半天使の力
ジャリアの街にある大聖堂で修行を行うと言って遠征に出たセレスとミーアを迎えに、俺は瞬間移動を使う。
そして俺達は、ミキレースと名乗る、とてつもない存在を視界に入れていた。
ミキレースと名乗った艶めかしい熟女は、白銀の巨大な孔雀という表現が正しいだろう、身体の数倍ある豪華極まりない広大な衣装は移動に困るだろうと思うしかない。
というか、部屋の扉よりもデカいんだが。
どうやって入ったのか、そして、どうやって出るのだろうか?
明らかに動揺しながら彼女を眺めていると、ミキレースとやらが笑みを浮かべて俺を見つめる。
「貴方がソウマちゃんねぇ。話はセレスから聞いているわぁん。私と同じなんですってぇ?」
一体全体どういうことだよ。
なにがどう同じなんだ。
セレスからは俺がこういう風に見えているのか!?
動揺し、驚愕の眼をセレスに向けると、「違う違う」と軽く片手を左右に振ってきた。
「前にロマネと話したじゃろ、お主のスキル半天使を此奴……ミキレースも持っておるのじゃよ」
そう言われて、俺はようやく思い出す。
完全に威圧感と風格にビビって忘れていたが、確かにそんなことを話していた気がするな。
ロマネの会話を思い出すと、ちょっと気になることがあった。
「あれ、ロマネの話だと、王都にいるんじゃなかったっけ?」
ロマネは連絡が取れなかったと俺達に報告してきたが、それは王都には居なかったという意味なのか。
「それよぉ、全く、ロマネなんて知らない人の名前だされてぇ、私が会いに行くわけないじゃなぁぁい。セレスの名前を出していれば、会いに行ってたかもしれないのにぃ」
まず、その服装で移動ができるのかが疑問だ。
「とりあえずぅ、座って話しましょぉぉん」
だから、座れるのかも疑問だった。
そう考えていると、ミキレースは足を浮遊させ、スィーッと空中を滑るかのようにして動き出す。
移動はできたな。そして、どうやって座るんだ。
すると、ミキレースの服装がバキバキと音を鳴らし、神聖そうな椅子に座る部分だけは消失している。
意志によって変化するタイプの装備なのか、それなら、色々と疑問が解けていた。
というか、この人のステータス、まだ見てなかったな。
神眼を使い、じっとミキレースを目視する。
ミキレース
大聖者
HP59000
MP138000
攻撃3790
防御4200+350
速度3290
魔力12400+400
把握5490
スキル・魔力強化・威圧・半天使
……正直、思っていたよりも、大したことはない気がする。
いや、十分に強いステータスだとは思うが、MPと魔力以外は全部セレスに劣っている。
俺が半天使を得た時は3倍近い上昇をしていたはずだが、人によって違うのだろうか。
俺が少し驚いた表情を浮かべたのを見て、美幼女モードのセレスが微笑む。
「ミキレースのステータスを見たのか。正直、半天使を持っているのに大したことはないと思ったじゃろ?」
「……えっと」
そう聞かれたので、俺は言い淀んでしまうと、ミキレースが説明をしてくれる。
「私はステータスがあまり伸びなかったからねぇ。ギルドでいうBランク相応、それもリーダーにはなれないレベルだったわぁぁん」
推測だが、パーティを追放される前のミーアぐらいのステータスだったということか。
それなら、この上昇はかなり高い方な気がするぞ。
それにしても、ミキレースのスキル威圧は本当に必要なのかと思ってしまうな。
Dランクということは、あまり使えないスキルのはずだが、今現在、俺はかなりミキレースに威圧されている。
この衣装は最初ふざけているのかと思っていたが、スキルを最大限駆使する為の魔道具ということなのだろうか。
「……さて、ミーア、ローファよ、行くぞ」
すると、セレスが立ち上がり、ミーアも椅子から立つ。
……えっ?
俺、今からこの人と二人きりになるの?
ローファの視線が俺とセレスを往復していると、セレスがミキレースを指差した。
「わらわはここ二日間で色々と聞いておる。今からミーアとローファを連れて大聖堂に向かう。ソウマよ、お主はそこの52から色々と話を聞くといい。わらわは大体必要なことを知ったからの」
52って、このミキレースさんは、52歳ってことなのか!?
流石にそれは結構ビックリした。
しかし、見た目が幼女なセレスと違い、ミキレースは52と言われたら確かにと思える艶めかしい熟女だ。
今まで余裕のある振る舞いだったミキレースだが、52と言われて、僅かにムッとした。
「あらぁん? 歳のことは言わないでくれるぅ、35のセレスちゃぁん?」
「封印されてた十年は歳に入らぬから!!」
高笑いまで決めこんできたので、セレスは顔が「ピキィッ!」と大きく崩れながら、その勢いのまま怒気を込めた瞳でミキレースを睨みつける。
「一つ言っておく……ソウマに手を出したら――わらわが全身全霊を持って叩き潰すからの」
右手をミキレースに突き出して、握りしめた。
美幼女姿だが、その動作と瞳孔が開いたオッドアイが威圧感を放ち、周囲の空気が振動する。
白髪が逆立つかのような怒気。
これは本当に怒りを露わにしているな。
歳のことなら先に言ったセレスが悪いと思うのだが、どうも違うようだ。
それを見たミキレースはクスクスと笑い、立ち上がって激怒のセレスを指差し、その指をすぐさま俺に移動させて。
「愛しのぉ、素敵な王子様ですものねぇぇん!」
「なっっ!? いっ、行くぞミーア! ローファ!!」
先程の怒気が嘘のように一気に顔が真っ赤になりながら、詳しく追及されるのを避けるかの如く、セレスが大部屋から出ていき、二人が驚きながらも、後に続いて部屋を出る。
どこかに向かっていったセレス達だが、俺はどうすればいいんだ?
帰ってくるまで、ここに居た方がいいのだろうか?
……とりあえず、気になったことがあるし、聞いてみるか。
「愛しの素敵な王子様ってなんですか?」
ミキレースは楽し気に、満面の笑みを浮かべてくる。
「半天使スキルよりも先にそっちが気になるのねぇ、あんまり言うと怒られるからひ・み・つ。でもぉ、これだけは教えておくわぁ、あの子、いつも聖者の子ぐらいの身長で居るでしょ?」
19歳の美少女モードのセレスのことだろう。
その通りなので、俺は頷く。
「あの姿はねぇ、私とセレスが知り合った頃の姿なのぉ。18、19ぐらいのぉ、一番脳内がお花畑だった頃ねぇぇん」
いつもは悠然とした雰囲気で、二人の師匠になり、様々なことを教えてくれているセレスだが、脳内がお花畑だと言われていた時期もあるのか。
あの美少女モードは俺の好みの見た目にしたとか言っていた気がするのだが、本当は一番楽しかった頃の姿ということなのか。
「脳内がお花畑って、どんな感じだったんですか?」
「気になるのは解るけどぉ、これ以上は秘密にしておこうからしらぁ。でも、あの子は理想が高すぎたからぁ、好きな男は誰も居なかったわぁぁん。かなり強かったのにぃ、理想の異性として自分がピンチになってぇ、助けてくれる愛しの素敵な王子様を探してたの……まさか見つかるとはぁ、思ってなかったけどねぇぇん」
そう言われると、ちょっと嬉しいな。
そして、その反応を見たミキレースが、なんかクネクネしだした。
「あらあらぁ? 照れてる照れてるぅ、年頃の男の子と二人きりだなんてぇ、ドキドキしちゃうぅぅん!」
壮大な衣装をフリフリとさせてきながら、ミキレースは告げてくる。
威圧感が半端ないな。
俺は咄嗟に話題を変えようとする。
「Sランク冒険者って、忙しいイメージがありましたけど、ミキレースさんは此処に居たんですか?」
年の差もあって敬語になりながら、俺は質問した。
「私は暇なのよぉ、ここに居たら皆から称えられるしぃ、戦うなんて私に似合わないじゃなぁい? 私は此処の守り神、美の化身なのよぉぉん」
Sランクで色々報酬やら保証やら受けてるはずなのに、戦う気はなくて、ここの守護だけしてるってことか。
セレスも昔は街を出禁になっていたと言っていたし、トウもエルドも夢中になってキリテアの街に被害を出しかけた。
なんか、ヤバい連中だからSランクにしているんじゃないかとも思えてくるぜ。
次は何を聞こうかと考えていると、ミキレースが話してくる。
「私がセレスちゃんに教えてぇ、ソウマにも教えるように言われたことは二つ。半天使を手に入れたこととぉ、半天使の扱い方ねぇ」
重要なのは、そこぐらいか。
俺が頷くと、ミキレースは話を始めた。
「私はぁ元々Bランクの冒険者をやっていたわぁ……あの日の事は今でも覚えてる……25年位前、私が27ぐらいの時ねぇ、あの頃の私はそれはもう美しくて美しくてぇ……話を戻すわぁぁん」
「……なにが、あったんですか?」
「パーティが私以外全滅したのよぉ」
――全滅。
それは全員が死んだということになるのだろう。
「あのクエストは、ただのモンスター討伐だったわぁ、普通のBランクモンスター。数時間いつも通り連携をとっておしまい。前に一度倒しているしぃ、問題ないと思っていたわぁ……だけど、そのモンスターは明らかに動きが違っていたのぉ」
そして、ミキレース以外の全員が殺されたのか。
ヒーラーは後衛で回復職だ、生き延びる可能性が一番高い。
「そして、命からがら逃げていた時、そのモンスターの影に潜んで白いフードを纏った。謎の存在が現れたのぉ……いきなり現れたかと思ったら迫ってきて、何らかの干渉を受けてぇ、気付いたら全ての技が強化されていたわぁぁん」
……今までの話から、その謎の存在は天使なのだろう。
やっていることもセレスが受けたのと似たような状況だ。
それなら、冒険者を結晶にする気だったのか?
俺が戸惑いながら思考をしていると、ミキレースは続ける。
「失敗した。とも言ってたわねぇ、確か……これを受けて生存という結果が……殺せない以上は……という呟きもしてたわぁ、アレは、今でも覚えてる……忘れられないものぉ」
……本来は殺す予定だったのか?
耐えれば半天使になるということか。
しかし、セレスは解除されても半天使スキルはついていない……。
取り込んだかどうかだというのだろうか。
いや、全ては推測だ。
俺が考えたところで、何の意味もないだろう。
「そして、私は力を手に入れた……ソウマちゃんは取り込むスキルで石となったセレスを取り込んで手に入れたのよねぇ?」
取り込むスキルと言われて、セレスは「石喰らい」というスキル名は隠したのかと、推測することができていた。
「まあ、そんなところだ」
「そう……私が知っていることは全部話したわぁ。これからは使い方、25年間使い続けてきた半天使の使いこなし方を、貴方に伝授してあげるぅ」
それは願ったり叶ったりだが、本当にいいのだろうか。
「セレスちゃんの友達だからねぇ。色々と恩があったりするのよぉ」
半天使についてはあまりにも謎が多すぎた。
それを教えてくれるというのは、願ったり叶ったりだ。
「……で、俺は一体、何をしているんでしょうか?」
数時間、昼食を挟んだりもしていたが、俺はこの大部屋でミキレースの指示通り、身体を動かしている。
白銀の、彼女の衣装みたいなハチマキまで装備して、俺は一体何をしているんだ?
ミキレースが手本を見せたりしていたが、本当に意味不明な踊りにしか見えない。
「……なんなんですか、これは?」
これを聞いても「いいからいいから」と言われしまうのだが、一時間に一度ぐらいは聞いてしまう。
手をパンパンと叩いてリズムを取るミキレースは、完全に兵を指揮するボスの様にしか見えないぞ。
そんなミキレースが、満面の笑みで告げる。
「年頃の男の子にぃ、私の創作ダンスを踊って欲しかったのよぉぉん」
「バカにしてんのか!!」
白いハチマキのような物を床に投げ飛ばし、俺はキレた。
「冗談よぉぉん」
口調のせいで冗談に聞こえねぇんだよ。
「冗談じゃないのなら、なんのつもりでッッ!?」
俺がキレている間に、ホバー移動で接近していたミキレースが、俺の胸に触れた。
それと同時、とてつもない衝撃が俺の体内を襲い、壁に叩きつけられる。
「この空間は聖域と言ってぇ、大聖者版の簡易結界ねぇ。この空間内では、半天使は聖魔力を流し、視認が可能となるのよぉ」
「しっ、視認?」
試しに、神眼の感覚で聖魔力とやらを見ようとしたが、ミキレースのは見えない。
「さっきの踊りはねぇ。技のモーションよぉ。それによって聖魔力を巡らせている……これで解ったことは一つぅ、貴方の聖魔力の巡りはど下手くそということねぇぇん」
俺の腕に手をやると、確かに、白い何かが見えているような気がする。
「元々剣士だったのもあるのでしょうけれどぉ……これからは聖者スキルも学びなさぁい。半天使補正で刻まなくても5、6割ぐらいの力で使えるわぁん」
それは、とんでもないことのような気がしてくるぞ。
「他にアドバイスをするとしたらぁ……大きな力を手に入れたからってぇ、その力に流されちゃダメってことねぇ。私は元々聖者だから合っていたんだけど、剣士なら補助程度と考えておきなさぁい」
「はい……俺は今までの戦い方を、崩す気はないですからね」
あれから結局、俺はミキレースから色々なことを教えてもらった。
聖光・回復・範囲回復・解毒はミーアという見本もあってか、4割ぐらいの力で使えるようになっている。
それでも、ステータス的にミーアのより強い気がするということが、少し気になっていた。
ミキレースは、顔色からそれに気付いたのだろう。
「心配しなくていいわぁ。あの聖者の子には私が色々と教えたからねぇ」
「……色々って?」
「限界点薬を作る材料をあげたのよぉ……調合スキルと組み合わせると20時間ぐらいの間は一気に限界、又はそれ以上の力になる道具ねぇ」
そういうタイプの薬は、基本的に珍しいので噂程度だが、副作用が大きいと聞いたことがある。
「それって、危険なんじゃ?」
「使ったら一日寝込むぐらいよぉ。1、2回ぐらいなら問題ないわぁ……アレを持たせておかないとぉ、貴方の方が聖魔法スキルを使い熟せるって説明を知った時のあの子、かなりショックを受けてたからねぇ」
俺がミーアよりも聖者スキルを使いこなせていたら、ミーアがどう思うか。
そんなこと、今ミキレースの言葉を聞くまで、考えていなかった。
ショックを受けていたというミキレースの言葉に、俺は不安にもなってしまう。
強くなっていたのは、今まで強くなることが当たり前だと思っていたからだ。
だけどもう、俺達の方から、何かと戦うことはない。
それなら……もう、俺は強くなる必要は、ないんじゃないか?
数時間後にはセレス達が帰ってきたのでミキレースと別れ、夕方は街を巡り、夜になると俺達は館へと帰っていく。
ミーアとはあまり会話をしなかった気もする。
気のせいなのかどうかが解らなかったが、それを知る方法を、俺は思いついていた。
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