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エルフの少女を助ける

「それで、君は一体何があったんだ?」

 俺は助けようとしているエルフの少女、ローファに聞く。


 この時点ですでに残っていた2体のトカゲは拳で倒している。

 液体が飛び散って最高に気分が悪い、何か武器が欲しい。

 モニカさんにねだっておくべきだった。

 俺はなんの武器も持たずに素手でCランクのモンスターを倒していた異常者にしか見えないはずだが、ローファは尊敬の眼差しを向けてくれた。

「あ、あの……凄くお強いんですね。助けてくださって、ありがとうございます!」

 ローファは物凄い勢いで頭を下げてくる。

 土下座する程の勢いだ。

 ボロい衣服の隙間から白い肌が見えたり、青く短い髪が太陽でキラキラしていたりと、謝罪よりも別のことに目がいってしまう。


 とりあえず、聞いてみるとしよう。

「まあ運がよかったんだよ。それで……君は、奴隷なのか?」

 最初から色々と端折ることにした。

 神眼で色々知っているが、それについて説明するのが面倒だ。

 今ならモニカさんの気持ちが解る気がするぞ。

「……どうして解ったんですか?」

「状況から推測した」

 実際はどっかのクソみてぇなパーティが逃げるための囮に使ったんじゃないかと推測していたのだが、そういうことにしておく。

 ローファは俺をなんだか凄い人を見るような尊敬の眼差しで見つめながら。

「なるほど、流石ですね! 実は……私、捨てられて、というか、そういう遊びの道具として使われていた最中だったんです」

 最初の推測よりもよほど酷い。

 全く意味が解らないので、俺は首を傾げるしかない。

「……どういうことだ?」

 ぽつぽつと、俯きながらローファは話し始める。

「はい……私は一年ぐらい前に人攫いにあって、性格が悪すぎる女のご主人様に買われました」

 ギルドが人攫いから助けるのは純粋な人間だけだ。

 ハーフエルフだと最初から知っていて攫ったのだろう。


 そのことで、まず最初に疑問が出てくる。

「その強さで攫われるのか?」

「買われる時、一年前までは弱かったので……そしてそのご主人様は、私を遊びの道具にすると言いました」

 ローファはかなり可愛い、そういう趣味がある人からすれば最高だろう。

「あのご主人様は私の強さでギリギリ勝てる魔物と戦わせて、勝てば食事を出すと言いました。それを毎日行い、私の強さに合わせたモンスターを毎日出してきました」

 ということは、神眼、もしくは何かしらの鑑定系スキルを持っているということか。

 奴隷を買うということはかなりの金持ちなんだし、お抱えで鑑定士でもつけているのかもしれないな。


「そして先月、ご主人様はそのゲームを更に強烈なものにしました。三日間、私を捨てて、サバイバルで生死を楽しむ遊びです」

「……それに、何の意味がある?」

 全く意味が解らない。

 近くで眺めるにしても、ここは危険過ぎるし、今現在、周囲には誰も居ないのだ。

 確認する方法が解らず、俺はローファに聞こうとしたが、答えてくれた。

「奴隷魔法には、触れることで三日限定でその奴隷の記憶を覗き見るということができまして、死んでもそれはそれでいいという考えで、私をサバイバルさせて、その様子を除いて楽しんでいます。死体からでも可能なので、私の場所は死んでも体内に残っている魔力で数日は居場所を把握できるので、死んでいるのならもっと喜ぶに決まっています」

 信じられないぐらい胸糞の悪い話だった。

 さっさと解除してやりたいと決意するが、解除して何か問題が起きたりしないだろうか。

 俺には関係ないからと、奴隷魔法について、今まで俺はあまり調べようとはしなかった。


 メニーには図書館がある。そこなら奴隷魔法についての文献があるかもしれない。

「……今から、俺が君をメニーの街に連れて行ったら、どうなる?」

 ここでローファを放置するのは危険だろう。

 ダンジョン脱出魔法はレイアと触れることで全員が脱出できるようになっていた。

 その理屈通りなら、瞬間移動も触れている人間にも作用するはずだ。

 奴隷魔法を解除した場合どうなるのかを調べてから、試すべきだろうと俺は考えていた。

 だが、ローファは小首をシュンと項垂れて、落ち込み気味に告げる。

「お気持ちはうれしいのですが……ごめんなさい。行動範囲が限定されてて、この平原だけしか行けません……」

「行くとどうなる?」

「……激痛が私の身体を走るようになっています」

 何も考えずに瞬間移動しなくて良かったが、奴隷魔法を解除したら同じことになるとマズいな。

 調べるべきだが、そうなると、彼女を放置する必要がある。

 彼女は明らかに疲弊していた。寝てないのか眼にクマもある。


 確認できるステータスの数値は最大値だ。

 恐らく今、ローファは2、3割程度の力しか使えてないだろう。

 あのグリーンドラゴンもかなりギリギリで一体倒していたからな。

 どうするべきか……。


 もう、彼女に決めてもらおう。

 俺は提案することにした。

「俺は奴隷魔法を解除する力がある……だけど、解除して大丈夫なのかが解らない……君はどうしたい?」

 もしなにかあったら、全力でなんとかする気ではいる。

 俺のステータスなら多少強引に動いて問題を起こしたとしても、なんとかなるだろう。

 ローファのご主人様とやらの場所を聞いて殴り込めば、流石に知っているはずだ。

 色々と敵に回すかもしれないが、こんな少女を放っておくことは、できなかった。

 そんな俺の発言に、ローファはポカンとした顔を見せたかと思えば、キッと決意する。

「もしそれができるのなら、お願いします! 貴方は私の命を救ってくれました!」

「解った。それなら、始めよう」

 

 俺は得体の知れない自分のスキルを、試したかっただけなのかもしれない。

 だが、目の前で助けてほしいと言われた。だからこそ、すぐに助けたかった。

 そう決意し、俺は彼女の奴隷というスキルが外れるよう、強く願う。


ローファ・エタニア

ハーフエルフ

HP12740

MP2390

攻撃850

防御923

速度1556

魔力1988

把握1200

スキル・精霊の加護()魔力変換()


 ……どうやら、成功した様だ。


 スキルが結構豪華なことに驚くが、両方俺の知らないスキルだな。

「うぉっっと!?」

 ローファを眺めていると、潤んでいた瞳から涙が流れ、勢いよく俺に抱き着いてくる。

 あまり食事も摂らされていなかったのだろう、華奢な、すぐに折れてしまいそうな身体だった。

「今まであった痛みがなくなりました! あ、ありがとう、ございます!!」

「だ、大丈夫、なのか……?」

「はい。恐らく、ご主……いえ、あの女は私が死んだと思うのでしょう。死んでハーフエルフだったから奴隷魔法がおかしくなったのだと思い、死体を探しに、今からここに、やって、くる……はずです」

 涙をポロポロと流しながら、首を俺の胸元にすり寄せてくる。

 いきなり場所が解っていた存在が消えて、本来奴隷魔法は死んでも死んだ場所を示す。

 ローファの発言通りなら、消えたのはハーフエルフの死亡時の奴隷魔法の異常だと考えるのが自然か。

 通りすがりに奴隷魔法を解除できるスキル持ちがやってきただなんて、想定もしないだろう。


 ……奴隷のご主人様ってことは、結構な金持ちか。

 やり合ったら面倒なことになりそうだけど、普通復讐考えるよなぁ。

 こうなったら、最後まで付き合うか。

「……なら、ここで待ってたら復讐できるけど、どうする?」

 ローファはぽかんとした顔で、俺を見ていた。

「えっ……」

「俺でよければ協力するぞ、助けるって言ったしな」

 苦笑いを浮かべると、ローファは首をふるふると振るう。

「い、いえ。あれとこれ以上関わりたくないので……捕まった私にも問題がありましたから」

 立派だなぁ。

 俺とか追い出された日に自暴自棄になって危険地帯で爆睡かましたってのに。

「そうか……それで、これからどうする?」

「あ、あの……貴方様の、お名前を聞いても、よろしいですか?」

 おずおずとローファは上目遣いで尋ねてくる。

 そういや、俺は神眼で確認できたけど、自己紹介すらまだじゃん。


「俺はソウマ、それ以外には何もついてない。ただの一人で彷徨ってる人間だよ。パーティ追い出されたから、どこかで家買って、適当に暮らそうと思ってる」

 事実だけを言ってみたが、凄い惨めだな。モニカさんが来なかったらどうなってたんだ。

「わ、私はローファと言います。あ、あの……もしよかったら、よかったらなんですけど……」

 ローファは俺と少し距離を取り、もじもじとしている。

 エルフの場所まで送って欲しいということだろうか?

 人里離れているとは聞いているが、今の俺なら何とでもなるだろう。

「なんだ? なんでも言ってごらん?」

 そして彼女は、何かを決意したかのように、真剣な眼差しを向けてくる。

 とても可愛い、なんでも言うことを聞きたくなってくるぜ。


 そして、小さな口から、高い声で彼女は俺に言う。

「私のご主人様になってくれないでしょうか?」

「なります!! ……はぁっ?」

 反射的に叫んだが、全くどういうことなのか、理解が追いついていなかった。

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