膝枕
海聖神殿に向かってから二日が経つ。
三ヶ月ぐらいはほぼ毎日特訓をしていたセレス達だが、最近は週に一度か二度休むほうがいいらしい。
その時は皆オフになるので、セレス達と買物に行ったり、ミーア達と釣りやら家庭菜園のやり直しやらしていてとても楽しかった。
――そして今日。
「ローファは可愛いなあ」
「えへへ……」
今日は特に何も用事はない。
だから俺はローファを膝の上に乗せて、優しく、丁寧にサラサラとした青髪を撫でながら感想を述べていた。
こういう日はローファを撫でたり膝枕したりされたりしたら、いつの間にか一日が終わっているのだ。
朝食、昼食、夕食は当然とっているが、それすらあまり記憶に残らない一日となっている。
「ねぇ……ちょっとさ、気になることがあるんだけど」
「なんだ?」
こうて最高の一日が終わるのだと昼間から悦に入っていれば、ソファーから立ち上がったミーアの声が聞こえた。
昼食の片付けは終わっている。何か用事があるのだろうか?
「ソウマはさ……ローファの身体の方が、好きなの?」
質問の意図が解らないが、思ったことをそのまま言おう。
「いや、俺はローファが好きだ。それ以外にないだろ?」
正直に告げると、膝の上でローファが顔をみるみる赤くしてとても可愛い。
ちなみに、セレスはじっと、テーブルを挟んで正面のソファーで紅茶を飲みながら、美少女姿で俺とローファをずっと興味津々な瞳で眺めていた。
時々明らかにわざと屈むことで、暴力的な胸の谷間を俺に見せつけてくる。結構な頻度であり、恐らく狙ってやっているのだろう。
頻度が解る辺り、俺の本能がそれを逃していないということも、よく解る。
揺れて、赤いドレスから煌めいた美しい肌と谷間が見えるのだから、仕方がないじゃないか。
何か言いたげで、それを我慢そうになっていたミーアだったが、結局口を開いた。
「だってローファを毎日撫でてるじゃない? あっ、ダメだってわけじゃないのよ! ローファはそんな顔をしないで! ……なんていうかさ、私と、この姿のセレスは撫でてないから、気になったのよね」
気になったか……。
ならばと、俺は思ったことをそのまま口にする。
「ミーア、お前は呼吸ができないとどうなる?」
「死ぬわ」
「――つまり、そういうことなんだ」
「…………」
俺がキリッと偶に鏡で練習した決め顔を見せると、頭のおかしい奴を見るかのような眼差しをミーアが向けてきた。
無言だが「はぁ?」と言わんばかりだ。
しかし、俺がそう思っているのは事実。
ロマンチックに決めたつもりだったのに、俺を見上げるローファも「?」という顔で首を僅かに傾げていた。
そして、いつの間にかセレスが美幼女姿になっている。
そっちの姿も大変可愛いけれど、どうしてその姿になったのだろうか?
そして、怪訝そうな顔でミーアが俺を指差して。
「ヒメナラがよくロリコンロリコンって言うのは、そういうとこじゃないの?」
ミーアは一体何を言っているのだろうか?
確かによく言われているけれども、ローファの歳は俺と同じだ。
「歳が同じなのだから、ロリコンではないだろう?」
「いや、幼さに性的興奮を覚えるのなら、ロリコンだと聞いたような気がするのじゃが……どうじゃろうな?」
「えっ?」
――馬鹿な。
でも、俺もロリコンについてよく知らないし、セレスも曖昧な感じだ。
まあ、それでも構わないが。
「なら俺はロリコンで構わない。もちろん、ミーアも、セレスも好きだ」
三人がその言葉で喜んでいる。膝に乗って満足げなローファ。
少し頬を赤らめたミーア、満足げなセレス。
そして、何かを少し考えたローファが、小さな口を開く。
「でも……ソウマ様はミーアさんを膝枕したことは、なかったですよね?」
そんなローファの言葉があり、俺はミーアを膝枕することとなった。
ローファは膝に乗せていたのだが、ミーアと俺は背丈がほぼ同じだから、膝枕の方がいいと判断したのだろう。
セレスは美幼女姿で甘えてきた時、何度かしていたからなあ。
ローファが膝に居ないタイミングを狙って来るのでローファに気を遣っているし、ローファも同じ気持ちなのか、時々ミーアと二人で何か話したりしている。
今はそれよりも、ミーアを膝枕するということに意識を集中させるべきだな。
「そ、それじゃ……するわよ」
「はい、お願いします……」
なんだこの会話。
俺の膝にミーアの頭を乗せるだけだぞ。
「初々しいの、己の下半身を相手の上半身に合わせるのじゃから、緊張するのは当然か!」
セレスがそう語る。
やめてくれよ、気にしちゃうだろ。
ローファは当然のことをセレスが言ったので、僅かに首を傾げているだけだが。
そして、俺はミーアを膝枕した。
ファサッと、髪が揺れて、良い香りが鼻をくすぐる。
セレスは美幼女姿だったから、完全に全身撫で回していただけだが、こ、これは……。
顔を真っ赤にしているのがまずポイント高く、次に見てしまうのは胸だ。
全身の肌は法衣で隠れているも、その大きい胸はよく見える。
艶やかな長い黒髪を優しく撫でれば「んっ……」と声を漏らすのも堪らなく、俺は呟いた。
「ミーアさん、すみません……」
「な、なによ?」
思わずさん付けになったことに顔を赤らめながらムッとしてきたが、俺は続けた。
「……膝枕してくれませんか?」
するのには満足した。
もうこれ以上はヤバいってぐらいだ。
だから、俺は位置を交代することにする。
理性が飛ぶかもしれないのにこの提案をしたのは、本能が求めていたからだろう。
ローファやセレスとは膝枕をしたりされたりもしている。
だけど、ミーアは膝枕したのも初だ。
なら、この機会を逃す手はない。
ローファはうんうんと頷き、セレスはいつの間にか美少女姿に戻ってそわそわとしていた。
そっちの姿でやっていないから、順番を待っているのか、律儀だな。
俺の理性が持つかどうかだな、持ち堪えてくれよな。
「おおう」
「な、なによその反応……」
「最高、素晴らしい」
「そ、そう……なら、良かったわ」
大きな胸から見える顔を赤らめたミーアの端麗な表情。
頭の下は柔らかさに包まれ、上は絶景だ。
この幸せサンドイッチを前に、俺は精神を無理矢理落ち着かせながら、満足していた。
「そ、それじゃ、次はわらわの番かの……」
俺とミーアが顔を赤らめて膝枕を終わりにした時、その反応を見てか、顔を赤くしながらセレスが聞いてくる。
まず、膝にセレスの頭を乗せると、下から見える胸の谷間やら生足やらが凄まじいことになっていた。
ミーアの清楚な感じも隠れているからこそかなり刺激的だったのだが、こっちは火力重視だ。
ハートにズガンとくる感じだが、何度か美幼女姿で同じ姿勢だったこともあり、ギリギリ冷静になることができている。
そして、セレスの膝枕だが……。
生肌の脚と、ほとんど顔が見えない巨乳が凄まじいことになっていた。
「ありがとう……最高だよ……」
こんなん感謝して、感極まるしかないじゃないか。
ちなみに、ミーアの膝枕が終わってから、セレスと俺はここまで「膝枕しよう」「うむ」「膝枕するのじゃ」「ああ」ぐらいしか会話をしていない。
それ以外に言葉がでないぐらい、顔を紅潮させながら、俺達は感極まっていた。
誰が一番とか、そんなんじゃないんだよ。
こうして、皆で膝枕を楽しんでいると、ローファが少し悲しげになっている。
ローファの膝を俺が堪能していないからか? と考えて、ローファの視線で理解した。
――胸か!
俺は皆素晴らしい、それが答えだと理解しているが、ローファは武器となるバストを持っていないのだ。
セレスは身体時間操作で使い分けができるし、ミーアは気にしていないが、ローファは気にしてしまうのだろう。
なら、俺は力説するしかないじゃないか。
「ローファは癒される。ミーアとセレスは昂ぶる。どれも素晴らしいんだ!」
なんだかよく解っていなさそうなローファだったが、褒めていることが伝わったのか、満足げに喜んでくれた。
「その本能のまま正直に言うの、好きよ」
「わ、わらわも、大好きじゃぞ!」
キッパリと俺に言い放つミーアと、昂ぶると言われたからか、顔を赤らめているセレス。
そういえば、ローファに昂ぶったことは……。
「ローファのお尻とか胸とかは、触ってないわよね」
顔に出ていたのか、ミーアがそう告げて、セレスが続く。
「わらわが幼女姿の時もそうじゃの、そうか! それがソウマなりの自制のしかたなのじゃ!」
なにか納得したセレスと、そういうものかしらと、疑問に感じるミーア。
いや、膝の上に乗っている時は、小さくて柔らかいお尻とか、撫で回している時は全身の感触とか、時々昂ぶったりするけど。
でも、そこまで触っていない気もする。
なるほど、俺は無意識化に、ローファに癒されることで自制が出来ていたのか!
最初、本能のままにローファを撫でることを呼吸と称した意味を、俺は理解した。
理解できたのか……?
「わ、私は、魅力がないのでしょうか……」
二人の言葉を聞き、ショボンとしてしまったローファに対し、俺は本能のままに告げる。
「結婚した後、どうなるか楽しみにしててくれ」
結婚した後は、それはもう本能のままに、動くことになるだろうからな。
「っっ!? は、はい……待っています……」
それを聞いたローファが物凄く驚き、顔を真っ赤にして、俯いていた。
――危ない。
ローファのお触りは自制も兼ねていたらしいのに、揺らぎそうだ。
それを聞いたミーアとセレスも、顔をみるみる赤くしていく。
なんとか俺は精神を落ち着かせて、一日が終わろうとしている。
眠る前、この愛しい日々が終わらないでいて欲しいと、俺は祈っていた。




