猫となったローファ
あれから、三ヶ月が経った。
セレスの修行の元、ローファとミーアは基本的に訓練だ。
継続することが大事らしく、俺とイチャイチャするのは後回しになっている。
少し、いやかなり残念に思いながら、俺はトウから教わったような身体の鍛え方をしたり、暇なのであんまりうまくいってないも家庭菜園を始めてみたり、基本的に暇だから水魔法を使ってのダイビングみたいなことをしたりもしていた。
魔道具によって水中での呼吸を可能とし、全耐性があるし、海中散歩みたいなものになっていたが、結構楽しめている。次は皆でやりたいものだ。
遠出してAランクモンスターを倒したりもしていた。といっても、昼間までは館で、昼間は瞬間移動を使い遠征、夕方には戻ってくるので、徐々に距離を広げているのだが。
Sランクレベルのモンスターはリヴァイアサンみたいなことになる可能性もあるので止めている。瞬間移動があるし何とかなるだろうと思いつつも、別に何かと戦うわけでもないし、危険を冒す必要はないだろう。
Aランクのモンスターは海神龍と互角かそれ以下だが、色々なステータス鑑賞もできたし、ステータスも徐々に上がっていることを実感している。
実感しているもなにも、帰宅して姿見を見たらすぐ解るのだが。今は大体トウと戦った頃に比べて2000から3000ぐらい各ステータスが上がっている。
最初はグングンと、それはもう一日見る度にかなりステータスが上がっていたのだが、ここ数週間が伸び悩み始めたので、もしかしたらもう限界ぐらいまできているのかもしれないな。
今ならトウといい勝負ができそうだが、心配してくれる子が三人も居るのだ。戦いたいと感じることはない。
そして、三人と共に食事をしながら、俺は明日はどこに行こうかと予定を決めようとしていると。
「ローファには言ったのじゃが、明日から、わらわとミーアは三日間の遠征をする」
「……えっ?」
唐突に語りだしたセレスに、俺は少しだけ驚いた。
魔界以降は途切れている激レアな世界地図を出して、俺がここ一ケ月で行ったことのある大陸を指差し。
「移動はここまでソウマが瞬間移動で連れて行ってもらう。そして、ここからここまでの移動で半日」
指差した場所は、俺は行ったことはないが、隣の大陸にある結構大規模な街だ。
どういうことなのか気になっていた俺を見たからか、ミーアが補足した。
「ここに大聖堂ってのがあるみたいなのよ……大聖者なら一度は行っておいた方がいいみたい」
「大聖堂?」
「聖者、大聖者が集う場所じゃの……文献もこの館のよりもかなり聖者関係に詳しいのがある」
セレスは大賢者だ。
同じ魔法使いタイプとはいえ、大聖者の文献があった方が異常だろう。
そして、大聖堂は聖者スキルを扱う者が集まっている場所ということか。
つまり、ミーアにとって必要な修行旅行ということなのだろう。
「二日目まで修行……そして三日目の朝、いつも朝食を食べておる時間になったら、この杖を持ってローファと共にわらわを意識してくれ」
そう言って、セレスは一本の細長い、何の変哲もなさそうな杖を俺に手渡してくる。
トランスポイントを付加したアイテムだが、特に魔力を感じたりはしないな。
この杖の場所にこの制作者が瞬間移動でき、杖を持って制作者を意識すれば瞬間移動ができる。
瞬間移動スキルは一度行った所限定だが、このトランスポイントによる道具を使った瞬間移動は、行っていなくても道具と製作者が行った場所だから可能らしい。
つまり、俺にその街の場所を行かせてから、瞬間移動で帰るのだろう。
しかし、それなら夕方ぐらいでもいいはずだ、朝ということは、俺達も何かする必要があるのか?
気になったので、セレスに聞いた。
「三日目は何かするのか?」
「ローファを含めての修行じゃよ。ローファだけでもよいのじゃが、それじゃとお主が嫌じゃろ?」
よく解っているじゃないか。
外ならともかく、もしこの館で一人になったら、寂しさで気が狂ってもおかしくないからな。
セレスは俺に渡した杖を指差して忠告する。
「いいか、緊急時以外はこれを握ってわらわのことを強く考えるなよ。わらわの所に行きたいと強く思えば、すぐに瞬間移動が発動するからの」
「わかった。それじゃ、明日から二日間、ローファはどうするんだ?」
「今まで長い間特訓したからの、二日休憩じゃ。一日は大聖堂で修行し、その翌日、今後はローファを三日間ある場所に連れてゆく」
なんか、三ヶ月前も似たようなことをしてたなあ。
前回は日帰り修行だったが、今回は三日間、内一日は四人で行動するということか。
となると、セレスはどうなるんだ?
疑問に思うと、得意げに美少女状態のセレスが告げてくる。
「ふっ……修行後じゃし、わらわも遊びたいからの、そこから一日皆で特訓して二日間休憩じゃ、その間、わらわは二日間、ソウマと共に旅行へ行く」
旅行か。
なんか計画していそうなので、聞く必要はないだろう。
元Sランク冒険者だったセレスだから、どこに連れて行かれてもおかしくはないが、危険はないはずだ。
その発言をミーアが頷き、ローファが不安げになっている。
「セレスがそう言うんだから、それでいいんじゃない?」
「私が一番最初に休んで、よろしいのでしょうか……」
それを聞いたミーアとセレスは構わないという風にうんうんと頷き、それを見たローファは顔を赤らめて楽し気に笑っている。
そういえば、ローファと二人で二日間って、初めてなんじゃないか?
いや、いつも寝るときは一緒だし、そこまで気にすることじゃ……。
いや、気にすることは、あるぞ。
「あっ……ああああああっっ!!」
そして、それに気付いた瞬間、俺は叫ぶ。
身体全体を電流が走ったかのような感覚を受ける。
すっかり忘れていた事を、今このタイミングで思い出せた。
恐らく、本能が思い出せと訴えていたのだろう。
「な、なんじゃ?」
「どうしたのよ?」
唐突に叫び出した俺に、不可解な眼差しを向けるセレスとミーア。
そして、ローファはポカンとした表情を浮かべていた。
「い、いや、なんでもない」
そんなことを言いながらも、俺の顔が変になっていたからなのか、二人は疑いの眼差しを向けてくる。
なんでもないことはない。俺にとっては大事なことだ。
二人っきりになれるということは、遂にはアレができるということではないか!
そして翌日。
朝食を終え、身支度を調えたセレスとミーアを、俺は瞬間移動で送る。
送ったのはごく普通の渓谷であり、ここでモンスターとよく戦っていた。
そして、セレスが近づいてきて、ミーアには聞こえないぐらいの声で囁く。
ここのモンスターはAランクというのもあるのだろう、美幼女姿で俺に屈むよう促してくる姿は、とても可愛らしい。
「教えておこう、天眼なのじゃが……館の監視に一つ、いつもなら館に置いておるが、ミーアと別れた際に必要だから持っていく。残り一個は手元に置いておきたいので、館の中には眼を配置せんからの」
魔力で作った目玉を飛ばし、その視界を同期できるセレスのスキル天眼。
知れば警戒されるからと、俺にしか教えられていないスキルだが、この二日間は館の外だけなのか。
「ふふっ、これで気兼ねなく一緒にいられるじゃろ?」
そう二人で大聖堂の街へと行く間際に、セレスが言ってくれた。
気を使ってくれたのだろう、大感謝するしかないぜ。
俺は戻ってきて、ローファにあることを言った。
数分後、ローファがおずおずと、大部屋に、俺の元にやって来る。
「ソ、ソウマ様……この服で、よろしいでしょうか」
「…………ああ、完璧だよ」
冷淡な対応になったが、内心は歓喜に満ち、喜びが脳を駆け回っている。それをギリギリの所で押え込んでいた。
俺は今までミーアとセレスがどんな反応をしてくるか解らないから、オーダーメイドしておいて着せられなかった一着を、二人きりになったことで、ようやくローファに着せることに成功することができた。
俺の目の前には、青髪の、小柄な黒猫が居た。
いや、意味が解らないかもしれないが、そのまんまなのだ。
胸元と腰を太股を黒い毛皮でまとい、尻尾までついている。
白い肌がかなり露出している。初対面の時とは見違えたしなやかな体つきだ。
猫耳のカチューシャは青色だ、髪の色と合わせていたが、それも正解だった。
オーダーメイドで作ってくれた黒猫コスチュームを見て、俺は歓喜に震えるしかない。
最初にメイド服を頼んだ時、服屋に「このメイド服のようなものを注文される方は、このような服もオーダーメイドしておりますが……」と聞かれて大きいサイズのそれを見せられた時は、頭おかしいんじゃねぇかと思ったりもしたが、着た姿を見て思う。
これはとてもいいものだ。
セレスが天眼を配置していないと言ってくれていてよかったぜ。
俺がどんな顔を浮かべているか解らないが、喜びで崩れまくっているだろう。
「えっと……あの、ソウマ様……あっ!」
ローファはこの服を恥ずかしそうに着ていたが、少ししたら慣れたのかいつもの顔になり、何かに気付いたようだ。
「な、なんだい?」
こんな格好をさせたんだ、何を言われたとしてもおかしくはない。
すると、ローファはニコニコとしながら、俺になだれかかってくる。
「ソウマ様は、きょ、今日は一緒に、いてくれますか、にゃん?」
なんという可愛さなんだ。
唐突に語尾ににゃを着けだし、可愛げらしく小首を傾げたローファに、俺は一発で陥落しそうになっていた。
普通に「なんて格好をさせるんですか!」って言われてもおかしくないだろと思っていたところに、これだ。
とてつもない衝撃が俺を襲ったぜ。
「んなもん、一緒に居るに決まってるだろ!!」
気付けば叫んでいた。
本当に猫のようにソファーに座った俺の膝で丸くなり「撫でて、撫でてにゃん」と甘く囁いていたので撫で回し、ソファーに全身を預けてお互い回ったりと、最高に楽しい午前を送る。
「しかし、咄嗟とはいえ、ローファがここまでしてくれるとはな……」
今まで密着したり、一緒に眠ったりはしているが、こうして長くローファと一緒に遊ぶのは久々だ。
満面の笑みを浮かべる俺に、ローファも同じようにパァッと笑顔を見せ。
「はい! セレスさんの本に、どうしたら喜ばれるのかが書いていました!」
「えっ……ここの書庫、そんなのあるの?」
そのローファの発言に、俺はギョッとするしかない。
気になった俺はローファをお姫様抱っこのような形で運びながら、書庫まで向かう。
最初は驚いていたローファだったが、俺がやりたいからと言えば、満足げに身体をすり寄せてくる。
にゃんにゃん鳴きながら身体を預けてくるローファを撫でながら、俺達は書庫へ到着した。
(しかし……この場所にそんなのがあんのかよ……)
様々な本棚に本が並ぶ書庫へ行くと、確かに、参考書と書かれた覧に、女性の魅力ポーズ、言葉集。と書かれた本が、本当にあった。
俺はいつも戦闘用の文献しか見てなかったから気付かなかったが、マジか。
一体なんの参考だよと言うしかないぞ。
昔からあったということは、昔セレスは誰かを好きだったのだろうか? ただ集めていただけなのだろうか?
いや、昔は昔、今は今か。
色々と軽くペラペラと眺めることで確認していく。
付き合う前のアプローチについて書かれた本はあるが、付き合った後にどするべきか読むべき本はなさそうだった。
ローファの猫コスプレを堪能しながら、二人でのんびりとして、昼食は朝の残りを食べた。
夕食の買いだしに行く必要があるなと考え、よくよく考えたら俺とローファで食事を作ったことはないんじゃないかと、少し不安になってしまう。
「夕方ぐらいには買い出しにいくとして……今からローファ、何かして欲しいこととか、あるか?」
「えっ、私、ですか?」
この前も似たようなことを言ってて、キスしてもらったしな。
俺は完全に待ちの姿勢に入っている。なんでもバッチ来いだ。
いや、この姿で前みたいに行為を迫られたら、耐えきれる自信はないが。
驚き、可愛らしく悩む小猫ローファがとてもかわいい。
もうこれで一日過ごしても良かったのだが、ローファは提案した。
「でしたら、私と練習試合をしてもらえないでしょうか?」
「えっ……」
「お願いします!」
今のローファのステータスは、セレスが三ヶ月前に言った通り、セレスよりも強そうになっている。
しかし、俺のステータスもかなり高く、危険な気もしてくる。
俺はそのことをローファに優しく告げて、断わる気でいた。
「今のローファじゃ」
「お願いしますにゃ~♡」
――違う。
普通に対応したさっきのローファがダメで、今の猫となったローファならオッケーということではない。
しかし、こんな頼み方をされたら、誰だって了解するしかないだろ。
「……そうだな。特訓の成果も見たかったし、軽くやろうか」
俺が気をつければ、大丈夫だろう。
「はい!」
満面の笑みを浮かべてくるローファを見て、ステータスも高くなっているし、一度軽く戦ってみることにした。
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