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エルフの里

 朝食を終え、いつも通りの日々が始まるはずだったというのに、一人のエルフによってぶち壊されていた。


 唐突に大部屋に現れたリリカ・ネルティというエルフが、唐突に「救って下さい」とローファに頭を下げている。


 何一つ意味が解っていないのだが、俺は怒りが沸き立つのを感じるしかなかった。

 このエルフ、今になって現れ、何を言ってやがる。

「……まず、どうやってこの場所に来たんだ?」

「そうだな、いや、そうですね。見た所、貴方達四人はパーティの様だ。そして、貴方が一番強い。お話ししますが、できれば早急に判断をお願いします」

 現われた時、ローファ以外には敵意を向けていたネルティだが、俺が怒っていることを察したのか、すぐに冷淡な顔へと戻っていた。


 まずローファの元に来れた理由を聞こうとするが、それはセレスが手を突き出して止めてくる。

「ソウマ、それは今はどうでもよいではないか! 理由はわらわは理解できておる、それでいいではないか!」

「そ、そうだな……」

 セレスに物凄い勢いでまくしたられて、俺はそう反応するしかなかった。

 セレスが理解できているのなら、この必死なエルフの説明を優先してやるべきだろう。


 その前に、これだけは言っておきたかった。

「……話は聞くけど、内容次第じゃ受けない。お前等は奴隷になったローファを助けなかった。なら、お前等が助けてくださいって頼むのが、どんだけおかしいのか理解できてるだろ?」

 いや、実際はローファがエルフの皆を助けたいって言うのなら、普通に引き受ける気でいるのだが。

 ここでどう動くのかは、ローファが決めるのがいいと、俺は思っている。

 すると、ネルティは必死の様子になって。

「ち、違う! あれはエタニア様を戦士として育てる為……いや、確かに、ハーフエルフだから環境を悪くして、成長した後に里に戻すというのは、虫が良すぎる話だな……」

 意義を申し出ようとしたのか、すぐに自分達がしたことを呟き、項垂れている。


 ローファと初めて会った時を思い返す。

 俺が見た時のローファは、明らかにやられる手前だったのだが、何か救命する方法があったというのか?

 すると、ローファが、ネルティをじっと見つめ。

「あの、私のことは、エタニア様ではなく、ローファでいいです」

 それを聞いて、ネルティは少し寂しそうな表情を浮かべて、頷く。

「解りました……ローファ様の過去については、この件が解決したら話します……ですので、話だけでも聞いてもらえないでしょうか。この件は、貴方達人間がしでかしたことなのですから」

「……俺達人間が?」

「はい……私達の里に理由無き者は入れません。基本的に生物界に関わる私の同胞は、訓練を受けた精鋭です。私もその一人です……私は、その中でも連絡役を行なっています。だから、ギルドの存在も少しは知っています」

「それで、何があったのじゃ?」

 ギルドの話となると、一番詳しいのはセレスであり、ネルティの正面にセレスが立つ。


 緊急の用事みたいなので、ソファーに座らせたりはしない、このエルフがやってきた時から皆は立ち上がり、セレスがネルティの前に動いていた。

 特訓に入る前で、俺以外の皆の装備は万全であり、俺は身支度をする。

「はい。人間に警告を出す者と、そして、それ以上の侵攻をした者を排除する魔族の戦士、三魔士の二人がやられました。リーダーである一人は魔界で自由に動いているので、同胞の一人を魔界に向かわせましたが、応援に来るとしても時間がかかるでしょう。今まで一度もこのような事態はなく、里と魔界で瞬間移動をする手段は備えておりませんでしたから」

 警告って、魔族とエルフを敵に回すっていう言葉か。


 それをやった奴は、相当頭がおかしいな。

 セレスが質問をする。

「それで、侵攻した者の姿は?」

「はい……私は見ていません。同胞が界眼というスキル持ちで三人の姿を確認できたのですが、一人は小柄な黒髪の恐ろしい眼つきをした青年、名をクラジ。一人は真っ白い鎧とのことです」

「はぁぁっ!?」

 その言葉に、セレスは目を見開かせ、口を大きく開けて叫ぶ。

 すぐに冷静になって、何か思い悩んだような表情を浮かべた。

「い、いや、確かに、奴等なら……」

「知っているのか?」

 戸惑いを隠すことができていないセレスに、俺は聞く。

「う、うむ……クラジとセイラーン。クラジは生物を楽器と呼んで痛めつけて楽しむ、頭のおかしい奴じゃ。セイラーンとよく連んでおるとは聞いておったが……」

 セイラーンって、どこかで聞いたことがあるような……。

「ま、まさか、あのスコアに名前がある、セイラーンのことですか!?」

 ネルティが、セレスの発言に驚愕する。

 

 その発言で、俺はようやく思い出した。

 スコア序列九位の奴か!

 俺はネルティに聞いてみる。

「……エルフのステータスって、大体どれぐらいなんだ?」

 ネルティが精鋭と呼ばれる程度だ。

 十分強いのだが、スコアに名前が載っている奴となると、10000ぐらいはなければ一撃で倒されてもおかしくはない。 


 ネルティは即座に応えた。

「……界眼を持つ同胞が6000ぐらいの魔力だから、長は測定できないが、長の次に強いのが私だ。精鋭のステータスは5000から4000ぐらい。他のエルフは大人が2000から1000ぐらいか……」

 神眼と同じならステータスは12000まで測れるのということだな。

 十分強いと思うのだが、侵攻している連中が問題になるな。


 俺は霊山に行った時と、トウ達とダンジョンに潜った時のことを思い出す。

 数値の差があったから、全く記憶に残らない程にモンスターを圧倒していた。

 ステータス差が5倍までならなんとかなるらしいが、それは余程相性が良かったりした場合だけだ。

 2、3倍差があれば瞬殺されるレベルだというのは、今までのことから俺は理解できている。


 ネルティが、焦りながら早口で話を続けた。

「三人はなるべく村に関わらないように、まっすぐに長のフィリックス様の元へと向かってきている。私達の中に内通者が居たとしか思えないが……」

「いや、それはセイラーンの力じゃ。奴は弱った者を体内に取り込むことで捕食でき、その者の知識を全て得る事ができるのじゃ」

「そ、そんな化物が……存在しているのですか!?」

 ネルティが驚愕の声を漏らす。

 スコアの連中はどいつもこいつも常識から外れているな。

 ネルティがローファに助けを求めたのは、ローファのステータスをどこかで知っていたからだろうか。


「界眼は里とその周辺を視認できるSランクスキルで、ステータスの確認もできるも、解ったのはクラジという聖戦士だけ……ですが、船の後方に居た一人は知っている!」

 なら、クラジというのは最大値が12000以下か。俺なら普通に対処できる存在だろう。

 そして、ネルティの次の言葉に、俺は驚愕するしかなかった。

「ステータスこそ測定できなかったが……その男は私達の中でも有名だからな、寡黙剣士トウ! 恐らく奴が首謀者だろう!」

「……はぁ?」

 こいつ、何を言ってやがる。

 なんでトウがそんな奴等と一緒になってエルフを襲おうっていうんだ?

 だけど、発言通りなら、12000以上のステータスを所持しているのは事実だ。

 誰かが変装していたとしても、そんな都合よく高ステータスの存在がいるだろうか?

 

 あいつがエルフの里を襲うだなんて、理由が全く――

 エルフの里には、若返りの秘薬がある。

 ローファが、俺と最初にあった時、そんなことを言っていた。

 トウは歳の差を気にしていなかったが、十年以上あるのは気になってもおかしくはない。


 ……まさか、まさかな。


 とにかく、本物かどうか、見極める必要はあり、俺は提案する。

「……解った。俺がトウを説得する。そんでトウと二人でセイラーンを倒す。クラジとかいうのはエルフの長が何とかしろ。そこまでなら、俺は動いてもいい」

「本当ですか!?」

 感極まった声を出すネルティに対し、ミーアが俺の肩を掴んできた。

「……ソウマ、大丈夫なの? 確かに、ローファの故郷に居るエルフが危ないのなら、助けるべきかもしれないけど……」

 ミーアは困惑していて、セレスも悩んでいた。


 俺は、今思っていることを、三人に話す。

「……俺だって、いきなり奴隷にまでローファを落とした連中が、困ったから助けてくださいって頼み込んできたことには無茶苦茶腹が立っている。でも、俺はローファを育ててくれた人達に挨拶もしたいからな……なぁネルティ、ローファの住んでいた村の村長夫妻が、ローファを追い払おうとしたのか?」

 ネルティは、首を大きく振るい。

「いや、あの二人は最後まで反対していたが……私達が強制した。あの二人には悪いことをした……」

 今さら何を言っても意味はない。

 それに、俺の友のこともある。

 もしエルフの里に向かっているトウが本物なら、エルドには黙っているのだろうか。


 念を押すように、俺は告げる。

「俺がトウを説得する。そんでセイラーンは俺達が対処するが、もう一人のクラジはスコアに載ったらしい最精長とやらがやれよ」

 全部やってられるか、これが最大限の譲歩だ。

 それを聞いたネルティは、決意した表情で、大きく頷く。


 ローファにも聞いておくべきだろう。

「……ローファは、それでいいか?」

「はい!」

 そう聞けば、コクリと、軽く頷いてくれた。

 ローファが頷いてくれなくても、俺はトウを説得したいから、謝りながら里に向かっていただろうな。

 エルフとはいえ、悪いのはローファを奴隷にするよう指示を出した奴等だ。他のエルフには罪はない。

 そう考えてしまうのは、俺に力があるからなのだろうか……?


「私も行きます!」

 俺がネルティにどうやってエルフの里に向かうのか聞こうとしたら、ローファが決意した顔で手を挙げた。

 ローファは俺と共に戦いたいから、今まで鍛えてきた。

 なら、ここで待ちたくは無いのだろうけれど、俺は聞くしかない。

「ローファは強いから、行くというのなら止めないけど……いいのか?」

「はい。それによってソウマ様に会うことができました! 全部悪いことじゃないですし、私は、私の故郷を守りたいです!」

 決意した瞳で、俺に向かって叫ぶローファ。

 なら、俺は止めることはできない。


「……エルフの里には、どうやって向かう?」

 俺はネルティに聞いた。

「テラーカという、界眼を持つ同胞が創り、私が所持しているトランスポイントを使用します。今は精鋭が命懸けで足止めをしています。すぐに向かいましょう!」

「わかった」

 俺とローファは、ネルティに触れると、俺の肩に二人の手が乗った。

「……ミーア、セレス」

「私も行くわよ、後ソウマ、これを持ってなさい」

 そう言って、ミーアが腰に下げたショルダーバッグ型のマジックバックから、俺にフラスコの瓶のような物が五本程刺さったホルダーを渡してくる。

 会話の最中にマジックバックを戦闘用に用意していたのか。

 このホルダーの細いフラスコの瓶のような物は、攻撃が直撃しない限りは割れにくく、中に入った回復薬はセレスが持っている中でも最高物だったか。

 俺のHPMP値が高すぎるから、俺の場合はHPは二割、魔力も一割ぐらい回復すると、一本でこれは凄い効果だ。

 俺はそのホルダーを装着する。ミーアはローファにも渡していたが、戦闘中に飲む余裕があるかどうかだな。

「わらわもじゃ、同じ者を愛する者が戦うというのに、留守番などしておれるか」

 嬉しいのだが、危険でもある。

 セレスは大丈夫だとは思うのだが、問題はミーアだな。


ミーア

大聖者

HP37100

MP64000

攻撃3390

防御3620+400

速度3800+120

魔力7730+510

把握4060

スキル・空間把握()調合()


 ステータスは上昇しているとはいえ、相手のステータス差は結構ある。

 俺がステータスを見たことに気付いたのか、ミーアは真剣な表情で。

「大丈夫よ。後衛だからね。ローファが守りたいって言ったのよ、私も守るわよ」

「最悪、わらわのトランスポイントで逃げる。心配は無用じゃ」

 そう言ってテーブルの上に、セレスがトランスポイントの杖を置いた。

 それを見て心が軽くなると、ネルティが叫ぶ。

「――行きます!!」

 こうして、俺達はエルフの里へと向かうことになった。


 トランスポイントの瞬間移動で来た場所は、どうやら小屋の中のようだ。

 テラーカは装備補正で魔力が6050程度のエルフであり、耳が尖った小柄な金髪短髪の少女だった。

 ネルティがすぐに三人の襲撃者の場所を聞いたのか、案内されて俺達は後を着いて行く。

 森林がやたら多い。

 遠目で小さな村らしきものが見えるが、結構距離があるな。

 なんというか、人里離れてあまり文明が発達していない、世界の外れの村といった感じだ。

 木々の間を飛ぶかのように、俺達は走っていく。

「すでに同胞が何人かやられていて、奴等はフィリックス様の元へと向かっている!」

「フィリックスとやらは隠れぬのか?」

「隠れて他の者達が被害を受けるのなら、待ち構えて迎え撃つと宣言した! そういう方なんだ!」

 話しながらネルティの全力疾走に、俺達は森林の間を縫うように走り、ついて行く。

 

 その間、俺はトウをどう説得するかに、意識を集中させていた。

 一番手っ取り早いのはヒメナラの名前を使うことだろう。

 それはヒメナラが最も嫌う行為とでも言えばいい。

 本人に確認していないが、これは間違いないだろうからな。


 走っていると、恐らくエルフだろう、誰かの絶叫が聞こえた。


 この世の物とは思えない程の断末魔が、森林に響く。

 それを聞き、俺達は不愉快そうな顔を浮かべて、ネルティが叫ぶ。

「いたぞ!」

 ネルティの真正面に、人影が見えた。

 そこに居た瀕死のエルフが、鎧に肉体を詰め込まれ、姿を消失させる。

 

 小柄な青年、白い鎧、そしてトウ。

 俺は三人の存在を、ステータスを確認する。


クラジ

聖戦士

HP142000

MP74030

攻撃11020+290

防御9690+410

速度9830+420

魔力8660

把握9200

スキル・攻撃強化()超感覚()


 鎧のステータスは解らない。

 そんなことはどうでもいい。

 俺はトウの姿をした存在を見て、怒りを抑えきれなくなっていた。


リアッケ

上級天使

HP74000

MP143500

攻撃11200

防御10600

速度11490

魔力12850

把握10000

スキル・封印()変質()


「トウは偽物だ」

 俺は、四人に説明するかのように、そう言葉を発した。

 眼前には楽しげに笑うクラジ、喜びの声を漏らすセイラーン、無表情のトウの姿をしたリアッケが居る。


 ――ふざけやがって。

 俺がどれだけ悩んだと思っているんだ。

 どれだけ説得する内容を思案したっていうんだ。


「叩き潰す!!」

 ――俺の友を利用しやがったな!

 完全に頭に血が上った俺は、全速力で駆けだした。


 離れていた距離を一気に詰め、俺はリアッケに斬り掛かる。

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