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盗賊退治

 盗賊ミザンのステータスは、BになれないぐらいのCランク辺りか。


 軽業師は速度に補正が入り、なんか戦闘以外で色々なことができる職だったはずだ。

 冒険者でないが、ステータスが一般人より高い場合、この職を取って普通に働いている者もいるという。

 普通に働いても生活できそうだというのに、盗賊をやっているのか。

 まあ、最悪死ぬリスクがあるも、スキルを使って奪えば、働くのが馬鹿らしくなるぐらい儲かるということか。  


 この速度なら気付かれたとしても逃げ切れることができるのだろう。

 今回はSランク冒険者が二人、Aランク冒険者が一人、そしてSランク位の強さである俺だ。

 あまりにも相手が悪すぎる。

 ヒメナラのネックレスは見るからに高そうだが、怪しんだりしないのだろうか。

 トウが少し離れた位置で待ち、ヒメナラが会計を行おうとして、盗賊は気付かれないよう、カウンターに金を置いて、店から出て行こうとしている。

 そこはちゃんと律儀に金払うんだな。

 俺も一応結構食ってたエルドの分を含めて、料金をテーブルに置く。


 盗賊とヒメナラのステータスが変化し、ミザンがカフェから飛び出した。


 位置的に見えないのだが、奪われたのは恐らくネックレスだろう。

 着けているヒメナラは気付けないかもしれないが、トウならすぐ気付くだろう。

 だからか、会計中、トウからネックレスが見えない位置になったタイミングで奪う、巧い。

 俺も、神眼でステータスの+値が変わったのを確認しなければ、気付かなかったぞ。

「盗ったな」

「追うぞ!!」

 ミザンのステータスなら、大抵の相手なら逃げ切れるだろう。


 俺達は、大抵の領域から外れている。


 軽やかな身のこなしで、ミザンが建物の屋根を上っていくが、俺達は跳躍することですぐだ。

「――はぁっ!?」

 俺とエルドを見て、盗賊は物凄い勢いで驚いていた。

 本当に、不運な奴だと言うしかない。

 まあ、覚悟ぐらいできてるだろ、殺さない程度に叩きのめして、ギルド行きだ。

 そう考えていたのだが、

「ばっ……馬鹿野郎!!」

 いきなり、背後でエルドが素っ頓狂な叫びをあげる。

 一体何に驚く要素があるのかと、俺もチラリと振り向けば――。


「――死ね」

「バカヤロォォ―――ッ!!」

 俺も同じように叫ぶ。

 そこには、剣士最大奥義である極識斬撃を放とうとした、悪鬼の如く殺意を剥き出しにしたトウの姿があったからだ。

 力が収縮された感覚を、静かにキレているトウから感じた。これは放つ数秒前だぞ。

 もし放っていたら、間違いなく俺は巻き込まれていただろう。

 咄嗟に瞬間移動を使ってギリギリ回避できそうだったが、トウに瞬間移動は教えていない。

 つまり、完全にカッとなって、俺を巻き込んだ極識斬撃を放とうとしたということだ。


 初デートを妨害された怒りの恐ろしさを、俺は実感する。 

 ギリギリの所で、エルドがトウの両腕を掴み、それを抑えた。

 ――とんでもねぇ奴だ。


「ソウマ、ここは我が抑える!!」

「頼む!!」

 例え屋根の上とはいえ、極識斬撃を街中でぶっ放すとか、シャレにならないからな。

 エルドが冷静な判断のできる常識龍でよかったー。


 盗賊は俺一人になったからか、少しだけ安堵した表情を浮かべて、俺は呆れそうになる。

 ミザンは普通のオッサンみたいな見た目であり、首につけた豪華なネックレスが無茶苦茶似合ってねぇ。

「お前、最近噂の盗賊だな、よくこんな危険な行為ができるもんだぜ」

 俺は本心からそう言った。

 しかし、ミザンは俺に対して、苛立ちを籠めた声で。

「危険? 今回が異常なだけだ! 俺の把握値ならこの周辺の連中からはなんだって盗めるからな! 働くのが馬鹿らしくなるほどだぜぇぇっ!!」

 確かに、この把握値の高さが倍になると、大抵の者から盗めるだろう。


 長話をする気はない。

 俺が迫ろうとすれば、奴は身体から煙幕を噴出する。

 軽業師のスキルだったか、自分はよく見えて、相手には見えなくする煙。

 魂に刻まないと効果を発揮しないスキルだ。確か微弱なステータス弱体化効果もあった気がするが、俺には一切効いていない。

 ミザンは完全に足音を消しながら走っていたので、俺は上に跳ぶ。


 煙から出た盗賊を確認し、俺は二重加速を使って先回りする。

 速度に自信があるようだが、俺の方が速い。それだけだった。

 軽く左手から掌底をミザンの腹部に叩きつけ、この盗賊騒ぎは終わりを迎える事となる。


 気絶したミザンを肩で担いで運びながら、俺はエルドとトウの元へ向かう。

「終わったぞって……なんかすげぇことになってるな」

「エルド! 奴はヒメナラの物を盗んだんだぞ! 殺す以外に道はない!」

「落ち着け! もうソウマが捕まえた! それでいいじゃないか!」

 叫ぶトウを、エルドが両腕で押さえつけている。

 盗賊を担いだ俺を見て、エルドが安堵した表情を浮かべた。

 ステータス差があるからか、流石にトウが冷静になって剣技スキルを使おうとはしないからか、トウはじたばたしているだけだった。


 トウが殺意バリバリの目つきで盗賊を睨む、怖ぇな。

「とりあえず……俺等になんか、言うことがあるんじゃないか?」

 エルドは気にしてなさそうだけど、俺はかなり怒っているからな。

 俺もトウに対して、似たようなことしたけどさ。

 流石に俺がキレそうなことを理解したのか、ようやくトウの怒りが収まった。

「す、すまなかった……初めてだ、ここまで自分が抑えられなくなっているのは」

「俺もトウに似たようなことをしたから、謝ってくれたらそれでいいけど……しかし、こんなん見ると、極識斬撃を覚えなくてよかったって思うぜ」

 正直な感想を、俺は漏らしていた。


 すると、ヒメナラも建物の屋根を上って来る。

 結構時間がかかっているな、まあ盗賊がヒメナラのネックレスを奪って数分も経っていないけど。

 ネックレスを返せば、受け取ったヒメナラがジト目で俺を見つめる。

 俺だけかよ。

「……私がしてきたけど、机に置いて去るのは会計と言わないからね」

 そっちのことか。これは普通にお礼を言うべきだな。

「ありがとう。緊急事態だったんだ」

 お礼を言うと、ヒメナラがじっと俺を見てくる。


「で……なんで、ソウマとエルドさんが、同じ店に居たわけ?」 

 凄い猜疑心のある眼を、俺に向けてきた。

「と、友の初デートを、応援しない奴がどこにいる?」

 トウに頼まれたとは言わない、俺達が勝手にやったことでいいだろう。

 すると、ヒメナラが更にじっと、俺を見つめて。

「ふーん……私のことを、気にしてるとかじゃなくて?」

 ――やめろ!

 今はトウが居るんだぞ!

 トウが凄い目で俺を見てきているんだが、落ち着け、冷静になれ。


 ここで俺は一体なんて言えばいいんだ?

「……気にしていない……と思う、うん」

 ヒメナラは、確かに人形みたいで可愛いとは思うけど、俺にはとてつもなく可愛い三人の嫁がいるからな。

 話をそらすため、俺はヒメナラに聞く。

「と、ところで、俺の友であるトウとのデートは、どうだった?」

 そう聞けば、ハッとヒメナラが何かに気付いた素振りを見せ、おずおずとトウの方を向いた。

「……そのことなんだけど、トウ、ごめんなさい」

「――えっ?」

 そう言って、ヒメナラがトウに頭を下げ、トウはぽかんとした表情を浮かべた。


 ま、まさか……。

 ヒメナラが、本当に申し訳なさそうな顔を浮かべて。

「前に盗賊を神眼で確認してステータスは知ってたから、待ち合わせ場所も最近盗賊が出没した場所にして、私が高価な装備を見せつけることで、釣ろうとしたの……トウなら、解決してくれると思って……」

 物凄く申し訳なさそうに、ヒメナラが言う。

「そ、そうなのか……」

 それに対し、明らかにトウはショックを受けていた。

 ――利用していたのか。

 これに関してエルドが、黙っているも腕を組み、かなり苛立った顔をヒメナラに向けている。


 いや、違う。

 俺はヒメナラのことを、少しは解っているつもりだ。

 確かにそんな目的があったのだとは思う、ギルドリーダーの一員として、ギルドの被害を解決したかったのだとは思う。

 だけど、それだけで、この少女が身体を張るわけがない。

 最初からその気なら、来るか解らないトウよりも、まず俺に一度デートしないか聞いているだろうからな。

 もし違ってたら、本当に利用していただけならば、俺も怒るだろう。

「――それもあるけれど、本当はトウと遊びたかったんじゃないのか?」

「へっ?」

 ヒメナラが少し驚いた顔を浮かべた。


 言いたくないけれど、言うしかないか。

 俺はトウを指差して。

「こいつ、顔がいいしな……お前、俺にはロリコンって蔑んだ眼で見てくるけど、今日見る限り、トウにはそんな反応は一切してなかったぞ」

「ソウマ、お前ロリコンなのか?」

「ロリコンとはなんだ?」

 なんか俺にダメージが来た。

 

 もし違ってたらどうしようと思っていたのだが、ヒメナラは顔を赤くしていた。

 名前もヒメナラはさんを付けていたのに呼び捨てになっているし、トウもちゃん付けをやめている。

 朝から昼食までの数時間だが、進展があったのは、俺でも普通に解ったからな。

「今日は楽しかったけど……そういう企みがあったのは事実……ごめんなさい」

 俺はトウがロリコンについてエルドに教えようとしている間に入り、エルドの肩を叩く。

「まだ昼食後だ。夕方まで、トウはヒメナラと二人でデートすればいいだろ。俺達はこいつをギルドまで運んで、二人で適当に遊ぶことにするから」

 二人でデートと言う言葉で、エルドは察してくれたようで、賛同するように大きく頷いた。

 朝から昼まで、この二人を見てきたが、特に問題なく楽しそうだったからな。


 俺とエルドはトウ達に背を向け、建物の屋根から降りようとする。

 すると、エルドが僅かに首を傾げて。

「それでソウマよ、ロリコンとは一体なんなのだ?」

「かなり歳の差が離れている女性を好きな奴のことみたいなんだが、俺は年上と同い年の子を愛している。ヒメナラは使い方を間違えているんだな」

 俺が教えてあげると、エルドはハッと、何かを理解した。

「そうか……ならトウがロリコンということになるんだな!」

「その通り!」

 俺は説明ができた事を喜び、エルドも疑問が解けたから喜んでいた。

「ロリコンと呼んでくる仲の友ができたことに喜ぶべきか……怒るべきか……」

「トウ、落ち着いて」


 あの後、夕方まで遊んで、二人は友達から始めることになったらしい。

 今日までは街を案内していた程度の関係なのだから、それぐらいになるか。


 三人目の友ができたと、トウは大満足気にエルドと共に帰って行った。

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