五大迷宮
あれから翌日の昼過ぎ、またロマネ達がやってきた。
館の入口で、俺はロマネに聞いてみる。
「三日連続ってのは初だな」
「いや、今日は師匠に頼まれていた日が今日になっただけなんだ」
「……なんの話だ?」
話がよく解らない俺はセレスに聞きに行こうとすると、セレス達が入口にやって来ていた。
「明日かと思っておったのじゃが、今日になったか」
どうやら何かあるらしく、俺も同行していいようだ。
それからすぐに用意をして、俺はセレス達の後ろをついて歩く。
セレスに聞いても「行けば解るのじゃ」と言われるだけで、詳しくは教えてくれない。
ティータイムにもならず、俺達は出かけることにしていた。
すると、ヒメナラが俺の隣にやって来る。
俺はあの後のトウとのデートが気になったので、聞いてみることにする。
トウが色々と楽しげに語ってはいたのだが、ヒメナラとしてはどうなのか気になったからだ。
「よう、昨日はどうだった?」
「どうって、普通」
ちょっとだけ頬が赤くなっているのが、中々に可愛い。
今まではヒメナラにロリコン呼ばわりされてきたこともあり、反撃の機会かと、俺は詳しく聞こうとする。
「お、よかったのか?」
「普通だって……」
少しの沈黙の後、ヒメナラがポツリと呟いた。
「トウと私って、どうなのかな?」
「……どうって?」
「年の差とか、強さとか……」
まあ、色々と気にしてしまうのも無理はないだろう。
年の差が12もあるし、Sランク人類最強とAランクメンバーだものな。
トウが気があるのは、ヒメナラも理解しているのだろう。
ここは友としてはトウのいい所とかアピールするべきなのかもしれない。
でも、これに関しては、トウとヒメナラ自身の問題だと、俺は思う。
「それを決めるのは、ヒメナラ自身じゃないのか?」
だから俺は、こんなことしか言えないでいた。
「そうだね」
それでも、聞いたヒメナラは微笑んでくれた。
俺達が向かった場所は、キリテアの街の離れにある、五大迷宮らしい。
そして、セレスが俺に対して、説明をしてくれる。
「一応ここに住む者として、危機がある可能性が高い此処は、一度行っておくべきだと思ったのじゃ」
そう言われたので、俺は目の前にある、五大迷宮へと向かう大橋を眺めた。
広大な、そしてしっかりとした大橋が、目の前にはある。
街の外れであり、橋を渡るための馬屋が用意されているほどだ。
神眼の視力強化でようやく、巨大そうな神殿がギリギリ見えた。
普通の視力なら全く見えないだろう、無茶苦茶距離があるな。
海神龍を討伐に行った時も、通り過ぎたのでチラリと見たことはあったのだが、普通はこの橋を使うのか。
セレスが説明を続ける。
「この橋は魔族が作ったとされておるのじゃ……魔族が生物界に住んでいた頃の名残とも呼ばれておる、五大迷宮の近くにはこういう魔族の建造物が多いらしいのじゃ」
「そうなのか……」
魔族は昔生物界に住んでいたという話は、俺も昔聞いたことがあるが、あまり信じられないな。
エルドは何回か此処を確認しに来ているらしいし、五大迷宮が危険だということは何となく解るのだが。
俺、ローファ、ミーア、セレス、ロマネ、ヒメナラの六人は、橋を渡って五大迷宮に向かっていく。
六人が横に並んでもなんら問題はない、余裕がまだまだある程の幅だ。
そもそも、この橋を渡っているのは、俺達しかいなかった。
こうなった理由を推測して、俺はセレスに聞く。
「セレスはこの橋を貸し切りにするようロマネに頼んでいて、俺達に五大迷宮を見せようしていたのか?」
観光名所らしいし、さっきセレスが説明していたこともある。
思いつくのはこれぐらいだったが、セレスは首を左右に振るい。
「いや、五大迷宮の一つ、海聖神殿はダンジョンとは思えぬ程に美しい神殿じゃ、いつか一緒に楽しく見に行こうと思っておったが……そうじゃな、それも理由にしようか」
「なら理由が別にあるのか?」
「うむ。これはロマネのギルド業務の一種でな、わらわ達はその手伝いじゃ、珍しいモンスターも出てくるしの」
観光名所だけど人が居ないことも、関係しているだろう。
迷宮なのだからモンスターが居るのは間違いないが、どういうことだ?
モンスターを倒すとステータスが上がる時もあるが、同じ種類では効果が薄い。
だから俺は様々な場所を巡って様々なモンスターと戦っているが、珍しいモンスターと言っているし、その一種ということだろう。
ロマネとセレスが会話をしながら橋を歩き、少し悩んでいるとミーアとローファとヒメナラが俺の隣にやって来る。
そして、ミーアが教えてくれた。
「五大迷宮は、その場所によってまちまちだけど、大体一ケ月に一回ペースで、モンスターが人間を襲おうと生物界に飛びだしてくるのよ。迷宮内でモンスターが増える量が多いからか、中で冒険者達が活躍すると、その頻度も下がるんだけど、モンスターが活発になってくるから、ダンジョンから出てくる時期が解るってこと」
そういえば、そんなことをなんか聞いたことがある気がする。
ローファは初耳だったようで、ぽかんと驚きながらも、ミーアの説明をふんふんと頷きながら聞いていた。
そして、歩く速度を遅めて、俺のすぐ前までやって来たロマネが続けた。
ゆらゆらと揺れる赤髪ポニーテイルと美脚を堪能していたら、いきなりそれが迫ってきて少し驚いてしまったぞ。
「五大迷宮から出てくるモンスターは弱体化しないのだが、Bランク冒険者なら余裕程度のものだ。しかし、数が多いからな。ここは海聖神殿以外は平和となっているから、私はヒメナラと二人で対処している」
「一時間ぐらい戦えば終わる。橋を渡るのを阻止するだけ」
そう言ってロマネとヒメナラは、真剣な表情を、橋の先へと向けていた。
「それって、毎回ロマネさん達がやってるんですか?」
ローファが聞くと、「いや」とロマネが応える。
「大体三ケ月に一回ぐらいかな……Bランク冒険者パーティが複数組、Aランク冒険者パーティ二組、そして私達の順でやっている。今の所、キリテアの街までモンスターを出したことはないが、念の為何組かのパーティを街へ警護に回している」
それも、クエスト扱いになっているのだろう。
聞いている限りだと、俺達が苦戦する要素はなさそうだが、取りこぼしたら怖いからな。
そういうことなら、俺達も手伝おうじゃないか。
そして数時間後、俺達は海聖神殿から少し離れた地点で、モンスターを待つことにした。
待っている間、俺達は五大迷宮の海聖神殿を眺めたりと、普通に観光していた。
「五大迷宮、とっても奇麗でしたね!」
「ローファの方が綺麗だよ」
「っっ!? はい……」
最近、唐突にローファを褒めるのが、楽しみの一つになっている。
俺は正直な感想を述べているだけだ。
本音で話し、いきなりの不意を突かれ物凄くビックリとした反応の後、真っ赤になって俯きがちに頷くローファがとても可愛い。お互いが幸せになって最高だろう。
それを見たセレスが何かを期待するかのような眼差しを向け、ミーアがやれやれと呆れながらそわそわとしてくれているのを俺が知っているも、この二人にそのテクニックを使うのは、緊張してしまい中々言えないでいた。
ロマネは俺達の仲を楽しげに眺め、ヒメナラが呆れ果てた眼で見てくる。
ヒメナラは、まるで「何言ってるんだコイツ」と言わんばかりの表情だ。
俺の自由だろと言いたくなるが、そう考えているとヒメナラが聞いてきた。
「それで……五大迷宮の感想は?」
ああ、それはまだだったか。
「大昔から存在してるっていうのに一切の劣化がないのはすげぇな……これは観光名所されない方がおかしい」
本当に素晴らしく、美しい建造物だった。
「周囲にモンスターも居ないし、五大迷宮を最初に試すのならここって言われるほどよ。あたし達は行かなかったけど」
なんで行かなかったんだっけ?
確か、橋からかなり距離があるからとか、他のダンジョンを攻略した方がいいとかだったか。
五大迷宮はダンジョンと違って腹が減るということもあり、元仲間はあまり行きたがらなかった。
行かなかった理由は、普段行っているダンジョンが便利だったからだろうな。
見るからに馬鹿でかく風格のある神殿だったが、中は更に広くなっている。
大体一階層のモンスター達が活発になって街へ向かおうとするらしいので、今一階層のモンスターを狩りつくしてもいいみたいだが、ダンジョンから出た所を叩き、一階層のモンスターが出てこなくなったことを確認するのが普通らしいので、そうすることにする。
俺達が海聖神殿について話していると、地響きが鳴った。
「……来たか」
ロマネが真剣な表情で、腰の鞘から剣を引き抜く。
地響きの正体は、モンスターの足音だった。
大量の様々なモンスター達が、ザザザザッと群れで橋を走る。
統率する奴がいないのだろう、どいつもこいつも好き勝手動いていた。
魚人間とか、車輪が下半身についた海老みたいなモンスターとか、色々と初めて見るモンスターが多い。
そして数も多いが、ステータスは500とかそんな感じだ。一瞬で終わるだろう。
数分後、そこには大量のモンスターの死骸が存在していた。
一撃で粉砕できたが、あまりにも数が多かった。
確かに、これは倒しに行くよりも、出てきたのを倒した方がいいな。
それから数分すると、モンスター達の死体を橋が取り込んでいて、すぐに奇麗になっていく、便利なもんだ。
セレスとミーアとロマネは、橋が死体を取り込む前に、せっせと使えそうな素材をモンスターから取っていて、俺とローファとヒメナラは手伝いに回る。
マジックバックはそこまでの種類が入らないので、本当に重要な部分だけ取っているようだが、俺達は何が何なのか全く解っていない。
やり方を一度見せてもらって、同じのを取っていくだけだった。
その作業を終えて、景色が夕方になっていく。
橋は数十分前の戦闘と、そこからの素材回収が嘘のように、奇麗になっていた。
ロマネとヒメナラは報告の為ギルドに戻ったが、今日一日、この大橋は貸し切りのようだ。
だから、俺達は、このピクニックを楽しむ事にする。
「流石はソウマ様です!!」
「私的には、釣りの方が好きなんだけどね……」
「道具を用意していなかったのじゃから、仕方がないの」
俺は三か月間暇だったからやってた素潜りの技術を、ここで見せつけた。
橋に飛び込んで魚を取る俺を見て歓喜の声を漏らすローファ。
少し不満げなミーアと、それを宥めるセレス。
俺は一人で潜っているより、こうしている方が遙かに楽しいことを、実感していた。
なんかステータスが見えるモンスターも存在しているも、攻撃してくる気がなかったので放置する。
俺は食える魚が必要なのであって、食えるか微妙な見た目のモンスターは相手にする気がない。
顔面が気持ち悪いタコみたいなモンスターは食えそうであり、この触手に絡みつかれた皆を想像して邪な気分になったりもしていたが、食えるか微妙なのでスルーした。
ローファと水の掛け合いをしたりもしていた。水魔法で足首ぐらいまで水につかり、水を掛け合うのだ。
俺が提案して皆でやろうとなったのだが、セレスは結界魔法、ミーアは聖魔法なのか、かけた水を弾いていてノーダメージだ。
ここは皆で水を掛け合うところではないのか?
これが価値観の違いか。
俺が釣りじゃなくてダイビングで魚を捕ったのをミーアが不満だった理由が、何となく解った気がするぜ。
五大迷宮からのモンスター侵攻防衛クエストとなるであろう今日の出来事は、今の俺達にはピクニックの前座でしかなかった。




