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セレスの秘密

この話はソウマがセレスと旅行に行ってから戻ってくるまでの間にあった、ミーアとローファの話になります。

side・ミーア


「それじゃ、行ってくる」

「行ってくるのじゃ!」

 そう言ってソウマとセレスが瞬間移動で旅行へと向かったのを、ミーアとローファが見送った。

 ミーアはこれから二日間どうしようかと考えながら、さっきまで二人に笑顔で手を振っていたローファを眺めている。

(……よく考えたら、ローファと二人になるのって、珍しいわね)

 ミーアはセレスとはよく二人になっていたが、ローファと二人になるのはほとんどなかったはずだ。

 そんな様子に気付いたのか、ローファが微笑みながら聞いてくる。

「ミーアさん、どうされましたか?」

「えっ、今日どうしようかなって、一緒に遊ぶ?」

「はい!!」

 ミーアは、ソウマがローファと模擬戦をしたと聞いていたこともあり、戦いましょうと言われる前に、駒を動かすゲームで遊ぶことにしていた。


 この駒を動かしてキングを取るゲーム、ミーアは結構得意だったはずであり、今の所負けていないのだが、何回かゲームをしているとローファが強くなっているのがよくわかる。

 ローファはソウマとパーティをやっていた一年間のことを聞いてきて、活躍したところだけを中心に教えながら、昼間になっていた。

 

 昼食の際、ミーアはローファに夕食の買物を頼み、一人で食事の用意をしている。

(……あっ)

 そして、食事の用意を終えて、ミーアはあることに気付いた。

 この館に来てしばらくしてから、ずっと気になっていたことがある。

 それはセレスの寝室であった。

 いつもソウマが風呂に行った辺りから、セレスは部屋に戻りだし、ソウマが戻ってくる前ぐらいに大部屋へとやってきているのだ。

 それはセレスが復活してからほぼ毎日であり、毎回あまりにもタイミングよくソウマの風呂上り前に戻ってくるので、絶対に何かがあるのだと推測していたのだ。

 最初はソウマと一緒に風呂に行っているのかと尾行したことがあるのだが、普通にセレスの部屋に戻っていて、様子を見に行こうとすれば、なんだか笑い声が扉から聞こえてきたのが不気味であり、ミーアは関わろうとしていなかった。

(でも、気になるのよね……)

 いつもはセレスと一緒だから機会がなかったのだが、今なら行けるのではないだろうか。


「ただいま帰りました!」

 セレスの部屋にミーアが向かおうとしたら、ローファが帰ってきていたので、行くことを断念する。

 入口の扉へ向かってみると、そこにはローファの他に、二人の姿が見える。

 赤髪長身の大人びた麗人。いつもの鎧はない、灰色のブラウスと青い硬そうなズボンを着たロマネと、黒髪短髪、おかっぱ頭がよく似合う小柄な少女ヒメナラだ。

 ヒメナラは黒いマントを羽織り、白い制服のように見える装備をしている。いつも通りの姿だった。

「おかえりって……ロマネとヒメナラじゃん。今日はソウマとセレス居ないわよ」

「それはローファから聞いている! 今日はどちらにせよ暇だったからな、遊びに来たというわけだ!」

 そういえば最近来てなかったわねと、ミーアは納得する。


 大部屋でミーアの隣にローファが、そしてテーブルを挟み、正面にロマネとヒメナラが見える。

「昼食は二人分しかないんだけど」

「大丈夫だ、私達の昼食は買ってきている!」

 ミーアが聞いてみると、ロマネとヒメナラは結構な量の食事を買ってきていたので、食卓がかなり豪華となり、分け合って食べることとしていた。

 明らかに量が多いのではないかと思っていたのだが、ロマネがほとんど平らげている。

「ミーアの料理はとても美味いな! これはよき妻になれるぞ!」

「まーね。ロマネとヒメナラは料理しないの?」

 その質問に応えたのはミーアだった。

「私はするけど……ロマネは致命的、焼肉しかできない」

 呆れ気味にヒメナラが呟くと、ロマネが笑う。

「ははっ、我が一族は龍の肉を焼くことに関しては世界一だからな。龍は焼くだけが一番美味いんだ!」

「へぇー」

 ドラゴンスレイヤーだし、ドラゴンに関することならロマネは詳しい。そのロマネが言うのだから、ドラゴンは焼くべきなのだろう、ドラゴンを食べる気はあまり起きないのだが。


 ローファもかなり食べていて、それを見たロマネが聞いてくる。

「そういえば、ここの料理はミーアがやっているのか?」

「ううん。大体私とセレスがメインで、ソウマとローファが手伝いだけど、そうね、今日の夕食は、ローファ一人でやってみる?」

 手伝いだけと言われて少しローファがシュンとしてしまったので、ミーアが話を振ると、ローファは少し不安げだ。

「わ、私に、できるでしょうか?」

「今日は食べるの私とローファだけだからね。創った料理をソウマに食べてもらうにしても、一回試しておいた方がいいと思うけど?」

「はっ、はい!」

 ミーアのその言葉に、ローファはやる気十分だ。

 それを見てロマネが楽し気に食事をとりながら。

「ははっ、ミーアはいいお姉さんだな! 私とヒメナラの関係のようだ!」

「だれが妹よ……というか、本題に入らないの?」

 小食で一人先に食事を終わらせたヒメナラが、食べ終えた食器を片付けながら聞いていた。


 本題という言葉に、ミーアは首を傾げてしまう。

「暇になったから来たんじゃないの?」

「それなんだが……ちょっとソウマに用があってな」

「用ってなによ?」

「いや、明日の夜に帰ってくるのなら、明後日の朝に私が話そう、トウ達も今日から三日滞在するって言ってたし、この後に明後日なら行けるかもしれないらしいと私が伝えれば問題ないだろう」

 トウということは、寡黙剣士トウのことなのだろう。

 そこで真っ先に思い出すのは、ロマネの慌てっぷりだ。

「前みたいに慌ててないのねー」

「なっ!?」

 それを思い返して聞いてみたのだが、それに対してロマネは物凄い勢いで驚きだす。

 少し顔を赤らめながら、コホンと咳払いをして、ロマネは冷静になっていく。

「あ、あれは仕方がないだろ、今回はまあ、特に問題はないからな、ソウマが会いに来るかどうかというだけだ。詳しくは明後日の朝、私から話そう」

 ソウマからトウとエルドとは結構仲良くなっていたと聞いていたし、普通にトウ達も暇だから来たということなのかもしれない。

「あの、それなら、今日と明日のトウさん達は、何をなされるんですか?」

 普通に気になったのか、ローファがロマネに聞いている。

「とりあえず今日は適当に夕方まで観光すると言ってたな、明日以降、朝に呼んで欲しいと言われている。トウは基本的に会話をしないから、周囲に被害は出ないだろう」

「会話をすると周囲に被害が出るんですか?」

 ローファが再びロマネに説明した。

 確かにと、ミーアは思う。

 すると、少し困った風に、ロマネが理由を話す。

「ああ、トウのスキルの力でな、干渉すると精神力を取り込んでくるといった方がいいのだろうか……私はステータスがあるから耐えられるが、結構キツくてな、あまり会話を……」

「そうなの?」

「えっ?」

 ロマネの会話に割って入ったのはヒメナラであり、それにロマネは驚いている。


 ヒメナラは首を傾げながら、言葉を続けた。

「寡黙剣士だから喋らないと思ってたけど」

 トウの力を受けたことがあるからか、ロマネは唖然とした表情を浮かべ。

「……お前、毎回トウを見てビビっていたじゃないか」

「人類最強と言われたら、誰でも怯える。三ケ月前に街案内した時に少し話したから……今は大丈夫」

 ミーアとローファはトウのことをあまり知らない。

 なのでスキルによる力がどれ程のものなのか知らないので、なんとも言えないのでいるのだが、ヒメナラの発言に、ロマネはかなり驚いていた。

「そ、そうか……それで、トウのことはどう思っている?」

 そんな質問に、ヒメナラは首を傾げて。

「……? 人類最強。ぐらい?」

「そうか……なら明日は、トウ達に街を案内して欲しいと頼んでも、いいのか?」

「いいけど、どうしたの?」

 なんだか色々とロマネが考えだしていて、昼が過ぎていく。


 もう夕焼けが見える時間で、やたらトウについての魅力をあまり思い浮かばないのか色々と悩みつつもヒメナラに語るロマネ、それに対抗してソウマのいい所をあげるローファ。

 姦しいとはよくいったもので、結構無口なヒメナラもかなり会話に入っていて、楽しい女子会みたいなことが終わりを迎えようとしていた。

(ローファは今までソウマにされてきたこと、全部覚えてるのねー)

 ミーアもそうなのだが、出会った時から、ここ三か月間でどういう接し方をされてきたのかを必死に語るその姿は、微笑ましいものがあった。

 ロマネに「いい夫を持ったな!!」と言われた時にローファは満面の笑みを浮かべて、ミーアも嬉しくなっている。


 ロマネ達がトウ達の居る宿へと向かい、ローファが夕食を一人でやる気に満ちながら作っている間に、ミーアはセレスの部屋へと向かう。

「まあ、多分何もないと思うけどね」

 そして、ミーアがセレスの部屋の扉を開けて、辺りを確認しようとする。

 色々と服が乱雑に散らばっているのが気になったが、それ以外は普通の部屋だった。

 特に何もない、大きめのベッドが一つあり、小さな本棚の本も結界魔法についての本や聖魔力、魔法剣技の本とかだ。

 鏡が実は風呂場が見える仕掛けになっているのかと推測して眺めているも、特に何もない。

 ここまで何もないので、人の部屋を探索していることを悪いと思い、掃除でもしようかと思うも、部屋はかなり奇麗だ。

 気になることといえば、鏡の近くに乱雑に散らばっている様々な服だろう。

 いつもの派手な赤か青のドレスとは違い、普通の衣服が散らばっていた。朝食をとってすぐに部屋に向かっていたし、服をどれにするか散々悩んでいて、これ以上待たせられないと片付けるのを放棄してしまったのか。

 

 これは畳んでおくべきだろうと、ミーアが正座で畳んでいると、ベッドの隙間に何かが見える。

「……ん?」

 服を全て畳み終え、ベッドの下に手を伸ばすと、そこには、様々な本が出てきていた。

 どれもこれも本棚に入っている本に比べてかなり枚数が少ない本だ。

 だからこそベッドの下に入れることができたのだろう。

 ペラペラと、はその内容を確認して。


 ミーアは、思考が真っ白になっていった。


 セレスのベッドの下には、どれもこれも男女のまぐわいが赤裸々に記されている本ばかりだった。

 貴族同士、ギルドの冒険者同士の恋愛、捕らわれている姫を助ける冒険者。

 こういう創作の本は少なく、大体冒険譚か同じ身分の恋愛物だ。

 恋愛物も相思相愛になって終わる程度で、それ以降のことは書かれていない。

 だというのに、セレスのベッドの下は、それ以降のことが具体的に書かれているのだ。

 そのあまりにも破廉恥極まりない内容に、ミーアは顔を赤らめながらその本を読み「ひえぇ、ひえぇ」と声を漏らしつつ、興奮気味にページを捲っていく。

 本は結構あるのだが、どれもこれも内容はいわゆる相思相愛からの行為のことが主で、というか、その行為だけが具体的に書かれているといっても過言ではない。


 真っ赤になりつつも、遂にミーアはとある本に気付いた。

 他は適当にそこら辺に入れられているだけだが、これだけ紙の袋入りだ。

 普段のミーアなら、これは見るべきではないと判断ができるはずなのだが、今は色々と精神がおかしかった。

 これ以上何があるのかと、袋から取り出してみると、その袋から数冊の本と、数枚の紙が飛び出していた。


 その紙の内容を見て、ミーアは叫び声をあげる。


「ミーアさん! どうされたんですか!?」

 その声に気付いたのか、ローファがどたどたとセレスの部屋に駆けて来る。

 それに気付いたミーアは、さっきまでの本はベッドに慌ててベッドの下に戻したのだが、その数冊の本と、数枚の紙は放り投げてしまったのでまだ床だ。


 拾おうとした頃にはローファがやってきていて。

「セレスさんの部屋にいたんですね……あの、なんで、ソウマ様の裸の絵が、あるのでしょうか?」

 そんなことは、ミーアが一番知りたかった。

 しかも滅茶苦茶巧いのだ。

 構図的に風呂場だろう、裸のソウマの絵を、ローファはじっくりと見てから、本をゆっくりを確認する。

「さ、さあ!? あっ、この本はあれね! こんなん見られたって知ったら、あたしならのたうち回るわ!!」

 パニックに陥っていたミーアは、勝手に見たというのに本心をぶちまけていた。

 本の内容は、セレスという名の強い冒険者が、謎のとてつもなく強い敵に捕らわれて、それを王子が助けるという小説だ。

 恐らくソウマと会う前に書いたものなのだろう、王子の所に線が引かれてて、ルビなのか上にソウマって書いてある。

 食事は食べさせあっていたりと、甘々な日常を描いていて、行為は他のに比べたらよく解っていないのか、他のを参考にしましたと言わんばかりに雑だった。


 それをローファが見て。

「セレスさんは、ソウマ様とこういうことがしたいんですね!」

「……えっ?」

 何かを納得したかのようなローファの反応に、戸惑ったのはミーアだ。

 ローファは困惑しているミーアが理解できないのか、首を傾げ。

「私の故郷では恋人のことを詩にして歌ったりする人も居ましたけれど、違うんですか?」

「そうなんだ……そうね、セレスは、こういうことをソウマとしたいのよ」

 エルフってそんなことしたりもするんだと思いながら、ミーアは冷静になっていく。

「私もしてもらいたいです!」

「そうね……でも、こういうことって、してもらうより、してくれた方が嬉しいと思わない?」

「そうかもしれません!」

 私がおかしいのかなと思いながらも、ミーアはどうしてセレスがソウマの裸をあそこまで詳しく描けるのか、疑問に思うしかなかった。 


 ローファが創った夕食のアドバイスをしたりして一日が終わり、翌日は特になにもなく、ミーアは普通に楽しくローファと遊んでいた。



 そしてソウマとセレスが帰って来た夜、ソウマとローファは寝室へと行き、ミーアとセレスは動くことなくじっと見つめ合っている。

 あれから冷静に考えて、人の部屋に勝手に入られたら、誰だって怒るだろう。

 ミーアはとにかく、セレスに謝る気でいた。

「……あのさ、勝手に」

「それは、もう、お互いなかったことにしよう……しかし、どうして入ったのじゃ? 流石にミーアが理由なくわらわの部屋に入るとは思えないからの、理由だけは聞かせてくれぬか?」

「いや、毎日さ、ソウマが風呂に行ったらすぐにセレスは部屋に戻って、ソウマが戻ってくる頃にはこの部屋にやって来てたじゃない。流石に気になったのよ」

 ミーアは正直に話すと、セレスは顔を赤らめ、腑に落ちたと言わんばかりの反応を見せる。

「あああああっっ!? そ、そうか! 完全にお楽しみじゃったから……あ、あの、その……実は、わらわはその……遠くでもその場所を確認できたりするスキルがあってな……」

 それでソウマの風呂を覗きながら、その姿を紙に描いていたのかと、ミーアは理解する。


「……このことは、忘れることにするわ」

 多分忘れることはないと思うのだが、ミーアはそう言うしかなかった。

「……ありがとう」

 安堵したように、セレスはミーアに頭を下げ、ミーアもセレスに頭を下げる。


 こうして、ミーアとローファの二日間が、終わった。

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