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セイラーンとクラジ

 ――完全に入った。


 二重加速による接近だ。

 クラジとかいう小柄でガラの悪そうなオッサンは反応すらできていない。

 それは、トウの姿をしたリアッケとかいう上級天使も同じだった。


 これなら、完全に真っ二つに両断することができる。

 怒りに身を任せた振り下ろしの刃が、リアッケに迫る。


 しかし、それはリアッケに届くことはなく。

 俺は鎧の、セイラーンの右腕から振り抜かれた拳を顔面に受け――。

 一瞬、意識が飛んだ。


「ソウマ!」

「ソウマ様!!」

「ソウマァァッ!」

 意識が戻り、木が砕け散る音が響き、心配するミーアとローファとセレスの声が頭に入ってくる。

 どうやら、俺は木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされたようだ。

 俺の攻撃に反応したのにも驚くが、セイラーンの拳の威力がここまでだとはな、頭部を激痛が襲うが、すぐに聖魔力によって痛みをなくし、冷静になっていく。

 

 ――マズい!?


 クラジとリアッケはステータス的に何とかなりそうだが、俺でもステータスが見えないセイラーンは、

「お前ぇ、つえーなぁっっ!!」

 そう、危惧していたセイラーンが、俺の目の前まで迫り、叫ぶ。

「食いごたえがありそうだぜぇっ!!」

 尋常ではない程の速度でセイラーンの右腕が、拳が迫り、俺は瞬時に転がることで回避する。

 瞬間移動はまだ使わない。

 ステータス的に、こうなるのがベストだろう。


 俺は距離を取って切撃ちをセイラーンに放つ。

 斬撃を実体化させた刃の閃光は当然のように回避されるが、奴の背後の木々が派手な音を立てて両断された。

 これは、俺がセイラーンと戦うという意志を、他の皆に示すための行為だ。

 あっちにはセレスが居る。

 これで察してくれただろう、俺には瞬間移動があるし、危険ならすぐに逃げることも理解してくれているはずだ。


 ステータス的に、セイラーンの相手は俺がするべきだからな。

 さっきの提案通りなら、クラジはフィリックスとやらが対処し、四人がリアッケを倒す。

 上級天使らしいが、恐らくSランクの天使スキルは何故か封印されていたし、ステータス的に四人なら普通に倒せるだろう。

 木々の少ない、木の葉が散らばっている森林の間で、俺は鎧のみの存在に刀を突き出す。

「お前の相手は、俺だ」

「ほぉぉっ? お前、俺に勝てると? スコア序列九位の俺に勝てると!」

 陽気な声で、セイラーンが右拳を左の掌に叩きつける。

 もしコイツに顔があるのなら、好戦的な顔をしているだろうな。

「だったらどうする?」

「久々にマジでやれそうだ!!」

 俺は、セイラーンに斬り掛かった。


 こうして、俺とセイラーンの戦いが始まったのだが。

「――クソが!!」

 俺は叫ばずには、いられない。

 とにかく、俺はセイラーンを斬ろうとした。

 鎧で守られているとはいえ、何度か衝撃を与えれば壊れるはずだと推測していた。

 だが、

「どうして……俺の攻撃が当たらない!?」

 時間にしたらまだ数分も経っていないが、俺の攻撃を、セイラーンは全て回避してくる。


「教えてやるよ。俺に挑むだけはある。お前のステータスは俺より上だな、そこは認めてやるよぉ」

 セイラーンは戦闘が始まってから、俺に何度も言葉を投げかけてくる。

 その間、俺は斬りかかっている。

 しかし、全て回避されるのだ。

 絶妙なタイミングで後方に下がり、伏せ、飛び上がり、空中を見えない翼でもあるかのように舞う。

 ありとあやゆる角度、タイミングを試してもこれだ。


 コイツの言葉を聞いていると、何故か精神力がすり減ってくる。

 そのせいで集中を欠き、俺の攻撃を受け流されて反撃を食らう様になり、瓶に蹴りが叩き込まれ、腰に五本備えていた回復薬の入った瓶が一つ破壊された。

 この瓶は大抵の衝撃は耐えると言っていたが、防具越しでも攻撃を受けると割れるのか、これは相手のステータスが高いからだろうな。

 セイラーンの攻撃は威力を重視せず、速度を重視した一撃だから、あまりダメージを受けてはいないも、何度も喰らえば危ないだろう。


 そして、セイラーンが解説を続けた。

「お前は強いが――経験の差があり過ぎる。お前が怠けてるとかじゃねぇぜ、俺がありすぎるんだよなぁ」

 確か、コイツは取り込んだ者の知識を得るんだったか。

 なら、多種多彩な技術や戦い方も、この鎧は取り込むだけで会得してしまうのだろう。

 今の俺はセイラーンにしか集中していないも、攻撃が一切当たらない。

 ステータスで勝っているというのもこの鎧の発言だ。

 俺の方が動きは明らかに鋭いも、まだ力を隠している可能性だってある。

「ならなぜ、お前のステータスは見れない!?」

 攻撃を回避されながら、俺は思考を続けながら問いかけ、攻撃を行なった。


 聞けば、俺の刀による攻撃を回避しつつ、セイラーンは応える。

「そりゃお前、俺が生物じゃねぇからだよ。魔力はあるぜ、意思もある。だけど世界が生物と認めてくれねーんだよな! 似たような天使は生物って認める癖によぉ!」

 切撃ちを使って周囲の木々を破壊し、その木をセイラーンに向かって落とす事で動きを止めようとするが、俺が切撃ちを放とうとした瞬間、この鎧は安全地帯に移動しやがる。

 完全に俺の視線やら筋肉の動きか何かで先の攻撃を見切ってやがるな。


 更に攻撃を回避しながら、セイラーンは語りだす。

「俺は大昔、ただの処刑魔法道具だった。周囲の魔力を勝手に取り込む欠陥品で、使い方は魔力を込めることで、HPMPが少ない者を取り込んで殺すだけだ。だが、魂を取り込みまくっちまったからか、俺に意思とやらができちまった」

 振り下ろしを紙一重で横にズレて避ける。

 違う、絶妙なタイミングで完全に見切っている。

 俺のどこかに攻撃前の癖があるのか?

 意識するが、やつは攻撃前には動いているのだろう、一見容易く回避している様に見えるが、これはかなりの技術が必要になるはずだ。

「クソヤロー共の魂や知識を取り込んだからかねぇ、俺はこの世界には馬鹿しかいねぇという結論を出した。なら、もう好き勝手に自分が楽しい様に生きるのが一番じゃねぇか」


 攻撃を当てる手は一つだけあるが、今まで一度も試していないから、実践で使うのが不安だった。

 一応試しておくべきだったな。

 セイラーンは、俺の刀の振り下ろしを、紙一重で回るように避けて、

「そこまで強い奴を敵に回したくなかったから、俺はギルドの道具になった。あいつ等、Sランクになれば大抵のことは許してくれるからな、そして俺は同類の、音楽家クラジに出会ったわけよ。アイツは俺と同類だってすぐに解ったからなぁ!」

「つっッッ!?」

 カウンターの蹴りが、俺の横腹に突き刺さる。


 痛みに耐えながら、俺は決意した。

 これは埒が明かないな。

 一度きりの策となるだろう、ぶっつけ本番でやるしかない。


 瞬間移動で虚を突き、全力の絶刀を叩き込む。


 そして、俺は瞬間移動を発動し、セイラーンの背後に移動した。


 ――それが、致命的だった。


 絶刀を発動してから、セイラーンの背後へ瞬間移動をした。

 しかし、俺は絶刀の一撃を振り下ろすことができなかった。

 俺の身体が、そんなことをしている場合じゃないと、反応してしまったからか。

「――――」

 俺は、声を出すことすら、できなかった。

「チッ、外したか、まあいいや」

 セイラーンが、かったるそうに呟く。


 瞬間移動発動後、一瞬だけ身体が無防備になる。


 そのタイミングに合わせて、セイラーンは振り向きざまに力を込めた貫手を放ち、俺の胸部を貫いた。



――同時刻 

  

 クラジはセイラーンから知らされていた場所へと、一目散に走っていた。


 追手が来るかと思ったのだが、不気味なほどに誰も追って来ない。

 唐突に現れた謎の五人組、かなりの精鋭達だが、一番強い奴はセイラーンが対処し、残りはリアッケが引き受けている。

 他に強い奴は居ないのかもしれないな。

 他の連中は実力差に怯んだのかと、クラジは楽しげな笑みを浮かべ、目的地に到着する。


 そこは、二階建ての図書館の様な場所であった。


 本棚と、目立つ段の浅く長い階段が見え、二階も本棚で埋め尽くされている。

 そして、一人の青年が、階段の中央にある広い踊り場で、クラジを眺めていた。

「俺は生物が全て、音を鳴らす楽器にしか見えない」

 クラジは語る。語らずにはいられなかった。

 彼の見上げた先に居る青年の髪は、金、銀、赤、青、黒と五色という奇抜でしかない複数の色だというのに、まるで芸術作品のような美しさを見せている。

 その長髪に合った長身と、細長く尖った耳、僅かに髪で目元が隠れているも、非常に整った端麗な顔が、僅かに怒気を見せている。

 正に夢のような最高峰の楽器(美形のエルフ)が、そこに居たからだ。


 無言で立ち尽くすエルフの青年に、クラジは話を続けた。

「最初は動物だった。動物を痛めつけて聞く悲鳴に、心を惹かれていた。だが、それは無意味だと理解した。どれもこれも同じにしか聞こえなかったからだ。モンスター、獣、昆虫……楽器もそうだ。最高の道具で鳴らしたのが100点満点だとして、普通の楽器でも90点ぐらいは出せる。一度聞いたらそれで十分だ。新しさは感じねぇ」

 エルフは、僅かに不愉快そうな顔を向けた。

 クラジとエルフにはかなりの距離があり、楽しげにクラジは続ける。

 クラジの動きは止まっていた。

 距離を詰めるため、会話に意識を向けようとしているとかではない、ただ語りたいだけなのだろう。

「僅かな音質程度じゃ、俺の心は動かなくなっていた……そして理解したのさ。感情、環境によって多彩な変化を見せる人間ならば、様々な音色を出すということをな、下等生物、物質では、俺が望む音は出せなかったということだ」


 両の腕を広げ、仰々しく、力強くクラジが語る。

「そこから、俺の人生のロードが始まったといっても過言ではない。まずは強くなった。ひたすらに、欲しい物の為に、強く、ただ強く。なんでもできる最高の位(Sランク)は、努力して手に入れた。そこからだ。夢が叶った世界というのは……俺は様々な生物達(がっき)に心を震わせたよ」


 クラジは、その独白を黙って聞くエルフの長に、右手に持っていたバイオリンの弓毛のような道具の先端を突き出して、

「お前みたいな、痛みを知らなそうな美形の音は特に心地いい。苦痛に歪む顔が、そこから響く声が、俺を幸せへと導いてくれる」

 そしてようやく、エルフの長が、クラジに声をかける。

「人間に興味があったので、耳を傾けてやったが……貴様は、私が今まで見てきた生物の中で、最も異質だ」

 その静かで美しい声帯に、クラジは歓喜の表情を浮かべて。

「俺達から見たテメェ等もそうだろうよ。亜人共(エルフ)の長殿」

 エルフの最精長、フィリックス・エルフィンは、階段の広い踊り場で、静かに怒りを向けつつ、左の掌をクラジに突き出す。


「――貴様は殺すぞ」

「お前はいい音で鳴きそうだ」

 狂気を含めた笑みを浮かべながら、クラジがフィリックスに迫ろうとしていた。

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