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鬼人との戦闘

日帰りだからと特に何も考えずにトウとエルドと共にダンジョンを攻略しようとして、ボスまでは楽勝だった。

 だというのに、ボスであるゴーレムを倒したと同時に、唐突に現れて俺を殺すとか言い出した鬼人の少年ラバードに対し、俺はとりあえず会話をする。


 話通りにこのダンジョン内のどこかにトウとエルドを飛ばしているのなら、トウは迷うかもしれないが、エルドは明らかにダンジョンの中を完全に理解している風だったことから、最短でここに向かっているだろう。

 エルドが加勢してくれるかどうかは微妙な所だな、「我が一人でこいつと戦う!」となってくれるのが一番いいのだが……。

 とりあえず、会話で時間を稼ごう。

「俺達がここに来たのはAランククラスの冒険者が謎の存在にやられたからなんだが、その正体は君か?」

 ラバードは笑みを浮かべて、頷く。

 その真っ黒な瞳、頭を下げて見える角、見た目とは裏腹に強力なステータス。

 一体何の目的でそんなことをしたのか、理由が全く見えてこない。

「彼等はAランクだったんですね。アレは彼等から僕に攻撃を加えてきたんですよ。正当防衛です」

「君の発言が正しいのならそうだろうよ。だが、死者が一人でた。これは魔界の存在にとってルール違反じゃないのか?」

 ルールについてはエルドから聞いていたことだが、死者が一人という言葉に、ラバードは驚いている。

 リアクションがわざとらしすぎて、演技で驚いている風に見てしまうが、魔界のことは解らない、普通に魔界でも殺人は重罪となるのだろうか。

「ええっ!? 僕は加減したんですけど、死んでしまったんですね……でもその件は正当防衛ですし、恐らく、警告ぐらいで済むでしょう」

「なら、今のこれはどうだ?」

 さっきは明らかにラバードから攻撃して、その後に俺を殺すって言ったんだけど。

 防御できたからさっきの攻撃はただの挨拶で、それで俺が反撃をしたら正当防衛だから殺すとか言うんじゃないだろうな。

 俺の発言に、ラバードはハッと、何かに気付いたような素振りを見せる。

「なるほど、会話をすることで時間稼ぎをしていますね」

「いや、今回のこの件は、間違いなく君から仕掛けてきているのだが」

「その手には乗りませんよ」

 笑みを浮かべるラバードに、俺は苛立ちを覚えるしかない。


 こいつ、都合が悪くなったからって、俺の策ということにして誤魔化そうとしている。

 俺はラバードに対して、しつこく聞こうとした。

「いや、今回の」

「それじゃ! やりましょうか!」

 最後まで言わせてくれねぇ。

 こうなるとAランク冒険者が先に攻撃してきたというのも嘘っぽく聞こえるぞ。

 ともかく、俺は時間稼ぎをすればいい訳だ。

 距離を取っていたラバードが、俺に迫る。

 攻撃を攻撃で弾いていれば――。


 ――さっきよりも速いッ!?

 ラバードが装備している腰の鞘から抜いた黒い刃による横薙ぎの攻撃が、俺に迫る。

 さっきの攻撃より早く、その緩急によって反応が僅かに遅れた。

 下段の攻撃は刀で受け止めることは不可能だと判断し、足を狙った横薙ぎの斬撃を反射的に跳ぶことで回避する。

 ラバードはゆるやかに腰を引き、突きの大勢に入った。

 切っ先の方向を見るに、狙うは俺の中心地だろうか、脳や頭ではないとしても、その突きの破壊力で大ダメージを受ける可能性が高い。

 俺は宙に浮いている。

 回避は不可能だと推測し、二重加速を使おうとした。

 しかし、それを使うことを、俺は躊躇する。


 剣を引き抜き、ラバードの突きを刃で受け止め、俺は弾き飛ばされた。

 ラバードは驚いた表情を浮かべているが、俺も驚いたぞ。

 ……このほとんど一瞬の攻防で俺は、一つ気がついたことがあり、言わずにはいられない。

「お前……」

「はい?」

 呆れそうになっている俺が理解できないのか、ラバードは首を傾げている。

「……動きが雑過ぎる!」

 俺は刀を握っている右手を突き出し、刃を向けながら叫ぶと、ラバードは驚いた表情を浮かべた。

「ざ、雑ですか!? どこがですか!?」

「横薙ぎの攻撃から突きに切り替わる動作だよ。普通流れるような速度でできるってのに、モタモタし過ぎだろ」

 いや、それでもステータス的には十分早いのだが、俺が二重加速を使わずに受け止めようと思考できる程度の速度になっていた。

 ラバードのステータス的に、それはあまりにも動作が遅いといわざるを得ない。

 ついでにこうして指摘すれば、時間稼ぎにもなるしな。


 それを聞いて、ラバードがムッとする。

「師匠より師匠みたいなことを言いましたね! いいんですよ対処できなければ!」

「いや、対処したけど」

「なら、もっと凄いモノを見せましょう!!」

 ……ヤバい。

 どうやら、ラバードは火がついたようだ。

 一呼吸入れることで、周囲の空気を振動させる。

 ねじ曲がっていた角がバキバキと音を鳴らし、どんどん立ち上がるかのように動いている。

 体中が赤色に変色していく様は、正に赤鬼の少年と言わんばかりだった。

「なにかしら眼力スキル持ちなら理解しているでしょう。これが僕のスキルの力、戦闘態勢です」

 魔力が1000下がっただけで、攻撃と速度が4000ぐらい上昇しやがった。

 俺の戦特化と同じぐらいの上昇値だ。これが鬼スキルによって強化された技術スキルということか。

 エルドとほぼ同じ攻撃で、エルド以上の速度となると、流石にキツいだろう。

 そう理解して、俺は戦特化を発動する。


 それに興味津々な眼差しを向けるラバード。

「……なんですか、それは?」

「戦特化っていうスキルだ。お前と同じぐらいの強化ができる。俺もスキルを強化するスキル持ちでね」

「そうなんですか、それは面白そうです」

 全然面白くないがな。

「魔族のスキルって、どんなんがあるんだ?」

 戦特化のコントロールの訓練の成果もあり、俺はスキル使用中でも思考は安定している。

「話は、止めておきましょうか!!」

 だが、どうやら今のラバードは、結構冷静さを欠いているようだ。

 楽しげな表情、口元から鋭いキバが見えて、雄々しく咆える。

 ――刀と刀の打ち合いが始まった。

 

 攻撃は僅かに俺が劣る。

 速度はかなりの差があるが、俺が攻撃に出ずなければまだ対処することはできている。

 しかし、受け止めた際の衝撃はかなり辛く、HPがガリガリと削れている感覚を受けていた。

 俺達はダンジョンに来て、エルドの案内もあり最短距離でこのボス部屋までやって来ている。

 二人がこのダンジョンないの何処かに飛ばされているのなら、まだ残っているモンスターがいるはずだ。

 会話せず、倒しながら走って進んでくるとしても、数分はかかるだろう。

 攻撃はできない、その隙を突かれたら一気に持っていかれる。

 

 それに、問題点もあった。

 ラバードは、動きの繋ぎ方が雑だったのだが、それが徐々に滑らかになっている。

 マズい。自分自身の身体能力を、巧く扱えるようになってきている。

 回避動作に出たいが、速度ステータスの差によって、俺は反射神経による防御が主になっている。

 攻撃時、何かしらのスキルを使っているのか、刃がぶつかり合うと振動があり、俺の意識が飛びそうになる程の衝撃を受けていた。

 というか、師匠って言ってただろ、師匠がそういうこと教えてやれよ。

 このステータスの師匠ってどんなんだよと思いながらも、俺は劣勢になりつつあった。


 攻撃を受けながら後ろに下がると、壁に当たった感覚を受けた。

 どうやら、戦闘領域とやらの端にきていたようだ。

「……仕方ないな」

「なんですか!? 諦めましたか! まだいけますって、頑張りましょう!!」

 どうやらヒートアップしているようで、ラバードのテンションは物凄く高い。

 満面の笑みで俺を励ましてくる。

「うるせぇっ!?」

 反射的に叫んだ俺は、膝をついてしまった。

 戦特化の効果が切れたからだ。

 発動時の魔力と体力を抑えることで時間調整ができるのだが、かなり短い時間にしていた。

 その隙を待っていたといわんばかりに、ラバードが俺の頭上を跳びかかる。

 前に刀を出しているのだから、正面よりも、狙うは頭上か後ろだろう。

 しかし、後ろはラバードが創った戦闘領域の壁がある。

 小柄な肉体もあり、必然的に上からの攻撃になるということだ。


 俺は叫んだ。

「行動が単純すぎたな!!」

「一体どういうっッッ!?」

 ラバードの振り下ろした刀に向かい、俺が振り下ろした刀が衝突した。

 発動を意識することにより、どんな体勢でも僅かなタメが必要となる振り下ろしが発動する剣技スキル絶刀によるものだ。

 戦特化が切れたと同時に、俺は絶刀の発動を強く意識していた。

 ラバードが飛びかかるよりも早く行なったそれは、ラバードの振り下ろしすタイミングとドンピシャだ。

 攻撃の打ち合いになれは、攻撃値によるぶつかり合いとなる。

 俺のスキル補正がかかった最大威力の一撃は、戦闘態勢だろうがラバードを上回っていた。


 力比べに破れた衝撃により、かなりの距離を吹き飛ばされて倒れたラバードは、腰だけを起して俺を異常者でも見るかのような風に眺めている。

「ど、どういうことですか……明らかにステータスは僕の方が上だったはずなのに……」

 俺は振り下ろしの姿勢で、説明を始めた。

「今は剣技スキル絶刀って言ってな、発動前と後で隙がかなりあるけど、攻撃値の数倍の威力を叩き込むスキルなんだよ」

「ぼ、僕も似たようなスキル持ってますけど……でも、カウンターで使いますか!?」

 どうやら、俺の行動は、ラバードにとってはイカれているようだ。

「説明するとだな……戦特化の解除から背後の壁まで、計算してたんだよ。お前は上から飛び込んで振り下ろす攻撃を何度もしてたからな」

 絶刀は、意識したと同時にタメのある大きな振り下ろしを放つ剣技だ。

 放った後も少し硬直するので、威力はあるが使いにくいスキルとされている。

 使いにくいのなら、使いやすい状況にすればいい。


 何より、俺には直感スキルがある。

「相手の攻撃に合わせて攻撃を叩き込むのは、得意なんだ」

 石喰らいは鑑定されるまで知る事すらなかったが、直感スキルはなんとなく持っていたのが解っていた。

 これは冒険者となってから今まで磨き上げてきた技術だ。

 そのスキルを巧く使おうと考えてできた攻撃法だが、相手が未熟だったこともあり、ラバード相手でも巧く決まった。


 俺の笑みを見て、赤色の肌が元のやや黒い肌へと変質し、角もねじ曲がったラバードは再び全身を床へと叩きつけ。 

「僕の負けです……まさか師匠以外に負けるとは……」

 力が軽く抜けたような感覚を、俺は受ける。

 戦闘領域を解いたのかと思えば、のっしのっしと大男が俺の元に迫ってきた。

「どうやら、勝負はあったようだな!!」

 なんだか満足げに、エルドがやって来る。

 こいつ、あまりにもタイミングが良すぎるぞ……。

「エルド……お前、見てたな?」

 怪訝そうに睨んでやると、エルドは豪快に笑い。

「ははは! どうやら謎の空間があってな、入れなかったんだ!!」

「……君のスキルは外からは入れるって言ってなかったか?」

「はい、そうですけど、どういうことでしょうか?」

 ムクりと身体だけ起こしたラバードの発言に、俺は冷ややかな視線をエルドに送る。


 それを受けたエルドはというと。

「むっ、そうなのか?」

 …………。

 こいつ、入れるか試そうともしなかったんだな。

 なんかフィールド張ってるし、これで観戦する理由ができたと、ワクワクとしながら俺達の戦いを遠くで眺めていたというわけか。

 トウなら普通に入ってきただろう、しかし、そのトウはまだ到着していないようだ。


 エルドは、ラバードを指差した。

「それにしても、この少年はなんだ?」

「俺が知りたいんだけど、エルドも知らないのか?」

 俺とエルドが会話をしていると、ラバードが話に入ってくる。

「僕はトウさんとエルドさんのことは知っていました。だからこそ、一緒に居る謎の人と手合わせがしたかったんですよ。殺す気はありませんでした」

「いや、思いっきり脳と心臓部攻撃してただろ」

「……つい」

「はっはは! ついなら仕方がないな!」

 仕方がないなじゃねぇよ。

 こいつら、どいつもこいつも信用ならねぇぞ。

 

 ラバードは俺達に頭を下げる。

「僕はラバードと言います。半年ぐらい前まで、魔界で一番強い男になる夢があり、日々強そうな魔族を殺し回る生活を送っていました」

 軽々しく怖いぞこいつ。

 そういえば、モニカも確か魔界は内部抗争でぐっちゃぐっちゃになっているとか言っていたっけ。

 こういう奴がうろうろしているのなら、確かに滅びそうな世界ではある。

「半年前に、戦いの日々を送っていた僕に目を付けていたらしい師匠と戦って、僕はコテンパンにされました。そして師匠は言ったのです。俺に着いて来るか、死ぬか選ばせてやると」

「その師匠というのは、一体誰だ?」

 エルドが聞いているが、俺はもうこのラバードの関係者とは関わりたくない。

 このステータスの弟子を持つ師匠って、スコアに名前に入っていたとしてもおかしくないからな。


 ラバードはふるふると首を必死に振るう。

「いえいえ! 師匠の名前を勝手に出したら師匠に殺されちゃうかもしれないんですよ! 師匠は僕の日課を禁止にしました。雑魚を狩っても意味はないと」

「師匠ってことは、何か教えてくれてたりするのか?」

 エルドが更に質問するが、それにしては、動きがあまりにも雑だったんだよな。

「違います。僕に指示を出したりしているので、普段は名前に様付けなのですが、師匠が居ない時は僕が呼びたいから師匠と呼んでいるだけです」

「ならば、指示というのがAランク冒険者と戦うことなのか?」

 そういえば、結局なんで冒険者達を狙ったのか、説明がなかったな。

 

 本人は正当防衛だと言っているが、本当か怪しい。

 何の目的があるのか理解できないでいると、ラバードが説明を始めた。

「日課の魔族との戦闘が出来ないから暇だ暇だと師匠に言っていたんですよ。本当は師匠に戦いのことを教えて欲しかったので、遠回しにねだっていたんですね。そしたら師匠が」

「師匠が?」

「生物界でも観光して来いって言ったので、この世界をうろうろしてました。そのことを話していたら、オーロラもいいぞって、このダンジョンの場所を教えてくれました」

 ……なんか、師匠っていうよりも、部下とか舎弟みたいな感じなんじゃないかな。

 楽しく話すから、師匠とやらは色々と場所を教えたりもしていたのだろうか。

「つまり、ただのオーロラ観光なのか?」

「はい!」

 そして、エルドが補足する。

「……鬼の肉体はかなり高値になる。この見た目なら楽勝だろうと、狩ろうとした可能性は高いな」

 なら、本当に正当防衛だったのかもしれないな。


 知りたかったことは知れたのか、エルドは深く頷き、クワッと勢いよく叫ぶ。

「といっても、お前は人に危害を加えた! このダンジョンは破壊させてもらうぞ!!」

 周囲に激震が走る程の叫びだったが、ラバードには一切効いていない。

「仕方ないですね。原因の処理はギルドという組織の仕事ですし……なんか、色々と申し訳ありませんでした」

 礼儀正しく、ラバードはエルドに頭を下げている。

「トウの奴は迷っているのかもしれぬ! 破壊する!」

「戦ってくれて、ありがとうございました」

 向きを変え、俺に対して頭を下げたラバードと同時、エルドは拳を叩き込むことで迷宮核を破壊した。

 破片が砕けて飛んできたので、俺はコッソリとその破片を取り込む。

 まあまあの味だ。

 今まで美味かったのが異常だっただけで、これぐらいが普通なのかもしれないな。


 そして、俺とエルドとトウは、ダンジョンの入口までやってきていた。

 ラバードの姿はどこにもない、魔界に戻ったのだろう。

「一体、なにがあったんだ?」

 まず瞬間移動したのが理解できず、更に入口に戻ったのも理解できないのだろう、トウはかなり困惑としていた。

「後で説明しよう! 今はそんなことよりも、行かねばならぬ!!」

 そう言って、俺達は龍と化して急かしてくるエルドの背に乗って、一気に空へと上昇した。


 そこには、物凄く煌びやかなカーテンが見える。

「……うぉぉっ!」

 俺はその神々しさに、歓喜の声をあげるしかない。

 そういえば、オーロラを見る予定だったっけ。

 ゆらゆらと、幻想的な輝きに、俺は心を奪われていた。


 途中、ラバードと戦うことになって、来ることを後悔していたりもしたが、この景色でどうでもよくなっている。

「どうだ?」

 自慢気に上からエルドの声が聞こえて、俺とトウは笑みを浮かべた。

「最高だ」

「同じく」

 俺達のダンジョン攻略の一日は、終わった。


 キリテアの街まで送ってもらい、トウとエルドに乗って王都へと帰っていく。

 夕方になっている。中々に激動な一日だった。

 オーロラが瞬間移動で時間が合えばいつでも見れるようになったのも大きいな。


 皆が暇になった時、この景色を一緒に見に行こうと決意をして、俺は館へと帰っていった。

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