表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/70

聖刻

 攻撃と速度なら俺の方が僅かに勝っているはずだ。


 だというのに、ほとんど互角の鍔競り合いとなっているのは、聖魔力によるものか。

 俺が疲弊しているというのもあるんだろうな。

 刃の部分に聖魔力を流しているも、相手の方が魔力値は僅かに高い。

 

 フランベルジュの刃自体は問題ないが、クラジは獰猛な笑みを浮かべ、後方に跳ぶ。

「――聖閃!」

「切撃ち!」

 距離を取ってクラジが聖魔力を籠めた斬撃を放つ。

 白銀の三日月が、俺に迫る。

 反射的に、俺は刀を瞬時に鞘に戻し、僅かに光る刃から閃光を飛ばした。

 威力と速度を収縮した閃光型の槍のような切撃ちは、聖魔力による魔閃の刃に衝突し、相殺される。

 

 即座、加速線を使ったのか、俺の正面までクラジが詰寄った。

 魔纏刃によるものか、膨大な聖魔力を刃に纏った振り下ろしが、俺に迫る。

 絶刀のカウンターは間に合わないな。

 二重加速を使い、加速することで振り下ろしを回避、そして二度目の加速で回り込む。

 クラジの横顔から、笑みが見え、

「これが――半天使となった大聖魔法だ!」

 勝ち誇りながら叫ぶクラジの身体から、聖光が湧き出て、周囲の物全てを蹴散らしていく。

 先程両断して折れた木々も塵と化して消滅し、俺は反射的に刀を前に突き出し、剣盾を発動する。


 持ち前の半天使スキルもあり、堪えるが、こ、これは――


「――死ねやぁっ!!」

 堪えて僅かに硬直し、動けそうになると、一瞬でクラジが俺を追い抜いていた。

 そして振り向き様の聖魔力を込めた魔纏刃が、俺の背後から迫る。

 前から来なかったのは俺が剣盾によって刃を出していたからなのだろう、完全に死角からの攻撃だ。

 しかし、俺は前に突き進むように回転することで、紙一重で回避する。


「……外しただと?」

 すぐに見えたクラジから、俺に対して正気ではないと言わんばかりの面が見えた。

 間合いを取りながら、俺は眼前の敵を分析する。

 聖戦士は魔法剣士よりの聖者だったか。

 回復しながら戦えるという点で、防御向けの戦闘職だったはずだ。

 だが、半天使があるのなら、攻防完璧な職となるだろう。

 奴の発言通りなら、技術スキルは魂を二つ削る大聖魔法、そして加速線、魔閃、魔纏刃か、多くてあと一つだな。


「はっ、はぁ……」

 息を切らしつつも俺は刀を鞘に戻し、一瞬で槍のような切撃ちをクラジに放つ。

 舌打ちをしながら飛ぶことで回避するクラジに接近すると、奴はフランベルジュを両手で持ち、全身を使って豪快に振り抜いた。

 大聖魔法+魔纏刃+半天使補正。

 ステータスは攻撃値と魔力値にスキル補正が入ったものだろう。

 俺のステータスだろうと両断できる程の威力を持った横薙ぎの一閃だが、後方に退くことで紙一重で回避する。

「――なっっ!?」

 クラジが焦った声と表情を向けながら、全身を使っての攻撃により、俺に死角を晒す。

(とった!!)

 好機と、回避しながら発動していた絶刀による力を込めた絶対的な威力を持つ振り下ろしが炸裂するも、俺が思考を鈍らせたこと、奴の反応速度が予想以上に鋭かったこともあり、左肩から腕を両断するだけとなっていた。


「がぁぁッ!? クッ、クソッ……テメェは殺す! 絶対に!!」

 悲痛の叫びを上げ、苦しげな表情を浮かべながら、クラジはさっきまで左腕のあった、先程まで血が噴き出して止まったその場所に手をかざし、白金に輝いた腕のような物を発生させる。

 そして、それがすぐさま、血色を持った肉体と化す。

 服は装備品だったこともあり、すぐに衣服が伸びて、晒されていた肌を隠す、貫かれた時の俺と同じだな。

 これでかなりの魔力を消費したはずだ。


 絶刀発動後の隙もあって、俺はクラジの肉体再生時は追撃することができなかったが、切撃ちによる遠距離斬撃を何度も放つも、ギリギリのところで回避されている。

「ただ者じゃねぇな……テメェ、何故動きが読める?」

「ぜぇ、お前はあの鎧と戦ったことがないのか……? アイツとやり合っただけで、かなり、人の動きってのが理解できたんだよ!」

 息が切れ切れだから、強がりみたいになっちまってるな。


 これは、持ち前の直感スキルもあるのだろう、セイラーンとの戦いは、どう動けばいいのかを、常に思案しながら戦ってきた。 

 結局、何も攻撃は通じなかったが、カウンターで攻撃を入れようとして攻撃に意識を集中させたりと、必死に動いてきたからな。

 いい経験にはなったという確信がある。

 正直、眼前のクラジは攻撃が当たる分、セイラーンより遥かにやりやすい。


 クラジの攻撃時の総合的なステータスは、俺を上回ってくるだろう。

 だが、疲弊していること入れたとしても、俺の方が強い。

 それを察したのか、クラジが苦言を漏らした。

「切撃ち、絶刀、二重加速、剣盾……絶刀以外は典型的な上剣士だな。使い勝手の悪い絶刀だが、スキルか? テメェは巧く使いやがる……」

 それでも、どこか余裕を見せるクラジが、俺には解せないでいた。

 そんなことはどうでもいいな。

「さっさと片をつけさせてもらう!」

 戦特化を使うべきだが、まだ手の内を見ておきたいというのがある。


 俺にとって戦特化は、魔力を調整し、発動の時間を調整をして絶刀をタイミング良く放つ為のものだ。

 使用中は他のスキルが使えなくなるというのは、俺の最大の長所である多彩なスキルを捨てるということになるからな。

 セイラーンのスキルで疲弊していることもあり、集中力が欠いている状態で、更に集中を欠くのも危険だ。

 

「――大体理解できた。俺の勝ちだ」

 俺が迫ろうとすれば、クラジが勝ち誇った様な笑みを浮かべ、一呼吸を入れることによって自らの肉体を白銀の輝かしい光で包む。

 さっきのような大聖魔法による攻撃ではない、こ、これは……。

「戦特化、いや違う!?」

「これは聖戦士の奥義、聖上体(ヘヴン)と言う……戦特化の聖戦士版で、聖魔力による肉体強化なんだが……」

 白銀に発光するクラジが、俺に右の手の平を突き出し。

 その瞬間、手の平から発生した膨大な聖魔力の砲撃が迫る。


「――ぐっっ!?」

 俺は刃で受けるも、その破壊力から、後方に押し飛ばされるしかない。

 そして、クラジが有り得ない速度で俺に迫る。

 咄嗟に解除スキルを使うが、半天使の補正による効果か、解除ができない。

 

 ――マズい!?

「テメェのと違い、スキルが使えるのさ!!」

 聖魔力を込めた魔纏刃に魔閃を加えたのだろう。フランベルジュの刃から、膨大な白銀の光が発生し。

 それが俺の真正面にやってきて、広範囲に光の魔力が全て飲み込み、消失させてくる。


「これが俺の切札、聖上斬撃だ――仇は取ったぞ、セイラーン」

 静かに、悲し気に告げるクラジに対し、瞬間移動で離れてて回避した俺は、切撃ちを放った。

「なッッ!? テメェ、どういうことだ……? まさか……!?」

 驚愕した声をクラジが漏らしながらも、瞬時に理解したようだ。

 こいつも達人だ、切撃ちによる瞬間移動による接近で攻撃することは無謀だろう。

 クラジは当然の様に剣を振るい斬撃を弾き飛ばし、俺を睨む。


 そしてクラジは、何かに気付いたかのように、驚きながら、周囲を眺めだす。

 その行為が理解できず、切撃ちを放ちながら、俺は聖魔力を体内に巡らせて何とか意識を安定させようとしていた。


 ――その瞬間。


「なんだ――!?」

 先ほど、クラジがやってきた方向から、膨大な白い光が発生し、俺達を飲み込むかの如く煌めきながら迫ってくる。

 一瞬で俺達の肉体に干渉するも、痛みも何もない、むしろ高揚感が襲う。

 その光は、エルフの里全土を覆うかのようであった。

 一体、何がどうなっている?

「ようやくか」

 俺は全く理解できていないのだが、クラジは何かを知っているようだ。


 クラジは獰猛な笑みを浮かべながら、光を全身に受けて驚愕していた俺の元に迫る。

 先程よりも動きが鋭いが、何故か俺の高揚感があり、ギリギリ対処が出来る。

 聖上体の刃を受け止め、全身に衝撃が襲った。

 こっちも刀に聖魔力を流しているのだが、職補正による差がありすぎる!

「瞬間移動ができるのなら、接近戦しかねぇな!!」

 クラジが叫び、剣を振るう。

 場所を意識してから発動する以上、接近した戦いになると、瞬間移動をする余裕はあまり出来ない。


「クソが!」

 さっさと片をつけたかったが、全力で倒しにかかれば、俺もかなり消耗するしかないだろう。

 ただでさえセイラーンによって疲弊している、ここで無茶をしてやられるという最悪の事態は避けたい。


 だからこそ、奴の聖上体を相手にするのは厳しいと、俺は攻撃を弾いたと同時、距離を取ってからの瞬間移動を使うことで距離を更に取り、切撃ちを放つ。

 俺も攻撃を行なう場合は、瞬間移動による移動はできない、意識がそっちに向くからだが、最初から回避する気なら、何とか使う事が出来ている。

 距離は取るといっても切撃ちが即座に当たる程度の距離で、回復アイテムは使わせない。

 これでクラジのMPが切れるのを待つべきだろう。


 皆はステータス的に問題ない筈だし、最悪トランスポイントで逃げるとセレスは言っていた。

 最小限のHPMPでクラジを食い止めて倒し、皆の元へ加勢した方がいいだろうからな。

 それが理解できているのか、クラジは苦そうな顔をしつつ、すぐさま何かに気付いたかのように、笑みを浮かべた。


 ――どういうことだ?


 なぜこの状況で、笑みを浮かべる余裕がある?

「ははっ、いいのか? そんな悠長なことをしてて?」

 そしてクラジは俺に対し、馬鹿にしたかのような言葉を投げかけてくる。

「……なにがだよ?」

 会話の最中、俺は切撃ちを放ち、クラジは聖上体を解除して魔閃で弾く。

 解除した隙を突いて接近しようとした瞬間、聖上体となり、攻撃を仕掛けてくるので、俺は瞬間移動で距離を取るしかない。

 聖上体はオンオフの切り替えができるのも強いな。

 だが、これで奴のMPはかなり消耗しているはずだ。

 唯一戦えるであろう戦特化を使えば、その間は瞬間移動で退けないというリスクが生じる。

 こいつ、聖上体がなければ問題なく倒せるのだが……。


 クラジは攻撃を対処しながら、楽しげに話を続けた。

「はっ、信じるかどうかはテメェの勝手だが、今の俺は半天使スキルを持っている。これは協力者である天使がくれた聖刻っていう道具の力だ」

 信じるかどうかも、俺は神眼で理解ができている。


 その言葉で、真っ先に思い出すのはミキレースだ。

 失敗したと言われていたらしいが、人を強化するのは失敗作ではないのか?

 その失敗を経て、応用した技術で協力者の人間を強化しようとしたのだろうか。

「他に封印する聖刻もあってな、それを奏で終えた楽器エルフに使った。それによる光がさっきのだな、そこまでが俺の仕事なんだが、それによってエルフの里は疑似天界と化した……この意味が――」

 ――しまった!?

 クラジのその発言によって、ようやく事の重要性を理解した俺は戦特化を発動し、一気にクラジに迫る。


 こうなれば形振り構ってられない。

 完全にクラジの思い通りとなっているが、何故そのことを俺に話したのか。

 嘘なのかもしれないが、だとしてもこの肉体に宿る高揚感は嘘ではない、真実の可能性が高い。


 疑似天界になれば、天使は本来の力を発揮する。

 

 それは中級天使ロニキュスのステータスが、そのまま倍になったことで理解できていた。

 リアッケのステータスが倍になると、皆のステータスだとかなり厳しくなる。


 まさか、一日に二度も命がけの賭けに出ないとならないとはな。


 安全策で勝てる方法があるから、そっちを優先してしまった。

 距離が近いからと自分に言い訳をして、瞬間移動で向かわなかったのもそうだ。

 瞬間移動で戦闘中の所に飛び込んで、セイラーンのように反射的な攻撃で死ぬ可能性を危惧したせいだろうな。

 胸部を貫かれて死にかけたこともあり、どこかで、俺は恐怖していたのかもしれない。


 だけど、皆の危機だというのなら、俺はリスクを喜んで背負う。


 HPMPがかなり減るだろう、それでも構わない。

 戦特化を発動し、物凄い勢いで迫ろうとした瞬間、満足げなクラジは聖上体を使うことで全身が白銀の光を発光させ、俺と刃を交わす。

 やはり、大聖魔法による補正の聖魔力もあって、かなりの破壊力があるな。

 瞬発的な攻撃力なら、俺を凌駕するだろう。


 刃を交わし、攻撃と速度で劣るから、俺は肉を引き裂かれた。

「つッ!?」

 炎のような刃は、尋常ではない激痛を与えてくる。

 それが恐怖を与えてくるが、今の俺には関係ないことだ。

 回避しようとするも、完全に身体能力で勝る相手の方が強い、読めていたとしても、肉を引き裂かれ、血が流れた。

 セイラーンのように回避を意識すれば避けられるが、そんなことをしている場合じゃない。

 

 ――ここだ!

 クラジの刃を刀で防ぎ、吹き飛ばされたと同時に戦特化が解除され、瞬間移動でかなり距離を取り、クラジの背後に回る。


 二重加速による絶刀。


 一度真正面に加速、そして更に真正面に加速しながら、俺は全力で刀を振り下ろす。

 そしてクラジは、そこにカウンターを放った。

 俺の心臓部に向かい、ジグザグな刃を突き出す。

 絶刀発動時は、力を溜めた振り下ろしの動作になる。

 発動前なら問題ないが、発動してからは真正面に意識が行くため、位置を思考する必要がある瞬間移動は使用できない。


 そして、絶刀の振り下ろしの動作は、終わるまで変更ができない。


 ハイリスクハイリターンの攻撃剣技、その特性を、クラジは理解していたのだ。


「――馬鹿な!!」

 だからこそ、クラジは俺の行動が、理解できないのだろう。

 絶刀による動作の最中だというのに、俺は本来動かせない左腕を動かし、刃を肉と骨で受け止める。

 クラジが知らない解除スキルを使い、絶刀の発動を解除したからだ。


 そして即座に戦特化を発動し、心臓部に全力の突きを放つ。

 クラジは聖上体から刃に魔力を集中させていたということもあり、俺の左腕を裂きながら長い刃が心臓部に迫るが、戦特化で強化したこともあり、肋骨でなんとか止まった。

 腕によるガードもあって、先に俺の刃が、クラジに致命傷を与えたからだ。

 俺の突きに対し、クラジは瞬時に身体をズラそうとしたが、刀の刃は心臓部に直撃する。

 それによってクラジは意識を僅かに飛ばす。

 フランベルジュの刃から力を抜けたことを確認すると、俺は刀を引き抜き、身体を退くことで刃から解放され、クラジが木の葉の中へと倒れていく。


 心臓部を切り裂いたはずだが、浅かったからか、ギリギリ回復ができているようだ。

 すぐに意識を取り戻していたが、倒れた状態から、クラジは起き上がろうとしない。

「――エルフを奏でることはできたが、未練はあるな……まあ、いい、か、あの鎧の元に、行け――」

 倒れ伏せ、遺言を語りながらも、肉体を回復させるクラジに向かい、俺は切撃ちによるトドメを刺した。


「痛ってぇ……スキルを駆使すればトウにも勝てるって意味が、ようやく理解できつつあるな……」

 激痛を堪え、損傷した肉体を治し、聖魔力を巡らせて朦朧とする意識を無理矢理起こしながら、俺は思案する。

(……クラジはどうして、俺に教えたんだ?)

 上級天使が本来の力を出して、皆を倒し、二対一の構図になった方が良かったはずだ。

 ――セイラーンの仇を討ちたかったのだろうか。

 もし、上級天使に皆がやられたら――

 そう考えて、首を左右に振って否定する。


 戦闘は続いているのだろう、回復中に聴覚を集中させ、戦闘の音を耳にする。

 クラジとの戦闘で結構距離が空いたな。

 肉体は、HPは聖魔力で完治するも、削られた肉体の修復、聖魔力を巡らせて精神力を無理矢理治していることもあり、MPはもう四割を余裕で切っている。

 見た目は無傷でも中身は満身創痍だが、行かないという選択肢はない。


 瞬間移動をした瞬間、無防備な所を攻撃されるのが怖いが、今は火急だ。

 少し上空に瞬間移動をすればなんとかなるだろう、死んだらその時、後悔するよりマシだ。


 俺はリアッケに斬りかかった場所へ、瞬間移動で向かう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ