セレスと買物
セレスが予約したという宿は、見るからに高そうな内装であり、俺とセレスは同じ部屋で、ベッドは一つしかない。
俺はかなりドキドキとしている。
部屋の奥に風呂まである。かなり豪華だ。
周囲を眺めていると、セレスは俺に微笑む。
「一緒に入らぬか?」
そう意地悪気に、19歳の美少女姿なセレスが聞いてくる。
「い、いや……やめておこう。また、今度な」
今のセレスと一緒に風呂とか、俺がどうなるのか解らないからな。
「ふふっ……わらわ達は、いつでも一緒に入るからの」
さっさと修行を終えて、エルフの里に行きたいもんだぜ。
夕暮れ、セレスが風呂からあがってきた。
風呂上がりのセレスは空間の雰囲気と合わさっていつも以上に色気を感じるしかなく、俺が風呂に行って戻ってくると、セレスは買ってきていたワインをテーブルに置いていた。
綺麗なグラスにワインを入れて、二人で乾杯をした。
ワインはあまり飲まないので、なんか濃い感じがきついのだが、徐々に慣れてくる。
そんな反応を見て、セレスが更に微笑みを増した。
いいムードだ。
ベッドも一つしかないし、これは理性が持ち応えるかどうかだな。
この雰囲気だからこそ、俺はセレスに告白する。
「……セレス、俺はセレスのことが、好きだよ」
今まで言えていなかったことだが、ようやく言えた気がする。
それを耳にしたセレスは満足げに、顔を赤くしながら、幸せを噛みしめた表情で。
「ど、どの辺がじゃ! い、いや、これは聞かない方が……でもでも……」
うーっと思い悩んだ表情を浮かべている。美幼女姿の時は結構見る姿だが、この19歳のスタイルがいい美少女姿での仕草は可愛くて麗しい。
「最初に気になったのは、俺が結晶みたいなやつに取り込まれかけて瞬間移動をした時、その対処法を教えてくれた後に、俺を止めようとした時だな」
さっきまでもじもじと戸惑っていたセレスだが、俺の言葉を聞いてじっと、真剣な顔になった。
一字一句聞き逃さない。聞き逃したくないという風な表情で俺を見つめている。
俺は続けた。
「そりゃ見た目もあるぜ、全てが好きだよ。でも、一番いいなって思ったのは、誰かの為に動く所さ」
Sランクリーダーだったというのもあるのだろう、ローファやミーアを鍛えたのだって、ステータスを見たからだ。
セレスは今鍛えるのが一番いいから鍛えていると言っているが、二人のステータス差によって生まれるであろう劣等感を、少しでも減らそうとしたんじゃないかと俺は思っている。
実際ミーアは悩んでいたからな。昨日の霊山で問題はなさそうになったが、セレスはそれも考えていたのかもしれない。
――ここだ。
セレスは熱っぽい瞳で俺を眺めている。
ここで積極的になれないのなら、そいつは極識斬撃で滅びていいだろう。
お互い椅子に座り、向かい合っている。手を伸ばせば届きそうな距離で、俺は立ち上がり、それに気付いてセレスも立ち上がる。
よくよく考えたら、俺からキスするのって、これが初か……。
ローファは先にローファからしてきたし、ミーアはできそうな雰囲気だったが結婚してからと言われて止められた。
そういや、あの時は俺から動こうとしたけど、先にミーアから提案してきたんだったな。だからこそ行けそうだったんだよ。
落ち着け、セレスは待っているんだ。そうに違いない。
そんなこんなで数十秒経ってしまうと、俺の唇に温かいものが触れた。
……えっ?
少し距離を取りながら、セレスが僅かに俯いて。
「もう……じらしすぎじゃ……ばか」
どうやら、キスをされてしまったようだ。
結局、タイミングを逃してこうなってしまったぞ。
もし俺がもう一人いるのなら、絶刀を俺の頭部に叩き込んでいただろう。
「ご、ごめん……俺が、俺がするべきだったのに……」
「い、いや……わらわが待つべきだったのじゃが、今か今かと気が早まり過ぎた……じゃが、これはこれで、よかったと思ってる」
「……そっか」
抱きしめようとすれば美幼女姿になってしまい「……多分、これ以上はわらわの理性が持たぬ」と言われてしまった。
正直俺も危なかった気がする。
というか、今のセレスの服は装備品じゃないのでぶかぶかであり、服の隙間から肌が結構見えてドキリとした。
落ち着け、流石にこの矮躯な身体に欲情はマズいぞ、でもセレスだし、仕方ないじゃないか。
美幼女姿のセレスを愛でながら、一日が終わりを迎えた。
翌日、セレスは美幼女姿のままで、俺達は街を探索している。
セレスのテンションは、それはもう高かった。
「今日は二人の土産を買わねばな! 二人がそれはもう凄くて、それ以外のことを考えられぬほどのお土産じゃ!」
それを聞いて昨日の戸惑いまくりだったセレスを思い出す。
マジで、あの時に一体何があったんだろうな。
天眼でローファとミーアの様子を見た際に起きたことだろう。
セレスが居ない時に聞いてみるとしようか。
「聞くなよ! 絶対に聞くなよ!! お願いだから聞かないで下さいぃっっ!!」
「聞かないからやめてくれ! 外聞が悪くなる!!」
目を潤ませ、美幼女姿で俺に全身を使ってすがりついてくるセレスに、周囲がざわめきかけた。
演技とは違う、俺が頼むまでかなりの力だった、セレスはゼーゼー肩で息を切らしているので、全力の懇願だったのか。
聞きたいけど、ここまでされたら聞けないよなあ……。
しかし、土産ね……。
「土産っていっても……大抵の物は地下の倉庫にあるし……食べ物でいいだろ」
そもそも土産自体要らない気がするのだ。
俺が瞬間移動で買ってくればいいだけだからな。
二日前の霊山で手に入った素材だけで、もう数年遊べるレベルの稼ぎなはずだ。
ステータスが高い事もあって、もう金銭面を気にすることはなくなっている。
「うむ、それもそうか……瞬間移動で買えばいいと思うかもしれぬがの、二人にしてみれば、二人を想って買ったということが重要なのじゃよ」
そんなモンかなあ……。
二人と会った時、最初の会話の主導権取りたいだけじゃないのか?
そんな俺の真意に気付いたのだろうか、セレスは慌てふためきながらも、菓子屋の店に俺と案内して、商品を選び始める。
「これなんかどうじゃ?」
そう言って棚に飾られていた菓子を見る。
なんか細長いペンのような菓子だった。
ここまで細い菓子は作るのに技術がいるのだろうか、このサイズにしては一本の値段が結構高い。
「これって、そんなに美味いのか?」
「いや、お互いがこの端と端の部分を咥えてな、迫れば……」
なるほど、菓子を食べながら唇が合うな。
しかし、そんなことをする必要があるのだろうか?
「セレスはキスがしたいのか?」
気になったので、聞いてしまう。
すると、何かを思い出したのか、ハッとした表情を浮かべ。
「っっ!? ……べ、別のにしようか、いいのはないかな~」
誤魔化しながら色々と俺に勧めてくるセレスの様子が変だったが、楽しそうだから別に構わないだろう。
そんなこんなで観光を終えて、夕方には帰ろうとしていた。
赤ドレスの装備をした状態で、セレスは美幼女姿から美少女姿に戻っている。
瞬間移動で帰ろうとしているのだが、セレスは俺の手を取れずにいた。
「……どうした? 土産だって俺は問題ないと思うぞ?」
悩んで決めた土産は、季節に合ったフルーツを使い多分バスケットみたいな器で奇麗な盛り付けられている高級菓子だ。
期間限定ということもあり、これなら瞬間移動でいつでも買えるとかそういうことはない。
作るのに時間がかかり、数量限定だったので列にも1時間ぐらい並んだし、俺がすぐに買いたいと思うことはないだろう。
聞いてみると、セレスは何かの予行練習をしていた。
その勢いは鬼気迫るものであり、俺は茶化すことが一切できない。
「帰って来たぞ! 二人に土産があるのじゃ! 二人の為に買ってきたのじゃ!! ……この勢いで、何も知らない風を装えば……」
「……大丈夫か?」
「う、うむ! なんの問題もない……聞かないでくれて、ありがとう」
ちょっとしおらしくなっている美少女姿のセレスが、大変可愛く美しい。
普段しっかりしている子が、しょぼんとしたりしている姿に魅かれてしまうのかもしれない。
Sとかそういう話ではない、男なら誰でもそういう風に感じるのではないだろうか?
色々と悶々しながらも、俺は瞬間移動を使い、決意した表情のセレスと共に館へと向かう。
館へ瞬間移動をした時、セレスはかなり必死だった。
「帰って来たぞ! 二人に土産があるのじゃ! 二人の為に買ってきたのじゃ!!」
おお、顔がちょっと赤いが、練習通りできているじゃないか。
「おかえりなさい!」
ローファは特に何も気にしてなさそうだな。
「お、おかえり、ソウマ。セレスとどこまでいったの? チューはしたの?」
そんなセレスの反応を見たからか、近づいてきたミーアが意地悪気に俺に聞いてくる。
「ま、まあな」
「よかったじゃない」
そう言いながらも、ミーアはセレスをチラチラと見ている。
――これはセレスを避けたのか!
辺りを見渡す。セレスはローファの反応に安堵したが、ミーアに対しては警戒心バリバリな表情を浮かべている。
そしてミーアはなんだか最初の挨拶こそ軽く頷いたが、セレスと顔を合わせようとはしていない。
それを誤魔化すために、俺に話を振って来たのか。
天眼は俺にしか教えていないからミーアは知らないはずだが、恐らく最初のセレスの反応から、察することができたのかもしれないな。
なんだか気まずい夕食を終えた。
セレスが何かに、いや、明らかにミーアにビクビクとしていて、ミーアは少し気まずそうだ。
正面がそんなことになっているのに、隣にいるローファはそれを一切気にしていない。満面の笑みで、俺に身体を預けてくる。
「ソウマ様、どうかしましたか?」
俺の様子に気付いたのか、ローファが首を傾げて聞いてきた。
とても可愛い。
そして俺はそのローファの頭を撫でて。
「ローファ、そろそろお土産のお菓子を食べようか……俺が食べさせてあげよう」
一日ぶりだからな、甘々になってしまうぜ。
あの細い菓子の影響もあるのかもしれないなと、俺は紙の箱を開いて、四つある菓子の一つをヒョイと取り出し、ローファの口へと向ける。
しかし、どうも様子が変だ。
いつもなら「はい!」とノリノリで言いそうだったのに、今回は「うむむむ」と言わんばかりにローファが首を傾げ。
「それなら、セレスさんにもしてあげてください!」
「ぶっっッ!?」
満面の笑みを浮かべて提案したローファに、紅茶を飲んでいたセレスが噴出す。
物凄い慌てっぷりであり、ミーアがセレスの背中を優しく摩りながら、何か悟った表情を浮かべる。
そして、ミーアが俺に向かって。
「ふぅ……実はね、セレスの日記みたいなのを、昨日私が見つけちゃったのよ」
「日記……みたいなの?」
「えっと……なんて言えばいいのかな、ソウマとこんなことがしたいなーみたいなことが、色々と書かれてる日記みたいなの……セレス、勝手に見ちゃってごめんなさい」
言いにくそうにしながら頭を下げたミーアの言葉に、ポカンと唖然とした表情をセレスが浮かべて、すぐにハッとして続ける。
「そ、そうなのじゃ!! 願望日記みたいな……そんな代物をな!」
「ああ……それは恥ずかしくなるかもな……」
書いたことないから解らないが、とりあえずそう言っておこう。
ミーアとローファがそれを気にしていないから、ようやく安堵できたということか。
その願望通りのことはしようと、俺はセレスとローファに菓子をあーんで食べさせている。
それを眺めて、そわそわしていたミーアにも行なう。
俺は大満足だ。
「最高の8日だったぜ……」
そう満足げに呟きながら、俺はローファと共にベッドで眠ろうとしている。
今日はロマネ達が来ていたが、明日また来るととかミーアが言ってたっけな。
一体何の用だろうか考えながら、俺は眠りについていた。




