強化状態のミーア
俺の協力というのは、解除スキルのことらしい。
限界点薬の材料はかなりレアな材料のようで、ミキレースは4回分ぐらい限界点薬を作れるだけの材料をくれたらしい。
今回は少量なので、数にカウントされないとのことだ。
調合は材料と混ぜて液体に変化させる作業だが、ミーアは物凄い速さでアッという間に終わっていた。
これもセレスの特訓によるものらしいが、これなら戦闘時でも後方ですぐに調合可能だろう。
モンスターの居ない草原地帯に、俺とミーアは移動している。
小瓶にほんのちょっとだけ、僅かに見える程度の橙色をした液体を作り出し、それを俺に見せた。
「調合して1時間以内なら効果は上昇するらしいわ……これを飲むと強化状態になるの……これが効果が出る最低量で、4時間ぐらいってところね」
そういうことも調合スキルならわかるものなのか。
「副作用があるって聞いたけど?」
「一定時間強化するタイプの薬はね、時間によって比例するのよ。だからソウマの解除スキルで解除すれば、それだけの時間分の副作用で済むってこと」
二十時間で丸一日寝込むと言っていたし、大体一時間使えば一時間と少しの副作用がくるのだろう。
一応聞いておこう。
「それで……その状態のミーアが、俺と模擬戦するとか言わないよな?」
「言うわけないでしょ。私は後衛よ。サポートが主だって」
そりゃそうだよな。
なんかローファのこともあったし、模擬戦になるんじゃないかと思ってしまった。
「強化状態になったら、そうね……ソウマが寝る前にやってたこととかをしてみるわ……大体一時間ぐらいね。もしあたしの精神に何か異常があったりしたら、即座に解除スキルを使って」
「……なあ、そんな危ない事、なんで今するんだ?」
「もしやらなきゃいけない時になって、なんも試さずに危ないことをしたくないからよ」
そりゃそうか。
俺は不安になりながらも、ミーアは平然と小瓶の橙色をした僅かなシロップを飲んでいく。
だ、大丈夫なのかよ……。
やっぱり不安に感じてしまうのだが、数秒後、変化が起きた。
「なっッ!?」
ミーアの身体が、大きく変化した。
真っ先に思い出したのは、中級天使ロニキュスだ。
それと同じような威圧感を、今のミーアから感じてしまう。
ミーア
大聖者
HP53200
MP150000
攻撃6490
防御7210+400
速度7560+120
魔力15000+510
把握6500
スキル・空間把握・調合
これが……ミーアの最大値……。
把握以外全てのステータスがセレスを追い抜いている。
MPが150000、魔力が15000丁度で止まっているのが、ちょっと気になるな。
すぐに俺はミーアの姿に、目が行ってしまった。
俺でも、白金に輝く銀のオーラが、ミーアから見えた。
長い黒髪がなびき、ミキレースの時よりも威圧されてしまうほどに、強い聖魔力を感じる。
「なるほど……ねっ!」
俺の驚愕っぷりに満足げなミーアは、気合を入れるそぶりを見せた。
すると、今まで体内から湧き出ていた聖魔力が、徐々に肉体に取り込まれていく。
「確かに、この姿だと、模擬戦したくなっちゃうかも……かなりの高揚感よ」
「ああ……凄いな」
本心からの感想だった。
俺が聖魔力を扱うのが下手くそだと言われるものだ。
膨大に増加した聖魔力を、ミーアはすぐにコントロールしている。
それから俺は、ミキレースに教わった踊りみたいな動きを行なったり、聖光を飛ばしたりもしているミーアを眺めていた。
あの踊り、完全に俺を馬鹿にしていたものかと思っていたが、マジで何らかの意味が合ったんだな。
一時間が経過したので、ミーアに頼まれた通り、俺は解除スキルを使うことにした。
「そろそろいいわね……お願い」
「ああ……解除と」
フッと、ミーアの身体を覆っていた聖魔力が収縮し、ミーアの力が一気に抜けている。
ステータスを見ると、昨日確認した時よりも結構上昇しているな。
「だ、大丈夫か?」
これは修行としての効果もあったのかと驚きながら、俺はふらついたミーアを支える。
咄嗟だったので胸を掴んでしまったのだが、これは本当に偶然だ。
「えっち……なんてね」
いつもなら普通にその胸を当ててきたり摺り寄せてきたりするので、その言葉を聞くことはなかったのだが、言われるとドキドキとしてしまうものだ。
舌をペロッと出した仕草も可愛く、ローファがいなければもう子供ができていたかもしれないレベルだぞ。
館へ戻り、少しだけ疲弊したミーアをソファーに寝転がらせて、俺は昼食を用意している。
それから、暫くしてミーアが起き上がっていた。
時間を確認しながら、不安げになりながらも、俺は聞く。
「……今で、もうそろそろ二時間になりそうだったけど、どうだ?」
ミーアは額を抑えながら、ちょっと辛そうだ。
「解除受けた時は結構辛かったけど、大分落ち着いてきたわね……MPの減りが尋常じゃないからかな……最大値が変わったせいかもしれないけど……」
HPMPの減りは、体感でなんとなく解る。
MPと魔力が上がっていた時に色々と試してMPを減らしたからか、その分今になって減っていると実感しているのだろう。
ミーアがMP回復薬を調合して飲むと、次第に元気になっていく。
「ソウマ、色々とありがとね……」
「ああ、俺も色々と解ったからな。前衛は前衛、後衛は後衛。俺に後衛は無理だ。もし戦いになっちまったら、サポートは任せるよ」
「ふふっ、そうね! あたしに任せておきなさい!」
あの街でミキレースと会ったのはセレスにとっても予想外だったが、そこから二日間、二人きりになれたのはタイミングがよかったな。
あれから、俺も限界点薬を作ってもらって試しに飲んでみたのだが、強化状態でも何一つ変化がなかったのにショックを受けてしまう。
本当に、数値が1すら変化しなかったのには、思わず叫び声をあげてしまったもんだぜ。
どうやら、薬によるステータス上昇は限度があるらしく、それなら、HPMPは150000、他の数値は15000なのかもしれないな。
特に何もなかったので20分ぐらいで解除するが、副作用か一瞬だけ不快感がきたのは理不尽だなと感じたりもしてしまった。
夕方までは普通に館で遊んで過ごし、俺達はキリテアの街へ買い出しへと向かっている。
といっても、食料はあるし、買物に付き合って欲しいと言われたが、何を買うのかが解らない。
そして、俺達はやってきていた。
――下着売り場に。
「……えっ?」
「さっ、入るわよ!」
いや、明らかに女性用下着が売られている場所なんですが……。
キリテアの街は繁盛している。
だからこそ、こういう女性用下着だけが売られている店もあった。
様々なデザインが並べられているので、かなり人気のある店の様だ。
というのは、店内の人気でなんとなく予想したのだが。
……カップルが数組見え、明らかに男女比の激しさから男の方が気まずそうにしていて、俺のこの精神状態が間違っていないのだと理解する。
しかし、なんで俺は連れてこられたんだろうか。
そうか、下着を買おうにも、常に修行や特訓をしていたので余裕がなく、セレスの装備でない普通の服や下着がミーアからローファのまで揃っていたので買う必要がなかったが、新しいのが欲しくなる時もあるのか。
これで間違いない、今日の俺は冴えている。
「三ケ月前にさ、下着姿のロマネを見て、かなり興奮してたよねー」
俺の緻密な思考は、その発言で砕け散っていた。
あの光景は今でも思い出せるぜ。
楽し気に装備を切り替えようとして上下共に赤く色々と透けていた下着を見せつけたロマネ。
ヒメナラが向けた軽蔑の眼差しから、ミーアの呆れ顔まで全部だ。
「セレスの下着ってさ、普通っていうか、そういう、攻めてるのがなかったのよね」
「そ、そうなのか……」
下着を選びながらそう言ってくるミーアに、俺はどういう反応をすればいいのかが解らない。
相槌を打つだけで精いっぱいだった。
すると、気に入ったのか、二種類の下着を手に取り。
「ねぇ……どっちがいいと思う?」
そう言って、紐の際どい下着と、普通にいつも通りな、いや、少し装飾としてリボンやらレースがついた下着を俺に見せてきた。
これは……悩むな……。
本能は際どい下着を選択しろと告げてくるのだが、なんかこういう可愛い感じの装飾下着も捨てがたい。
ミーアは俺にその二つの上下同じな下着を渡して。
「ちょっと別のを選んでくるからさ、考えておいてね!」
そう言って、俺を一人にしてくる。
周囲に男は居ない、もう帰ってしまったのか。
俺だけかなり浮きながら下着を所持していた。
さて……どっちにすべきか……。
とりあえず胸のサイズを確認する。
(素晴らしいな……)
セレスはこれより更に大きいのか、素晴らしいな。
そうして数分後、袋に入れられた下着を所持したミーアが戻ってきていた。
一体なにを買ったのだろうか。
大変気になるしかないぜ。
そして、俺も下着ではなく、袋を持っているのに気づいたのだろう。
「あれ? もう会計すませたの? どっちを選んだのよ?」
そうニヤニヤと、楽し気に笑みを浮かべてくるミーア。
そして、俺は正直に告げる。
「ど、どっちも買いました……」
だって欲しかったんだもの。
その返答か、俺の反応が面白かったのかは解らないが、ミーアは満面の笑みで下着売り場を後にしていた。
「そ、それで、ミーアは、どんなのを買ったんだ?」
帰り道、瞬間移動でも良かったのだが、そこまで時間を気にしていないので歩いて帰ろうとして、ミーアに聞く。
聞くしかないだろう、聞かない男など、どこにいるというのか。
ミーアは悪戯気に微笑みを浮かべて、顔の前に指を一本突き立て、振ってきていた。
「秘密よ……三着買ったんだけど、そうね……一着は今日着けるから、今夜のお楽しみね……残り二着は、刺激が強そうだから、結婚するまで見せないわ!」
つまり、二着は、いわゆる勝負下着というやつなのだろうか。
一発で俺の理性が飛ぶレベルの、とてつもない代物ということなのか。
「そ、そうなのか、楽しみにしているよ」
どもりながらも本心を告げた俺に、ミーアが笑う。
夕日に移るその姿は、とても美しかった。
翌日、朝食を済ませた俺達は、トランスポイントを使ってセレス達の元へと向かう。
すると、巨大なモンスターの死骸が見える。
肉をかなり抉り取られていて、これが二人の朝食だったのかと、俺達は納得していた。
テントも見えるし、普通にキャンプしていたと言われてもなんらおかしくないが、所々で獰猛なモンスターによるうめき声や叫び声、悲鳴が聞こえてくる。
辺りの音に気をとられていると、俺の腹部に衝撃が走った。
「ソウマ様! 会いたかったです!!」
周囲の冷気を発した山脈を眺めていると、俺の懐にローファが飛び込んできていたのだ。
「ああ、俺も会いたかったよ」
そして、セレスも近づいてきて、ミーアを見つめ。
「どうやら、休んだ意味はあったみたいじゃの……わらわも気にしておったからの、よかったというものじゃ」
「うん……ごめんね、ちょっと気落ちしてて、でも、もう大丈夫だよ!」
安堵する二人を見ながら、俺はギュッと腰に抱きついてくるローファの頭を撫でる。
この青くサラサラとした髪も久々だ。
毎日撫でていたから、二日空いただけで懐かしく感じてしまう。
ローファの髪は、この場所で、恐らく魔法で軽く洗った程度のはずなのだが、そうは思えない程に柔らかい。
なんだか手をワキワキとさせて俺に迫ろうとした美幼女状態のセレスだったが、それを俺が見たからかカッと赤くなり、コホンと咳ばらいをする。
「きょ、今日のことなんじゃが……やはり一度、試しておこうと思ってな」
「……試す?」
俺とミーアが首を傾げていると、セレスは続けた。
「まあ何かしら戦うということはないと思うのじゃが……偶には、パーティとして、戦いたくなるじゃろ?」
どうやら、今日はこの四人で、霊山のモンスターを相手に戦うらしい。
「まっ、まあ、そうだな、やってみたいかな」
俺は戦わないと言っておきながら、久々にパーティで戦えるということに、内心ワクワクとしていた。
月間ランキングにも載ることができたみたいで、とてつもなく嬉しいです。
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