パーティで戦う
霊山は広大山脈地帯で、あちこちに様々なモンスターが存在している。
大岩が連なっているので隠れやすくもなっているが、透明化を使って軽く周囲を散策していると、火龍や自らの腕を斧と化している二足歩行の鳥であるアックスペンギン、空を見れば、翼を生やした獰猛な獅子の猛獣グリフォンが獲物を求めて徘徊している。
自らの体内から子となる小型のゴブリンを放ち、連携して戦うゴブリンキングも見えた。
どいつもこいつも3000~4000ぐらいのステータスを備えている。
本で危険とされる怪物が多数見えるこの空間は、Aランクでも入るなという警告がある危険地帯だ。
透明化を解除しながら、俺達は岩であまり目立たないセレス達が居た場所に戻って来た。
「魔界の次に危険と噂される霊山の感想はどうじゃ?」
「一生来ることはないと思ってたからな、色んな意味で驚くしかないぜ」
その霊山で、俺とローファは前衛、ミーアとセレスは後衛で戦うことにしていた。
時間は昼食までで、そこからはローファやミーアがモンスターと二人で戦い、それを俺とセレスが眺めるらしい。
そして、セレスは俺に条件を出している。
「ローファが主体で、俺は基本的にサポート役ね……」
「すまんな、少々退屈かもしれんが、ローファの為だと思っての」
そうセレスが申し訳なさそうに言ってくるが、俺としてはいつも通りのことをすればいいだけだ。
こうして、パーティでの戦いが始まったが、ローファのステータスなら、霊山でも問題はない。
頂上に向かおうということで、俺達はとにかく山を登っていき、モンスターが俺達に気付いた瞬間には戦闘に入っている。
前のパーティで二番手としての働きをしていたこともあり、俺はローファのサポートができていた。
モンスターを倒し、素材を即座に手刀で解体したセレスがマジックバックに入れ、別のモンスターを探す。
霊山のモンスターは増えすぎると人を襲うこともあるので、その際はクエストが出るのだが、危険過ぎるので霊山に向かうクエストは存在していない。
ここである程度倒しておくのは、人類の為にもなるようだ。
俺はステータスを確認しながら、ローファが仕留めきれなかった敵を倒していく。
大体5000以下なので後衛に被害がいくことはなく倒せているのだが、所々Sランククラスなのだろう、7000とか8000とかが最大値だと少し焦ってしまう。
人型のマグマの塊みたいなふざけたやつが攻撃値7900だったりした時は、神眼がなかったら舐めてかかって死んでいそうだとも思ったものだ。
「てか、ここのモンスター強くないか!?」
結構山を登ってきたこともあるが、海神龍の以上のモンスターばかりだ。
個体こそは徐々に減ってきているのだが、どいつもこいつもやたら強い。
魔界の次に危険という噂は伊達じゃないが、限度があるだろ。
霊山の噂は聞いてはいたが、どいつもこいつも強いので、俺はローファが仕留めきれなかったモンスターにトドメを刺しつつ、セレスに聞く。
後衛で特に被害が出ていないので、美幼女姿のセレスは余裕を持っていた。
「うむ。ここの山頂付近は魔界の住人である魔族が、魔界のいざこざに嫌になった際の避難先らしいのじゃ! 一度離れた魔族は大半は魔界に戻れないらしくての、ここで子を増やしたりした結果、こうなったというわけじゃ!」
「マジかよ!?」
魔界の次に危険というか、魔界の連中がモンスターになっているのか!?
大丈夫か……まあ、魔界に関わるなって言っていたはずだし、生物界に来たのを倒しても、問題はないのかもしれない。
天界の天使と関わった時はカッとなってしまったが、魔界に関しては問題があれば何かしらモニカが言いにくるだろうと思ってしまうな。
戦いながら、背後でセレスが語る。
ローファは戦闘に意識を集中し、ミーアは真剣な眼差しで、すぐに回復が行なえるよう見守っていた。
「正直、五大迷宮より危険な場所とされておるの、ここからモンスターが出て人里へと向かった際のクエストは、Aランク以上の緊急クエストとなる」
「五大龍が居たりしないよな?」
後々が怖くなるので、俺は一応聞いた。
「それは大丈夫じゃ! エルドの話の通りなら、火神龍は火山の中、木神龍は五大迷宮とされておる樹海、天神龍はガサリデ山と場所が判明しておるからの!」
そこだけは、絶対に関わらないぞ。
戦いの最中、驚くはローファの動きだった。
ここのモンスターはリヴァイアサンのようにステータスを変化させた攻撃を仕掛けてくる。
というか、基本的に霊山のモンスターはステータス以上の攻撃方法を取ってきた。
俺達でいうスキル補正のある攻撃を、特殊攻撃として放っているのだ。
そして、時々ローファのステータスを上回る攻撃を仕掛けてくるが、それでもローファは怯まない。
ローファは速度が高いのでモンスターの攻撃がくる前に攻撃を入れたり、攻撃を瞬時に両刃の大剣で防御、余裕があれば後衛を気にしながらの回避、受け流しを行なっている。
複数が攻撃を仕掛ける際は、俺がサポートに回って対処する。
切撃ちもローファの回避動作と同じタイミングで当たることを警戒し、基本的に接近して斬る。
当たることがない位置なら切撃ちで遠距離からの援護攻撃だ。
そしてローファが対処できず、ダメージを受けたのが見えたら、咄嗟に回復魔法を飛ばそうとする。
しかし、それよりも先に、ローファの身体が聖なる光に包まれた。
お礼は言わなくていいとセレスやミーアから教えられたからか、傷が癒えたことに微笑みを浮かべながら、ローファが前に出る。
俺は、思わず呟いてしまった。
「……えっ?」
ローファは勇敢に魔纏刃を使い、強化された大剣を振り回してモンスターと戦っている。
敵は四足歩行の青い鬣から風の刃が周囲の物質を抉っている獣だ。
名称は神眼で「アークライガー」だと解ったが、それ以外はなにも解っていない。
もう完治しているというのに、俺の回復魔法の光が、今になってローファにかかる。
数十秒程度の差だ。十分速い回復魔法だったのだが、ミーアの方が速かった。
スキルを魂に刻んでいるというのもあるのだろう、ステータスの数値的に俺の方が回復量は高いはずなのだが、速度は圧倒的にミーアの方が勝っている。
俺はポカンと手の平を突き出したまま、先に回復魔法を放ったミーアを眺めてしまうと、少しムッとした表情を浮かべ。
「ソウマ! 余計なこと考えないで! 前衛なんだから戦いなさい!」
「まったくじゃ! 回復するにしても、動作が遅すぎる!」
「……ああ、そうだな!!」
二日前のことがなくても、今日でミーアの件は、なんとかなったかもしれないな。
ミキレースの言葉を、ミーアの言葉を、そして俺自身が言ったことを思いだしながら、前衛として二匹目の、部下なのかローファと戦っている奴より弱く、じりじりと隙を狙っているアークライガーに向かっていく。
昼過ぎ、ローファとミーアは結構疲れていたが、俺とセレスは平然としながら、パーティによる戦闘は終わった。
聖魔力はあまり役に立たなかったが、身体を強化することは巧くできていた気がする。
部分的な強化も戦闘中に試していたが、これは数秒時間がかかるという欠点があった。
セレスに戦闘時の瞬間移動、透明化は使うなと言われた通り、一度も使っていない。
久々に大規模な戦闘ができたことに、俺は喜びを感じるしかなかった。
それからは、俺とセレスの監視の元、ローファとミーアによるモンスター戦が始まった。
前衛ローファ、後衛ミーアによる二人での戦闘だが、基本的にモンスターは一体だ。
複数出た時は一体になるまで俺とセレスが倒し、それをローファ達に戦わせている。
それを眺めていると、セレスが俺に聞いてきた。
「わらわが見てなかった二日間でミーアのステータスが結構上がっているが……限界点薬というのは、そこまでの代物じゃったのか?」
「俺が飲んでも効果がなかったし、ミーアはMPは150000、魔力は15000ぴったしだったから、それが限度だと思うぞ」
「ふむ……魔法系の職は魔力が上がると他のステータスも上がるようになっておる……ミーアの他の数値も、魔力が15000を超えれば、更に上昇するじゃろう……」
二人の戦いを眺めながら、セレスは不安げになっている。
「なにか問題があるのか?」
そう言うと、セレスはバツが悪そうに。
「わらわは……言いたくないのじゃが、その……」
「言いたくないなら、言わなくても」
「いや、言おう……その、に、25での、もう、あまり成長しない歳じゃからな……飲んで魔力が15000を超えなかったらどうしようと、思ったりもしておるのじゃ」
もじもじと、不安げなセレスの頭を、俺は撫でる。
だって可愛いんだもの。
「うひっ!?」
予想外だったのか、セレスは小柄な身体をビクリと大きく動かしていた。
ローファも中々に良かったが、この白髪の質感、ローファとは違った感触があって気持ちがいい。
どっちが好きかと言われたら、どっちも好きだと言うしかないだろう。
俺は、思っていることを伝えた。
「セレスは俺達より色々と凄い所があるじゃないか」
「わ、わかっておる……しかし……ステータスが見えると、気にしてしまうの……」
それは、俺も感じていたことだった。
頭を撫でていると、セレスがギュッと俺の腰に手を回す。
「わらわは、今が幸せじゃ……皆とずっとこうしていたい……」
モグラみたいなモンスターの咆哮やらローファの技名の叫びが飛び交っている中、俺達は二人だけの空間が出来ている気がする。
「……ああ」
セレスは二人の修行に集中していることが多いので、最近はあまり関われていない。
これは、この状況下でアレなんだが、チャンスなのではないのか?
そう考えながら、俺が小柄なセレスを抱きしめていると、セレスがそれを払いのけてきた。
……えっ。
「ふふっ、ちゃんとわらわは仲間も見ておるのじゃぞ?」
どうやらしっかりと、どこかに配置した天眼で確認していたのだろう、向けた手の先に結界を張ったのか、ローファの隙を突こうとした攻撃を弾いた。
上空からの、最初に見たグリフォンに角が着き、ステータスもかなり高いモンスターが、他のモンスターと戦っていたローファの隙を狙っていたのか。
ローファが今まで戦っていたモグラみたいなモンスターを魔纏雷撃で粉砕し、結界魔法による見えない壁が攻撃を受け止めて弾き飛ばしてきたのが予想外だったのだろう。
口をあんぐりと、呆けたような顔をしたよろめいたグリフォンに向かって、魔纏刃による横薙ぎ、振り下ろし、突きによる高速の連続攻撃が炸裂する。
ローファなら、問題なく倒せそうだな。
「……凄いよ、セレスは」
俺がセレスと出会って三ケ月と少し経つ。
セレスは修行が主であり、密着したりはしているが、キスはまだだ。
今まで俺に気があるのかどうかも悩んだりすることがあったのだが、ミキレースの発言通りなら、俺が王子様だというのなら、キスを待っているのではないだろうか?
そう考えていると、いつの間にか少し俺と距離を取っていたセレスが、ジト目で見てきた。
「なんじゃ……ソウマはこっちの姿のわらわの方がいいのか……いや、構わぬが……」
そう言って美幼女姿で小さな唇を指でなぞるセレスは、どこか不満げだ。
こういうのは、お互いが幸せの時に、やるものだな。
「い、今のは勢いというか……そうだな、19歳ぐらいの時が、いいかな」
これは、俺の本心でもあった。
ローファはいいとしても、流石に130ぐらいの矮躯な少女とキスは、どうだろうかと首を傾げる所だからな。
「つっッ!! ……さ、さて! 流石に二人の応援をせねばな! うん! せねば!!」
それを聞くと、顔をみるみる真っ赤にしながら、セレスは俺に背を向けて、二人を応援し始めた。
俺も二人を応援しながらも、明日の旅行が楽しみになってきていた。




