと応えるクレンに、アルダはやれやれと首を左右に振るい、

「相変わらずの太鼓持ち……睨まないでくれよテニフィス、()の言うところの第三天使であるクレンが、第二天使である君に従っているのは、とてつもない事象なのだからさ」

 軽々しく、テニフィスに告げる。

 

 瞬時――キッと、眼鏡の下から、テニフィスがアルダを睨み。

「奴だと……アルダ様、貴方は今、トクシーラ様を奴と言ったのか!!」

 突きつけた白銀の刃を震わせながらテニフィスが叫び、クレンがその迫力を受けて微かに全身を震わせる。

 それを見てアルダが冷静さを取り戻したのか、端麗な表情で、冷淡に告げる。

「テニフィス……君は戦闘に特化された天使だ。知能はあまりない……けれども、自らの存在を示すために、生物界でかけていた者が賢そうに見えたからという理由で眼鏡をかけ、会議も内容が理解できていないから、とりあえず会議前に魔族達に悪態をつくことで、会議の一員であるということをアピールしていた」

「………………」

 煽りにも聞こえるアルダの言葉を、テニフィスは静かに聞き入れる。


 それは、全て事実だからだ。


 会議内容が解らないから、会議前に魔族を挑発することで、会議に参加を許された天使なのだと魔族達に示していた。

 眼鏡も知的に見えるというだけでかけているが、膨大な聖魔力を所持している天使が眼鏡をつけているのは、普通に意味不明だろう。


 強さしか取り柄がないテニフィスは、そうしてでも上級天使であろうとした。


 そのアルダの発言をクレンが怒りで全身を小刻みに震わせているのを察し、喜の感情がテニフィスに湧いてきて、口を開く。

「話をそらさないで欲しい、オレが知りたいのはリアッケの事です」

 テニフィスはトクシーラかアルダが居る場合、自らを私と呼んでいたが、この場では普段通りのオレとなっている。

 それは、アルダのことを、目上の存在と認識することができないからに他ならない。

「そうだね……テニフィス、君は私が何かを企んでいることを理解しながら、見て見ぬふりをした。偉大なるトクシーラ様に報告もしていない」

 偉大なるトクシーラ様の部分は、どこか小馬鹿にしたかのようだった。

「する必要性がなかったからです」

 キッパリとテニフィスが告げれば、アルダが無表情で。

「違うね――君は、本能で理解していたのさ」

 そう発言し、アルダの表情が、一変する。


「ここからが重要だ」

 研究が巧くいった、生物界の学者のような笑みを、アルダが浮かべて。

「テニフィスとクレン――今からこの世界の真実を、君達に話そう……その後で、私を殺したいのなら殺せばいい」

 絶対に殺せないことを確信したかのような余裕を、アルダは見せている。

 その余裕が、テニフィスは許せない。

「何が世界の真実だ……それにリアッケを犠牲にする価値が! あるというのか!」

 テニフィスが叫ぶも、アルダは冷静に、諭すような仕草で語る。

「彼の死は予定外だった。私のこれからの行動によって、彼の仇も討てるだろう」

「………………」


 テニフィスは、少しだけ沈黙し、刀の峰に手をかけ、刃をアルダに向けながら告げる。

「対象は貴方とオレ――決闘(デュエル)を発動する。これで虚言を察知でき、逃げることも不可能だ……虚言があれば、オレは即座に貴方を処断することを、ここに宣言する!」

 それを耳にしたアルダは、ゆっくりと両の腕を広げた。

 抵抗しないという証明か、全てを受け入れるという抱擁の構えか。

「それは怖いな……本当に怖い。ならばこそ、私の話が真実に他ならないと、君は理解する!」

 更に邪悪な笑みを強めるアルダに、テニフィスが聞く。

「貴方は、一体何を知った? ……これから、貴方は一体、何をするつもりなんだ?」

 テニフィスの真意を把握しているかのように、アルダは楽しげに応えてくる。

「そうだね……簡単に言えば――」

 

 アルダが、僅かに言葉を止めて。


 少しの静寂の後、その一言が、空間に響く。


「――革命かな」

 

 その一言は、世界に告げるかのように、空間に響く。


 そして――世界は大変貌を遂げることとなる。

これで第三章が終わりです。


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