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セレスの夢

 あれから、特に何の問題もなく、霊山でモンスターを倒し終え、瞬間移動で館に戻ってきた夜。


 一応試しておきたいと、ローファとセレスは限界点薬を試すことにしていた。

 旅行する前日に副作用で辛くなってもいいのかと言いたくなっていたが、セレスは気になってしまっているようだ。

 その結果、セレスのMPは150000、魔力は15000になったことに安堵していた。

 これ以上伸びようもない気がするがとセレスはいっていたが、魔力はここ三ケ月で500ぐらい伸びているし、他ステータスも上がっている。

 強化状態を俺のスキルで解除した時も僅かに伸びていたし、上昇するのは遅いが、まだ伸びるということかと、セレスは納得していた。


 一番驚いたのはローファで、HPMPは150000、他の数値は全部15000となったことだ。

 神眼で確認ができる俺とセレスは、その全てが同じという奇麗な数値を出したローファに驚くしかなく、ローファは照れていた。

「もっと強くなって、ソウマ様を助けたいです!」

「うむ、この勢いなら、ソウマを追い抜くかもしれんぞ?」

 そ、それは流石にショックを受けるかもな……。

 いや、素直に喜ぶべきか。

「助けたいか……ありがとう、ローファ」

 そう言って撫でていると、ローファは幸せそうな表情を浮かべている。

 ただ撫でているだけでこの反応だから、毎日撫でてしまうものだ。

 そして、セレスは一時間ほどで俺に解除スキルを頼み、俺は二人に解除スキルを使うことで強化状態を解除する。

 二人とも結構辛そうだったが、一時間と少しで元に戻っている。

 明日の旅行が延期になることはなさそうで、俺は安堵した。

 

 そして翌日、朝食を終えて、俺とセレスは館を出ようとしていた。

 帰りは瞬間移動を使うが、行きは借りてきた馬だ。

 目的地であるキトの街から一番近いオサンの街に、瞬間移動を使ってから一時間程歩くことで到着する。

 俺達は、オサンの街で、馬を借りていた。

 見るからに立派そうな白馬はキトの街で返せば問題ないらしく、これもセレスの旅行計画の一つらしい。

 結構距離があるのでこの移動だけで昼を過ぎるのだが、それでもセレスは構わないと言ってきた。

 俺はセレスにここ三ケ月の間で試しておいて欲しいと言われた乗馬が、遂に役に立つ。


 そして俺は煌びやかな白馬に乗れた。

 安定している。巧くいったぞ。

 練習の成果を本番でできたのが嬉しくて、気分が高揚してしまう。

「よし! 乗ってくれ!」

 自信ありげにキリッとしているだろう俺が手を差し出すと、セレスは眼をキラキラとさせている。

「ふふっ……遂に……ついにぃっッッ!!」

 力強い感極まった声を出しているのは、美少女姿のセレスだ。

 服装もいつもの派手派手しいドレスではない、街にいる普通の人のような、質素で清楚なイメージのある上が白で下が黒の、説明もこれぐらいで十分な服装だった。

 それでも上は白い縦線が少し入っていて、その服から強調される巨大な二つの双丘は、隠れているからこその魅力を出している。

 緊張からか、顔を赤らめ、震えながら俺の手を取るその姿は、いつもの冷淡で優美なイメージが一切なく、ギャップもあってとてつもなく可愛らしく美しい姿であった。


 こうして、俺は馬を走らせる。

 これは一番高いレンタル馬らしく、乗馬初心者の俺でも完璧な動作ができている。

「すげぇな、この馬……」

「ふふっ、わらわが事前に頼……いや! 違う!! ソウマが凄い! ソウマがっッッ!!」

 何か小声で言っていたセレスだが、すぐにハッとしてからの怒涛の勢いで前半がよく聞こえていないことは言えないでいる。

 頼んだといっても、セレスは基本的に二人の訓練で館か近くの草原に居たはずだ。偶にくるロマネと会話をしていたから、ロマネ経由だろうか。

 まあ、そんなことはどうでもいいや。

 腰にしがみついてくるセレスの胸の感触と、風と一体化している気分が心地いい。

「はぁ~さいこぉぉ~しあわせぇぇぇ」

 唐突に甘ったるい声を出しながら俺の身体にすり寄るセレスに、俺は色んな意味でドキリとしてしまう。

 今までの卓越していた凛々しい雰囲気が嘘のような蕩けっぷりだ。背後から頭から腰まで使って俺を堪能しようとしているし、俺もセレスを堪能することになっている。

 お互い幸せだ、最高の状況だな。


 そして、馬で走って数十分後。

「おっ、モンスターだ」

 でけぇカエルみたいなモンスターが見える。

「邪魔だなあ……流石にこの馬に乗って切撃ちは無理か?」

 街から出たのだ、モンスターが出てくることもあるさ。

 距離、この速度的に、後30秒もすれば衝突するな。

 流石に馬に乗って剣を振う技術はない、仕方ない、降りるか。

 そう考えていたのだが、セレスも俺の声から気付いたのだろう、つんつんと俺の背を指でつつき。

「……ソウマ、そのまま直進してくれ、わらわ以外のことは考えないで」

「えっ?」

「おねがい♡」

 そこまで甘い声でおねだりされたら、聞くしかねぇぜ。

 セレスが言うんだ、なんとかなるだろ。

 本当に一切の速度を落とすことなく迫れば、いつの間にか巨大なカエルが勝手に離れていて、モンスターも理解ができないのだろう、辺りをキョロキョロとしている。

 俺達に気付いて迫ろうとしたようだが、カエルの体が更に動いて、何もないというのにぐるりと身体が大きく回り、腹を晒すことになってしまい俺達どころではないようだ。

 結界魔法だなと考えながら、セレスと他愛ない話をしながら、俺はカエルのことを完全に忘れることにしていた。 


 そんなこんなで乗馬やセレスを堪能し、途中で一度降りてセレスが作ったというパンに具材を挟んだ簡素な昼食をとって、また馬で移動をはじめて数時間が経ち。

 俺達はキトの街に到着した。

 思っていたよりも短い距離だったが、もう1、2時間もすれば夕焼けが見えそうな時間になってきている。

 温泉が自慢の観光名所らしく、離れでも賑やかだということが伝わってくるものだ。

「よし、セレス、着いたぞ」

「お、おろして」

「えっ?」

「おろしてぇ~♡」

 今日のセレスは甘々だな、メロメロだぜ。

 ここで「いや、普通に降りろよ」とかいう俺が居るのなら、そいつには絶刀を、いや、極識斬撃を覚えて放ってやる。

 セレスは何か期待するような眼差しで、馬から降りた俺を眺めている。

 なんだっけ、ミキレースが言うには、自分を助けてくれる王子様に憧れてたんだっけ。

 俺は王子じゃないからセリフなんて解らねぇぞ。

 こういう時どうするんだよ。

 僅かに悩んだせいか、ちょっと表情が暗くなってきたセレスを見て、俺は反射的に動く。

「解ったよ、セレス」

 こういう時って、敬語とか、姫様呼びの方がいいのか?

 全く解らない。だからとりあえず、俺はセレスに向かって手を差し出し、その手をとってゆっくりと下ろす。

「こ、これはこれで……ありがとう、ソウマ」 

 微笑んでいたセレスだが、俺はどこか残念そうにしているなと感じてしまっていた。


 馬を返し、なんだか高級そうな宿の予約を入れたセレスと共に、俺達は広場へと向かっている。

 そこからロマネが予約してくれていたレストランへと向かうらしい。

 夜の食事にしては時間がかなり早く、夕日が出る前に食事となってしまうらしく、だからこそ昼食がいつもよりかなり量が少なかったのかと理解した。

 ロマネは夕日が見えるのがロマンチックだと言っていたとセレスが説明するが、それが本心なのか時間ミスった言い訳なのかは解らないな。

 まだ余裕があるみたいで、セレスは感極まった様子で、周囲の案内をしながら、俺を見つめている。

「わらわは……今日この日を一生忘れないじゃろう……」

「そうか、よかったな」

 セレスは凄まじいレベルで喜んでいる。

 ここ三ケ月ちょっとの間で、一度も見たこともないレベルな満面の笑みだ。

 

 俺をじっと見つめ、赤くなっているセレスに手を引かれながら、俺は歩いていく。

 今まで基本的にセレスが話しているのが主だな、王子様というのだから、俺が主体になるべきか?

 王子ってことは、強いってことだよな……。

 じゃあ、俺がセレスに聞いてみる事といえば。

「ギルドとか、あるのかな?」

「……ソウマは、そういうことが気になるのか?」

「えっ?」

「いや、なんでもないのじゃ、ギルドはあるにはるのじゃが、キリテアほどではないかの、ここら一体は五大迷宮も、危険地帯もあまりないからの」

 セレスの反応は、微妙なものだった。

 俺としてはもうギルドと関わらないようにしているからどうでもよかったのだが、この質問はマズかったのかもしれない。


 そして俺達は、まだ昼と夕方の合間ぐらいの時間に、高級そうなレストランで早めの夕食をとることにしている。

 なんだか高級食材やら味のせいで希少となってAランクのモンスターやらの奇麗な料理の味は、なんだかよく解らないが、美味いというのはよく解る。

 なんか量が少ないのが小皿できて、四回に分けられて持ってくる料理だとセレスが説明する。

 でも明らかに少ないぞ、この量が四回って、これで夜が過ごせるかよ。

 案内されている時に屋台が見えたし、そこで何か食べたいのだが、それはセレスの理想から外れる行為なのだろうか?

 そんなことを考えていると、料理の量に不満げだったのが顔に出ていたのか、セレスが不安げに聞いてくる。

「……のう、ソウマは、ミキレースに言われたことを気にしておるのか?」 

 ミキレースは、セレスが理想の素敵な王子様に憧れていたと言っていた。

 俺は容姿について貶されたことも褒められたこともあまりない、平凡な黒髪短髪の少年だと自負している。

 そんな俺を好いてくれるのだから、彼女に合わせたいと思うのは、当然なのではないだろうか? 

「まあ、な……セレスの理想に合わせたいって、俺が思っているんだ」

 そう言われて、美少女姿のセレスが笑みを浮かべた。

 白と黒の清楚な服装、白髪の美少女が、熱っぽいオッドアイで俺を見つめて。

「ふふっ……わらわがソウマを好きなのはな、そういう所じゃよ。別に無理をして王子を演じなくてもよい……わらわが一番好きなのはソウマなのじゃから」

「でも、馬から下ろした時、ちょっとガッカリしただろ?」

 痛い所を突かれたといわんばかりに、セレスがショックを受け、椅子を引いて仰け反った。

「つッッ!? ま、まあ……少々期待していたシチュエーションと違えば気にしてしまう、けど、そんなソウマも好きじゃ、気にしないで欲しい……昔の、この年だった頃のせいじゃな。あの頃のわらわは、色々と妄想癖が凄まじっッ、な、なんでもない!」

「そ、そうか」

 ……いま、妄想癖が凄まじいって言いかけたな。

 脳内がお花畑だったとも聞いているし、19歳ぐらいの時は一体どんなセレスだったのだろうか。


 最初だから少量なのかと次以降の料理に期待したのだが、結局同じぐらいの量なのが四回出てきただけだった。

 どれも信じられない程に美味い、そして最後の料理は半分ぐらいになっていると、セレスがゆっくりと語り始めた。

「……わらわの夢はな、好きな人と馬に乗ってこの街へと向かい、こうしていい雰囲気になりながら過ごすことじゃ」

「……えっ?」

「昔は、あの頃は頭がおかしくなる程濃密なスケジュール表みたいなのを書いてたりもしたが、冷静になると、恋人として当たり前な一日を、送りたかったのじゃよ……」

 ……恋人、か。

「……今まで、言えなかったんだが、正直、セレスが俺に告白してきた時は、助けてもらった恩義からきたんだって思ってたよ。会って一日も経ってなかったからな」

「違うぞ。十年もの封印を解いてくれたのだ、わらわが止めても助けるために動いてくれた。あの時のトキメキは今でも記憶に残り続けている」

 セレスは顔が赤くなってきている。

 恐らく俺も、同じぐらい顔が赤くなっているのだろう。

 そのままの俺が好きだと言われたからか、ヒートアップしてる自覚がある。

「俺は今、毎日が楽しい。まあ特訓もあるからあんまりその……色々とできないのは少し不満だけど」

「なっ……い、今鍛えるのがベストなのじゃ。ソウマもわかったって言ってたじゃないか!」

 それはそうだが、不満なのは不満じゃないか。

 そりゃローファと結婚するまではそこまで行くつもりじゃないけど、もっと今日みたいな観光やら、皆で遊んだりしたいのだ。

「ま、まあ、な……それでだ、その……」

 ここで好きだというべきなのだが、周囲に他の客が居る。

 どうせもうこのお客達とは二度と会うこともないのだから気にしなくていいのだが、なんかちょっと気になってしまうぞ。

 何かを言いたそうにしながらも、周囲を疑っている俺の思考をセレスが推測したのか、ふふっと微笑みを浮かべ。

「食事も終えたし、出るとしようか……」

 結局、俺はセレスに好きだと言えないでいた。

 いや、言うけど、今日中に絶対言うけど。


 そして、宿に向かう前に屋台で何か食べようとした時、異変が起こる。

 夕日が見えてきて、もうそろそろローファ達も夕食かなと思っていた頃だ。

 突如、それは起こった。


「あっ……あああああああ――――――っッッ!!」


 広場で、周囲を一切気にせず、顔を徐々に赤くしたセレスが、物凄い大声をあげた。

 もはや咆哮といってもいいだろう、明らかに冷静でなくなっている。

「ど、どうした! なにがあった!?」

「うわっ、わわわわわっっ……わわわわ――――っっ!!」

 俺の言葉は聞こえちゃいない。

 今までに見たことがないほどの驚愕っぷりだった。

 みるみる内に赤くなっていき、今では完全に真っ赤だ。

 そして、セレスは全身を路上にぶちまけ、ごろごろとのたうち回りだす!

「ど、ど、ど、どうした?」

 俺もいきなりの奇行にビックリしてマトモに話しかけることができなくなるぞ。

「な、なんでもない……異変はない……いや、わらわが……そんな……」

 顔を赤らめながら、路上に倒れて自らの手を見て、顔を隠すセレス。

 起き上がる気は一切ないようで、周囲のギャラリーが俺とセレスを見てざわめいている。

「不用心が過ぎた……やってしまった……どうすればいいのじゃ……」

 …………。

 なんか周囲から「孕ませた」「妙なプレイを強要した」「今でもその最中」とか、憶測が飛び交っているぞ。


 なんの理由があるか解らないが、とにかく俺は、路上に倒れていたセレスを両腕で担ぎ、この場を離れることとする。

「うひょあぁっ!?」

 担がれたセレスは更に顔を紅潮させていく。

 見るも真っ赤なセレスだったが、すぐさま俺に身体を預けて。

「まあ、もう仕方がないな……こうなったことを、喜んでおこう……」

 先ほどまでのパニックから落ち着けたようで、大満足げに俺に身体を摺り寄せてきた。

 全く理解できていない俺はとにかく、宿の方向に、人気がない路地へと向かって走って行った。


 もう噂されていた場所からかなりの距離がある。

 あそこには二度と行かなければ大丈夫だろう。

「……それで、なにかあったのか? 急にどうしたんだ?」

 無茶苦茶気になっているので、俺は聞いてしまう。

 すると、何かを思い出したのか、セレスは再び顔を紅潮させながらも、全力で首を左右に振った。

「なっ、なんでもないわ!! 本当になんでもないから! だいじょぶ、大丈夫じゃ!」

 全く大丈夫に見えないんだよなあ……。

 すると、何かを悟ったかのような表情を、セレスが浮かべた。

「もうこうなればどうにもならん……わらわもあの頃から歳を取ったのか……まあ、夢が叶ったし、よかったとしよう」

 セレスは全てを諦めたような表情から、すぐさま楽しげな蕩け顔に変化する。

 ……夢が叶った?

「恋人と、一日楽しく過ごすのが夢じゃなかったのか?」

「その延長線というべきかの……恋人に、さっきのように担がれたかったのじゃ、この姿での……これは、昔からずっとしてほしかったことなのじゃよ」

 馬から降りるときに、やって欲しかったのはお姫様抱っこのことか。

 なら、王子に憧れていたというのも、そこからきているのかもしれないな。


 そう推測しながら、俺達は軽く屋台の店で食事をとりながら、宿へと向かった。

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