色々と衝撃を受ける
想定していた百倍ぐらい違うエルフの少女のお願いに、俺は漠然とするしかない。
ご主人様ってことは、なんかヒラヒラな、ヒーラーのミーアが着ている法衣の露出が多いバージョンみたいなのを着せて、なんかイチャイチャするってことだろ。
最高じゃないか。
「ありがとうございます!!」
この発言は、俺のなりますという答えに対する、ローファの感謝だ。
俺も実際感謝しそうになっていたが、落ち着く必要があるな。
「ちょっ、ちょっと待って!! え、なに? それって奴隷契約するってこと?」
まず奴隷契約と、契約に使う奴隷魔法も何もかもを知らないのだ。
なんかそういうルールがあるのかと聞こうとするが、ローファはウキウキとしていた。
「えっと……奴隷契約なしでご主人様として一緒に居たいということなのですけど、でも奴隷契約でご主人様の魔力による痛みを受けるのもいいですね。えへ、えへへへ」
ヤバいな、この子。
人攫い→奴隷→遊び道具のコンボを決められて、精神がおかしくなっているのだろう。
「……とりあえず、ご飯でも食べながら、話し合うか」
「はい!!」
ローファは俺の鞄から出した芋とかパンとかに、眼を輝かせていた。
「……つまり、俺が拒んだら近くの街に行って働くつもりだったけど、俺が拒む気なさそうだから、それなら俺に雇って欲しかったってことか」
「えっと、ちょっと違うんですけど、一緒にいられたら、それで良かったんですけど」
そう言いながら、ローファは俺に全身をすりつけている。
夕暮れ時、俺は自分の魔法で木を出したり炎を出して焚火をしながら、二人で座ってローファと話をしていた。
自分で魔法が出せるということに俺は歓喜し、ローファはそれを見て歓喜している。
「元の場所に帰りたいとかはないのか?」
「両親に挨拶と紹介をしたいとは思いますけど、それだけですね」
案外ドライだと思うが、親も親でローファを助けることができていないものな。
「なら、俺のことを優先してもいいってことか?」
「もちろんです! 別に故郷は100年経ってから行っても大丈夫ですからね!」
パァッと、ローファは俺に微笑んでくれる。
そういや、エルフは長寿だったか。
…………。
「ローファって、何歳?」
「16です」
「俺と同じッ!?」
信じられねぇ。
俺の背丈が165だとして、この子は多分140ぐらいだぞ。
座りながら密着していたのに、驚愕で俺が立ち上がると、ローファはビクリと体を震わせた。
「ご、ごめんなさい……年増でごめんなさい……若返りの秘薬を取ってきますので」
「い、いや違う。悪い、見た目と年齢が合ってなくて驚いた……って、若返りの薬?」
なにそれ、滅茶苦茶気になる。
「えっと、エルフの伝説の代物です。私の里で小瓶に入って見たことがあります」
それを年増だと思われただけで取りに行こうと思ったのか。
というか、俺は幼女趣味があるとでも思われているのだろうか。
少し落ち着いたので再び座り、じっくりとローファを眺める。
「……最初に言っておくが、俺はそういう趣味はないのでこれ以上若返るとかはしないでくれ」
「は、はい。そ、それでですね。私の話のことなのですけれど」
彼女のご主人様になるという返答だが、その前に言わなければならないだろう。
「俺はいいんだけど……ちょっと色々と説明しなきゃならないな」
そう言って、俺はこれまでの事情を、軽く話し始める。
俺の説明を聞くと、ローファは少し怒りの表情を浮かべていた。
「な、なんですかその人達は!? で、でも、その人達が居ないと、会うことはなかったんですね」
「そうなんだよな、そういう意味では、感謝したくもなる」
「感謝はしちゃダメですよ!! それにしても、魔王の秘書ですか……」
リュックから紙に包まれた宝石とかで装飾が凄まじい手鏡を見せると、ローファはうっとりとしたようにそれを眺めている。
「知ってるのか?」
「いえ、でも、エルフの森は魔界に近いので。天界は別次元に存在しているみたいですけれど、魔界はこの世界にありますから」
マジかよ。
魔界とか天界とか絶対関係ないと思ってたから一切調べようともしていなかったのだが、なんかこのままいくと警告されておいていつの間にか関っていたという事になるんじゃないだろうか。
「……エルフの森は、魔界ってことはないんだよな?」
一応聞いておく。
これは聞いておかないと後々ヤバいやつだ。
「は、はい。大丈夫です。行っても問題ないと思いますけど、魔界が近いので、行かない方がいいと思います」
ローファの言う通りだろう。
俺は警告されているんだ。近づくことも止めておくべきなのかもしれない。
でも瞬間移動あるし、最悪離れればいい気もするなあ。
それでも、エルフの里とか魔界とか、じっくり情報収集してからにするべきか。
「わ、わかった。それで、他に聞きたいこととか、あるか?」
「そうですね……一つだけ、あります」
「なんでも聞いてくれ」
顎に細い指を置く仕草が可愛いなと眺めていれば、ローファが聞いた。
「ご主人様は、何人の女性と結婚なされる予定ですか?」
「ぶッッ!?」
その発言の衝撃に、立ち上がることはなかったが噴き出してしまい、正面でパチパチと燃えている焚き火まで唾が飛んでしまった。
この子、なんか色々とぶっ飛んでるな。
俺の手に負えるのか?
「い、今のところ、予定はない。かな、で、でも、何人って、どういうことだ?」
動揺しまくりな俺だが、ローファは普通に続ける。
「はい。ご主人様ぐらいの人なら、何人もの人を妻にしても問題ないと思います」
重婚は許されている。
大体一夫多妻となっているが、逆もあるらしい。
確かに、俺は恐らく人間の中でもトップクラスなステータスがある。
金は適当に高値のモンスターをぶちのめせばいいし、妻を何人ももってイチャイチャする。
最高じゃないか。
「そ、それでですね。できれば、私もその中に、入れてもらえればなと……」
あれ、俺、今プロポーズされてる?
奴隷解放されてからご主人様を作り、そのご主人様にプロポーズですか。
これを一日でやれるのはエルフだからなのだろうか。
凄い密度の一日だな、いや、俺もだけど。
じっと、俺はローファを眺めた。
青く短い髪は奇麗だし、ボロ布の衣服も所々肌が見えてエッチだ。
エメラルドグリーンな大きい瞳、抱きしめたら折れそうな程に華奢だがしなやかで柔らかく、冒険者でも上位の強さ。
可愛い、一生眺めていてもいい。
「お、俺達は会って半日ぐらいしか経っていない。だから、返事は待っていてくれないか?」
だけど、俺はとりあえず先延ばしにしていた。
結婚するなら、両親に挨拶は必要だからな。色々するにしても、両親に挨拶してからだ。
「はい、解りました!! いつまでも待っています!!」
満面の笑みを浮かべるローファと肩を並べながら、俺達は焚火を眺めていた。
焚火を眺めていただけであり、それ以外には何もしていない俺達は瞬間移動を使った。
実験の意味もあるのだが、流石にローファの服が問題だったのだ。
というか、瞬間移動できるのなら、野宿する必要もないだろう。
焚火を眺めながら、ローファの衣服をまじまじと眺めて気づいた。
この服で一緒に歩いていたら、俺はもしかしたら捕まってしまうかもしれない。
さっさと行かないと服屋が閉まるので、とりあえず街のすぐ外まで移動する。
ちゃんと触れている人間にも瞬間移動は作用して、驚いているローファと共に服屋へと向かい、適当な服を買って着せた。
ロックリザードの鉱物はBランクモンスターなので結構な値段になっている。
とりあえずはと無地のTシャツと青いズボン(結構アリ)を購入し、すぐにそれを着せたローファと一緒に服を選ぶ。
俺は文献で見たヒラヒラメイド服がないかも聞いてみるが、オーダーメイドで5日はかかるらしい。
買うならキリテアの街の方がいいな、無理そうならここで頼んで、瞬間移動で取りにくればいいか。
メイド服は一先ず断念して、可愛いドレスのような服と、戦闘用の装備でステータス上昇ができ、露出が多い服の二着を購入した。
とりあえず青いドレスのような服を着せて、俺達は手を繋ぎながら宿へと向かう。
歩いている中で、あの、とローファが質問をしてきた。
「気になっていたことがあるんですけど」
「なんだ?」
「この街には、ソウマ様を追い出した人たちが居るんですよね?」
ご主人様にすると奴隷みたいで嫌だと俺が言えば、呼び名はソウマ様に決まった。
正直様もどうかと思うのだが、様がいいとローファが言うのだから、それでいいかと納得している。
俺はミーア以外とはもう会いたくないとも言っていたので、それを察して聞いてくれたのか。
流石にその辺のことに関して、俺は一応、考えている。
「ああ、だから俺が向かうのは1階が酒場で2階が宿になってる所なんだ。あそこは一度泊まってレイアがうるさくてもう二度と来ないって言った場所だから」
酒場は人気だが、人気過ぎてうるさいので宿が繁盛しないという宿屋だ。
あそこなら予約なしでも泊まれるし、オルカ達が絶対に居ないのもいい。
「そうですか、後、もう一つ聞きたいことがありまして、ミーアさん。のことなんですけど」
ミーアという単語を聞いて、俺は遠くを見てしまう。
あのパーティに未練があるとすれば、ミーアのことだろう。
「ああ、ミーアな。俺達のパーティとは思えないぐらい、いい子だった」
黒髪長髪、俺と同じぐらいの女性では高い方の背丈、スタイルもいいし胸も大きい、装備である法衣もエロいと、なんで一緒のパーティなのか解らない程の美人だった。
レイラも性格はアレだが美人だったし、ジェノンはリーダー格あったし、俺は結構浮いていたな。
「ミーアは皆仲良くがモットーでな。誰の悪口も言わないし、常に敬語で俺を励ましてくれてもいた」
このまま去ったら未練が残りそうだし、やっぱり会っておきたいけど、無理だろうなぁ。
「好きだったんですか?」
「どうかな……そうだったのかも、しれないな」
そう言いながら、俺は宿屋の扉を開ける。
「っぱー! ちょっと後3杯は持ってきなさいよ! 金なら売り飛ばす予定の装備があるから! 明日には絶対払えるよ!!」
そして、閉めた。
「あ、あの……ソウマ、様」
衝撃を受け、動揺しまくっている俺を見たのだろう、ローファの声が震えている。
そうだ落ち着け、気のせいだ。
今ビールジョッキを片手持ち、椅子に足をかけて大股で叫んでいた飲んだくれがミーアであるものか。
いつも纏っていた法衣を指差して売り飛ばすとか言っていたが、幻聴だろう。
扉を開ける。
「あんなパーティ私から願い下げよ! あっ、ソウマだソウマじゃーん! この際似てる人でもいーや。のも! 一緒にのも!!」
扉の先に居た俺に気付いたらしい、長い黒髪を振り回し、真っ赤な顔で俺を見て満面の笑みを浮かべたミーアが、手招きをし始めた。
「――こんなことが、あってたまるかぁぁぁっ!!」
隣でオロオロとしているローファを気にせずに、俺はその場で崩れ落ちた。